【完結】転生したのは俺だけじゃないらしい。〜同時に異世界転生した全く知らない4人組でこの世界を生き抜きます(ヒキニートは俺だけ)〜

カツラノエース

文字の大きさ
上 下
53 / 88
第2章2部【帝都ティルトル剣術祭編】

第51話【迫る出番〜今すぐ逃げたいんだが〜】

しおりを挟む

「お!おかえり2人とも!ちなつ!強かったわよ!」
「おかえりー!」

 俺たちが帰って来たことに気付いたみさととくるみは、笑顔でそう言う。
 
 あの後、俺の元に戻って来たちなつは、疲労こそありそうではあったが、元気な笑顔を見せた。
 そしてそのまま俺たちは階段を登ってみさとやスザクのいる席に戻った。今はここだ。

「いい試合だったじゃないか。相手のスリードって奴、中々実力もある冒険者だぜ?」
「それにしてもぉ、最後に短剣で攻撃したのは良かったわねぇ」
「きっとあそこで普通の剣のまま行ってたら負けてたやろな。」

「は?なんでだよ?」

 そこで俺はそうレザリオのセリフに問い掛けた。
 正直俺もあそこで咄嗟に短剣に持ち替えたのは見事だとは思ったが、だからと言って普通に剣のままで行っていても大丈夫だっただろ。
 要するに盛り上げる為のパフォーマンス。そんな風に俺は見ていた。

 だが、それに対してレザリオは、

「いや、冷静になって考えてみい。あの場面――相手は後ろに下がってちなつちゃんが追いかけるというあの状況で、普通に剣のまま行ってたとしたら多分相手は咄嗟の判断で前に出て来てた思うで。」
「ん?だからなんでだよ?」

 すると、そんなレザリオの説明を聞いても全然何を言っているのか分からない俺に、スザクが横から補足を加えてくれた。

 スザクの言う通りに行くとすると――スリードは超近距離戦闘を得意とする短剣使いに対して、ちなつは普通の剣、近距離戦闘型だ。
 だからスリードにとってこの試合は、「いかに上手く間合いを詰めることが出来るのか」という事が1番大切なこと。

 そしてそんなスリードに対してちなつが自ら間合いを詰めに行ったとしたら――もちろんそれは絶好のチャンス。
 たとえ多少ダメージを負っていたとしても、前に出て攻撃をすべきなのだ。

 だからレザリオは「あのままもし超近距離では無い剣のままだと相手に距離を詰められて負けていた」そう思っていたという事だそうだ。

「――だが、ちなつちゃんはそこで自らも超近距離戦闘の短剣に持ち替えた。だから相手もその咄嗟の行動に戸惑い、前に出ることも、持ち前の驚異的な反射神経を発揮することも出来なかった。レザリオお前の言いたい事はそう言う事だろ?」

 そんなスザクのセリフにブンブン首を縦に振って肯定するレザリオ。どうやらそれであっている様だった。

「いやぁ、やからワイ、今回のでちょっとちなつちゃんの見方変わったで。中々やるやんか」
「そ、そうか?ハ、ハハハハ……」

 いや、絶対そんなの考えてなくてただ単に短剣で行こうと思って行っただけだろお前!!だってそんなレザリオの考えを聞いてた時、「確かに」みたいな顔で聞いてたじゃねぇか!!

「はぁ……」

 俺はそんないかにもわざとらしい反応をするちなつに対してため息を吐くのだった。
 まぁどちらにせよ勝ったんだから良いんだがな。

 ---

 それから数分後。遂に1回戦の最終試合のアナウンスが競技場内に響き渡った。

『では、あと五分後に第4試合を行いますので、該当選手は次のアナウンスが入るまでにフィールドの前のエリアで準備を済ませておいてください。』

「お、次の試合でとりあえず第1回戦は最後か。」
「もうそんなに試合したか?時間経つんは速いなぁ」

 スザクとレザリオは右隣でそんな会話を交わす。
 いつもならそこに俺も混ざるだろう。しかし、今はそれどころでは無かった。

 だって次の試合――遂に俺の出番なんだぜ!?
 もう心臓バックハグ!今にも逃げ出したいくらいだ。

 (そういえば俺がエルフの奴と決闘をした時も相当緊張したっけ。)

 しかし、あの思い出も今なら霞むくらいだ。そのレベルで緊張している。
 例えるならそうだなぁ、学校の合唱コンクール前のあの緊張する雰囲気を何百倍にも増やした感じだろうか。
 どうだ?少しは俺の緊張具合が伝わっただろうか?

 ま、まぁでも?どうせ誰も俺なんかに期待なんてしてないだろうし?最悪あっさり負けても良い――よ、な?
 
 そう、俺が今緊張している1番の理由は、観客が多いからだとか、もちろんそういうのもあるが、今のところ俺と親しい人間(パーティーメンバーのみさと、ちなつや、仲のいいスザクなど)が全員見事に初戦を勝っているからなのだ。

 だってさ!もうこの流れ俺が絶対に勝たなきゃいけないみたいじゃん!やめてくれよそういうの!ただの元ヒキニートだぞこっちは!
 こういう時に限ってニートだからアピールを使う俺である。


 ――だが、先程も言った通りどうせ誰も俺が勝つなんて思っていないだろう。結局いつも周りの力に助けられてばかりで弱いし……

「っし。じゃあとりあえず頑張るだけ頑張ってくるわ」

 俺は静かに席から立ち上がると、なるべく期待されない様にとりあえず「頑張る」姿勢だけ見せて階段の方へ歩いて行く。
 よし……!これで万が一ボッコボコにされても大丈夫だろう……!

 しかし、階段を降りようとしたその時。後ろから声が聞こえた。

「とうまーッ!私たちの頼れるリーダーなんだから頑張りなさいよね!!」
「そうだぞ!私たちのリーダーだってところを見せてやれ!」
「頑張れとうまー!」

 っておい!!こんな時だけリーダーとかいいやがって!

「い、いや、お前ら――」

 俺は何とかここから期待を下げようと言い訳を並べようとする。しかしそれも、スザクやレザリオの声にかき消された。

「そうだぞ、相手は中々に柄の悪い奴だがいっちょぶちかましてやれ。」
「頑張るんやで!ワイ、めちゃくちゃ期待してるからな!」
「頑張ってねぇ」

 く、くぅ……お前らぁ……
 これまで誰からも期待されずに誰からも応援されなかった奴がここまでみんなに真正面からエールを送られて、期待されて。
 
 俺は軽くため息を吐くと――

「っしゃお前らッ!見とけよ俺の力!度肝抜く様な勝ち方してやるよッ!」

 笑顔で両手を腰に当て、そう叫んだ。

 ---

 それから数分後。
 【悲報】先程の威勢、完全に喪失。
 い、いや、だってよぉ……

 今はもう階段を降りてフィールド前のエリアで選んだ武器(いつも使ってる物と変わらない剣)を持ち、いつアナウンスが掛かっても良い状態ではあるんだが……

 ずっと鳴り止まぬ歓声が俺の緊張を更にエスカレートさせてとにかくもうやばい。
 今日見た試合中に、語り部である俺の独断と偏見でそこまで歓声の大きさは誇張していないが、やっぱりずっとうるさくて仕方ねぇんだよ。(だからウザったくてそこまで誇張しなかったってのもある)

「あぁ、やべぇなこれ。」

 みさとやちなつは良く耐えられたもんだ。マジで尊敬出来るぜ。
 それに――さっきスザクが俺の対戦相手は中々に柄の悪い奴って言ってたしよ……はぁ……

 
 するとそこで、遂に試合の始まりを告げるアナウンスが鳴り響いた。

『それではッ!只今より第4試合を開始致しますッ!両選手入場ッ!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...