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第36話【運命に逆らう男】
しおりを挟む「オ、オウカ……」
玉座の間の扉から入って来た姉の姿を見て、トウカは青ざめる。
よりにもよって最悪のタイミングだった。
「トウカさんがもう一人?」
「ふ、双子か?」
ノアとアキレアは、突如現れた王国騎士がトウカとよく似ていることに驚きを見せていた。
オウカは怒りとも、驚きともつかない感情でトウカに迫る。
「探索班の貴様が何故ここにいる。既に任務を終え、地上にいるはずだろう」
「え、えっとそれは……」
トウカは返答に困った。
捕らえられていたと言えば、何故牢獄から出てこの場にいると言うのか。
魔族と魔物、そしてトウカの三人がこの場に伴にいる理由が説明できない。
「まあいい。その件については後回しだ。地上に戻ってからたっぷり聞かせてもらうぞ」
強引にトウカの肩を掴んで押しのけ、そしてノアとアキレアを睨みつける。
「貴様が魔王……と言う訳ではなさそうだな。貴様の主君はどこにいる」
「……答えると思いますか?」
突如現れたトウカに瓜二つの王国騎士に二人は警戒感を強める。
しかも、ここまで来たと言う事は迷宮を突破し、魔物たちを蹴散らして来たと言う事だ。
身に纏う殺気も、これまで見て来た人間を一際上回る実力者だと悟らせる。
「では、質問を変えよう」
空っぽの玉座を一瞥し、オウカはその名前を問う。
「“マリー”とは誰のことだ」
それは、彼らにとって最も秘さねばならない名前。
トウカの姉妹であっても、王国騎士にそれを知られることはあってはならない。
「殺しなさい、アキレア!」
「言われるまでもねえ!」
「待って、二人とも!」
トウカが制止をかけるが、その言葉を聞く訳にはいかない。
アキレアが地を駆け、オウカ目がけて一直線に突撃をかける。
「なるほどその反応――」
オウカが何事かを呟く。
その直後、アキレアの爪がオウカの体を引き裂いた。
「消えた!?」
だが、目の前にいたオウカの姿が掻き消える。
アキレアの手には一切の手ごたえがない。
「――どうやら、貴様らにとって最も重要な人物の名らしいな」
柱の影からオウカが姿を現す。
移動した様子は見えなかった。一瞬で彼女はそこに位置を変えていたのだ。
「ちっ……影よ、戒めとなりなさい!」
ノアが魔力を柱の影へ撃ち込む。
その影の中から触手が伸び、オウカの胴を捕らえる。
「術式展開――――」
しかし、触手がその手を閉じたとき、そこにオウカはいなかった。
ただ彼女の姿だけがそこに残っており、触手がその体を握りつぶそうとして体を通過した。
「――名前からして魔王本人の名とは考えにくい。となればその妻の名前。あるいは……」
「なっ!?」
続いてノアの後ろにオウカが現れる。
「娘の名前か」
「くっ!」
「図星のようだな」
オウカが剣を振り上げる。ノアは避けられる体勢ではない。
「うおおおお!」
振り下ろされるオウカの剣。そこへアキレアが割って入り、両腕を組んで彼女の剣を受け止める。
「ちっ……」
深々と刃が突き刺さり、血が噴き出す。
オウカは身を翻し、距離を一度とる。
「ノア、俺ごとやれ!」
「わかりました!」
「フッ……魔物と心中などまっぴらだ」
「な――」
アキレアがオウカ目がけて突撃するが、その体を突き抜けて地に倒れる。
魔法を放とうとしていたノアもその光景に動きが止まる。
「馬鹿な……臭いまで一緒に消えやがる」
「一体どこへ……上です、アキレア!」
ノアが天を見上げる。
そこには剣を地に向けるオウカが今まさに降り立とうとしている姿があった。
「しまっ――!?」
「まず、一人」
「ぐおおぁぁぁ!?」
アキレアの背に剣を突き立てる。
だが急所が外れたのか、アキレアは貫かれた痛みで悶えるだけだ。
「とどめは後で刺すとしよう。今はお前だ」
そして着地と同時に飛び退いて剣を引き抜き、次の標的をノアに切り替える。
「おのれ!」
オウカが一直線に駆ける。
ノアもその手から魔力の塊を放ち、次々とその属性を変質させてゆく。
「魔力よ、炎と成れ、冷気と成れ、雷と成れ、風の刃と成れ」
「術式展開――――」
走るオウカの姿が揺らぐ。
次々にそれらは彼女から離れ、オウカの姿を形作る。
「残像、いや分身か!?」
「私をとらえることなどできん!」
ノアが次々と魔法を放つ。
それらはオウカの分身一人一人に飛んでゆく。
「所詮は分身。本体はどれか一人です!」
「甘い!」
先頭を行くオウカが炎に包まれる――だが、その炎は空を焼く。
右方から迫るオウカの足元が氷結する――だが、その足が止まることはない。
左方から迫るオウカに雷撃が飛ぶ――だが、それは貫通する。
最後の一人に刃が迫る――しかし、その首は飛ばない。
「馬鹿な!?」
ノアの表情が驚愕に染まる。
だが、そんな彼にオウカの剣は襲い掛かった。
「――舞い散れ」
「魔力よ、我が身を守る壁と成れ!」
オウカの一撃から身を守るため、ノアは魔力で壁を展開する。
「桜華絢爛」
一人目のオウカの剣が壁を突き、続いて二人目、三人目が剣を薙ぐ。
三人目の攻撃で壁が破壊され、無防備となったノアへ四人目の剣が飛ぶ。
「ぐ……あっ!」
腹部への一撃。致命傷は避けたがそれでもしばらく動けなくなるほどの深手だった。
「馬鹿な……全ての分身が攻撃を……」
「全てが虚像。そして実体……それが桜華絢爛だ」
オウカは倒れ伏すノアに剣の切っ先を向ける。
「では改めて問おう。魔王はどこにいる」
「……貴方に答える義務はありません」
「そうか。では死ね」
その剣を振り上げる。
そして、ノアの首を落とそうとしたその時だった。
「待って、オウカ!」
オウカの手が止まる。
そして、とどめを刺すのを止めたトウカへと視線を向けた。
「何のつもりだ。何故この魔族をかばう」
「だって……もう、戦う必要なんてないんだから」
オウカが眉を顰める。
「どういう意味だ?」
「よせ……言うな」
「トウカさん……それは」
ノアとアキレアにとっては隠し通したい秘密だが、マリーを思う彼らを死なせたくないトウカにはそれをすることはできなかった。
「だって、魔王はもう死んでいるんだもの」
「……それは、本当の話なのか?」
オウカが剣を引く。倒れたノアをその場に放置して剣を持ったままトウカへと歩いてゆく。
「うん。それに魔王だけじゃない。王妃も病気で随分前に亡くなっていたらしいの」
「……嘘は、言っていないようだな」
「だからもう戦う必要なんてないの。この戦いは終わったんだよ、オウカ」
すぐ目の前でオウカが立ち止まる。
その眼はトウカをまっすぐに見つめていた。
「マリーって言うのも、オウカの推測通りだよ。でも、自分が魔王の娘と言う事も知らない、どこにでもいる普通の女の子なの。だから――」
「――だから、命を助けてあげよう。とでも言いたいのか?」
冷たさを覚える言葉だった。
そこでトウカはようやく気付く。オウカの目が、かつてない程に失望に染まったものであったことに。
「貴様、本気で言っているのか?」
「え……?」
オウカが何を言っているのか、トウカにはわからなかった。
ただ彼女は、もう誰も死ななくていい。無駄に血を流す必要など無くなった。そう言ったつもりだった。
「わからないのなら教えてやる。この戦いは確かに私たちの勝利のようだ。だが、それをどうやって証明する気だ?」
「それは……」
「人々は確証を求める。その為に最も必要なのは魔王を倒したと言う証拠だ。言葉のみで伝えられた情報に何の信憑性もない」
「で、でもそれは……」
「現に、魔王の遺体はない。その妻もだ。そこの魔族たちの反応から見てもお前の言葉は真実のようだ。だが人々にこれを信じさせるのは容易ではないぞ」
オウカの言う事は正論だった。
王国騎士として、人類の代表としてこの場へ来た以上、彼女は己の戦果を示す証を持ち帰る必要があった。
その首級が存在しないとなれば、騎士として報奨を得ることも、国として人々に平和な世の中が来たことを示すこともできない。
「まあ、だが簡単な話だ。幸いまだその証になり得るものは残っている。魔王の娘と言う、な」
「まさか……マリーを!?」
「生かしておけば禍根を残し、いつの日か人の世に災いを起こすだろう。そんな危険な存在を放置しておけるか」
「待って、あの子はまだ何もわからない子供なのに!」
「……随分とかばうのだな、その魔王の娘とやらを。ところで貴様――」
射抜くような視線に、一瞬だけトウカの言葉が詰まった。
そして、オウカの一言に彼女は凍り付く。
「何故そんなに敵の内情に詳しい」
「え……?」
それは、肉親に向ける眼ではなかった。
憎悪、憤怒、侮蔑……あらゆる負の感情が込められたおぞましい視線に、トウカは寒気が走る。
そしてトウカは気づく。いつの間にか魔族の側に立って話をしていたことに。
「勘違いであればいいと思っていたよ……」
「え――?」
一瞬、オウカの剣が動いたのを感じたトウカは反射的に飛び退いた。
次の瞬間、刃が目の前を通過する。その軌道は、明らかに彼女の首を狙ったものだった。
「オウカ、いきなり何を!?」
「――黙れ、逆賊め」
刃物で刺すような、冷たい言葉だった。
トウカに対して、本気で殺意が向けられていた。
「剣を捨て、名を捨て……挙句に魔族と結ぶとは、堕ちる所まで堕ちたか!」
「待ってオウカ。違う!」
何の躊躇もなく実の妹に対して刃を向けるオウカ。もはや聞く耳を持つ状態ではなかった。
「覚悟しろ、貴様をこの場で始末する!」
オウカの中で、最後まで妹と自分を繋いでいた何かが切れた。
この戦いが終われば、もうトウカのことは忘れてしまおうと思っていた。
不出来でも、ただ人並みに幸せを掴んで生きていてくれればそれでよかった。
「やめてオウカ。話を聞いて!」
「黙れ、フロスファミリアの恥さらしが!」
だが、それはあまりにも残酷な仕打ちだった。
フロスファミリアの者として参戦しながら魔族たちと通じ、魔王の娘をかばう。それが国に対する反逆でなくて何だというのか。
名家フロスファミリアの名を貶めるだけでなく、一族全てに対しての裏切り行為。
この戦で散っていった一族の者たちも多くいる。それらに対してどう顔向けできようか。
今、この場で恥を雪ぐ。それが、オウカができる唯一の事だった。
「家を出たお前のことを、父上がどれだけ心配したと思っている。どれだけ母上が心を痛めたと思っている。その挙句がこの仕打ちか!」
「違う……家を出たのは、争いを止めたかったから」
「全てを私に押し付けて逃げただけだろう!」
感情を叩き付けるようにオウカは剣を振るう。それは二人が学んで来たものとはかけ離れたあまりにも乱暴な剣技。そんな彼女らしからぬ剣を必死にトウカは避け続ける。
「止めたいのなら剣を抜け。抵抗してみろ!」
「できない。私はオウカと戦えない!」
今、剣に手をかければそれだけであの記憶が蘇る。
オウカの未来を奪いかけてしまったという罪悪感にとらわれる。
「私は、オウカを傷つけたくない!」
「……まだ気づかないのか、この愚か者が!」
剣を振った勢いのままオウカが突進をかけ、トウカを肩ではじき倒す。
「きゃあっ!」
倒されたトウカは床を転がる。
そして起き上がり、顔をあげた彼女の眼前にオウカの剣が付きつけられた。
その切っ先は、怒りで打ち震えていた。
「お前が良かれと思ってやった行動で、私は……」
「え……?」
「『傷つけたくない』だと? その思いで一番傷ついたのはこの私自身だ!」
玉座の間の扉から入って来た姉の姿を見て、トウカは青ざめる。
よりにもよって最悪のタイミングだった。
「トウカさんがもう一人?」
「ふ、双子か?」
ノアとアキレアは、突如現れた王国騎士がトウカとよく似ていることに驚きを見せていた。
オウカは怒りとも、驚きともつかない感情でトウカに迫る。
「探索班の貴様が何故ここにいる。既に任務を終え、地上にいるはずだろう」
「え、えっとそれは……」
トウカは返答に困った。
捕らえられていたと言えば、何故牢獄から出てこの場にいると言うのか。
魔族と魔物、そしてトウカの三人がこの場に伴にいる理由が説明できない。
「まあいい。その件については後回しだ。地上に戻ってからたっぷり聞かせてもらうぞ」
強引にトウカの肩を掴んで押しのけ、そしてノアとアキレアを睨みつける。
「貴様が魔王……と言う訳ではなさそうだな。貴様の主君はどこにいる」
「……答えると思いますか?」
突如現れたトウカに瓜二つの王国騎士に二人は警戒感を強める。
しかも、ここまで来たと言う事は迷宮を突破し、魔物たちを蹴散らして来たと言う事だ。
身に纏う殺気も、これまで見て来た人間を一際上回る実力者だと悟らせる。
「では、質問を変えよう」
空っぽの玉座を一瞥し、オウカはその名前を問う。
「“マリー”とは誰のことだ」
それは、彼らにとって最も秘さねばならない名前。
トウカの姉妹であっても、王国騎士にそれを知られることはあってはならない。
「殺しなさい、アキレア!」
「言われるまでもねえ!」
「待って、二人とも!」
トウカが制止をかけるが、その言葉を聞く訳にはいかない。
アキレアが地を駆け、オウカ目がけて一直線に突撃をかける。
「なるほどその反応――」
オウカが何事かを呟く。
その直後、アキレアの爪がオウカの体を引き裂いた。
「消えた!?」
だが、目の前にいたオウカの姿が掻き消える。
アキレアの手には一切の手ごたえがない。
「――どうやら、貴様らにとって最も重要な人物の名らしいな」
柱の影からオウカが姿を現す。
移動した様子は見えなかった。一瞬で彼女はそこに位置を変えていたのだ。
「ちっ……影よ、戒めとなりなさい!」
ノアが魔力を柱の影へ撃ち込む。
その影の中から触手が伸び、オウカの胴を捕らえる。
「術式展開――――」
しかし、触手がその手を閉じたとき、そこにオウカはいなかった。
ただ彼女の姿だけがそこに残っており、触手がその体を握りつぶそうとして体を通過した。
「――名前からして魔王本人の名とは考えにくい。となればその妻の名前。あるいは……」
「なっ!?」
続いてノアの後ろにオウカが現れる。
「娘の名前か」
「くっ!」
「図星のようだな」
オウカが剣を振り上げる。ノアは避けられる体勢ではない。
「うおおおお!」
振り下ろされるオウカの剣。そこへアキレアが割って入り、両腕を組んで彼女の剣を受け止める。
「ちっ……」
深々と刃が突き刺さり、血が噴き出す。
オウカは身を翻し、距離を一度とる。
「ノア、俺ごとやれ!」
「わかりました!」
「フッ……魔物と心中などまっぴらだ」
「な――」
アキレアがオウカ目がけて突撃するが、その体を突き抜けて地に倒れる。
魔法を放とうとしていたノアもその光景に動きが止まる。
「馬鹿な……臭いまで一緒に消えやがる」
「一体どこへ……上です、アキレア!」
ノアが天を見上げる。
そこには剣を地に向けるオウカが今まさに降り立とうとしている姿があった。
「しまっ――!?」
「まず、一人」
「ぐおおぁぁぁ!?」
アキレアの背に剣を突き立てる。
だが急所が外れたのか、アキレアは貫かれた痛みで悶えるだけだ。
「とどめは後で刺すとしよう。今はお前だ」
そして着地と同時に飛び退いて剣を引き抜き、次の標的をノアに切り替える。
「おのれ!」
オウカが一直線に駆ける。
ノアもその手から魔力の塊を放ち、次々とその属性を変質させてゆく。
「魔力よ、炎と成れ、冷気と成れ、雷と成れ、風の刃と成れ」
「術式展開――――」
走るオウカの姿が揺らぐ。
次々にそれらは彼女から離れ、オウカの姿を形作る。
「残像、いや分身か!?」
「私をとらえることなどできん!」
ノアが次々と魔法を放つ。
それらはオウカの分身一人一人に飛んでゆく。
「所詮は分身。本体はどれか一人です!」
「甘い!」
先頭を行くオウカが炎に包まれる――だが、その炎は空を焼く。
右方から迫るオウカの足元が氷結する――だが、その足が止まることはない。
左方から迫るオウカに雷撃が飛ぶ――だが、それは貫通する。
最後の一人に刃が迫る――しかし、その首は飛ばない。
「馬鹿な!?」
ノアの表情が驚愕に染まる。
だが、そんな彼にオウカの剣は襲い掛かった。
「――舞い散れ」
「魔力よ、我が身を守る壁と成れ!」
オウカの一撃から身を守るため、ノアは魔力で壁を展開する。
「桜華絢爛」
一人目のオウカの剣が壁を突き、続いて二人目、三人目が剣を薙ぐ。
三人目の攻撃で壁が破壊され、無防備となったノアへ四人目の剣が飛ぶ。
「ぐ……あっ!」
腹部への一撃。致命傷は避けたがそれでもしばらく動けなくなるほどの深手だった。
「馬鹿な……全ての分身が攻撃を……」
「全てが虚像。そして実体……それが桜華絢爛だ」
オウカは倒れ伏すノアに剣の切っ先を向ける。
「では改めて問おう。魔王はどこにいる」
「……貴方に答える義務はありません」
「そうか。では死ね」
その剣を振り上げる。
そして、ノアの首を落とそうとしたその時だった。
「待って、オウカ!」
オウカの手が止まる。
そして、とどめを刺すのを止めたトウカへと視線を向けた。
「何のつもりだ。何故この魔族をかばう」
「だって……もう、戦う必要なんてないんだから」
オウカが眉を顰める。
「どういう意味だ?」
「よせ……言うな」
「トウカさん……それは」
ノアとアキレアにとっては隠し通したい秘密だが、マリーを思う彼らを死なせたくないトウカにはそれをすることはできなかった。
「だって、魔王はもう死んでいるんだもの」
「……それは、本当の話なのか?」
オウカが剣を引く。倒れたノアをその場に放置して剣を持ったままトウカへと歩いてゆく。
「うん。それに魔王だけじゃない。王妃も病気で随分前に亡くなっていたらしいの」
「……嘘は、言っていないようだな」
「だからもう戦う必要なんてないの。この戦いは終わったんだよ、オウカ」
すぐ目の前でオウカが立ち止まる。
その眼はトウカをまっすぐに見つめていた。
「マリーって言うのも、オウカの推測通りだよ。でも、自分が魔王の娘と言う事も知らない、どこにでもいる普通の女の子なの。だから――」
「――だから、命を助けてあげよう。とでも言いたいのか?」
冷たさを覚える言葉だった。
そこでトウカはようやく気付く。オウカの目が、かつてない程に失望に染まったものであったことに。
「貴様、本気で言っているのか?」
「え……?」
オウカが何を言っているのか、トウカにはわからなかった。
ただ彼女は、もう誰も死ななくていい。無駄に血を流す必要など無くなった。そう言ったつもりだった。
「わからないのなら教えてやる。この戦いは確かに私たちの勝利のようだ。だが、それをどうやって証明する気だ?」
「それは……」
「人々は確証を求める。その為に最も必要なのは魔王を倒したと言う証拠だ。言葉のみで伝えられた情報に何の信憑性もない」
「で、でもそれは……」
「現に、魔王の遺体はない。その妻もだ。そこの魔族たちの反応から見てもお前の言葉は真実のようだ。だが人々にこれを信じさせるのは容易ではないぞ」
オウカの言う事は正論だった。
王国騎士として、人類の代表としてこの場へ来た以上、彼女は己の戦果を示す証を持ち帰る必要があった。
その首級が存在しないとなれば、騎士として報奨を得ることも、国として人々に平和な世の中が来たことを示すこともできない。
「まあ、だが簡単な話だ。幸いまだその証になり得るものは残っている。魔王の娘と言う、な」
「まさか……マリーを!?」
「生かしておけば禍根を残し、いつの日か人の世に災いを起こすだろう。そんな危険な存在を放置しておけるか」
「待って、あの子はまだ何もわからない子供なのに!」
「……随分とかばうのだな、その魔王の娘とやらを。ところで貴様――」
射抜くような視線に、一瞬だけトウカの言葉が詰まった。
そして、オウカの一言に彼女は凍り付く。
「何故そんなに敵の内情に詳しい」
「え……?」
それは、肉親に向ける眼ではなかった。
憎悪、憤怒、侮蔑……あらゆる負の感情が込められたおぞましい視線に、トウカは寒気が走る。
そしてトウカは気づく。いつの間にか魔族の側に立って話をしていたことに。
「勘違いであればいいと思っていたよ……」
「え――?」
一瞬、オウカの剣が動いたのを感じたトウカは反射的に飛び退いた。
次の瞬間、刃が目の前を通過する。その軌道は、明らかに彼女の首を狙ったものだった。
「オウカ、いきなり何を!?」
「――黙れ、逆賊め」
刃物で刺すような、冷たい言葉だった。
トウカに対して、本気で殺意が向けられていた。
「剣を捨て、名を捨て……挙句に魔族と結ぶとは、堕ちる所まで堕ちたか!」
「待ってオウカ。違う!」
何の躊躇もなく実の妹に対して刃を向けるオウカ。もはや聞く耳を持つ状態ではなかった。
「覚悟しろ、貴様をこの場で始末する!」
オウカの中で、最後まで妹と自分を繋いでいた何かが切れた。
この戦いが終われば、もうトウカのことは忘れてしまおうと思っていた。
不出来でも、ただ人並みに幸せを掴んで生きていてくれればそれでよかった。
「やめてオウカ。話を聞いて!」
「黙れ、フロスファミリアの恥さらしが!」
だが、それはあまりにも残酷な仕打ちだった。
フロスファミリアの者として参戦しながら魔族たちと通じ、魔王の娘をかばう。それが国に対する反逆でなくて何だというのか。
名家フロスファミリアの名を貶めるだけでなく、一族全てに対しての裏切り行為。
この戦で散っていった一族の者たちも多くいる。それらに対してどう顔向けできようか。
今、この場で恥を雪ぐ。それが、オウカができる唯一の事だった。
「家を出たお前のことを、父上がどれだけ心配したと思っている。どれだけ母上が心を痛めたと思っている。その挙句がこの仕打ちか!」
「違う……家を出たのは、争いを止めたかったから」
「全てを私に押し付けて逃げただけだろう!」
感情を叩き付けるようにオウカは剣を振るう。それは二人が学んで来たものとはかけ離れたあまりにも乱暴な剣技。そんな彼女らしからぬ剣を必死にトウカは避け続ける。
「止めたいのなら剣を抜け。抵抗してみろ!」
「できない。私はオウカと戦えない!」
今、剣に手をかければそれだけであの記憶が蘇る。
オウカの未来を奪いかけてしまったという罪悪感にとらわれる。
「私は、オウカを傷つけたくない!」
「……まだ気づかないのか、この愚か者が!」
剣を振った勢いのままオウカが突進をかけ、トウカを肩ではじき倒す。
「きゃあっ!」
倒されたトウカは床を転がる。
そして起き上がり、顔をあげた彼女の眼前にオウカの剣が付きつけられた。
その切っ先は、怒りで打ち震えていた。
「お前が良かれと思ってやった行動で、私は……」
「え……?」
「『傷つけたくない』だと? その思いで一番傷ついたのはこの私自身だ!」
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しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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強奪系触手おじさん
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【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
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