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はじまり
#7:先を越された! - side 時生
しおりを挟む「もうなんでだあああああ!!!!」
パソコン画面の目の前で、突っ伏した顔を上げれば画面の端に配置されたアイコンが光った。
『おいおい。情けない声を出すなよ。トッキー』
僕のことをトッキーと呼ぶ彼は、高校時代からの友人、新井相馬だ。
「とりあえず、落ち着けよ」と冷静に言葉を掛けてくれるのだが、僕は落ち着いてなどいられなかった。
「だってさ。宮田先輩だったんだよ! 盤さんをエスコートしてたの! モニターの向こう側で超仲良さげに遊んでて……羨ましい、いや恨めしいってこれまでのゲストに対して今まで一度も感じたことなかったのに心がザワザワしてきて、そのザワザワが、もっとザワザワと膨張して僕はもう窒息しそうだよ!」
パソコンモニターの中で映る、れこ盤チャンネルの最新サムネイルには《プロゲーマー宮田篤彦に学ぼう!『タイレル・デスゲーム』の回!》なる文字が躍っていた。
昨日のれこ盤配信は、僕が所属するプロゲーミングチームのキングスFPS部門、宮田篤彦が招聘されていたのだ。
「盤さん。タイデスはやらないって言ってたんだよ。なのにタイデスを学ぶとかいうお題で宮田先輩を呼んでた。他にもゲーミングチームはあるのに! しかもだよ! 僕が滅茶苦茶やってるタイデスで!」
宮田先輩が懇切丁寧に教えていたのだ。手取り、足取り。武器の性能やフィールド上での立ち回り、ゲームのルールを一から教えていた。そのポジションを、いつかは僕が、と夢見ていた。あっけなく砕け散ったのだけど。
『はいはい。番組始まって、みやっちパイセンが出たんだろ? もう百回は聞いたよ』
何が可笑しいのか、VCの向こう側から相馬の終始笑う声が聞こえた。
「ちょっと笑い事じゃないから! ちゃんと聞いて!」
『聞いてるって。要は、数ある中でもトッキーが所属しているのに、その話を何にも聞かされていなくて衝撃というか哀しみが深いって話だな?』
「そう! それ!」
僕のヘッドセットに相馬が爆笑する声が響いた。相当可笑しいらしい。
「ていうか、画面の中で何が起こってるのか、僕、分けわかんなくて直ぐ夏河社長に連絡したんだ」
『え。社長に?』
「れこ盤に宮田先輩が出てるんですけど、どういった経緯で出ることになったんですかって思わず聞いたんだ」
『うわぁ。厄介なリスナーだなぁ』
「何か言った?」
『いえ何も』
相馬のVCからは笑いが洩れていた。
「もう! 笑うとこじゃないから!」
『はいはい。わかったって。ちゃんと聞いてるから続けて?』
「だから、それでね。夏河社長曰く、番組側からの打診で大会がないオフの時間にタイデス教えてもらえる人を紹介してほしいって前から言われてたんだって。そんで、他の配信のオフイベがあるから丁度選手がいなくて、僕を呼ぶ予定だったんだって」
『え! それマ?』
流石に相馬も驚いたようだ。
「でも僕がプロゲーマーを断ったから、少し体調不良だった宮田先輩が回復してて、たまたま事務所に来てたんだって! 僕が断った直後にだよ!」
『あーなるほどね』
「そんで打診したんだって。なぁ。こんなことってある? 僕、わんちゃん盤さんに会えてたかもしれないんだよ!」
『そんなに悔しがるなんて。盤さんのファンだったんだな。あ、もしかして、いつか大手の配信者とコラボするのが楽しみなんだとか前に言ってたけど、それって盤さんのことだったのか?』
思わず僕は息を飲んだ。
相馬にはまだ言ってなかったことだからだ。
「コラボができたときに言おうと思ってた。はぁ。なぁ相馬。今言った僕の諸々の愚痴と一緒に聞かなかったことにして」
『いやいや。らふTVのリアルイベでトッキーがスカウトされたときからの専属切り抜き師としては聞き逃せないね。なんなら盤さんに冬珈琲チャンネルを見てもらえるように、僕じゃなくて事務所の先輩が出たのが悔しいですって絶叫しながら、れこ盤の番組を観て悶絶するトッキーの動画を出せば、リスナーも同情して、それが盤さんに伝わって意識して見てもらえる可能性高くね?』
「それがダメだから言ってなかったんだよ。大手のチャンネルに乗っかって、再生回数を稼ぐ輩だと思われるじゃん。絶対ダメ!」
『はぁ。なるほど。向こうは配信歴十三年。こっちは配信歴一年半くらいだもんな。じゃあ何かのゲームでランクマでもやって、わんちゃんマッチするのを狙うしかねぇな。マッチした画面を切り抜き動画にして大手の配信者と遊んだってSNSで呟けば本人が気づいて見てくれるじゃん?』
しばらく音声が途切れた。相馬から何度か「おーい。どうした。トッキー?」と言葉が届く。
「ない。そういうの全くない。というか今まで一度もマッチしたことない」
『え。嘘だろ?』
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