16 / 29
第16話だぞ【やるなら今】
しおりを挟む「楽しかったですね魔王さんっ!!」
「あ、あぁ……うぅ……」
地獄のカップから解放された我は、胃から今にも吹き出しそうな食べ物を必死に堪えながら、出来るだけえなに感ずかれない様に振舞っていた。
ま、まさかあんな可愛らしい小さなアトラクションがここまでの威力だとは思っていなかったぞ……
という事は、まさかこの周りにあるアトラクション全てがこれだけの威力を放つ、とかじゃないだろうな……?
まずい、急に目眩が……
ダメだ。これは絶対的にダメだ……ッ!!なんとしてでも一度このアトラクションエリアから出なければ……
「な、なぁえな――」
だから我は出来るだけ平然を装いながらえなにそう伝えようとする。――が、それに対してえなはキラキラと輝いた目で、
「魔王さんっ!!あのジェットコースター乗りたいです!!」
前方に見える、明らかに周りのそれとはレベルの違う威圧を放ったアトラクションを指さしながらそう言ってきた。
って、あれはまさか……「春丘ドドンパ」ッ!?
説明しよう。「春丘ドドンパ」とは、この春丘テーマパークの中にあるアトラクションで一番有名な、メインとなるジェットコースターで、ものすごいスピードが出る。――と、パンフレットに書いていた。
いや、明らかにこの説明文だけでヤバそうな匂いがプンプンしているぞ……?
絶対さっきのカップよりやばいだろう。
というか、えなは怖くないのか……?
「お、おい。あれはさすがにえなも怖いんじゃないか?わ、我はあんなのれ、レベルが低過ぎて興味が無いからせめて他のアトラクションに――」
「そうですよね、、魔王さんはやっぱり私の選ぶアトラクションじゃ満足出来ないですよね……ごめんなさい……」
「……ッ!?」
しかし、そこで我の強がりを聞いたえなは、急に俯き、申し訳なさそうな口調でそう言い出した。
って!?なんでそうなるんだよ!?
なんか今日のえな、テンションおかしくないか……?
だ、だが、このままではえなが悲しい思いをしてしまう事になる。それは、我としては最も避けたい事態だった。
たとえあの春丘ドドンパに乗ってでもだ。
あぁもう……!!!
「あ、あれ?急に気分が変わってきたぞ?あ、あのアトラクションに乗りたくなってきたみたいだ。」
だから我は、心の中で涙を流しながらそう呟いた。
すると、案の定それを聞いたえなは、
「ほんとですか!?やった!!じゃあ行きましょう!!」
子供の様にはしゃぎ、春丘ドドンパに並ぶ列の方へ走って行く。
「全く……」
そんな姿を我は呆れ笑いで見ていた。――これから地獄を見る事になるというのに。
「では、お2人様は一番前の席にお乗り下さい。」
「はいっ!」
「はぁ……」
そして、それから数十分後、遂に我とえなの番がやって来た。
見た感じ、このアトラクションは一度に数十人乗る事が出来るみたいだが――よりにもよって一番前の席とは……つくづくついていないな、
「楽しみですね!!魔王さんっ!!」
「あ、あぁそうだな。」
――だが、こんなにも可愛いえなの笑顔をこうして間近で見られているのだから、結果オーライという感じだな。
すると、そこで遂にこの様なアナウンスが流れる。
『では、安全バーを下ろします。暴れないで発進までご待機下さい。』
そして、そのアナウンスと共に上から黄緑色の鉄で出来たバーが降りて来て、我の身体をがっちりと固定した。
分かる……これは身体が吹き飛ばない様にする物だろう。
要するに、これから動くという事だ……ッ!!
『では、発進いたします!皆様!楽しんで行ってらっしゃいませ~!』
「お!動きましたよ魔王さんっ!!」
「……ッ!!」
さぁ、来るがいい春丘ドドンパ……!!この魔王と勝負だ……ッ!!
♦♦♦♦♦
「大丈夫ですか魔王さん……?まさかこんなに絶叫系が苦手だなんて知りませんでした……」
「う、うぅ……」
それから無事(ではないが)なんとか春丘ドドンパから降りた我は、出口からすぐ近くにあったベンチに寝転んで吐き気を必死に抑えていた。
な、なんなのだあのアトラクションは……さすがに早すぎるだろう……
全盛期我の移動速度ともいい勝負をするな……
「それにしてもあの直線、ほんと早かったですね~!瞬間最大スピード、200kmを超えるみたいですよ。」
「も、もう我にはそれが凄いのか分からん……」
「――それにしてもえな、お前は平気なのだな……」
「私ですか?はいっ!小さい頃から大好きですっ!」
ち、小さい頃から、だと……?化け物じゃないか……
この世界の人間……恐ろしいぞ……
「――ですが、今回は魔王さんに嫌な思いをさせてしまいました。私がわがままなばっかりに振り回しちゃった……本当にごめんなさい。」
すると、そこでえなはベンチで横たわる我に向かい、頭を下げた。
「お、おい、そんな真剣に謝るのではない。我はえな、お前と居られればそれだけで……」
「――え……?」
「あ、」
しまった……!気持ち悪い事を言ってしまったか……!?
しかし、そんな我の言葉を聞いたえなは驚きを隠しきれていない表情で頭を上げるとこちらを無言で見つめてくる。
我の勘違いかもしれないが、頬もほんのり赤らめている様な気がする。
まさかえな……お前も……?
「え、えな……我はお前の事が――」
すると、そんな空気になったせいか、我の口が勝手にそう言葉を紡ぎ出す。
ま、まずい、ほんとに勝手に――
「魔王さん、ちゃんと言って下さい。」
そして、対してえなも真剣な眼差しでこちらを見つめる。
あぁもう……!!こうなったら言ってやる!!
それに、悠介さんやゆうりも言っていた、「デート中の告白が良い」と。
だから我はそこで覚悟を決め――
「お前の事が、好――」
パァンッ!!!
その瞬間だった。春丘テーマパーク内にそんな爆音が響き渡ったのは。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】ヤンキー少女、異世界で異世界人の正体隠す
冬
ファンタジー
口が悪く男勝りで見た目は美青年な不良、神田シズ(女)は誕生日の前日に、漆黒の軍服に身を包んだ自分とそっくりの男にキスをされ神様のいない異世界へ飛ばされる。元の世界に帰る方法を捜していると男が着ていた軍服が、城で働く者、城人(じょうにん)だけが着ることを許させる制服だと知る。シズは「君はここじゃないと生きれない」と吐き捨て姿を消した謎の力を持つ男の行方と、自分とそっくりの男の手がかりをつかむために城人になろうとするがそのためには試験に合格し、城人になるための学校に通わなければならず……。癖の強い同期達と敵か味方か分からない教官、上司、王族の中で成長しながら、帰還という希望と真実に近づくにつれて、シズは渦巻く陰謀に引きずり込まれてゆく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる