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第28話【極楽花時雨】

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「分かりません……が、なにかの大群が周りからこちらへ近付いて来ている音がします。」

 セリエラは頬から汗を垂らしながらそう言った。
 なにかの大群……?なんだよまだなにか居るってのか……!?

「なにかの大群ってなんなんだよ……!?」
「私にも分かりません、ですが足音的に二足歩行ですね」

 二足歩行のモンスターの大群……?まさかまたワーウルフか……?いや、でもワーウルフは移動時は四足歩行だから違うか……

「とにかく、私から離れなければ大丈夫なので。落ち着いて下さい。」
「……あ、あぁ、」

 なんでこんな時でもイザベルは平気なんだ、これが中級上位、フレイラの中でウェイリスさんの次に等級の高い冒険者の余裕という物なのか……?

 とにかく、イザベルもこうは言っているがもしもがある。だから俺は恐怖で小刻みに震えるケティを抱き寄せながら周りに注意を払う。

 すると、そこで俺にもなにかの足音が聞こえだし、そして次の瞬間、彼らは姿をあらわにした。

「うぅぅぅ……」「うぉぅぅ……」

「なっ、」「このモンスターは……ッ!?」

 オレンジ色の筋肉質の身体に口から飛び出た鋭い八重歯。頭に生えるコブのような2本のツノと刺すような目付き。
 俺はもちろん初めて見るモンスターだったが、本で見たことがあるから知っている。こいつらはオークだ。

 だが……確かオークは森では無く山岳地帯に住んでいると聞いていたが、何故こんな場所に居るんだ……?そして何よりも、

「なっ、なんだよこいつら……!?」

 なんで俺たちを今こうして囲んでるんだよ!?!?
 
 周りの木々からいっせいに姿を現したオークたちは、いつでも襲えるぞと言わんばかりに口からヨダレを垂らして睨みながらゆっくりと距離を詰めようとしてくる。

「ハヤトぉ……っ、!?」
「……ッ、」

 しかし、そんな状況でもレイバーとイザベルは冷静に会話を始めた。

「やっぱりオークだったか。でも確かこの辺りには生息していなかったはずだが。」
「レイバー様、おそらくオークの生息地に何か強大な力を持ったモンスターが出現したのかもしれません。」
「確かにその線はあるな。」

 っておい……!?近くにいたら安心なんじゃなかったのか!?こうやって話してる間にもどんどん近づいて来てるぞ!?

「うぅぅぅ……」

「ちょっ、ちょっとレイバー……!?早くアイツらを倒してくれよ!!」

 俺は恐怖で震えるケティと固まるセリエラの思っているであろう気持ちをれいばに必死に代弁する。
 するとそれを聞いたレイバーは、
 
「ん?ガハハ!!分かった分かった。お前ら本当にビビりだな。ほらイザベル、やってやれ。」

 そうしてイザベルに指示を出した。

「はい、分かりましたレイバー様。」

 すると、そこでイザベルは持っていた剣を空に伸ばすと目を瞑り、ゆっくりと息を吸い込み始める。

 その途端、周りの温度が下がり始めている事に気が付いた。

 これから何が起きるんだ……?

 そして、空気を十分に吸い込んだイザベルは静かに、こう呟いた。

「氷結、極楽花時雨ごくらくはなしぐれ

 その瞬間、ありえない事が起きた。なんと地面にある石や小さな土のつぶ、枯葉や木の枝などが数え切れないほど中に浮き始めたのだ。

 なっ、なんだよこれ……!?
 浮遊魔法フライ系か……?いや、でもそれだとこれだけの数を浮かせるには相当な魔力量とスキルが必要なはず、それこそウェイリスさんレベルには。

 すると、更に中に浮いた物はすぐに透明の氷に纏われ、まるでの様な見た目に変わる。

 そして、それらは一気にイザベルを中心としてものすごいスピードで動き始めた。

「なんなんだこれは……」

 まるで俺たちを水色の帳が包み込んだかの様な光景に俺はそう口から言葉がこぼれ落ちる。

「驚いただろ?これがイザベルのユニークスキル「氷吹雪の姫フリージング・プリンセス」の力だ。」
「ユニーク、スキルだと……?」

 そんな物がまさか本当に存在していたとはな……聞いたことはあったが。

 すると、次の瞬間――

「「うぅぅぅ!?」」

 氷の帳の外側から低い悲鳴が聞こえる。これは確実に俺たちを囲んでいたオークの放つ声だ。

「始まったな」
「何が始まったんだよ……?」

 オークの叫び声を聞きながら俺はそう呟いたレイバーに尋ねる。するとレイバーは、

「このイザベルが放つ極楽花時雨ごくらくはなしぐれはただ氷の粒を自分の周りを回らせるだけのものじゃない。外側に居るモンスターを吸い込むんだ。竜巻の様に」

「――そして、このものすごいスピードで動く数万、数十万、数百万の氷の粒に当たれば――どうなるかは分かるよな。」レイバーはそう言うと腕を組み、目を瞑る。――――途端、

 ビシャアッ!!!
 
「きゃっ!?」「……ッ!?」「なっ、!?」

 外側から巻き込まれたのであろうオークの真っ赤な肉片が中へと飛び込んできた。

 ♦♦♦♦♦

「オーク、ですか。それはおかしいですね。通常オークはこの辺りには生息していませんから。」
「俺もウェーグル森で見たのは初めてだ。」

 それから何事も無くギルドまで帰還した俺たちはオーガを討伐したと受け付けのお姉さんに報告をしていた。

 オーガの死体が消える前に討伐した証として牙あたりを取っておかないと倒した証拠にならないからとちゃんと討伐判定になるのか少し心配にはなったが、お姉さんもレイバーを信頼している様で「討伐した」と言えば何も疑う事は無く信じてくれた。

 ――それにしても、さっきのは本当にびっくりしたぞ……
 あの後水で身体をぱっと流しはしたがまだ血の匂いがする……(ケティなんてあの光景を見て気分が悪くなったのか先に家へ帰ったしな。)

 やっぱりケティ、冒険者に向いていない様な気がするぞ。
 正直なところ俺からしたらケティにはずっと安全なところで幸せに暮らして欲しい。

 汚れ役なんて俺がいくらでもしてやるしな。――――って、あれ……?俺なんでこんなにケティの事……っ、

 ま、まぁ今は良いだろう。
 とりあえず、それでもこれからもこうして一緒に冒険者をやるなら、リーダーである俺が守ってやらなくっちゃな。

 その為にももっと力を付ける……!!今日のレイバーとイザベルの実力を目の前で見て改めてそう心の中で誓う俺であった。
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