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第77話【いつか必ず】
しおりを挟む「お前が……ファブリス……ッ!!」
俺は武装した冒険者たちに囲まれる小太りの男、ファブリスにそう言う。
遂にこれまで起きた惨劇全ての主犯格、ファブリスと対峙したのだ。
「なぜ、俺の周りで惨劇を起こしてきたんだ」
怒りがフツフツと湧いてくるのを必死に堪えながらそう尋ねる。
「惨劇だって?さぁ?私には身に覚えが――」
「とぼけんじゃねぇっ!!俺はお前を何故か慕うやつらが先生、ファブリス様と事ある度に言っているのを知ってんた!!逃げられると思うなッ!!」
なんだこいつ……?俺をバカにしてる様な口調で話しやがって。
「はは、もちろん冗談じゃないか。ハヤトくんのお友達が私の大切な仲間を捕まえて私の情報を吐かせようとしていた事も全部知っているよ。この子たちの視界は全て私に共有されているからね。」
周りの武装する冒険者たちを見渡しながらそう言うファブリス。――って、まさかウェイリスさんが襲ってきた冒険者を捕らえた時の事を言ってるのか……?それに全て視界が共有されているって……
「視界が共有……?――よく分かんねぇが、俺がお前に聞きたい事はただひとつだ。なんで、なんで俺たちにこんな事をする……?」
「はは、面白い事を聞くんだねハヤトくんは。そんなの、君自体がもう大体分かってるんじゃないのかい?」
「……ッ!!、」
という事はやっぱり――
「デスティニー、レコードか。」
「大正解。未来の出来事が記される夢の様な本だよ。私はそれが欲しいんだ。それさえあればこの世界は私の思うがままに出来る。」
……デスティニーレコードはそんなに良いもんじゃねぇ。それに、ファブリスが手に入れたところで読めないだろうし、「世界を思うがままに出来る」ってのも気に入らねぇ。――――が、気に入らねぇが、仮に俺がこのデスティニーレコードをファブリスに渡せば、それでこの惨劇の連鎖が終わるのなら、渡してしまいたい。
それが俺の正直な気持ちだった。
もちろん、復讐したい気持ちなんて山ほどある。大切な仲間がこいつのせいで苦しみながら死んでいく光景を何度も見てきたんだ。そんなの当たり前に決まってる。
――だが、それでも、もう俺は人間同士で血を流し合うなんて、絶対にしたくないんだ。
だから、そんなファブリスのセリフに呆れ、更に怒りを覚えるも俺は冷静にこう言った。
「思うがままに出来るかは別にして、俺がお前にデスティニーレコードを渡せばもう関わらないでくれるか……?」
それはきっと、怒りや悲しみを超える切実な祈りだったのだろう。
――しかし、そんな俺にファブリスはヤニで黄ばんだ歯を剥き出しにして不気味に笑いながら、
「もう関わらないだって?ふはは、君は本当に面白い。――そんな訳ないじゃないか。もうデスティニーレコードの存在を知っているハヤト君や、隣にいるマーニ君。そしてその仲間たち。君たちがいたらもし私がデスティニーレコードを手に入れてもそこからの「世界を思い通りにする」という野望を邪魔されるかもしれないじゃないか。もちろん、死んでもらうよ。全員にね。」
「……ッ!?」
なんで……なんでだよ……ッ!!
「何故だ……!?――……分かった、ならこれならどうだ……?俺たちは今後一切お前とは接触しない。もちろんデスティニーレコードだって渡す。そしてこの一連の出来事自体も忘れる。それなら――」
「はぁ……本当に物分りの悪い子だね。だから、どんな条件を出されても君たちが死ぬ事は決まっている。そもそも君たちを生かしたとしても私になにかメリットがあるか?ないだろう。」
「クッ……」
……そうか、これだけそちらに条件を寄せればもしかしたらこのまま終われるかもしれない。とも思っていたが――少しでもお前に期待をした俺がバカだった。
お前はこの一連の惨劇を私情で起こした主犯格。人の心も無い極悪人だったな。
「……分かった。なら、力でねじ伏せるだけだ。二度と俺たちに近付けない様、分からせてやる。」
俺は背中から剣を抜くと、そう言い放つ。
「ほう、どこまでやれるか楽しみだね。――君たち、やっちゃって。」
しかし、対してファブリスは周りを囲んでいた武装する冒険者たちにそう指示を出す。
すると冒険者たちはいっせいに各自剣や槍や杖を俺たちに構えた。
そしてやはり全員、目には力が宿っていない。
先程の「視界を共有していた」というセリフもそうだが……この冒険者たちを操っているのか?
でもそんな魔法存在しないはず……ダメだ、今考える時間は無い。
「ちょ、ちょっとハヤト……!!これマズイだろう……!!」
するとそこで横からマーニが俺だけに聞こえる声量でそう言ってくる。
表情からは相当焦っているのが良く伝わってきた。
「分かってる。だからマーニ。俺の身体に触れてくれ。」
「……え?なんで――」
「時間逆行だ。」
「……ッ!!」
だから、俺もそう小さな声でマーニに返した。
「ん?なにを話しているんだい?」
「なんでもねぇよ。」
そう、俺だってこの状況、マズイと思っている。
というか、さっき「力でねじ伏せる」なんてセリフを吐きはしたが本当はそんな事出来るなんて微塵も思っていない。
まずそもそも、こんなに人数差があって勝てる方がおかしいのだ。
だから今の「力でねじ伏せる」はこれから何度も時間逆行をし、いつかはお前を倒すという自分へ覚悟をさせる言葉だった。
するとその瞬間、俺の背中を触るマーニの手のひらから魔力が身体へ流れ込んでくるのが分かり、途端に身体から金色のオーラが溢れだしてくる。
「ん?なんだいそのオーラは。」
ファブリスはそう聞いてくるが――俺はそれを無視するとゆっくりとこちらへ差を詰めてくる冒険者たちの間に見えるファブリスに向けて剣を向け、こう叫んだ。
「俺は絶対、てめぇをぶっ飛ばすッ!!」
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