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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】
第58話【魔法の部、決着〜ちなつさん許してぇ!〜】
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第58話【魔法の部、決着~ちなつさん許してぇ!~】
試合終了後、俺はそのまま選手席に戻り、みさとやスザクなどと話していると、しばらくして意識を取り戻したちなつが帰って来た。
「お、ちなつ。今回は俺の勝ちだな。」
階段から上がって来たちなつに対して、俺は誇った様に言う。
すると次の瞬間、ちなつは俺の方に勢い良く走って来た。
「って!?なんだよいきなり!!」
「さっきはよくも私を吹き飛ばしたな!」
「す、すまんかったよそれは!でもあれは勝負だし……お、俺だってあぁでもしないと勝ち上がれないんだって!」
ここまで俺たちの冒険を見てくれてる奴なら分かると思うが、周りのみさとやちなつ、くるみにスザクにレザリオ、ミラボレア。
そいつらに比べたら俺には特出した強みってのが無い。
確かにシールドを形成出来るって点はあるが、さっきみたいに使えるのも対人戦で、しかも相手が女の子限定だ。
それに――次もあれだけ上手く行くかも分からないしな。
だからこそ、誰よりも考えて考えて考えないとダメなのだ。
――っと、まぁそれは良いとして、ちなつのやつ、選手席に戻って来て早々にあんな事言って来たが、まさか怒ってるのか……?
試合中にいきなり吹き飛ばしたし、怒るのも当然か……
くっ……どう言い訳をしようか……
俺は即座に腕を組むと、必死に頭を動かす。
すると、そこでちなつがぷッと吹き出した。
「って、どうしたんだよとうま、そんな必死な顔して」
「え……?俺はてっきりいきなりあんな事したから怒ったのかと……」
「怒る訳ないだろ、私はあそこであぁいう判断をしたとうまに対して、「流石だな」って思ったんだぞ?」
誇らしそうな笑顔でそう言うちなつ。
な、なんだ……怒って無かったのか。なんだよびっびったじゃねぇかよ!!
「――でも、」
「ん?なんだ?」
「だからって何もしない訳ないけどな!」
「えぇ!?って、痛てぇ!?やめろやめろぉー!?」
こうして帝都ティルトル剣術祭の剣の部準決勝が終わった。
---
それから少しすると――
『お知らせ致します!先程の試合で剣の部準決勝は全て終了致しましたのでこのまま魔法の部準決勝へと移行となります!1試合目に出場する選手は、これよりフィールド前のエリアまで移動をし、準備を行った後に次の放送がかかるまで待機していて下さい!繰り返します――』
「そうか、次は魔法の部準決勝か。」
「なんだかどんどん試合が進んで行くわね。」
「ほんとにな、どうだくるみ、確か2試合目だったよな?緊張とかはしてないのか?」
「う~ん、まぁちょっとだけかな!」
ちょっとだけって……流石くるみだな。
俺はさっきの試合、どうやら感覚が麻痺ってて、だから緊張こそしなかったが、試合が終わった瞬間にあとからきたぞ。
するとそこで、1試合目に出場するミラボレアが、俺の後ろで席から立ち上がる音が聞こえた。
「じゃあぁ、私は試合の準備があるから行ってくるわねぇ。」
「あぁ、頑張ってこい。」
「ヘマだけはするんやないでー!ま!無いと思うけどな!」
そうか、これから俺はミラボレアの試合を見るのか……!
初戦は気を失って見れていなかったからな、これは楽しみになって来たじゃねぇか!
――と、まぁこうして魔法の部準決勝が始まったんだが、今回は俺の独断と偏見で、ここの話は割愛しようと思う。
理由は色々あるが――聞いてる側もただでさえ地味な魔法の部の話をずっと聞くのは疲れるだろ?
まず、結果的に第1試合はミラボレアが、第2試合はくるみが、両者危なげなく勝利を飾った。
ミラボレアに関しては王者の貫禄と言うやつで、試合開始前にスザクが「あいつは火竜の咆哮を放つだろう」そう言っていたのだが、その通りに見事な火竜の咆哮を放ち、130ポイントを叩き出した。
(これなら初戦のくるみに負けてるじゃねぇか、そう思うかもしれないが、どうやら魔法の部は準決勝が終わり次第すぐにそのまま決勝に行くらしく、力を温存しておく為に抜いていたとスザクが言っていたぜ。)
一方2試合目のくるみも、今回はユニークスキルは無しで行っていたが、それでも放った魔法は上級魔法、火竜の咆哮。127ポイントで圧勝だった。
いやぁ、まさか2試合目も上級魔法を成功させて来るとはな。マジでくるみはどれだけ魔法の才能を持ってるってんだよ、それを見てたスザクは初戦の時と同様に開いた口が塞がらないって感じだったぜ。
――とまぁ、だいたいこんな感じだった。
結果的には、初戦のポイント的に見たら妥当だな。
「――はぁ……!2試合目ももう終わりかぁ!」
俺はくるみの見事な圧勝劇を見終わると、手を伸ばし、あくびをしながらそう呟く。
「あっという間って感じだったわね。」
「だな、これでもうそのまま決勝戦もやるんだろ?」
本当に、今みさとが言った様に魔法の部は剣の部と違って毎回決められた時間で1試合が終了するからすぐに感じるんだよな。
すると――
『それでは、魔法の部準決勝が終了致しましたのでこのまま決勝戦に移行します!準決勝1試合目を勝利しましたミラボレア選手は、これからフィールド前のエリアに移動を開始して下さい!』
お、このアナウンスが今入るって事は、本当に休憩とか挟まずに行く感じなんだな。
今試合をしたばかりのくるみは体力的に大丈夫なのだろうか?
「なぁ、スザク。今から決勝らしいが、今試合をしたばかりのくるみは体力的に最大火力の魔法を放てないとか――そういう事はないのか?」
俺はそこで、試合準備の為階段を降りて行くミラボレアを尻目にスザクに対してそう質問をする。
「あぁ、その心配なら大丈夫だ。決勝は、直前に試合をした選手が疲れていないか、不利を受けたりしないかというのを審判が確認してからするんだが、今のアナウンスがされたイコール、問題無かったという事だからな。」
「なるほど……それなら心配はいらないな。」
頑張れよ……!くるみ……!
---
『それではッ!フィールド内の得点用木板の設置、選手の準備共に終わった様なので、只今よりッ!帝都ティルトル剣術祭魔法の部、決勝戦を開始致しますッ!!』
『両選手、入場ッ!』
「「うぉぉぉぉぉッ!!」」
フィールド内にくるみとミラボレアが入場してくると、一瞬にして競技場内のボルテージは一気に最高まで上がった。
「凄い歓声だな……」
「当たり前だ、なんせこの街1番の魔法使いと、違う大陸から来た注目の大型新人。その2人が戦うんだからな。」
注目の大型新人……それってくるみの事だよな……
まぁでも考えて見ればそう呼ばれるのも当然か。
あいつはこの完全にミラボレア1強ムードの魔法の部で、初戦からそんなミラボレアと同じポイントを叩き出したのだから。
そりゃ、観客もこれだけ興奮する訳だ。
するとそこで、中心部分まで歩いたミラボレアがもう一方に居るくるみの横に行き、並んだ事で試合開始の準備が整った。
『では、まずはミラボレア選手、魔法を放って下さい。』
実況者は落ち着いた声色で、ミラボレアにそう言う。
それにミラボレアは静かに頷くと、杖を木の板の方へ伸ばし、魔法を放つ格好になった。
あぁ、ドキドキして来た……!
一体どんな凄い魔法を放つって言うんだ……!
すると次の瞬間――
「……ッ!?」
何か呪文を唱えたミラボレアの杖の前に、水色と紫のオーラが纏われた巨大な丸いエネルギー弾の様な物が形成され、すぐに小さく濃縮されると、とてつもないスピードで木の板の方へ飛んで行き――一瞬で木の板は無かった物になった。
って、す、すっげぇ!!
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
ミラボレアの放ったとんでもない魔法に、競技場内も最高の盛り上がりを見せる。
「なんだよあの魔法!!凄すぎるだろあれ!!なぁスザク、あの魔法はなんて名前なんだ?」
「あれは……あいつがあの魔法を放つなんてな、俺も久しぶりに見たから間違っているかもしれんが多分――」
『なんとミラボレア選手ッ!コメットインプレスを放ったぁぁ!!』
実況者が口にした魔法の名前は、スザクが言った物と一致していた。
コメットインプレス。
スザクの説明によるとこの魔法――インプレス系統は最も習得に時間が掛かると言われているらしく、そのほかにもファイアインプレスや、ドレインインプレスなど、複数存在しているんだとか。
しかし、今言った通りこのインプレス系統はその習得の困難さから、中々使う魔法使いがいなかったらしく、スザクはまさかミラボレアが習得しているとは思っていなかった様でものすごくびっくりしたんだと。
『――只今ポイントが確定しました!――――って、137ポイント!?!?』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
「はぁぁ!?137!?」
「た、高すぎでしょ……」
「恐ろしいな……」
いや、これは絶対くるみでも越えられねぇだろ……
でも――
「っしゃ!やったれくるみ!137ポイントを超えてやれーッ!」
「とうま……――そうよ!まだ諦めるには早いわ!」
「そうだぞ!最後まで出し尽くしてやれ!」
勝負ってのはこうの方が面白いだろ!!絶望的な差がある時程応援ってのは熱が入るんだ!
「まったくお前らは、くるみちゃんもええ仲間持ったなぁ。」
「だな、レザリオの言う通りだと思うぞ。」
「ん?なんか言ったか?」
「いやいや、なんも言ってへんよ。」
「?そうか。」
まぁ良い。そんな事よりも、頑張れくるみ……!
『それでは、次はくるみ選手、魔法を放って下さい。』
「ふぅ……」
俺は今にも飛び出しそうな程飛び跳ねる心臓を抑えながら、くるみを静かに見つめる。
するとくるみは杖を木の板の方に伸ばし、身体にユニークスキルを使用した事を表すピンク色のオーラを纏わせると、魔法を放った。――のだが、
「って、ん……?」
その瞬間、何故か身体に纏われていたオーラは一瞬にして消え、杖の先端から頼りない赤ちゃんドラゴンの様な、小さなドラゴンの形をした火が放たれ、ゆっくりと木の板に当たった。――って、
「「はぁぁぁぁぁぁ!?!?」」
競技場内から、悲鳴が溢れかえる。
いや、マジでどういう事だよ今のは!?
まさかくるみ、実は体力的にも連戦はキツかったのに、それを隠して……?
しかし、魔法で身体の異常を確認するから隠す事は出来ないと言うスザク。
じゃあ、ほんとにどうして……?
「…………ッ!」
しかし、そこでやっと理由が分かった。
それはくるみが持つユニークスキル[セレクトギャンブラー]の効果にあった。
忘れていたが、セレクトギャンブラーは使った物の効果を上げるという物では無く、物凄く良くするか、物凄く悪くするという物だったのだ。
だから、要するに今回は、その2分の1の悪い方を引いてしまったという事だった。
その事をみんなに説明すると――
「あぁ!そう言う事だったのね!忘れてたわ!」
「なるほど!私も忘れてたぜ!」
それなら仕方ないと、笑っていた。
いや、もうこれは笑った方がくるみからしても良いだろう。
ポイントも案の定74ポイント。今回の最低ポイントだった。
『――という事で今年の魔法の部優勝はミラボレア選手ッ!!』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
「これは正直におめでとうだな。」
「ま、どっちにしろくるみのユニークスキルが上手く行ってたとしても負けてたでしょうしね。」
「って、みさと?それは言わない約束だろ?」
「流石あいつだ。俺も優勝しなくちゃだな。」
「ほんまに!凄いやないか!!」
こうして魔法の部は幕を閉じた。
試合終了後、俺はそのまま選手席に戻り、みさとやスザクなどと話していると、しばらくして意識を取り戻したちなつが帰って来た。
「お、ちなつ。今回は俺の勝ちだな。」
階段から上がって来たちなつに対して、俺は誇った様に言う。
すると次の瞬間、ちなつは俺の方に勢い良く走って来た。
「って!?なんだよいきなり!!」
「さっきはよくも私を吹き飛ばしたな!」
「す、すまんかったよそれは!でもあれは勝負だし……お、俺だってあぁでもしないと勝ち上がれないんだって!」
ここまで俺たちの冒険を見てくれてる奴なら分かると思うが、周りのみさとやちなつ、くるみにスザクにレザリオ、ミラボレア。
そいつらに比べたら俺には特出した強みってのが無い。
確かにシールドを形成出来るって点はあるが、さっきみたいに使えるのも対人戦で、しかも相手が女の子限定だ。
それに――次もあれだけ上手く行くかも分からないしな。
だからこそ、誰よりも考えて考えて考えないとダメなのだ。
――っと、まぁそれは良いとして、ちなつのやつ、選手席に戻って来て早々にあんな事言って来たが、まさか怒ってるのか……?
試合中にいきなり吹き飛ばしたし、怒るのも当然か……
くっ……どう言い訳をしようか……
俺は即座に腕を組むと、必死に頭を動かす。
すると、そこでちなつがぷッと吹き出した。
「って、どうしたんだよとうま、そんな必死な顔して」
「え……?俺はてっきりいきなりあんな事したから怒ったのかと……」
「怒る訳ないだろ、私はあそこであぁいう判断をしたとうまに対して、「流石だな」って思ったんだぞ?」
誇らしそうな笑顔でそう言うちなつ。
な、なんだ……怒って無かったのか。なんだよびっびったじゃねぇかよ!!
「――でも、」
「ん?なんだ?」
「だからって何もしない訳ないけどな!」
「えぇ!?って、痛てぇ!?やめろやめろぉー!?」
こうして帝都ティルトル剣術祭の剣の部準決勝が終わった。
---
それから少しすると――
『お知らせ致します!先程の試合で剣の部準決勝は全て終了致しましたのでこのまま魔法の部準決勝へと移行となります!1試合目に出場する選手は、これよりフィールド前のエリアまで移動をし、準備を行った後に次の放送がかかるまで待機していて下さい!繰り返します――』
「そうか、次は魔法の部準決勝か。」
「なんだかどんどん試合が進んで行くわね。」
「ほんとにな、どうだくるみ、確か2試合目だったよな?緊張とかはしてないのか?」
「う~ん、まぁちょっとだけかな!」
ちょっとだけって……流石くるみだな。
俺はさっきの試合、どうやら感覚が麻痺ってて、だから緊張こそしなかったが、試合が終わった瞬間にあとからきたぞ。
するとそこで、1試合目に出場するミラボレアが、俺の後ろで席から立ち上がる音が聞こえた。
「じゃあぁ、私は試合の準備があるから行ってくるわねぇ。」
「あぁ、頑張ってこい。」
「ヘマだけはするんやないでー!ま!無いと思うけどな!」
そうか、これから俺はミラボレアの試合を見るのか……!
初戦は気を失って見れていなかったからな、これは楽しみになって来たじゃねぇか!
――と、まぁこうして魔法の部準決勝が始まったんだが、今回は俺の独断と偏見で、ここの話は割愛しようと思う。
理由は色々あるが――聞いてる側もただでさえ地味な魔法の部の話をずっと聞くのは疲れるだろ?
まず、結果的に第1試合はミラボレアが、第2試合はくるみが、両者危なげなく勝利を飾った。
ミラボレアに関しては王者の貫禄と言うやつで、試合開始前にスザクが「あいつは火竜の咆哮を放つだろう」そう言っていたのだが、その通りに見事な火竜の咆哮を放ち、130ポイントを叩き出した。
(これなら初戦のくるみに負けてるじゃねぇか、そう思うかもしれないが、どうやら魔法の部は準決勝が終わり次第すぐにそのまま決勝に行くらしく、力を温存しておく為に抜いていたとスザクが言っていたぜ。)
一方2試合目のくるみも、今回はユニークスキルは無しで行っていたが、それでも放った魔法は上級魔法、火竜の咆哮。127ポイントで圧勝だった。
いやぁ、まさか2試合目も上級魔法を成功させて来るとはな。マジでくるみはどれだけ魔法の才能を持ってるってんだよ、それを見てたスザクは初戦の時と同様に開いた口が塞がらないって感じだったぜ。
――とまぁ、だいたいこんな感じだった。
結果的には、初戦のポイント的に見たら妥当だな。
「――はぁ……!2試合目ももう終わりかぁ!」
俺はくるみの見事な圧勝劇を見終わると、手を伸ばし、あくびをしながらそう呟く。
「あっという間って感じだったわね。」
「だな、これでもうそのまま決勝戦もやるんだろ?」
本当に、今みさとが言った様に魔法の部は剣の部と違って毎回決められた時間で1試合が終了するからすぐに感じるんだよな。
すると――
『それでは、魔法の部準決勝が終了致しましたのでこのまま決勝戦に移行します!準決勝1試合目を勝利しましたミラボレア選手は、これからフィールド前のエリアに移動を開始して下さい!』
お、このアナウンスが今入るって事は、本当に休憩とか挟まずに行く感じなんだな。
今試合をしたばかりのくるみは体力的に大丈夫なのだろうか?
「なぁ、スザク。今から決勝らしいが、今試合をしたばかりのくるみは体力的に最大火力の魔法を放てないとか――そういう事はないのか?」
俺はそこで、試合準備の為階段を降りて行くミラボレアを尻目にスザクに対してそう質問をする。
「あぁ、その心配なら大丈夫だ。決勝は、直前に試合をした選手が疲れていないか、不利を受けたりしないかというのを審判が確認してからするんだが、今のアナウンスがされたイコール、問題無かったという事だからな。」
「なるほど……それなら心配はいらないな。」
頑張れよ……!くるみ……!
---
『それではッ!フィールド内の得点用木板の設置、選手の準備共に終わった様なので、只今よりッ!帝都ティルトル剣術祭魔法の部、決勝戦を開始致しますッ!!』
『両選手、入場ッ!』
「「うぉぉぉぉぉッ!!」」
フィールド内にくるみとミラボレアが入場してくると、一瞬にして競技場内のボルテージは一気に最高まで上がった。
「凄い歓声だな……」
「当たり前だ、なんせこの街1番の魔法使いと、違う大陸から来た注目の大型新人。その2人が戦うんだからな。」
注目の大型新人……それってくるみの事だよな……
まぁでも考えて見ればそう呼ばれるのも当然か。
あいつはこの完全にミラボレア1強ムードの魔法の部で、初戦からそんなミラボレアと同じポイントを叩き出したのだから。
そりゃ、観客もこれだけ興奮する訳だ。
するとそこで、中心部分まで歩いたミラボレアがもう一方に居るくるみの横に行き、並んだ事で試合開始の準備が整った。
『では、まずはミラボレア選手、魔法を放って下さい。』
実況者は落ち着いた声色で、ミラボレアにそう言う。
それにミラボレアは静かに頷くと、杖を木の板の方へ伸ばし、魔法を放つ格好になった。
あぁ、ドキドキして来た……!
一体どんな凄い魔法を放つって言うんだ……!
すると次の瞬間――
「……ッ!?」
何か呪文を唱えたミラボレアの杖の前に、水色と紫のオーラが纏われた巨大な丸いエネルギー弾の様な物が形成され、すぐに小さく濃縮されると、とてつもないスピードで木の板の方へ飛んで行き――一瞬で木の板は無かった物になった。
って、す、すっげぇ!!
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
ミラボレアの放ったとんでもない魔法に、競技場内も最高の盛り上がりを見せる。
「なんだよあの魔法!!凄すぎるだろあれ!!なぁスザク、あの魔法はなんて名前なんだ?」
「あれは……あいつがあの魔法を放つなんてな、俺も久しぶりに見たから間違っているかもしれんが多分――」
『なんとミラボレア選手ッ!コメットインプレスを放ったぁぁ!!』
実況者が口にした魔法の名前は、スザクが言った物と一致していた。
コメットインプレス。
スザクの説明によるとこの魔法――インプレス系統は最も習得に時間が掛かると言われているらしく、そのほかにもファイアインプレスや、ドレインインプレスなど、複数存在しているんだとか。
しかし、今言った通りこのインプレス系統はその習得の困難さから、中々使う魔法使いがいなかったらしく、スザクはまさかミラボレアが習得しているとは思っていなかった様でものすごくびっくりしたんだと。
『――只今ポイントが確定しました!――――って、137ポイント!?!?』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
「はぁぁ!?137!?」
「た、高すぎでしょ……」
「恐ろしいな……」
いや、これは絶対くるみでも越えられねぇだろ……
でも――
「っしゃ!やったれくるみ!137ポイントを超えてやれーッ!」
「とうま……――そうよ!まだ諦めるには早いわ!」
「そうだぞ!最後まで出し尽くしてやれ!」
勝負ってのはこうの方が面白いだろ!!絶望的な差がある時程応援ってのは熱が入るんだ!
「まったくお前らは、くるみちゃんもええ仲間持ったなぁ。」
「だな、レザリオの言う通りだと思うぞ。」
「ん?なんか言ったか?」
「いやいや、なんも言ってへんよ。」
「?そうか。」
まぁ良い。そんな事よりも、頑張れくるみ……!
『それでは、次はくるみ選手、魔法を放って下さい。』
「ふぅ……」
俺は今にも飛び出しそうな程飛び跳ねる心臓を抑えながら、くるみを静かに見つめる。
するとくるみは杖を木の板の方に伸ばし、身体にユニークスキルを使用した事を表すピンク色のオーラを纏わせると、魔法を放った。――のだが、
「って、ん……?」
その瞬間、何故か身体に纏われていたオーラは一瞬にして消え、杖の先端から頼りない赤ちゃんドラゴンの様な、小さなドラゴンの形をした火が放たれ、ゆっくりと木の板に当たった。――って、
「「はぁぁぁぁぁぁ!?!?」」
競技場内から、悲鳴が溢れかえる。
いや、マジでどういう事だよ今のは!?
まさかくるみ、実は体力的にも連戦はキツかったのに、それを隠して……?
しかし、魔法で身体の異常を確認するから隠す事は出来ないと言うスザク。
じゃあ、ほんとにどうして……?
「…………ッ!」
しかし、そこでやっと理由が分かった。
それはくるみが持つユニークスキル[セレクトギャンブラー]の効果にあった。
忘れていたが、セレクトギャンブラーは使った物の効果を上げるという物では無く、物凄く良くするか、物凄く悪くするという物だったのだ。
だから、要するに今回は、その2分の1の悪い方を引いてしまったという事だった。
その事をみんなに説明すると――
「あぁ!そう言う事だったのね!忘れてたわ!」
「なるほど!私も忘れてたぜ!」
それなら仕方ないと、笑っていた。
いや、もうこれは笑った方がくるみからしても良いだろう。
ポイントも案の定74ポイント。今回の最低ポイントだった。
『――という事で今年の魔法の部優勝はミラボレア選手ッ!!』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
「これは正直におめでとうだな。」
「ま、どっちにしろくるみのユニークスキルが上手く行ってたとしても負けてたでしょうしね。」
「って、みさと?それは言わない約束だろ?」
「流石あいつだ。俺も優勝しなくちゃだな。」
「ほんまに!凄いやないか!!」
こうして魔法の部は幕を閉じた。
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