上 下
14 / 29

第14話だぞ【大好き】

しおりを挟む

 そして翌日。我は予定通り6時に起きると、朝食を食べ、服を着替え、お金、スマホを持ち、7時に迎えに来てくれた悠介さんの車に乗り、今回のデート場所である春丘テーマパークへ向かった。

 車に乗ってから数十分後――

「よし、着いたぞ。」
「ありがとうな、悠介さん。」

 我はシートベルトを外しながら隣に座る悠介さんにそう礼を言う。

「全然構わない。今日はいっぱい羽を伸ばしてこいよ。」
「あぁ、そうする。」

 それにしても、前、3人で喫茶店にて話した時だって、悠介さんは店前まで送ってくれたよな。
 ゆうりと言い悠介さんと言い、本当に良い人間だ。

「じゃあ、行ってくるぜ。」
「あぁ、
「……ッ!!あぁ……!」

 そうして我は車から降り、ドアを閉める。すると悠介さんは、そのまま我に軽く窓越しに手を振ると、走って行った。
 
 ふぅ……ッ!!今の一言で気合いが入ったぞ……!!
 よし、今日は絶対、えなの心に残る様な良いデートにしてやろう……!!

 そうして後ろを振り返る我――すると、そこには、

「――あ!おはようございます!魔王さんっ!!」
「……ッ!?!?」

 純白のワンピースに身を包んだ女――えなが立っていた。
 あ、あぁ……魔王の我がこの表現を使うのはおかしいだろうが……今回だけは使わせてもらうぞ……えな、お前は天使だ。

 悠介さん、申し訳ない、さっきはあれだけ決意を固めていたが、やはり一筋縄では行かなそうだ。(主に我の緊張で)

「あ、あぁ。おはよう、えな」

 こうして我とえなの記憶の中に良い意味でも残る春丘テーマパークでのデートが幕を開けた。

 ♦♦♦♦♦

「うわぁぁぁ……!!」

 それから我とえなは入場ゲートで入場料を払い、春丘テーマパークに入った。
 すると、入って早々にえなが目をキラキラと輝かせながら周りを見渡し、そう感嘆の声を上げる。

 確かに、えなの気持ちも分かるぞ。色々な建物と青々とした植物達が良い具合にバランスを取っている。
「自然と遊園地の融合」をキャッチフレーズに掲げている事はあるな。

「よし、じゃあまずはあっち方向に行くぞ。あそこには様々な食べ物の店がある。それに、この公園――では無くテーマパークは至る所に植物による彩色がされているからな、今無理に並んで乗り物に乗るよりも楽しめるだろう。」

 そこで、興奮しているえなに我は出来るだけ落ち着いた声でそう言う。(実際は心臓バクバクだ。)
 
 ん?なぜそんなにこのテーマパークの事が詳しいのか?
 ふっ、忘れたのか?我は昨日ゆうりからここのパンフレットを受け取っている。

 そう、ほぼ徹夜で読んできたのだ。だから、このテーマパークの事は完璧に覚えている。(まぁそのせいですごく眠いが……)
 せっかくのデートなんだ、我は大成功で終わらせたい。だから、そこに努力は惜しまんのだ。

「――はっ!す、すいませんっ!私、つい興奮してしまって……はい!私は魔王さんについて行きます!」
「あ、あぁ。魔王の我が華麗にエスコートしてやろう。」

 そうして我の落ち着いた声で正気に戻ったえなは笑顔で我の左側にくっついてくる。

「……ッ!!――じゃ、じゃあ行くぞ」

 落ち着け……落ち着け魔王よ……!!この程度で――肩が触れた程度で動揺などするのではない……ッ!!

 こうして我とえなは、食べ物屋が多く並んでいる「春丘フードストリート」の方向へと並んで歩き始めた。


「ん~~!!美味し~!!魔王さんっ!この「春丘ドーナツ」美味しいですよ!!」
「あ、あぁ。確かに美味いな。」

 それから我とえなは、春丘フードストリートで様々な食べ物屋を巡り、食べ歩きを始めた。――のだが、さっきから甘い物ばかりで気持ち悪くなってきたぞ……

 そしてこの今食べている、青色と黄緑色のチョコソースが半々で塗られたドーナツも同じく、ものすごく甘かった。まるで、砂糖に齧り付いているみたいだ……

 我は甘いものが嫌いな訳では無いが、それでもサンドイッチの方が美味いぞ……
 ――しかし、それに比べてえなは、

「はぁ……!美味しかったっ!!魔王さん!!次のお店行きましょ!!」
「あ、あぁ。――って!?腕を引っ張るのではない!?」

 さっきからずっとこの調子だった。
 全く、えなはどれだけこの砂糖の塊を食べれば満足するのだ……?どうやらこの世界の人間は、砂糖を食べると頭のリミッターが解除されるらしい……
 ま、そのおかげか我の手を引っ張るえなと自然に手を繋げているから良いんだがな。

――そしてそれから、更に数店舗回った後、気が付けば最初の、入り口前に戻ってきた。

「あれ?戻ってきちゃいましたね?私たち、後戻りはしていないはずなんですが。」
「あぁ、それならな、この春丘テーマパークの飲食店やお土産ショップがある道はドーナツの様に円形なのだ。その中心に色々なアトラクションがある訳だが……だから、さっきの春丘フードストリートを真っ直ぐ歩いていれば元の場所に戻って来るというのは不思議では無い。むしろ当たり前だ。」
「なるほど……確かに、さっきから直線の道は無かったですもんね。理解しました。」
「それなら良かった。」

 そこで我はおもむろに昨日ゆうりからもらったスマホを取り出すと、時間を確認する。

 時間は14時30分。うむ、昼時の少しあとくらいか。
 これなら昼ご飯を食べに行っている客も、逆に昼時に空くのを狙った客も比較的少ないはず……アトラクションに乗るなら今だな。

「どうする?えな。アトラクションに乗りたいか?」
「え?良いんですか?」
「ん?なんでだ?ダメな理由が無いだろう。」
「いや、その……魔王さんアトラクションとか苦手そうだなって。」
「……ッ!?な、なな、我が苦手だと……?そんな訳ないだろうッ!!」

 確かに、我はこの世界のアトラクションとやらが主にどの様な物なのかは分からん。(パンフレットにも、文字の説明のみだったし)
 だが、魔王として、苦手な物があるなど絶対にダメだ!!

「本当ですか……?なら……!早く行きましょう!!」
「あぁ。仕方ない、乗る時に金が必要なら我が出してやる。だから、存分に楽しんでくれ。」

 我のアトラクションは苦手では無い、という返事を聞いて、途端にテンションの上がったえなに、我は少し微笑みながら優しくそう言葉をかける。

 フードストリートの時は奢るタイミングを逃していたが……奢るとしたら今しかないだろう。
 すると、予想通りテンションの上がっていたえなは申し訳なさそうな表情はすること無く、

「ほんとですかっ!?やった!!魔王さんっ!!――」

「大好きですっ!!」
「……ッ!?!?!?」

 それはいきなりの出来事だった。急にえなが笑顔で抱きついてきたのだ。
 今の大好き――これは恐らく恋愛的な意味では無く、友人的な意味だろう。

 しかし、今の――ただでさえずっとえなと1対1という状況の我にとっては、それだけで十分だった。

「よしッ!!!往くぞえな!!!」
「はいっ!!」

 ははは……ッ!!!アトラクションよかかってくるが良い……!!今の我は最強だ……!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

★【完結】ダブルファミリー(作品230717)

菊池昭仁
恋愛
結婚とはなんだろう? 生涯1人の女を愛し、ひとつの家族を大切にすることが人間としてのあるべき姿なのだろうか? 手を差し伸べてはいけないのか? 好きになっては、愛してはいけないのか? 結婚と恋愛。恋愛と形骸化した生活。 結婚している者が配偶者以外の人間を愛することを「倫理に非ず」不倫という。 男女の恋愛の意義とは?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の華、不機嫌な皇子 予知の巫女は二人の皇子に溺愛される

たかつじ楓
キャラ文芸
【書籍化決定!23年12月13日発売です♫】 「予知の巫女」と呼ばれていた祖母を持つ娘、春玲は困窮した実家の医院を救うため後宮に上がった。 後宮の豪華さや自分が仕える皇子・湖月の冷たさに圧倒されていた彼女は、ひょんなことから祖母と同じ予知の能力に目覚める。 その力を使い「後宮の華」と呼ばれる妃、飛藍の失せ物を見つけた春玲はそれをきっかけに実は飛藍が男であることを知ってしまう。 その後も、飛藍の妹の病や湖月の隠された悩みを解決し、心を通わせていくうちに春玲は少しずつ二人の青年の特別な存在となり…… 掟破りの中華後宮譚、開幕!

恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~

神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。 一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!? 美味しいご飯と家族と仕事と夢。 能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。 ※注意※ 2020年執筆作品 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。

処理中です...