上 下
23 / 80

第23話【ナビレスからの沈黙の帰還】

しおりを挟む

「端的に、告げ、る……はぁ、はぁ……俺たち、討伐組は……全滅、した……」

 突然襲来してきたゴブリンたちによって崩壊させられたナビレスの街から唯一倒壊していない冒険者ギルドへ入って来た全身から血を流す冒険者は喉を詰まらせながらそう言うと、そのまま地面に倒れた。

 って、全、滅……?
 待て、そんな事が有り得るのか……?相手はゴブリンだぞ……?飛龍ドラゴンじゃないんだぞ……?

 だが、そんな事より……!!

「だっ、大丈夫か!?おい誰か包帯を持ってきてくれ!!」

 俺は倒れた血だらけの冒険者の元へ駆け寄るとそう叫ぶ。
 しかし、それをその冒険者本人が制止させた。

「やめて、くれ、俺はもうどうせ助からない、、無駄になる、だけだ……」
「……ッ、、」
「……何があったの。」

 すると、そこでウェイリスさんがそう尋ねる。

「ゴブリン共、、だけじゃない、、仲間も、おかしく、ぐふっ!?、、はぁ、はぁ……」
「おい!?無理して喋るな!!」
「は、はは……なんで、世界はこう、狂ってるんだろう、、な……ぁ、」

 それに対して血を吐きながら答える冒険者に俺はそう声をかけてやれるだけで何もしてやる事は出来なかった。
 そして、その言葉を最後に血だらけの冒険者は動かなくなる。

「……ッ、」
「……ハヤト、何も出来なかったなんて自分を責めるんじゃないわよ。ここに居る人たち全員も。」
「でも……っ、それでも――」
「ごめんなさい、ウェイリスがいち早く異変に気づけていれば良かったの。最近王国へ遠征に行った時ナビレスの前を通過したけど特に何も感じなかった。上級冒険者としてこれは有るまじき失態よ、」

「だからあなたたち3人は今から馬車に乗ってフレイラへ戻って。」
「……は?う、ウェイリスさんは……?」
「ウェイリスは残る。まだやるべき事が残ってるみたいだもの。」

 な、なんでそうなるんだよ……!?それなら俺たちだって――

「じゃあ俺たちにもやらせてくれよ!!この数日間の特訓で強くなったんだ……今なら役に立てるはず、そうだろ!?」
「だね、そうだよっ!私たちだって頑張りたい……!!こんな状態の街をほっておくなんて出来ないっ!!」
「ですね、同感です。」

 それぞれウェイリスさんに意思表示をする俺たち。
 しかし、

「ダメよ。帰りなさい。」
「……ッ!?なんでだよ!!帰るなら帰るでウェイリスさんも一緒に来てくれよ!!なんで自分1人残ろうとするんだっ!?」
「……ダメ、一緒には帰れないわ。」
「それこそ、、それこそ自分を責めちゃダメと言いながら1番責めてるのはウェイリスさんじゃないのか!!」
「……ッ!?そんなの、、当たり前でしょッ!!!」
「「……ッ、」」

 冷たい沈黙の横たわるギルド内に響き渡るウェイリスさんの声。そこで俺はウェイリスさんの目尻に涙が溜まっている事に気がついた。

「ウェイリスが……ウェイリスがもし数日、数時間前にここへ居れば未来は変わっていたかもしれないのに……ッ」
「……いいから帰りなさい。あの馬車にはウェイリスが契約魔法コントラクトをかけてあるから乗れば自動的にフレイラまで運んでくれるわ。だから行くのよ。」

 淡々と告げるウェイリスさん。
 色々な心情を考えた時、俺たち3人がそれに対して反発するのはもう私情を持ち込む行為でしか無いとそこで悟る。

「……分かった。」
「……ッ、ハヤト、」

 こうして俺たちはナビレスからフレイラへ戻った。燃え盛るナビレスからウェイリスさんを残して。

 ♦♦♦♦♦

 それから数日後。未だにウェイリスさんが帰ってくる訳でも無ければナビレスからの連絡も無い日々の中で、ウェイリスさんの屋敷から個々家に帰った俺たちはワーウルフ討伐などの依頼をこなす。
 するとそこで間髪入れずに再びデスティニーレコードに新しい文章が刻まれた。
 
 4月29日:オーガ討伐にてレイバー率いる冒険者と知り合う
 4月30日:オーガ討伐の功績により中級下位へ昇格

 これらの文章は同じ日に記された訳では無く、上の文章が4月27日、下の文章が4月28日に記された。
 それで今は下の文章に気がついてすぐの、4月28日の早朝だ。

 
 まず、オーガ討伐の依頼を受けること自体がよく分からんが(確か中級冒険者以上じゃないと受理出来なかった気がする)「レイバー率いる冒険者と知り合う」と書いてある辺りきっと俺たちだけの討伐じゃなくて他の(おそらく)中級冒険者と一緒にするんだろうな。

 こういうのを合同依頼や合同討伐って言ったりするな。
 オーガから上のモンスターが現れ、その時上級冒険者が不在だった場合などに数で押し切る為にその様な手段をとったりするのだ。
 まぁもっとも、こんな小さな町で合同討伐なんてほとんど聞かないが。

 それにその下の文章を見る限りじゃその討伐は上手く行って俺たちは中級下位に昇格出来るっぽいな。(通常昇格する時は昇格試験を受けなければならないが、たまにこの様に功績を認められて昇格する事もあったりする。)

 まぁ、上がって損は無いしな。嬉しいかな。
 しかし、そこまで心にくるものは無い。なんせ俺の心には今「嬉しい」よりも「誰かが傷つく未来じゃなくて良かった」が大きかったからだ。

 この時もしかすると俺はもう未来を変えるという事自体を諦めだしていたのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...