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はじまり
#1:プロゲーマーに僕はならない - side 時生
しおりを挟む「みらりんさん。1フルーありがとうございます。おみちゃんさん。3フルーありがとうございます。よむのむさん。サブスク2か月目、ありがとうございます。眠りのゴロウさん。10フルー&サブスク4か月目ありがとうございます。のんののんのんさん。サブスク13か月目と10フルーありがとうございます。今日は噛まずに言えました。えへへ。さて。読み上げは以上かな。本日のご視聴本当にありがとうございました。ゲームもせず雑談トークのみになっちゃいましたが、怒らないで聞いてくれて感謝しかないです。皆のお陰です!」
机上に置いたマイクに向かって声を上げれば、パソコンモニターの中で下から上へ流れてくるフルー――という名の投げ銭――付きコメントが見えた。
「うわっ。30フルーも! ももち川さん、ありがとうございます! えーと『冬君がプロゲーマーを目指さないという決断を私は尊重します。プロになったら顔出しをする。でも顔出しをしないで、ストリーマー部門に入って配信を続けるということですが、この二年間の準備生としての働きも決してムダではなかったと思います。これからも応援します。頑張ってください!』うわぁ。本当にありがとう!」
惜しむ声に包まれながら、流れてくる応援コメントに僕は、感謝を述べた。僕の顔の動きに反応したウェブカメラを通して、青い猫のキャラクターは左右に揺れながら瞳をパチパチとさせた。
「それじゃ今日はこの辺で終わります。来月からはプロゲーミングチーム、キングスのストリーマー部門として新たに活動を始めます。それでは、ご視聴ありがとうございました。らふTVの冬珈琲チャンネルのいいね又はサブスクを、引き続きよろしくお願いします。それでは!」
配信終了のボタンをクリックして、僕は画面を閉じた。軽く伸びをしてから時間を見ると、既に夜十一時を回っていた。
配信を始めて二年。僕のチャンネルのファンは、八千人。一万人には、まだ届かない。らふTVという配信プラットフォームでは何千番目かになる配信者だ。ライバルはめちゃくちゃ沢山いるから、僕はそんな中の一人の配信者に過ぎなくて、まだまだ駆け出しである。
僕が配信を始めることになったのは、今から4年前、ある人との出会いがあった。
友人と遊びに行った、らふTV配信プラットフォームのリアルイベント会場で、リリースしたばかりのゲームを試遊できるコーナーをたまたま通りかかったときだ。野菜同士をくっ付けて消すパズルゲーム、やさいゲームをプレイして、万超えの高得点を出したことで夏河腎という人に声を掛けられた。
当時らふTVの会社幹部だった彼は、現プロゲーミングチーム、キングスを運営する後の社長だ。夏河社長に気に入られて「キングスのプロゲーマーを目指してみないか?」と誘われた。
ただしキングスのプロゲーマーには顔出しが条件にあるというので、僕は直ぐに返事を返せなかった。だから翌年、顔出しをするか考えながら、選手と事務所の手伝いをする準備生になった。
古いノートパソコンしか持っていなかった僕に、夏河社長からハイテクなタワー型のゲーミングPCを丸々一式頂いて、2年前から配信生活をスタートさせた。
けれど先週末、プロゲーマーにはならないと辞退の旨を夏河社長に伝えることになった。社長は眉を下げ悲しい顔で、なぜプロゲーマーにならずストリーマーに転向なんだと戸惑っていた。
準備生はプロゲーマーになるのが、キングスでは通例だから、ストリーマー部門に加入してただの配信者になるというのは珍しいと言えるだろう。
怪我をしたのか病気になったのかと夏河社長には心配されたが、僕は全然体調には問題なかった。本当の問題は別にあるからだ。
僕が、そもそもゲーマーの腕を磨くというのはプロゲーマーになるためではない。
「いけない。そろそろ配信時間だ」
僕はパソコンに、“いつも見ている配信画面”を表示させた。
らふTVのトップページには、現在ライブで放送中のチャンネルが表示される。視聴者が一番集まる人気コンテンツのチャンネルが沢山並ぶ中で、レコード盤がくるくると回る画像をクリックした。
『どうもどうも皆元気にしてる? れこ盤の時間ですよ!』
灰色のマイクを付けた半顔出しのゲーム配信者が、モニター画面いっぱいに表示されると、明るい声で、にこやかに挨拶をした。
「盤さん。今日も恰好良いなぁ」
画面の向こう側で今日もお気に入りゲームの紹介が始まる。盤という名の配信者は、僕が好きな配信者であり―――そして、僕がプロゲーマーではなくストリーマー部門に転向したキッカケ、でもある。
彼が少し前の配信で話していたのだ。FPSゲームは苦手だから今流行ってる銃撃戦のシューティングゲーム〔タイレル・デスゲーム〕は、今後もやることはないという話をだ。
僕に期待を掛けてくれた夏河社長には申し訳なかったけれど、同じ配信界隈でFPSのプロゲーマーになっても、彼とプレイする機会がなさそうに思えて、プロゲーマーになるよりストリーマーなら、いつか配信上で出会えるかもしれないと僕は思った。
登録者が九十万人もいる彼とは、天と地の差がある。コラボなんて夢のまた夢。立場が違い過ぎることも分かっている。
どう足掻いても近づくことさえ叶わぬ相手―――そして彼は、僕が密かに想う相手―――でもある。
恋しても絶対に叶うことはない。
それくらいは、ちゃんと自覚している。
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