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第13話【ワーウルフとの戦い・結末】
しおりを挟む「う、うぅ……」
それから俺は一体どのくらいの時間眠っているのだろう、気がつけば見慣れない個室のベットに寝かされていた。
「って、……ッ!!」
意識がはっきりしてくるとすぐに俺は先程の事を思い出す。
あの時俺は身体強化を使い、体力、魔力共に底を尽いて気を失った。
――あれからどの様な事があって俺はここまで運ばれてきたのだろうか。
すると、ここでタイミング良く俺が寝るベットの足元側にあった扉が開き、セリエラが入ってきた。
「お、起きましたかハヤトさん」
俺が起きている事に気が付いたセリエラは微笑すると、ベットの横へ歩いてくる。
「あぁ、ちょうど今起きたぞ。それで――いきなりで悪いんだがあれからどうなったんだ……?」
そこで俺はセリエラにそう尋ねる。
起きていきなりで悪いとは思ったが、正直ケティの怪我の具合なども相まってそこを知らないと気が気で無かったのだ。
すると、そんな俺にセリエラはゆっくりと俺が気を失ってから今に至るまでを簡単に説明を始めてくれた。
♦♦♦♦♦
まず、俺が気を失った後すぐセリエラは俺の事も背負ってフレイラまで帰ろうとしたらしい。
だが、その時点でセリエラは足に大怪我を負ったケティを背負っている。
まぁ普通に考えて当然だ。さすがに気を失った人間2人(ケティも出血多量で気を失っていたらしい)を背負って町まで帰れる訳も無い。
まだ3人の中だと筋肉のある俺でも厳しいんだ、それをセリエラが出来るはずもないよな。
だから、ヴェロッサ森の入り口を出たところで一度俺たちを下ろしてセリエラは休んでいたのだそうだ。(ケティの怪我の具合的にも急がなければならないと思いながらも)
「――でもよ、それでも今俺がこうやってこの場所に居るって事はなんとかフレイラまで運べたって事だろ?」
そこまで話を聞いたところで俺はセリエラにそう言った。
「はい、ハヤトさんも魔力、体力共に尽きたというだけで怪我自体はしていませんでしたし、ケティさんも帰ってすぐ、上級の治癒ポーションを使ったので足の怪我も数週間経てば完治するはずです。」
「それなら本当に良かった。」
上級の治癒ポーションを使っても、それでも数週間経たないと完治しないのかと改めて傷の深さを感じながらも、そこで俺は心の底から安心した。
「でもよ?本当にどうやってここまで運んだんだ?今の話を聞いてる限りじゃ俺たちが気を失った場所から入り口までの数百メートルでそんなにキツいのに、数キロはありそうなフレイラまでどうやって運んだんだ?」
しかし、そこで余計に俺は「どうやって運んだのか」に対する疑問が大きくなった。
まぁ確かにこの事は結局こうして無事に終わったんだから良いじゃないか、で終わらせられるのかもしれないが、それでも気になるし、もし効率的な運び方、魔法等を見つけたというのならこれからの依頼などの中でも使えるかもだろ?
だから知っておきたいんだ。
すると、そこでセリエラはこう答えた。
「はい、実は私が休んでいた時2人組の冒険者の方が来まして。ハヤトさんとケティさんを運ぶ手伝いをして頂いたのです。」
あくまで自分の力で運び切ったのでは無い。という様な口調で言うセリエラ。
「なるほど、確かにそれだとここまで運べるか。でもどうしてこんなに早い時間に?」
今の時間は俺がどのくらい寝たのかは分からないからともかく、ワーウルフ討伐に向かった時間はまだ冒険者がひとりもギルドに来ていない様な早朝だったはず。
何時間も討伐に時間が掛かっていた、という訳でも無いだろうし……
「その2人の冒険者曰く、ギルドに入るや否や受け付けの方に私たちが心配だから様子を見に行って欲しいと頼まれたそうで、ヴェロッサ森に着くと同時に休んでいる私を見つけたのだと。」
「なるほど……」
まぁ、受け付けのお姉さんも俺たちを送り出してから思ったのだろうな、「本当に大丈夫なのだろうか」と。
考えれば当たり前の話だ。依頼人も見つけたワーウルフが1匹だったというだけでそれ以外に居ないという確証がある訳でも無いしな。
「それで案の定、3人中2人が気を失っている状況だったという訳だし、その冒険者が来なければやばかったかもな。」
「本当ですよ」
「はぁ」っと嫌な思い出を思い返すかのようにため息を吐きながらそう言うセリエラ。
なんであれ、その助けてくれた2人には後で例を言わないとだな。
「ちなみにその2人はどこにいるんだ?」
「それが……ハヤトさんとケティさんを冒険者ギルドまで運んでくれた後、すぐに別の依頼を受けて出て行ってしまったんですよ」
「名前も名乗らずに、か?」
「はい」
なんだよそれ……通りすがりの英雄って感じだな。
「そんな冒険者も居るんだな。やっぱり俺、もっと強くなりたい。今回はセリエラやその冒険者に迷惑をかけてしまったが、もう絶対こんな事にはなりたくない。」
それに――きっとこれからもデスティニーレコードに同じ様な怪我などの出来事が記される事もあるだろうし――今度こそその時は守れる様にならないとな。
「――あ、そういえば、」
すると、そこで俺はあるひとつの事を思い出した。
それは気を失う寸前にセリエラが言っていた「札」という存在だ。
「お前、俺が気を失う前に札を使うかどうかって言ってたがその札ってなんなんだ?」
「あぁ、それはこれです。」
するとそこでセリエラは腰のポケットから長方形の白色の紙を取り出すと、見せてきた。
紙には赤い模様の様な物が刻まれている。
なんだこれ?こんなの見た事無いぞ?
「これが札ってやつなのか?こんなの見た事無いが、なんなんだこれ?」
「これは私たちエルフの間で古くから使われている物で、矢に結び付けてそれを放つとそれに魔力を込めることが出来るんです。あの時使ったのは光の力を込め、放つ魔法光の矢ですね。」
光の矢か、確か1本の矢から何本にも光の矢に変化し、一気に何体ものモンスターを倒す事が出来る魔法だった様な。だが、それって確か最低でも中級上級レベルの魔法使いでないと使えない様な物じゃなかったか?
そして、同時に魔法使いで弓を使っているケースは少ない為、矢に魔法を乗せるという形の物を使っている冒険者はほとんどいない。
だからこれで少なくとも父の周りの冒険者でそれを使っている人は聞いたことが無かったが、セリエラが使っていたとはな。
「要するに、それを使えば魔法を使う能力が引くくても簡単に矢に魔力を込められる。という訳だな。」
「はい、そんな感じです。――ですが、」
そこでセリエラは苦笑いをすると腰からもう1枚の札を出し、
「実は後2枚しか残っていなくてですね、貴重な物なので使うのを一瞬躊躇してしまったんです。本当にすいません。」
「いやいや、結果として使ってくれたじゃないか。それに、こうして俺も無事なんだ、本当に感謝してるぞ。」
「ありがとうございます、」
「っし!!じゃあ俺も意識がハッキリしてきたし、ケティの見舞いにでも行くか。あいつはもう意識が戻ったのか?」
「はい、ハヤトさんよりも先に目が覚めましたよ。」
「本当に無事みたいだな、安心したぞ。」
そうして俺はベットから起き上がると、扉の方へセリエラと共に歩いて行く。
今日改めて実感した、自分の力不足を。
これからもっともっと頑張らないといけないな。
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