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第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】

第57話【準決勝2回戦〜防御は最大の攻撃〜】

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 みさととスザクの試合が終わってから数分後、2人は一緒に階段から戻ってきた。

「ふぅ……今戻ったぞ。」
「はあぁ!ほんっと疲れたわー!」
「お!2人とも凄かったな!」

 戻って来た2人に、開口一番俺は笑顔でそう言う。
 これは別に負けたみさとを励まそうとしている訳では無い、先程試合をこの目でじっくりと焼き付け、その上で感じた心の底からの本心だ。

「おつかれみさと!スザク相手にあそこまで食らいつくとはな!見直したぞ!」
「うんうん!みさとかっこよかったよ!」
「みんな応援してくれてありがと!――でもちなつ?見直したって事はまさかどうせ私はすぐボコボコにされるって思ってたって事なのかしらぁ?」
「お、おい!顔がマジだって!やめてくれー!」

 そんなやり取りを俺は笑顔で見る。
 確かに今回の試合は、みさとの負けだ。完敗と言っても良いくらいだろう。
 でも――最後は互いに本気をぶつけ合って、みさとこいつにとっても凄く良い試合になったと俺は思った。

 ---

 それから数分後、次の試合の開始を告げるアナウンスが、競技場内に鳴り響いた。

『では!あと数分後に準決勝第2回戦を開始致しますッ!該当選手はフィールド前のエリアまで移動し、試合の準備をして待機して下さい!なお、この試合が終わった後は続けて魔法の部準決勝を行います!』

「っし!じゃあ行くとするか!」

 そのアナウンスを聞いたちなつは、立ち上がりながらそう言う。
 ん?どこに行くってんだ?

「おい、まだお前の出番じゃ――って、」

 そこで思い出した。
 これ、初戦みたいに4回戦形式じゃない――準決勝だから2回戦だけだ。
 ――って事は……もう俺の出番かよ!?

「やべぇじゃん!もう俺お前と試合かよ!」
「あ、あぁ。そうだがどうしたんだよ……」

 ちなつがそんな俺に、引き気味にそう聞いて来る。
 いや、確かに冷静に考えればって言うか、さっきまで分かっていた事なんだが、試合から逃げたいという自分の本心が脳内から次試合だという事を消し去ってやがったぜ……

「あぁ!くっそ!やってやるよッ!」
「お、おう……」

「頑張るのよ2人ともー!」
「応援してるからね~!」
「2人とも落ち着いて行くんだぞ。」
「とうま、お前ヘマするんやないで?ちなつちゃんに恥かかせる様な事したらワイが許さへんからな!」
「頑張ってねぇ。」

 はぁ……たく、レザリオは俺を舐め過ぎなんだよ……
 こうして俺は呆れ笑いながら、ちなつと共に階段を降り、突き当たりで別れると、俺は初戦と同じ近い方のフィールド前のエリアへ向かった。

 ---

『――ではッ!大変お待たせ致しました!これより剣の部準決勝第2回戦、とうま選手とちなつ選手の試合を開始致しますッ!』
『両選手入場ッ!』
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 俺がアナウンスの合図に合わせて入場ゲートからフィールドへ入ると、その瞬間四方八方から色々な声がひとつの歓声となって耳へと入って来た。

 うぅ……やっぱめちゃくちゃうるせぇな。選手席で観戦しながら聞く歓声とは全くの別物だぜ。
 そしてこれは初戦の時と同じ感想になるのだが、なんだか恥ずかしくなるな。
 今観客の奴らは全員俺に視線を向けているという意識からなんだろうが。

 だけどな、今は初戦あのときには感じなかったワクワクも感じていたりする。
 某人気バトルマンガの主人公も強敵と戦う時、「ワクワクしてくる」なんて言っていたが、今ならその気持ち、なんかわかる気がするぜ。

 というか、なんなのだろうこの気持ちの高揚感は。
 さっきまであんなに緊張で身体がガクガク震えていたはずなのに、ゲートからフィールドに入ってからは、全く緊張しなくなっていた。

 これはもしかすると、昼休憩の時にミラボレアが余談みたいな感じで俺に教えてくれた、「気を失っている時に掛けてくれた回復魔法」の効果なのだろうか。
 それならなんだか俺だけ魔法を掛けてもらってずるいみたいになるじゃないか……

 まぁでも、だからと言って手を抜く気なんぞさらさらないぜ?
 確かにこいつらには色々な物を貰った。そこにもちろん対戦相手のちなつも入っている。

 しかし、それと勝負は別だ。
 ゲームで強敵と戦う前なんかにバフを掛けたりするだろ?俺からしたらそんな感覚だよ。

 すると、そんな事を言ってる間に俺とちなつはフィールドの中心部分まで来ていた様で、指示されたところで両者足を止めた。

「気分はどうだ?ちなつ。」
「少し緊張するわね、それに初戦の疲れが残ってる感じもするわ。」
「おいおい、それは俺に負けた時に煽られない様にする為の言い訳か?」

 だとしたらここに来て全然ちなつっぽく無いが。
 しかし、そんな俺のセリフを聞いたちなつは意地悪く笑って、

「言い訳?いや違うな。このくらいハンデが無いと私が簡単に勝っちまうだろ?」
「……ッ!――へっ、言うじゃねぇかよ。」

 これなら俄然燃えてくるぞ……!

『それではッ!これより初戦でディザード選手に何とか勝利したとうま選手VSバーサス初戦で屈指のスピードを持つスリード選手に危なげなく勝利したちなつ選手の試合を始めますッ!――』

 おいおい、今の実況だと俺の方が圧倒的に弱そうじゃねぇかよ。
 試合開始の直前だと言うのに、こんな事を考えられるくらい俺には余裕があった。

「……」
「……」

 俺とちなつは両者背中にさした木の剣の持ち手を掴み、何時でも前へ突進出来る様な構えを取る。

『では――試合、開始ッ!』

 そうして試合は始まった。

 ---

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」

 試合開始の合図と共に歓声が上がると、俺はすぐに剣を背中から引き抜き、ちなつ目掛けて突進する。
 するとやはり、ちなつも同じ様に俺の方へ走って来ていた。

 へっ……!やっぱり思った通りだ……!
 まず、ちなつにとって俺はスピードが特段早い訳でもなく、だからと言って力が特別強い訳でも無い。
「普通の剣士」こういうイメージなのだろう。

 そして、だとすると完全パワーに極振りのユニークスキルを持つちなつからしたらそのまま、真正面から力でねじ伏せるのが1番の得策。

 しかし、もちろんこちら側もそんな事分かった上で突撃しているのだ。
 まぁ見とけ。この作戦が上手く行けば、俺は

「おいとうま!まさか私と真正面からやり合う気か?」
「さぁ?どうだろうなッ!」

 俺は走りながら急接近して来るちなつの質問をあやふやにすると、更に足のスピードを上げる。
 するとそれによって俺はちなつの領域内に入った様で、即座にちなつは上から初手を放って来た。

 だがこれは――

「ふっ」

 俺は寸前で身体を横に倒し、攻撃を避けた。
 だが――

「一撃じゃ終わらないぞ!」

 身体から青いオーラを噴き出させたちなつは、いつも通りのクソダサゼリフを吐きながら連続で攻撃を仕掛けてくる。

 更に今回の攻撃はユニークスキルのバフが加わっている事もあり、速度も先程とは比べ物にならない。
 でも――

「よっと!」

 再び俺は寸前でバックステップ。連続攻撃を両方回避した。

『おぉ!なんとこれは驚きました!あのスリード選手すらも捕まえたちなつ選手の連続攻撃を全て避けたぞぉッ!』
「凄いじゃねぇか!」
「両方、もっとやれぇ!!」


「ふぅ……中々、やるな、とうま。」
「まぁな、お前の攻撃は振りがデカいから避けられるぜ。」

 バックステップで距離を取った事により、一度試合が止まったところで早くも少しバテ気味のちなつが俺にそう質問をして来る。
 まぁそれに対して俺は煽り気味に答えたんだが、正直なところ振りもデカく無いしスピードもめちゃくちゃ早い。
 痩せ我慢ってやつだな。

 ん?なら、なんで今の攻撃を避けられたのかって?
 まぁそうなるわな。
 俺よりもスピードの早いスリードでも避けられなかった攻撃をひょいひょいと避けてるんだから。
 でも、実は仕組みとしては案外シンプルなんだぜ?

 何故かと言うと、今俺は、「回避全振り」の動きをしているからだ。
 そう、だから最初の突進も、攻撃をしようとしている風に見せかけて、回避の事しか考えていない。

 スリードがちなつの攻撃を食らったのも、やはり攻撃をしようとしていたからなんだ。
 例えるとしたらそうだなぁ……モンスターハンターなんかで攻撃しつつ回避したりしたら、やっぱり攻撃最中にダメージを受けたり、コマンドミスをしてしまったりするが、最初から避ける事しか考えて無かったら、その分コマンドミスも無いだろうし回避成功確率も上がるだろ?そんな感じだ?

 でもそれだと、避けられても相手にダメージを入れられない?
 んな事分かってるよ、これも作戦の内だ。

 そしてそれから俺は、何度も何度もちなつの仕掛けてくる攻撃を回避し続けた。
 すると遂に――

「はぁ……はぁ……」

 ちなつに隙が見え始めた。
 当たり前だろう、ずっと体力消耗の激しいユニークスキルを使っているのだからな。

「どうしたんだ?相当疲れた様に見えるが?」
「はぁ……はぁ……まだだぜ……」

『おっと!ここまでずっと攻撃を繰り返していたちなつせんしだが、とうとう体力に底が見え始めたか!?』

 しかし、以前ちなつの顔から闘志は消えていない。
 すぐに顔を上げると、また先程の様に俺の方へ突進して来た。
 よし……!仕掛けるなら今だ……!

 そこで俺は、先程と同じくちなつからの攻撃を、身体をずらして避ける。
 やはり最初とは全然違うな、スピードも遥かに落ちてるぜ。

 そしてそのまま俺は攻撃を空ぶったちなつの身体を抱きしめた。

『って、はぁぁぁ!?!?』

 その瞬間――実況者はそう叫ぶ。
 これには競技場もざわつき始める。
 なんだなんだ、何が始まるんだ?という感じだろう。

 もちろん抱きしめられた当の本人、ちなつも顔を真っ赤にして何かを叫んでいる。
 しかし、俺の耳にその声は入って来ない。

 なぜなら今、俺の作戦は成功したからだ。

 来た……キタキタキタキタァァァ!!
 身体の奥底から湧き上がってくる久しい力を俺は手に貯めて行く。

 一体何をしているのか、だって?
 みんなは忘れたのか?

 ユニークスキル[ボディタッチ]
 それは女性の身体が自分の身体に触れている時にだけ、シールドを形成する事が出来るというユニークスキル。

 これは一見ガードにしか使えないユニークスキルだが――使い様によっては攻撃にもなるのだ。

「おいとうま!?お前マジで何やってるんだ!?」
「防御は最大の攻撃だぜ。」

 俺は抱きしめられ、混乱するちなつにそう言うと、手から人一人分程のシールドを形成し、それでちなつを押して奥へ吹き飛ばした。

『っと!?これはどういう事なんだ!?次はいきなりちなつ選手が吹き飛ばされたぞ!?すぐに審判か安否を確認しに行きますッ!』

 そして、結果的にちなつは今の衝撃で驚き失神。
 俺は何とか準決勝を勝利した。

 ん?ずるいだって?いやいや、これが俺、ガリガリエロゲーマーの伊吹冬馬だぜ。
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