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不正行為

#10:あり得ない - side 時生

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〈これはチート行為だ!〉

 相馬から送られてきたURLをクリックすると、目に飛び込んできたのはSNSで、呟かれた一文と動画クリップが一緒に投稿されていた。

 動画クリップは、彼が《異世界かくれんぼ》で遊んでいる様子を数十秒に切り抜かれた動画のようだ。

《異世界かくれんぼ》というのは海外で開発されたオンラインで複数人と遊べるゲームである。オンラインネットワーク上でランダムにマッチングしたプレイヤー7名が、砂漠・海・山・都会・宇宙という5つのフィールドで、制限時間内にレアアイテムを集めて召喚された場所から脱出を図るゲームだ。プレイヤー7名とは別に、鬼神といわれるプレイヤーが30秒程のタイムラグを経てフィールド上に出現するから、捕まらないよう時に隠れながらアイテムを探していくことが求められる。

 投稿された動画を再生してみた。

 彼が操作するキャラクターが追い掛けてくる鬼神より、素早く逃げている姿が映っていた。

『これ逃げてる〈ちゃばん〉っていうプレイヤーが盤さんか?』

 どうやら鬼神が追い付けないのは、チート機能を使い素早さを上げてプレイしている――と指摘されているようだった。

 不正行為なんてしてないのに!

 だが彼の偽名で付けられたユーザーネームが、よりにもよって〈ちゃばん〉だ。チートで遊んでいると誤解を受けるかもしれない。

「盤さんだよ。早く走れるアイテムと鬼神を陽動する偽の足跡を付ける特殊能力をやってる配信で使ってたハンドルネームだから」

『ライブ配信見てたの?』

「見てた。割と最近の配信だったから覚えてる。てか、あり得ないよ。盤さんが不正行為なんてするわけないのに!」

『それはまぁ、そうだろうな。登録者数が九十万ともなると不正行為をしなくても再生回数は稼げるもんな。でも動画のクリップをみたところ、うーん、なんていうかまぁ走って移動してるっていうよりかは瞬間移動してるみたいには映ってるよな。ただ、これを立証するのはムズくね?』

 僕の記憶が正しければ、確か配信時の彼はゲーム開始早々に足が早くなるアイテムを獲得していた。だが相馬の指摘するように、ほんの一瞬だけ数十メートル先まで瞬間移動しているように映っている。しかし、ゲームの中で瞬間移動できるアイテムは存在しない筈だ。だからこそチート行為を行っていると指摘されるが、この場面、良く見れば大事なことがいくつかある。

「相馬。良く見て。この動画クリップ、盤さん視点の画面じゃない」

『え?』

「しかも、この15秒の動画クリップは、無音だし、まるで盤さんがチート行為をしているかのような悪意ある切り抜きだから」

 危うく騙されてしまいそうになるが、僕には一瞬で分かる。これは明らかにチートによるものではない。

『いやいや、ちょっと待ってくれよ。なんで盤さん視点の画面じゃないって分かるんだよ?』

 僕はウェブブラウザから、いつも良く見るウェブページを表示させた。キーボード上で即座にタイピングして、該当ページを引き出してから相馬にURLを送った。

『これは?』

「Vキャラの女の子の配信ページ。かくれんぼのライブ配信で、たまたまマッチしたのが配信者だったんだ。僕は盤さんの配信と一緒にVキャラの女の子の配信もブラウザに表示させて見てたんだ」

『おいおい。めちゃくちゃ熱心だな』

「だって。羨ましかったんだもん。僕も一緒にやりたかったけど、盤さんがやってるからって同じゲームをしてスナイプ行為でマッチしても嬉しくないから!」

『はいはい。そこだけはプライド持ってんだな。で、Vキャラの女の子の配信も、見ながらねたましく見てたと?』

 相馬の言葉には笑いが含まれている。

「そりゃ人生イージーにはいかないさ。それより、ここだ。ここ! 35分20秒のところ!」

 僕の指摘したVキャラの女の子の過去配信のアーカイブ動画から、目的の時間をピックアップして相馬に指摘した。彼は『お。これって動画クリップの部分じゃん!』と言葉が返ってきた。

「そう。それ。つまりSNSに投稿されていた動画クリップは、このVキャラの女の子の視点の配信画面なんだよ」

『確かに。全く同じだな。あれ。でも別に編集された形跡はないみたいだ。Vキャラの女の子の視点でも、盤さんの動きは瞬間移動しているように見えるぜ?』

「その通り。でもVキャラの女の子の配信のボリュームを上げて聞いてみて」

『この女の子の実況を?』

「うん」

 しばらくしてから『なるほど。そういうことか』と相馬の独白のような言葉が聞こえた。

「僕は、この女の子に今からコンタクトを取ってみるよ。動画提供の許諾を得たら、チート行為じゃない動画解説の収録をして投稿しようと思うんだ」

『いや。交渉は俺がやるよ。とりあえず解説動画の収録を先に着手しててくれ。撮ったら、俺に送ってくれよ。すぐ編集する。のんびり時間を割いてもSNS内で炎上が広がるのはヤバいしな。活動休止にはさせたくないんだろ?』

 よくお分かりで!

 相馬とは、あ・うんの呼吸で二人三脚でやってきたが、やっぱり編集能力の高さは相馬には勝てないから。

「ありがとう。すぐ収録を始めるよ。またあとで連絡する」

『了解』

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