10 / 204
はじまり
#7:先を越された! - side 時生
しおりを挟む「もうなんでだあああああ!!!!」
パソコン画面の目の前で、突っ伏した顔を上げれば画面の端に配置されたアイコンが光った。
『おいおい。情けない声を出すなよ。トッキー』
僕のことをトッキーと呼ぶ彼は、高校時代からの友人、新井相馬だ。
「とりあえず、落ち着けよ」と冷静に言葉を掛けてくれるのだが、僕は落ち着いてなどいられなかった。
「だってさ。宮田先輩だったんだよ! 盤さんをエスコートしてたの! モニターの向こう側で超仲良さげに遊んでて……羨ましい、いや恨めしいってこれまでのゲストに対して今まで一度も感じたことなかったのに心がザワザワしてきて、そのザワザワが、もっとザワザワと膨張して僕はもう窒息しそうだよ!」
パソコンモニターの中で映る、れこ盤チャンネルの最新サムネイルには《プロゲーマー宮田篤彦に学ぼう!『タイレル・デスゲーム』の回!》なる文字が躍っていた。
昨日のれこ盤配信は、僕が所属するプロゲーミングチームのキングスFPS部門、宮田篤彦が招聘されていたのだ。
「盤さん。タイデスはやらないって言ってたんだよ。なのにタイデスを学ぶとかいうお題で宮田先輩を呼んでた。他にもゲーミングチームはあるのに! しかもだよ! 僕が滅茶苦茶やってるタイデスで!」
宮田先輩が懇切丁寧に教えていたのだ。手取り、足取り。武器の性能やフィールド上での立ち回り、ゲームのルールを一から教えていた。そのポジションを、いつかは僕が、と夢見ていた。あっけなく砕け散ったのだけど。
『はいはい。番組始まって、みやっちパイセンが出たんだろ? もう百回は聞いたよ』
何が可笑しいのか、VCの向こう側から相馬の終始笑う声が聞こえた。
「ちょっと笑い事じゃないから! ちゃんと聞いて!」
『聞いてるって。要は、数ある中でもトッキーが所属しているのに、その話を何にも聞かされていなくて衝撃というか哀しみが深いって話だな?』
「そう! それ!」
僕のヘッドセットに相馬が爆笑する声が響いた。相当可笑しいらしい。
「ていうか、画面の中で何が起こってるのか、僕、分けわかんなくて直ぐ夏河社長に連絡したんだ」
『え。社長に?』
「れこ盤に宮田先輩が出てるんですけど、どういった経緯で出ることになったんですかって思わず聞いたんだ」
『うわぁ。厄介なリスナーだなぁ』
「何か言った?」
『いえ何も』
相馬のVCからは笑いが洩れていた。
「もう! 笑うとこじゃないから!」
『はいはい。わかったって。ちゃんと聞いてるから続けて?』
「だから、それでね。夏河社長曰く、番組側からの打診で大会がないオフの時間にタイデス教えてもらえる人を紹介してほしいって前から言われてたんだって。そんで、他の配信のオフイベがあるから丁度選手がいなくて、僕を呼ぶ予定だったんだって」
『え! それマ?』
流石に相馬も驚いたようだ。
「でも僕がプロゲーマーを断ったから、少し体調不良だった宮田先輩が回復してて、たまたま事務所に来てたんだって! 僕が断った直後にだよ!」
『あーなるほどね』
「そんで打診したんだって。なぁ。こんなことってある? 僕、わんちゃん盤さんに会えてたかもしれないんだよ!」
『そんなに悔しがるなんて。盤さんのファンだったんだな。あ、もしかして、いつか大手の配信者とコラボするのが楽しみなんだとか前に言ってたけど、それって盤さんのことだったのか?』
思わず僕は息を飲んだ。
相馬にはまだ言ってなかったことだからだ。
「コラボができたときに言おうと思ってた。はぁ。なぁ相馬。今言った僕の諸々の愚痴と一緒に聞かなかったことにして」
『いやいや。らふTVのリアルイベでトッキーがスカウトされたときからの専属切り抜き師としては聞き逃せないね。なんなら盤さんに冬珈琲チャンネルを見てもらえるように、僕じゃなくて事務所の先輩が出たのが悔しいですって絶叫しながら、れこ盤の番組を観て悶絶するトッキーの動画を出せば、リスナーも同情して、それが盤さんに伝わって意識して見てもらえる可能性高くね?』
「それがダメだから言ってなかったんだよ。大手のチャンネルに乗っかって、再生回数を稼ぐ輩だと思われるじゃん。絶対ダメ!」
『はぁ。なるほど。向こうは配信歴十三年。こっちは配信歴一年半くらいだもんな。じゃあ何かのゲームでランクマでもやって、わんちゃんマッチするのを狙うしかねぇな。マッチした画面を切り抜き動画にして大手の配信者と遊んだってSNSで呟けば本人が気づいて見てくれるじゃん?』
しばらく音声が途切れた。相馬から何度か「おーい。どうした。トッキー?」と言葉が届く。
「ない。そういうの全くない。というか今まで一度もマッチしたことない」
『え。嘘だろ?』
35
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる