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第3章1部【仇討ち編】

第66話【決着〜亡き友との一撃〜】

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「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」

 俺は今目の前にいるサラマンダーがエスタリを殺した張本人だと確認を取ると、みさと、ちなつ、くるみ、オネメル、ヒルデベルトに一斉に指示を飛ばし、間合いを詰めてくるサラマンダーへ正面から攻撃を仕掛けに行った。

 ――のは良いが、どうする俺!
 正直作戦などは予め決めていても本番ではその通りに行けないだろうからと全く考えて来ていないが――だからと言って何か策がある訳でも無いぞ……!

 しかし、やはり最初は何か攻撃をしてみないと始まらないだろう!
 実際、目の前で変異種サラマンダーが戦っているのを見たことはあるが、あの時は相手がレザリオで、まともにその動きを見ること無く終わってしまったからな。

「よし!じゃあまずは俺が先頭で攻撃をする!お前らはそれに続いてくれ!」
「随分大雑把ねとうま!それじゃオネメルとヒルデベルトが分からないんじゃないの?」

 俺の指示に対してみさとは「私たちは何時もこんなに雑な指示だけれど」まるでそう言っているかの様な口調でいつもは共に戦っていない2人を気遣う。

 しかし、そんなみさとに対して2人は、どこか呆れた口調で、

「いや、大丈夫よ!やってみるわ!それに――」
「エスタリ殿はいつも作戦すら言わずに突撃してしまいますからなぁ。それに比べると幾分分かりやすいですぞ」

「ふっ――」

 だろうな、エスタリなら本当にいつもそんな感じだったのだろう。
 ――っし!

「じゃあ行くぞッ!!」

 そうして俺は覚悟を決めると、残り数メートルまで近付いたサラマンダーに対して剣を構える。
 そして――身体に急ブレーキを掛けて止まると、サラマンダーの攻撃を待った。

 そう、1回目の攻撃での俺の狙いはカウンターだ。
 まずはこれで大体の相手のスピードを計るッ――

「来いやァァァ!」


 しかし、俺は変異種の力を舐め過ぎていた。

「って!?!?」

 その瞬間、なんとサラマンダーは目にも止まらぬ速さで、その鋭く伸びた爪を俺の腹部に横から振り下ろして来た。

「ぐふっ……!?」

 幸いそこにはもう片手で持っていた盾があり、肉体への直撃は防げたが、盾は今の一撃で完全に破壊され、俺自身も後ろへ数メートル吹き飛ばされた。

「はぁはぁ……!?」

 何度か地面に叩きつけられた後、俺はすぐに身体を起こすと、サラマンダーの方に視界を向ける。
 いや、なんだよ今のスピード!?俺はスザクの超高速の突きでも何とかではあるが防げたんだぞ……!?
 それに盾を持っていかれたせいで攻撃をから身を守るのも難しくなった。くそ……

 しかし、今はそんな事を言っている場合では無かった。
 俺は後ろに吹き飛ばされたが、俺に続いて攻撃をしようとしていた他5人はまだサラマンダーのすぐ近くにいるのだ。

 そして、当然俺が吹き飛ばされた事に動揺した5人は一瞬動きが鈍る。
 その後、すぐに攻撃をしていたが、あの規格外の速度で攻撃を放つ事の出来るサラマンダーにそんな手が通用する訳もなく、全員が返り討ちにあっていた。

「く、くそ……ッ」

「きゃあぁぁ!?」
「みさと!!――ッ!?」
「大丈夫ですか!みさと殿!」

 そんな光景を見て、俺の中で怒りがふつふつと湧いてくるのがよく分かった。
 もう仲間を失いたくない……絶対に失いたくない……ッ!!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 その瞬間、俺はすぐに身体を立ち上げ目一杯足に力を入れると、地面を蹴り上げサラマンダーの方に向かって行く。

 剣を空へと大きく振り上げ、無防備に突撃する俺。
 傍から見たら物凄く危険な行為だろう、しかし、そんな事を今の俺に考える余裕は無かった。

 その時だ、頭の中にある声が響いた。

『とうま!!冷静に戦えッ!!』

 それは間違いなくエスタリの声だった。
 そして、そんないきなりの出来事に俺の頭は一瞬にして冷静に戻る。

 しかしその時にはもうサラマンダーの攻撃範囲内に入ってしまっており、横から、さながらムチの様なサラマンダーの尻尾が飛んで来ていた。

 硬い鱗で覆われた尻尾の横からの攻撃、身体をぐるりと横に回し、遠心力が掛かっているのも相まって、その攻撃をダイレクトに受けてしまえば肉を引き裂き、肋骨を砕き、腹から内蔵が飛び出る事になるだろう。

 しかし、寸前で冷静に戻っていた俺は何とかバックステップで後ろに下がり、攻撃が飛んで来ている部位を剣で守る事で、直撃を回避する事が出来た。

「しゃァァァ……」

 そこで一旦後ろへとジャンプで下がるサラマンダー。
 その隙に俺も、

「お前らッ!一旦陣形を組み直すぞッ!」

 周りの5人に後ろへ下がるよう、指示を出した。

 ふぅ……マジで危なかったぜ今のは。

「ありがとなエス、おかげで命拾いした。」

 しかし、さっきの様な無謀過ぎる行動を起こした代償か、先程も言った様に直撃こそ避けられたが、身体を守っていた剣はバキバキに割れ、もう使い物にはならなそうだった。
 要するに、もう俺に武器は無い。という事だ。

 するとそこで、飛ばした指示を聞いた他5人が俺の方に駆け寄って来た。

「大丈夫?今危なかったわよね」
「あぁオネメル、問題無い。武器は無くなってしまったがな。――んな事よりも、」

 俺は左肩から血を流すみさとの方を向くと、怪我は大丈夫なのかを聞いた。
 先程、俺が後ろに弾き飛ばされている間に、みさとは攻撃に当たっていたのだ。
 しかし、どうやら大丈夫らしく、みさとは、

「えぇ、寸前で回避の動きをしたからかする程度で済んだわ。だから私は大丈夫よ。」
「そうか、それは良かった。」

 でも、かすった程度で流れるくらい出血するなんて……やはりとんでもないモンスターと対峙してるんだな、俺たちは。
 身体全体に纏われた鋭い鱗、これは戦って行く上で相当重要になって来そうだ。というか、俺は武器が無いから戦えないんだが、マジでどうする……?

 しかし、そんな考えが必要になるのはこれからサラマンダーがを突破出来てからだ。

「おいヒルデベルト、お前はもう気付いてるよな」
「えぇ、あやつ、狙っておりますな。」

 そこで俺は今俺たちと同じく後ろへと下がったサラマンダーの方へ視線を向けると、ヒルデベルトと会話を交わす。

「しゃァァ……」

「おそらくあいつはこれからブレスを放って来るぞ」
「え!?それどういう事よ!?」
「なんで分かるんだ!?」
「そんなの怖いよ!」

 おいおいくるみ、お前はあんなえげつない魔法を放てるって言うのに怖いってなんだよ。
 だが、その気持ちを抱いているのは俺も同じだった。

 こいつらは実際に見ていないから分からないかもしれないが、俺は目の前で、ブレスによって焼け野原になったチュロント森を見たからな。

 するとそこで、サラマンダーは大きく空気を吸い込み始めた。恐らくブレスを放つ準備段階に入ったのだろう。
 そんなサラマンダーに対して、オネメルは今がチャンスだと言って弓を引く。

 しかし、放つ直前で俺が手を伸ばしそれを制止した。
 今のあいつは非常に危険な状態だ。こちらから仕掛ければ何をしてくるか分からない。

「じゃあどうやって止めるのよ!!」
「そんなの、受け止めるしか無いだろ。」
「受け止める!?そんなの……ってッ!?」
「思い出したか?」
「とうま……貴方まさか……」
「あぁ、これからあいつの放つブレスを、俺のユニークスキルで受け止めるッ!!」

 ---

「こ、これで良いのかしら……?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「そういえばオネメル、とうまのユニークスキルを見るのは初めてだったわね」
「えぇ……」

 あの後全員にこの案を承諾して貰うと、サラマンダー側もそろそろブレスを放ちそうな状態だった為、急いで背中に手を当ててもらった。

 いや、みさと、ちなつ、くるみの3人がこの案に賛成してくれるのは予め分かっていたが……まさかまだユニークスキルを見たことが無いオネメルとヒルデベルトにもOKを貰うとはな。
 土壇場+何も策が無い状態だったからこそだったのかもしれないが――それでも俺はある程度信頼されているのかもしれない。

「ちなみにとうま殿、我は女性ではありません故、背中を触る必要は無いと言う事ですかな?」

 ではヒルデベルトからこのセリフが出たところで改めて俺の所有しているユニークスキル[ボディタッチ]について軽く振り返っておこう。

 このユニークスキルは女の子に身体のどこかを触れられている間にシールドを形成する事が出来る(人数が増えれば効果も上昇)という物で、確かにヒルデベルトが背中を触ってもその効果は増幅しない。

 しかし俺は、女子4人の様に背中を触ろうか迷っていたヒルデベルトにこう言った。

「いや、触ってくれ。こういうのは一致団結だろ?」
「ふっ、こういう時にもその様な事を言いますか、とことんエスタリ殿に似ている方ですな、とうま殿は。」

 そうしてヒルデベルトも俺の背中に手を当てる。こうして全員の準備が整った。

 そして、俺も身体の奥底から湧き出てくる今までの中でもダントツの力を手に集め、両手を前に伸ばした。

「さぁ、来いや!!!!」

 俺がそう叫んだ瞬間――

「しゃァァァァァァッ !!!!!!」

 サラマンダーもそれに応えるように口の中から紫色のブレスを放つ。
 すぐにこちらもシールドを形成し、待ち構える。

 すると、次の瞬間俺のシールドにサラマンダーの放ったブレスが直撃した。って、

「あっちい!?!?」
「しゃァァァ!!!」

 なんと今までこのシールドでどんな攻撃を受けてもダメージや痛みなんてまるで無かったのに、高温の炎に焼かれる様な熱さと、ヒリヒリとする感覚が両手を襲って来た。

「くっそ……!!」

 だが……こんなところで腕を下げられる訳が無い。
 俺は……みんなを守るんだ……!

「とうま!頑張って!」
「とうま!お前ならやれる!」
「頑張れとうま!」
「耐えるのよ!」
「とうま殿!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!押し切れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 そしてそれから数十秒後、やっとブレスは終わった。

「はぁはぁ……」
「しゃァァァ……!?」

 あれだけのブレスを放ったのにも関わらず、無傷な俺たちにサラマンダーは食い下がる。
 はは……とりあえず何とかブレスを耐えきれたぜ。

 だが、今のでだいぶ体力を削られちまった。ここから長期戦はキツイな。
 ってか、剣が折れたから戦えないんだっけ。

 俺はすぐに、次どうするかに頭の中を移行する。
 するとその時、背中から手を離したみさと達に変化が起こった。

「なに……?この力は……?」
「急に力が入って来たぞ……!」
「どうしたお前ら?」
「とうまがブレスを凌ぎきった瞬間から力が急に湧いて来たのよ……!」
「我もそうですぞ」
「……ッ!!」

 まさか……今のブレスの力を全て吸収して背中を触っていた5人に分け与えたって訳か……?
 いや、だがとりあえず今はなんだとしても良い。これがチャンスだと言う事には違い無かった。

「よし!とりあえず5人とも連続で攻撃しろ!!」

 俺はすぐに指示を飛ばす。
 そして5人も、そんな指示に応える様に、全員頷くとサラマンダー目掛けて走って行った。

「しゃァァァ!!」

 対してサラマンダーも、それに対抗しようと先頭を走るみさとに飛び付きに行く。
 だが、先程のブレスで出し尽くしたのか、それとも油断か、最初の様なスピードは出ていなかった。

 そして当然、そんな攻撃すぐにみさとは避けると、カウンターで背中に斬撃を放った。

「しゃァァァ!?」

 更に続けてちなつ、オネメル、ヒルデベルトと連続で攻撃を放って行き全員の攻撃をサラマンダーは身体に受けて行く。

「はぁ!ジャスティスザンゲキィィィィィ!!」
「これでも食らいなさい!シャイニング・アロー!!」
「はぁ!ストーンブラスター!!」
「しゃァァァ!?!?」

 そしてトドメの攻撃を――

 「行っくよぉぉ!!火竜の咆哮ドラゴンブレスッ!!って!?」

 くるみは放ったが、足元が悪かったのか寸前でバランスを崩してしまい、サラマンダーの居る方向とは全く違う空へ向けて魔法は飛んで行った。

「しゃァァァッ!!」

 そして当然、サラマンダーはそんな絶好のチャンスを見逃すはずは無くすぐにくるみの方へ突進して行く。

 だが――それよりも先に俺はみんなの攻撃ラッシュでサラマンダーの背中から抜け落ちたエスタリの剣を拾っている。

 だから俺はくるみがバランスを崩したそのしゅんかんから動くサラマンダーの方へ走り出していたのだ。
 そこで、ふと隣にエスタリがいるかのような感覚になった。

『メンバーの失敗はリーダーである俺たちが補ってやろうぜ、とうま』
「当たり前だろ」

 俺は走りながらそう今は亡きエスタリに向けて独り言を呟き、

『「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」』

 天高く剣を振り上げ、飛び上がると、その勢いのままにサラマンダーの首を一刀両断した。
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