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第76話【黒幕の居場所】
しおりを挟む「あぁ、知ってるわよ。先生の事でしょう?」
「「……ッ!?」」
俺の「母さんって、ファブリスという名前を聞いたり、それがどんな人かとかって知ってたりするか?」という問いに対してした母さんのそのセリフがリビングで響いた瞬間、俺とマーニはあまりの衝撃になにも言えなくなってしまった。
ちょ、ちょっと待ってくれ……今、言ったよな?「先生」と。
という事はまさか――母さんも関係者なのか……?
その瞬間、今まで周りや自分に起きた惨劇が脳内で一気にフラッシュバックすると共に、激しい怒りが湧いてきた。
そしてその流れのまま俺は相手が母親にも関わらず胸ぐらを掴む勢いで立ち上がろうとするが――
「……ッ!」
その寸前でマーニに服の裾を引っ張られた。
見るとマーニは静かに首を横に振る。
……そうだ。つい感情的になってしまったが、まだ確定だと言う訳でも無ければ、万が一本当にファブリスと関係していたとしてもこれまでの惨劇に母さんが関わっていなかった可能性だってある。
母さんが昔から誰かを貶めたり、傷付けたりしているところを俺は見た事が無い。そんな母さんが誰かを殺す様な事に加担するなんて……とても考えられなかった。
だから俺はゆっくりと、冷静に問う。
「そ、その先生とは――どんな付き合いなんだ……?」
頬から冷や汗が流れるのがよく分かる。自分の中でも願っていたのだ。どうか敵にならないでくれと。恨んでしまう存在にはならないでくれと。
しかし、次の母親の解答は実に拍子抜けする物だった。
「付き合い?付き合いって言ってもファブリスさんはお医者様だから会うのも私が病院に行く時くらいだしね。」
「私、最近腰が悪いのよね」苦笑い混じりに母親はそう付け加える。――って、……へ?
「びょ、病院の先生、なのか……?」
「ファブリスさんでしょ?そうよ?」
その後母親に詳しい説明を求めると、どうやらファブリスさんとは、最近フレイラに出来た小さな病院に居るひとりの医者らしかった。
「知らなかったのかしら?」
「あ、あぁ。俺たちは怪我をしても大体は治癒のポーションを頼るからな。」
「貴方たち冒険者は良いわよね、冒険者だからポーション関係もお安く買えるんでしょう?私も冒険者、目指してみようかしら。」
だが、普段なら絶対につっこんでいるそんな馬鹿げたセリフにも俺はつっこむ余裕が無いほどに頭の中が真っ白になっていた。
ちょっと待てよ……?という事は、ファブリスはこの一連の惨劇の主犯格であり、この町の医者でもある。という事か……?
ダメだ、意味が分からない……
しかし、それでもそれが有益な情報である事は間違い無かった。
なぜなら、その人物がどこに居るのかがこれで分かったから。
おそらく、その病院に行けばファブリスに会うことが出来るだろう。
ちゃんと医者をしているのなら、こんな昼間に病院に居ないなんて休みじゃない限りはおかしいからな。
その後、俺は母親から病院の位置を教えてもらった後、マーニと共に実家を後にした。
♦♦♦♦♦
「どうする……?マーニ。」
外に出ると俺はすぐにマーニにそう聞く。
「どうするもなにも、未来を変えたいのなら行くしかないんじゃないか?これまで何度も、過去へ戻ったのはなんの為だ。」
「未来を変える為、みんなが幸せで笑っていられる世界に辿り着く為だ」
「なら、道はもう分かっているんじゃないのか?」
「そう、だよな。」
そうだ、これまでたくさんの時間を惨劇回避の為に使って来た。その主犯格の居場所が分かったんだ、行かないという選択肢なんて初めから無かった。
「よし、行こう。」
「あぁ」
こうして俺は覚悟を決めると、もしもの戦闘に備えて剣を取りに家へ戻った。
それから剣を背負うと俺とマーニは早速教えてもらった場所へ向かう。(マーニについてきてもらう理由はもしなにか危険が迫った時にすぐ過去へ飛ばしてもらう為だ。)
そして言われた場所に着くと、そこは至って普通の建物だった。
冒険者ギルドの様に2階は無く、大きさ自体は俺の家ともあまり変わらない。
確かにこの小さな町にとってはちょうどいいくらいの大きさだな。
「よし、じゃあ入るか。」
「あぁ、小生は後ろからついて行くぞ。」
そうして俺は病院の扉に手をかけると、それを引いて中に入る。
するとなんとそこには――
「ふふ、やはり来たか。待っていたよ。ハヤトくん。」
大人数の武装した冒険者に囲まれる小太りの男が立っていた。
そしてヤニで黄ばんだ歯を剥き出しにして不気味に笑いながらそう「まるで事前に俺がここに来る事を知っていた」かの様なセリフを吐く。
ま、まさかこいつが――ファブリス……!!
「お前がファブリスか?」
心臓がバクバクと早く脈打つのを感じながら、俺はそう目の前に立つ小太りの男に問う。
すると男は、再び不気味に笑いこう言った。
「あぁその通り。私はファブリス。――ファブリス・イクイノックスさ。」
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