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第19話だぞ【メッセージ】
しおりを挟む色々あった春丘テーマパークデートの翌日、仕事が終わった我は今日もいつも通り借りている部屋の真ん中に敷いた薄く硬い敷き布団の上で寝転がっていた。
(はぁ……今日の作業は昨日帰りが歩きだったせいで疲れが残っていたのか、中々きつかったぞ)
まぁ、昼休みの間に悠介さんとは連絡先?を交換しておいたからもうこんな事は無いだろうが。――って、そういえば昨日、えなと連絡先交換しそびれていたぞ……
でも昨日はずっと緊張していたし、仕方ないか。
「……ッ」
――それに、昨日帰り際にされたえなからのキス……!!あの時はいきなり過ぎて混乱していたが、今改めて考えるとやばいぞ……!!
まさか、えなも我の事を……ッッッ!?
ま、まぁ……?わ、我は魔王!!当然と言えば当然だなッ!!ふはははッ!!(自分を棚に上げて必死に冷静になろうとする魔王の図)
そんな事を考えていた時だ、不意に我の横に置いていたスマホが「ブッブー」と音を出した。
この音、一昨日にゆうりからスマホの説明を受けた時に聞いた、「メッセージの届いた音」だ。
――今のところ、連絡先を交換しているのはゆうりと悠介さんのみ。どちらだ?
我はすぐに右手でスマホを掴むと、顔の上に移動させ、操作をしてメッセージを開く。
すると、相手はゆうりだった。
『今日、昨日春丘テーマパークにテロリストが現れたとかってニュースやってたけど、アンタ大丈夫だった?』
「あぁ、その事か。」
実は、昨日我があの男たちとすこーし遊んでやった事はまだゆうりには伝えていない。だから、心配になってメッセージをくれたのだろう。
「こんな感じか?」
だから我は、慣れない手つきでスマホ下部を叩きながら文章を作り、それをゆうりに返した。
『だいじょうぶだ、あいつらはぜんいんけいさつにまかせたから、われがたおしたヨ』
ふっ、どうだ?我ながら良い文章じゃないか?
ゆうりの様に漢字に変える方法はいまいち分からんが――まぁ伝われば良いだろう。(我は魔王だ。大体漢字の意味は分かるが書けたりはしない。)
「おっ、返ってきたぞ」
『ちょ笑アンタ文字だけ見たら子どもね笑』
なんだ……よく分からんが凄くバカにされてる気がするぞ……それに子どもだと?舐めるなよ人間……!我は何百年も生きている魔族の長だぞ……ッ!!
『ようけんはそれだけか?』
『いや、実はもうひとつ伝える事があるわ』
『なンダ?』
『なによそのカタカナ笑 とりあえず、明日何時もの喫茶店に来なさい。18時くらいで良いわ』
はぁ?明日は我仕事だぞ。
それに、今担当している場所が結構な作業量でとてもその時間までに終わるとは思えないのだが。
『あした、われしごとおそくまでつづくからきついぞ』
『あぁ、その事なら心配いらないわ。兄貴に明日は魔王には早く帰らせる様に言ってるから』
なるほど、いつもの様に妹権限でなんとかしたという訳だな。それにしてもつくづくゆうりの事が好きな兄だな悠介さんは。
『なるほど、それならだいじょーぶだ』
『オッケー!じゃ!あたしはもう寝るから!おやすみ!』
こうしてゆうりとのやり取りは終わった。
スマホを手から離すと「ふぅ」我はそう小さく息を吐き、天井を見つめる。
次は何が始まるんだという気持ちの高揚感と共に我は眠りに付いた。
♦♦♦♦♦
そして翌日、予定通り今日は中々にハードで忙しい作業だったのだが、昨日ゆうりが言っていた様に夕方になる頃、悠介さんに「今日はもう終わって良いぞ」そう言われ、更に約束の喫茶店まで車で送ってもらう事になった。
「――おい、本当に大丈夫なのか……?」
車で喫茶店へ移動中に我は悠介さんにそう尋ねる。
「ん?なんだ?まさか仕事の事を気にしているのか?はっ、お前も一丁前な事を考える様になったな。」
「いや、普通考えるだろう!我だって長いとは言えないが、もう働き出してしばらく経っているのだぞ?」
最初こそは自らでお金を稼ぎ、えなに振り向いてもらうというのが理由だったが、今では「仕事場の人間たちと共にひとつの物を作り上げる」事にやり甲斐を持ち始めていた。
だから、中々に心配なのだ。
すると、我の顔色から悠介さんはその様な事を汲み取ったのか、涼しい顔で笑うと、
「――まぁ、大丈夫だ。心配するな。それに、お前ひとりが欠けたところで作業の進行度にはそこまで影響は出ん。」
「あーそうかそうか。それなら良いが――って、なんだ!?その言い方は!?」
それだけ聴くとまるで我が必要無い者の様に思えるではないか!?
しかし、そう怒る我に悠介さんは相変わらず涼しい顔で「冗談だ、俺はそんな事思っていない。」なんて言って来る。
はぁ……この人間には本当に振り回されてばかりだ……いつか、魔王としての威厳を見せつけなければな。
そんな事を考えていた時だ。悠介さんは「着いたぞ」そう言うと車を道路脇に停車させる。
お、着いたか。
――でも、この様になんだかんだ優しいから、我は悠介さんが嫌いでは無い――むしろ好きなのだ。
「いつもありがとうな。」
「ふっ、勘違いするな。これは妹の頼みだからだ。」
ふはは、照れ隠しをしている事、バレバレだぞ?――と言えば帰りは歩いて帰る羽目になるからやめておこう。
そのまま我はドアを開けると車を降り、悠介さんが去って行く姿を見送った。
――と、では行くとするか。
今日は何が待っているのだろう。昨日の夜から心の中にあるこの気持ちが高鳴って来るのが分かる。
そして我は喫茶店の方を向いた。
するとそこには――
「お!よう魔王!」
「魔王さん!お仕事お疲れ様ですっ!」
仕事終わりであろう姿のゆうりとえなが立っていた。
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