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第4話だぞ【えなの先輩】
しおりを挟む「はぁ……やはりこの世界、分からぬぞ」
コンビニでの1件の翌日。
今日も今日とて昼間は考え事くらいしかやることの無い我はいつものベンチに寝そべり、考え事をしていた。
それにしても、昨日の夜は本当にえなに助けられたぞ。あれは結構危なかったな……
まさかこの我が透過魔法をかけ忘れるとは……魔王一生の不覚だな。
「だが、あのコンビニはもう使えそうにないな」
確か、他にも近くにもうひとつ、コンビニがあった気がする。今夜はそこへ行くとするか。――って、なんだ?昨日えなにもうあんなことはするなと言われただろって?
分かっている。我だって好きな女に止められた事だ。出来ればしたくは無い。
だが、昨日話した通り、人間の様に1日何食も食べないといけない程では無いが、生きている以上腹は減る。
これは仕方ない事なのだ。生きるためにはな。
すると、そんな事を考えながらベンチに寝そべっていた我に、誰かが声をかけてきた。
「――お、こいつだな?えなをナンパ共から守ったって男は」
「ん?」
なんだなんだ?こんな昼間から?
今までえな以外誰ひとりとして話しかけてこようとしていなかったのに
それに、えなを守った?まさかこいつ、前の勇者パーティーの生き残りか……?
「なんだ?貴様?」
そこで我はすぐに身体を起こすと、話しかけてきた人間の方を向く。
するとそこには、金髪ロングで巨乳の女と、なんとえなが一緒に立っていた。――って、
「え、えな!?何故ここに居るのだ!?」
「えへへへ……こんにちは魔王さん……」
♦♦♦♦♦
それからふたりの話を聞くと、どうやらふたりは同じ職場?で働く仲間らしい。
「いきなり押しかけて悪かったな!あたしはえなの先輩、江戸川 悠里だ!」
我の隣に座り、ガハハと笑いながら手に持っていた弁当を食べる女――ゆうりはそう自己紹介をする。
えなが言うには、今は昼休み、という時間らしい。
「すいません、魔王さん……ゆうり先輩があまりにも私をナンパから救った人というのを見てみたいと言い出して……私は迷惑だろうからやめようって言ったんですけどね?」
「なんだ?えな?お前そんな事言う割にはさっきまでノリノリだったじゃねぇかよ?」
「ちょ、ちょっとゆうり先輩!」
「……?何の話をしているのだ?」
「……ッ!?な、なんでもないですよ魔王さん!!」
「そ、そうか……」
なんだと言うのだ、我だけが話についていけなくて悔しいぞ。
「――で、さっきからずっと気になってたんだが、なんでえなはこいつの事をずっと「魔王」って呼んでるんだ?」
「そ、それは……ハハ……」
「なぁ、お前、本名はなんて言うんだよ」
そう、ゆうりは我の方にグイグイと身体を寄せながら聞いてくる。
なんだ?この女。えなとは違って随分と積極的ではないか。――――って、あ、分かったぞ?もしやこの女、我の美貌に惚れているのだろう……!
仕方ない、ならば我が名を教えてやろうではないか!
そこで俺はえなにした時と同じようにベンチから勢いよく立ち上がると、
「聞いて驚くなよ!我は魔法を操り、別世界の頂点に立っていた魔王だッ!!」
ふっ、決まったな。
しかし、その瞬間、我の想像とは違い、一気にその場が凍った。
「ねぇ、お母さんあの人何言ってるの?」
「こら、見ちゃ行けません。」
「お、おいお前引かれてるぞ……何言ってんだよ……?」
「いや、我は我が名を名乗っただけだが?」
「あ、こいつガチの方か……分かったよ、ま、魔王と呼べば良いか?ハハ……」
「あ、あぁ」
何故だ……?なぜこの世界では名を名乗ると全員この様な対応になるのだ……?
これではまるで、我がおかしいみたいではないか!?
はぁ……調子が狂うぞ……
「――で?なぜゆうり、お前は我に会いに来たのだ?なにか話したい事でもあるのか?」
そこで俺はとりあえず気まずくなった空気を治すべく、ゆいりにそう聞く。
「ん?いや、さっき言っただろ、あたしはえなをナンパから救った男がどんなやつか知りたかっただけだって」
「本当にそれだけなのか?」
「あぁ、悪いか?」
「いや、――」
なんなんだ、本当にやりにくいな……
「すいません魔王さん、ゆうり先輩こういう人で……」
「うむ、我、こいつはとても苦手なタイプだ。出来れば出会いたくは無かったな。」
「ん?なんだよ魔王ぅ?そんな事言われちゃあたし悲しいだろ~?」
「や、やめろ!我に寄ってくるな!?」
本当になんなのだこの女は……
♦♦♦♦♦
それから、しばらく、我、えな、そしてえなの先輩のゆうりと共に雑談をしていると、そこで急にゆうりがバッと話題を変え、我にこう聞いて来た。
「――で、魔王?お前、なんで男たちに絡まれていたえなを助けられたんだよ?」
「ん?それはもちろん、魔王だからだ。」
「いやいや、そういう厨二病発言を聞きたい訳じゃないんだって」
なんだ?厨二病発言とは?はぁ、本当にこの世界の言葉はよく分からん。
しかし、そう言うゆうりの顔は一見笑っている様に見えるが、おそらく本当に気になっているのだろう。
これから我が話す内容を頭に入れようと、真っ直ぐこちらを見つめてきていた。
――と、言ってもなぁ……我、あの男たちが勇者パーティーかと思って、追い払っただけだぞ?
まぁ、そう言っても信じてなんかもらえないだろうが。
この世界に来てからまだ数日間だが、元の世界の様に、魔王や勇者が存在しない事は分かった。
だから、今我がゆうりに対してそのまま思った事を伝えても信じては貰えないだろう。
だから、信じて貰えそうな嘘をつく事にした。
「あの時は本当に、たまたまえなが男たちに絡まれているところを見かけたから助けただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。」
「ふぅん、でも、やっぱりそれだけには見えないんだよなぁ」
「何が言いたいのだ?」
「だって、普通そんな光景を見かけたとしても、数人の男に対してひとりで助けに行くなんてしないだろ?」
その言葉で、我はゆうりが我に何を聞こうとしているのかが分かった。
要するに、「何故、数人の男に怖がらず、ひとりで助けに行けたのだ?」という事だな?
いや、だがそれは魔王だから――って、これは信じて貰えないんだったな……はぁ……どうするべきか、
「……」
そのまま色々考えるが、中々理にかなった理由が思い付かない。
すると、そこで痺れを切らしたのかゆうりがニヤリと笑い、
「ふぅん?なるほどなぁ?何となく分かったぜ。」
そう言うとゆうりはベンチから立ち上がり、「えな、昼休みはもう終わりだ、会社に戻るぞ」そう言い、えなと共に公園の出口の方へ歩いて行く。
「じゃ、じゃあ魔王さん、さようなら!!」
「あぁ」
そうして我はえなとそう別れの挨拶を交わした。
――それにしても、ゆうりの別れ際の言葉はなんだったのだ?
ベンチから立ち上がった後、ゆうりは我の耳元で「えなは彼氏いないぞ」そう言い残していたのだ。
また彼氏……だから彼氏とはなんなのだ……ッ!!
まぁでも良い。今日の夜こそは……!!えなを我の女にしてやる……!!楽しみにしておくのだぞ、えな……!!
しかし、その日の夜えなが公園に来る事は無かった。
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