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第28話だぞ【結末の朝】
しおりを挟む我は幼い頃からその魔法の才能で周囲から「先代魔王よりも立派になる」そう言われ続けてきた。
「魔王様は最強だ」「魔王様に敵う者など1人もいない」と。当然、右腕だったディザベルにもだ。
しかし、今我は――
「魔王様、貴方が弱くなったのです。」
「な、!?」
わ、我が弱くなった……だと……?この我が……?我は魔王だぞ……?
「どうせ魔王様、この世界に居る間、魔力もろくに使っていなかったのでしょう。戦い始めてすぐ分かりましたよ。貴方は私には勝てないと。あるひとつの手段を除いて。」
「まぁ、その手段も貴方には使う勇気が無いのでしょうけど。」
「く……き、貴様……ッ!!!」
まずい……このまま我が負ける様な事があれば本当にこの世界には居られんかもしれんぞ……!?
「我は、負けんッ!!電磁洗脳ッ!!」
そこで我はディザベルにありったけの魔力を込めた電磁洗脳をぶつける――が、
「はぁ……魔王様?ただでさえ魔力の扱いに長けている魔族同士の戦いで電磁洗脳ですか?そんな事しても魔術防御で弾き返されるから魔力の無駄だと教えていたのは魔王様自身だったと思うのですが……」
なんと片手で容易く弾き飛ばされた。
「……ッ、」
「無様ですね、魔王様。以前の魔王様であれば私ごとき、指一本あれば軽く捻り潰せたのでは?」
「それとも、やはりここまで衰弱したのはその後ろに隠れている貧弱な人間が原因でしょうか?」
そこで確かな殺意が我の後ろに居るえなに飛ばされる。
「ひっ……」
「おい……えなは――この人間は無関係だと言っているだろう、」
「普通、そんな無関係な人間を必死に守ろうとなんてしないと思いますけど?魔王様、忘れたとは言わせませんよ?貴方が城に来た冒険者たちを殺戮していた事を。」
「……ッ!!」
「なのに今更たったひとりの人間を大切にしようだなんて……大体その様な女、代わりなどいくらでも居るでしょう?」
「い、居ない……!えなはえなだ!」
「ほう、魔王様、そのえなという女がそんなに大切なのですね?」
「あぁ、そうだ。」
確かに、これまで我は何人もの人間をこの手で殺してきた……だが、もうそんな事はしない……!!こんな我にでも出来たのだ……大切な存在が……ッ!!
しかし、次の瞬間、ディザベルは片手を天に掲げると、
「では、その人間さえ殺せば魔王様はこの世界に居る理由が無くなる。そうですね?」
そう言い、振り上げた手に魔力で出来た槍を具現化させ、
「貫きなさい、グングニルッ!!」
それをえなの方へ投げた。――――って、!?!?
まずい……!それは本当にまずい……!!これは我とディザベルふたりの問題――例え我がこの世界を去る事になろうとも、えなにだけは――――ッ!!!
「さ、させるかぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
ザクッッッッッッッ!?!?
「うぐっ……!?――ぁあ……」
その瞬間、気が付けば身体がえなを庇う様に動いており、そのまま槍は我の右肩に直撃、右手を吹き飛ばした。
う、うぐぅぅぅ……い、痛い……痛いぞ……!?右肩が熱い……!!
「……ッ!?ふ、フハハハハ!!!――――はぁ、魔王様、本当に貴方は無様ですね。」
「ふ、ふぇ……?ま、魔王、さん……?」
「ぅう……え、えな……、」
そのまま我は膝から地面に崩れ落ちる。
「残念ですが、魔王様。この勝負は私の勝ちです。――――ですが、どんな手を使ってでもその女を守ろうとする意志だけは認めましょう。」
すると、そうしてディザベルは片腕を失った我を見て、後ろでプルプルと身体全体を恐怖で震わせているえなを担ぐと、
「明日の朝、この砂浜に来て下さい。ちゃんと来ればこの女は返します。その代わり魔王様には一緒に元の世界まで帰ってもらう。」
「魔王様が来なければこの女は――分かりますよね?」
「や、やめてっ……ま、魔王さん助けて……っ!」
「え、えな……!?ディザベル貴様……ッ!!今すぐえなを離せ!!」
しかし、我の言葉を聞いてもディザベルは変わらない調子で、
「大丈夫です。魔王様がちゃんと明日来ればこの女には手を出しませんから。」
「では、おやすみなさい。」「ま、魔王さんっ……!」
そう言い残すとふたりは再び現れた光の中に消えて行った。
「え、えな……!?く、クソがぁぁぁ!?」
誰も居なくなった夜の砂浜でひとり、我は残った左手で地面を殴り、叫ぶ。
「ディザベル貴様……絶対に許さん……ッ!!!」
そして我は決意を固めるのであった。
翌日の早朝――
「これで良し――」
我は寝ている悠介さんの頭から手を離すとひとりでにそう呟く。
電磁洗脳《サイコ・キネシス》を頭の回路にかけた、これでしばらくは眠りから覚めない筈だ。
これはもう銀次さん、愛子さん、ゆうりにもしている。そしてここら一体は人が居ない。(それに目の前の海は人気が無く、ひとも来ない)
だから、こうすればこれから起きる事は誰にも気付かれる可能性は無いのだ。
「ま、我が負ければさよならを言わずに姿を消す事になるんだが」
それだけは避けたいところだ。なんと言ったってこの人間たちには本当に世話になったからな。
「よし、では行くか。」
そうして我は立ち上がると、残った左手で久しぶりに着る紫のローブをたなびかせ、ドアの方へ歩いて行った。
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