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本編
しおりを挟む「打ち切り作品」という存在をみんなは知っているだろうか?
現代のネット上には様々な小説投稿サイトがある訳だが、そのサイト内で完結すること無く終わった作品、または無理やり終わらせられた作品の事を俺たちはそう呼ぶ。(エタる、なんて言う言い方もあるな)
仕事帰りの電車内。32歳サラリーマンの俺、加賀 義武は読んでいた作品か打ち切られた物だと今知った。
「はぁ……またかよ」
疲れ切ったサラリーマンで溢れかえる終電、俺は吊り革を片手で持ち、もう片手で持ったスマホを見ながらそう呟く。
俺は小説投稿サイトに投稿された小説を読むのが趣味で、今日もこうして帰り道に読んでいた訳だが……何故か最近、読み始めた作品がやたらと打ち切られている事が多い。
更に今回の作品は特に酷かった。
作品内容を簡単にせつめいすると、題名は『俺たちの物語~BLADE STORY~』で、ストーリーはファンタジー世界に生きる高校生くらいの主人公が、ヒロイン役の魔法使いと、イケメンナルシスト系の弓使いの3人で最強の冒険者を目指すという王道なファンタジー物。――なんだが、
打ち切られ方がなんとも適当でな、初依頼を終えてすぐの主人公たちの前に突如として現れたエリート冒険者パーティーが、最初の村の近くにあるゴブリンの洞窟を潰し、『こうして村の平和は保たれた。~完~』って感じなんだ。
いや、もうちょいなんかあったんじゃないのか?
しかもこの物語、世界観も大雑把で、色々とツッコミどころ満載なんだよな。(まぁ仕事帰りの俺には、それくらいのがちょうど良くて読んでたんだが)
「はぁ……これから面白くなっただろうに……」
『~次は○○~○○~』
「お、もう着いたのか」
でもまぁ、こんな事もあるだろ。
とりあえず今日は帰ってから軽く明日の通勤中に読む作品でも見つけてから寝ますかね。
こうして俺は電車から降り、いつも通りの暗く静かな帰路を歩き始めた。
のだが――今日の帰路はいつもよりも静かで、妙な不気味さがあった。
「……」
なんか嫌だな、、
俺の住んでいる町は結構な田舎で、夜になると頼りになる明かりは月明かりか人の居ないコンビニくらいなのだが、それが中々の雰囲気を醸し出している。
まぁだからと言ってそれが今日だけという訳でも無いんだけど……なんなんだよ全く。
「こういう時は明るい音楽でも聞くに限るよな!」
そこで俺は気分を変える為、カバンに手を入れるとスマホとイヤフォンを取り出そうとする。――が、その瞬間、
「死ね」
「って……グ、グハァッ……!?!?」
背中からへそにかけて、何か鋭く冷たい物が突き刺さった。
そして、すぐに強烈な痛みが全身を駆け巡る。
「や、やべぇ……」
地面に倒れ、痛む箇所に触れると手にはべっとりと大量の血液が。
そこで理解した、俺は何者かに刺されたのだ。
なんだよ……金が欲しかったのか……?それともただの快楽殺人……?
どちらにせよ分かる……もう俺は助からない……
「く、くそ……」
俺の32年の人生はこんなにも簡単に終わる物なのかよ……
色々な後悔と激しい痛みの中で、意識は闇へと沈んで行った。
♦♦♦♦♦
「――う、うぅ……」
それからどのくらいの時間が経ったのだろう。
気が付くと俺は周りが霧で良く見えない場所に倒れていた。
あれ……?俺、確か帰りの夜道に後ろから通り魔に刺されて……って事はここは病院?
――いや、病院だとしたらなんだよここは?そもそも何処なんだよここ。
ダメだ、意識がはっきりとして行く事に今俺の置かれている状況が意味分からなすぎて混乱しそうだ。
上半身だけ起こすと、片手で頭を押さえ、必死にこうなった原因を思い出そうとする――が、やはりここに至るまでの記憶が一切無い。
するとそんな時、目の前にひとりの女性が現れた。
「……ッ!?だ、誰……?」
「私は女神、貴方は先程死に、ここへ来たのですよ。」
「は、はぁ?」
正直何を言っているのか意味不明だった。
だっていきなり瞬間移動をしたのかよって感じに現れた女神を名乗る女性がそんなファンタジーちっくな事を言い出したんだぜ?
更に、そこから軽く相槌を挟みながら話を聞いていると、女神曰くこれから言う事をする事が出来れば生き返れるのだとか。
いや、余計に訳分からんのだが……
「――で、どうすれば生き返れるってんだ?」
だが、如何せん今は話せる人間が目の前の女神さんしかいない。
だからとりあえず言っている事を信じるとして、俺はそう質問をした。
すると女神は、
「はい、これから貴方にはこの世界に存在している「打ち切り作品」の世界に転移してもらいます。そして、その世界でその打ち切られた瞬間の「続き」を作る事が出来れば、生き返らせてあげましょう。」
「――って、はぁ?どういう事だよそれ。」
「今言ったそのままの意味なのですが」
それから俺は詳しく聞こうとしたのだが、どうやらネット上にある作品の世界は全て本当に存在しているらしく、最近先程俺が読んでいた『俺たちの物語~BLADE STORY~』の様に、途中で強制的に終わっている作品が増え過ぎて世界全体のバランスがおかしくなって来ているのだとか。
「――それで、そんな打ち切り作品の世界に俺が行き、その世界の続きを作る事で全体のバランスを整えろって事か?」
「はい。飲み込みの早い方で助かりました。」
「早い方って……俺以外にも居るのかよ、こういう事をしてるやつ。」
「いますよ。」
「いるのかよ……!?」
はぁ……まぁでも要するにそういう訳らしい。
正直この女神さん自体も胡散臭くて半信半疑って感じだが……
しゃあねぇ、これを断ったところでどうするんだって感じだしな。
「分かったよ、やってやる。」
「ありがとうございます」
こうして俺は女神の願いに了承をした。
「で、ちなみになんて名前の作品に俺は転移?させられるんだ?」
そこで俺はそう尋ねる。だってこれ、結構重要じゃないか?名前で大体どんな世界かとか予想つくしよ。
だが、そんな質問に女神は、
「すいません、それは言えません。」
「なんでだよ!?」
「それを知ると、世界のバランスが若干変わるんですよ、例えるなら、過去の自分と今の自分が会って起きる「タイムパラドックス」的な感覚を持ってくれるとありがたいです。」
「あぁあぁもうよく分からねぇけど。はいはい。分かりましたよ。」
「ありがとうございます、じゃあ、飛ばしますね。」
「って!?ちょ、ちょっと待て!まだ心の準備が――」
「いってらっしゃい」
「うぅ!?い、意識が……」
こうして俺の意識は再び闇へと沈んで行った。
♦♦♦♦♦
「――う、うぅ……ッ!?」
あれからどのくらい経ったのだろう、気が付くと今度は草の生い茂った草原に倒れていた。
「――うぅ……マジで来たってのか……?打ち切り作品の世界によ、」
そうだとすると、この世界で俺は打ち切りのその先を作るという使命がある。――んだが、
いや、よくよく考えれば無理じゃね?それ。
だってどんな終わり方をするか分からない世界で続きを作るとか……そんなのほぼほぼ運じゃん。
「――でも、だからって何もしない訳には行かないのかぁ」
ま、やれるとこまでやってみますか。
――となれば、まずは行動あるのみだ。俺は身体を起こして立ち上がると、周りを見渡す。
近くに村なんかがあると色々情報を集められるんだが――って、……ッ!?
「な、!?こ、この村は……」
だが、その瞬間、俺はある事に気が付いた。
なんと倒れていた場所の真横にある村――というか建物の塊は、どう考えても先程俺が電車内で読んでいた打ち切り作品『俺たちの物語~BLADE STORY~』に出てくる村「ファースト・タウン」そのものだったのだ。
いや、絶対そうだ。間違える訳がねぇ。
だって――
「看板に堂々とファーストタウンって書いてる村、あの作品でしかありえねぇだろ……」
それに、村と言って良いのか分からないくらいここから見た限りじゃ建物の配置もぐちゃぐちゃだしな。
村自体は偉く賑わってるみたいだが、家が主人公たちの住んでる1軒しかねぇぞ?それに、後ある建物は武器屋と冒険者ギルドのみだ。
いや、確かにその3軒以外の建物描写は無かったが、だからってこんなに酷くは無いだろ、作者の頭の中でも。
「――お、おほん。」
だがまぁ、何にしろこの世界なら何とかなるかもしれねぇぞ……!!なんせこの世界は――設定がガバガバだからなぁ!!
それから村――ファーストタウンに入った俺はまず、今この世界は何話辺りの場面なのかを確かめる為に、主人公たち一行を探す事にした。――んだが、
「って、もういたぜ」
なんせ建物が3軒しか無いんだ、人探しなんて一瞬で終わる。
「よぉし!!初のモンスター討伐も済んだ事だし、パァっと宴会だぁ!!」
すると、そこの見つけた主人公は両腕を上に伸ばし、そう叫ぶ。
そこで俺は大体今がいつ頃の話なのかを把握した。
あの「初のモンスター討伐」ってセリフを聞いた感じ、今は主人公たちが冒険者になってから初めての戦闘シーン(まぁこれが最後になるんだが)が終わって、これから冒険者ギルドで豪華料理を食い散らかすシーンだな?
って事は――今から完結(打ち切り)シーンまでの流れは、
豪華料理を食べる主人公たちの前にエリート冒険者パーティーが現れる
↓
エリート冒険者パーティー、街の近くにある洞窟に住むゴブリンたちを全滅させる宣言
↓
宣言通りゴブリンたち全滅
↓
「村の平和は保たれた」で終わり。
だからこれから俺がしないといけないのは、「エリート冒険者パーティーにどうにかしてゴブリンを倒させない」という事だな。
「――だとすると、まずはあれの準備だ。」
そうして大体の状況を把握した俺は早速武器屋へと歩き始めた。
大丈夫だ、策はある……ッ!!
「ごめんください――って、予想通り。やっぱり誰もいないな。」
それから俺は武器屋に入ると、中に誰も居ない事を確認すると、ニヤリと笑いながらそう呟く。
「よし、じゃあ店員も居ないし、このまま貰うかね。」
そうして俺は武器屋の中へと入って行くと、建物の中心にあるテーブルの上に置いてある回復のポーションと毒のポーションを1本ずつ手に取った。
ん?どうして店員が居ない事が分かってたのかって?
それはな?この作品の序盤の話なんだが、主人公たちが冒険者になる前、まずは武器が必要だからと武器屋へ行くシーンがあるんだよ。
それで、なんとそのシーンに店員の描写が一切無いんだ。
『武器屋に入り、誰もいなかったから各自剣、杖、弓をもらった』の一言で済ませてるしな。(きっと作者は、店員との会話シーンを書くのがめんどくさかったんだろう)
それで「もしかしたら……!」と思って来た訳だが、案の定誰も居なかったって訳だ。
「よし、じゃあ特性ドリンクを作りますかね」
それから武器屋を出た俺は、すぐ隣にあるベンチに座ると、まずは回復のポーションの蓋を開け、中から黄緑色の液体を地面に4分の1程捨てる。
そして次に、毒のポーションの蓋を開け、回復のポーションの瓶に捨てた分だけ毒のポーションを注ぎ込んだ。
それで――
「ほっほっほっ!」
蓋を閉めるとそれを上下に振って混ぜ合わせる。
すると、若干色が紫がかった回復のポーションが完成した。
そう……!今回俺がしようと思っている作戦を簡単に説明すると、まず、冒険者ギルドから出てきたエリート冒険者パーティーに接触し、この特性ドリンクを全員に飲んでもらう。
それで体調不良になったところで、代わりに主人公たちがゴブリンを倒しに行く……!!
これで物語は変わるって訳だ!
ん?なんだ?そんな簡単に怪しい飲み物をエリート冒険者パーティーの奴らが飲むのかって?
――いや、正直普通のやつなら飲まないだろうな。
だが、思い返してみてくれよ、この作品の雑さを。
この物語の登場人物は基本的に断らない、だから大丈夫だ。
「――お、」
そんな事を思いながらベンチに座り、冒険者ギルドの扉をずっと見ていると、そこで主人公たちとの会話が終わったエリート冒険者パーティーが出てきた。
よし……!じゃあ作戦開始だ……ッ!
そこで俺はすぐにベンチから立ち上がると、まずはエリート冒険者パーティーのところへ向かう。
そして――
「こ、こんにちは皆さん!!」
すると、その一言で俺に気付いた3人組は、全員こちらを向いてくる。
「ん?なんだお前。この超エリートの俺たちに用があるのか?」
「あ、あぁ!そうなんですよ~!」
そこで、その中でも1番リーダーっぽい男がそう言って来た。
あぁ、そういえばリーダーこんな感じのやつだったよな……エリートは自分の事超エリートとか言わないんだよな……それが許させるのはベジータぐらいだろうが。
それに、あと2人のエリート冒険者は作中セリフが無いから一向に喋る気配無いし……
――まぁでも、相手がこの調子なら多分上手くいくだろ。
「あ、あの!この回復のポーション!皆さんで回し飲みして欲しいです!!」
そこで俺は早速仕掛けに行く。
いや、でもよくよく考えたらやっぱり結構怪しいか……?
俺は心臓の鼓動を早めながらエリート冒険者リーダーの表情を伺う。
――――すると、
「お?なんだ?これくれるのか?ありがとう!是非とも回し飲みさせてもらうぜ」
「って、ちょ――」
なんとエリート冒険者リーダーは全く疑う様子も無く、俺から特性ドリンクを強引に取ると、すぐに回し飲みを始める。
「ぷはぁ!!あんまり美味くは無かったがありがとうな!よし、じゃあお前ら行くぞ」
そうして、まともなリアクションを取る前に3人はゴブリン退治に向かった。
な……こ、こんなに上手くいくもんなのか……?普通。
だがまぁ、恐らくこれで大丈夫だろう。まさかあんなにすぐ飲まれるなんて想像もしていなかったから少々戸惑ったが。
後は結果が現れるのを待つだけだ。
「――じゃあ、ゆっくりとベンチにでも座って待つとしますかねぇ」
俺は先程座っていたベンチに戻ると、空でも眺めながら気長に待ち始めた。
俺、ずっと仕事で忙しかったからたまにはこういう時間も良いもんだなぁ
♦♦♦♦♦
それから2、3時間が経過しただろうか。
段々と冒険者ギルド前の人達が騒がしくなってきた。
どうやら話を聞く限りでは、エリート冒険者パーティー一行がゴブリン退治に行っている途中に全員腹を壊し、そのまま帰って来たらしい。
「よし、何とか上手く行ったみたいだな」
そして、もうここまで来れば安心だ。
何故なら――
「――なんだなんだぁ!!さっきのあの生意気エリートが倒れたってぇ!?じゃあ俺たちがそのゴブリンをぶっ倒してやるよッ!!行くぞお前ら!!」
「えぇ!!」「ふっ、僕の華麗な弓さばきを見せてあげるよ」
この作品の主人公たちは異常なくらいに戦いが好きで、正義感に満ち溢れているんだ、そりゃ代わりに行かない訳無いよな。
「全く、俺読んだから分かるぜ、お前らさっき初めてのバトルしたばかりだろうが。よくやるぜ」
ファースト・タウンの出口の方向へ走って行く主人公3人をベンチに座り、眺めながら俺はそう呟く。
ま、とりあえずこれで一件落着って事だ。
するとそこで、目の前に女神が現れた。
「義武さん、お疲れ様です。」
「おう」
「これでもうこの世界は大丈夫です。貴方のお陰で世界の続きが作られました。」
「そうかいそうかい」
俺はとりあえず適当に受け流す。
だって、そんなことぶっちゃけどうでも良いからだ。
「――で、約束通り生き返らせてくれよ。」
「あぁ、その事なんですが――」
ん?なんだよ?まさか無しとかは無いだろうな?
すると、なんとそこで女神はとんでもない事を言いやがった。
「――貴方は予想以上にこの才能がある様ですので、他の打ち切り作品の世界も救ってもらいます。」
「は、はぁ!?!?んだよそれ!!」
約束と違うだろうがそれは!!
「あれ?嫌なのですか?様々な世界の英雄になれるのですよ?言うなれば、『打ち切り世界の英雄譚』と言ったところでしょうか」
「んだよそれ……」
「まぁとりあえず、今すぐ違う世界に飛んでもらいます。大丈夫、次の世界には貴方のサポートの方も居ますから」
「はぁ……分かったよ、やりゃあ良いんだろやりゃあ!!」
♦♦♦♦♦
こうして俺の英雄譚は始まる。
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