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第21話【ナビレスへ出発】

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 朝食を食べ終わった俺たちは、いつもの様に中庭へ移動する。
 これがウェイリスさんの屋敷で住まわしてもらっている時の日課だった。

 いつもウェイリスさんがつきっきりで朝から夕方、火によっては夜まで特訓をしてくれるのだ。
 正直めちゃくちゃツラいしキツイ。なんてったって上級冒険者の特訓、俺たちみたいな初心者からしたら本当に骨が折れる様な内容ばかり。

 だが、その分前と比べると俺たちは格段に強くなっていた。

 ――が、今日はすぐに中庭へは移動しない。
 ケティとセリエラがご飯を食べる長テーブルの部屋から出て行った事を確認すると、そこで俺はそれについて行く様にして部屋を後にしようとしたウェイリスさんを引き止めた。

「なぁウェイリスさん、ちょっと良いか?」
「ん?なに?なにか気になった事でもあるの?」

「あ、内容を緩くしてはナシね。この練習量じゃないとハヤトは特に魔力量が増えないから」指をピンと立ててウィンクしながらそう言ってくるウェイリスさん。

 うーむ、その件に関しても色々と言いたいことはあるが……今は違う。今朝デスティニーレコードに新たに加わった文章
 
 4月21日:ウェイリスと共に水の都ナビレスへ
 4月21日:ゴブリン・ロードにより、ナビレスの人口が激減

 この2つの事を軽く聞くのだ。
 なんせ今の期間俺たちの行動権を握るのは他でもないウェイリスさんだからな、仮にナビレスに行くとしたらもうある程度は考えているだろうなと思ってな。

「今パッと思ったんだが、他の町に行ったりとかはしないのかなって思って――ほら、水の都ナビレスだっけ?とか……」

 俺はウェイリスさんにそう言う。
 こんな感じで大丈夫だろうか……?さすがに直球過ぎたか……?
 しかし、するとそれを聞いたウェイリスさんは途端に表情をパッと明るくし、

「え!?すごいっ!実はウェイリスもそろそろ貴方たちの実力がどのレベルになったか見る為にどこかへ行こうと思ってたのよ!!それこそナビレスに!!」
「そ、そうなのか」

 内心(だろうな)と思いながらも知らない様な反応をする。

「えぇっ!ナビレスってフレイラからだと確か1番近い町でしょ?それにあそこならフレイラに比べてもレベルの高いモンスターの討伐依頼とか沢山あるでしょうし!!やっぱりフレイラだと限界があるじゃない?」
「まぁ、中級以上のモンスター出現頻度も低いからな。」
「そうそう!それに実は今ウェイリスのお母様とお父様が遠征に行っている町がナビレスなの!!」
「……え、?」

 その瞬間、俺の背筋が一気に寒くなった。
 もちろんゴブリン・ロードの事だ。今ナビレスに居るという事は、それは大丈夫なのか……?デスティニーレコードには「ゴブリン・ロードにより、ナビレスの人口が激減」そう書かれているんだぞ……?

「な、なぁ。あと今パッと思い出したが確かナビレスの近くにゴブリンの住む洞窟があったよな?地図で見た事がある。」
「えぇ、それがどうしたの?」
「ゴブリン・ロードとかってその……大丈夫なのか?」

 しかしそれを聞いたウェイリスさんは笑うと、

「何言ってるのよ、今は4月よ100パーセント有り得ないわ。」
「だ、だよな、」

 やっぱりそういう反応になるよな。俺もそう思うぞ。

「ち、ちなみに日付とかは――」
「うーんそうね、421にしましょうか!確か2日後よね。」
「……そうか。了解。」
 
「うん、じゃあウェイリスたちも早く中庭へ行きましょう。あまり長話するとまたケティとセリエラに何か言われるわ。」
「俺たちが会話をしてる時は2人だけの世界に入ってるってよく言われるものね。」
「そうそう、俺は全然そんなつもりないのによ~」

 そう笑いながら会話をする俺。
 だが、対して心の中では笑うどころか焦りすら出て来ていた。
 
 本当にウェイリスさんの両親は大丈夫だろうか?
 ――それに、普通に考えてまだ起きてすらもいない事なのに安否を心配するなんておかしい。
 はぁ……マジでなんなんだよデスティニーレコード、

 そうして俺は更に深まるデスティニーレコードの謎に頭を混乱させながらもウェイリスさんと共に中庭へ歩いて行った。

 ♦♦♦♦♦

 そしてそれから2日後の早朝、俺たちはウェイリスさんに連れられて予定通りナビレスに向かった。

「私フレイラから他の町に行くのなんて初めてだよ~楽しみっ!」
「私もずっと森の中に居たのでフレイラを含めて2回目ですね。」
「ねぇ、ハヤトはっ?」
「……ん?あっ、あぁ!俺も初めてかもな!あ、いや、2回目?3回目かも?なんて……」
「大丈夫?ハヤト。さっきからずっと顔色悪いわよ。」

 馬車での移動中。俺は前に座るウェイリスさんに顔色の心配をされた。

「あぁ、昨日もちゃんと寝たから大丈夫だ。」

 実際、体調に関しては本当に大丈夫だ。眠気も身体のダルさも無い。
 が、ずっとデスティニーレコードに書かれていた事が気になっていた。

 あの通りに行くとナビレスに着いたころにはきっと――何人もの人達が殺されているという事だよな……それにナビレスには今ウェイリスさんの両親が居るんだ、最悪のケースの事ももちろん考えてしまう。

 しかし、対してウェイリスさん、ケティ、セリエラの3人はその事を知っている訳も無い。
 だから馬車に乗り始めてからずっと、この様にテンションの差が出来ていた。


 そしてそれから更に数時間、時刻的には昼になるかという時に差し掛かった頃、

「あ、見えてきたわよナビレスが。」

 ウェイリスさんがそう言った。

「えっ!どれどれ!」
「……私も見ます」

 それにつられる様にしてさっきまで馬車酔いでぐったりとしていた2人もウェイリスさんの覗く荷台の窓に顔を寄せる。――――が、すぐに3人とも何故か窓から顔を退けた。

「……?ど、どうした……?見なくて良いのか?」

 恐る恐る質問をする。するとケティが不思議そうに、

「いや、なんかね?町の色んなところからが出てるの。」
「……ッ!?」
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