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第8話【特訓】

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 俺だけが読む事の出来る未来が記された本、デスティニーレコードに書かれた2日後に起こる未来「4月5日:ワーウルフ討伐にてケティが右足を負傷。」を回避する為、俺たちは依頼では無く急遽特訓を開始する事にした。

「――で、ここでなんの特訓をするの?」

 いつも俺が1人で素振りなどをする時に使用している縦横10メートル程の空き地に来ると、ケティが早速俺にそう聞いてくる。

 確かに、「特訓」とは言ったが何をするのかはまだ言っていなかったな。
 だが大丈夫、もう決めている。

 だから俺は空き地を囲うボロボロの柵の根元に置かれた木刀を三本取ると、それをケティとセリエラに渡し、

「今日、俺たちは対人戦をする!!」

 そう言った。


「対人戦?それってこの木刀で?」
「あぁ、もちろん、当たると危ないから当たりそうになったら寸止めでな。」
「でもハヤトさん、私たちは人間では無く、モンスターと戦うんですよ?」

 うむ、絶対に言われると思ってた。
 確かに、俺たちが戦うのは人では無くモンスターだ。
 だが――

「人間の攻撃を避けられないならモンスターの攻撃も避けられないだろ?それに、だからってモンスターで練習するのはリスクが大きいからな。」
「なるほどね~、でもハヤト?てっきり今日は攻撃の練習をするのかと思ってたけど、防御の方なんだね?」

「ま、まぁ?防御は最大の攻撃って言うしな!」

 (実際はケティが2日後怪我をしない為の特訓だからだが……)

「よし!!時間は有限だ!!早速始めるぞ!!」
「う、うん!」「分かりました」

 そうして俺たちのワーウルフ討伐に向けた特訓が始まった。

 ♦♦♦♦♦

「――よし、じゃあまずは俺とケティでしよう。セリエラは少し離れたところで見ていてくれ」
「分かりました」
「って、いきなり私ハヤトとやるの!?そんなの絶対負けちゃうじゃん!!」

 頬を赤く膨らませて拗ねた様に言うケティ。

「別に本番でもなんでもないんだから良いじゃねぇか。それに、とりあえず最初は俺の攻撃を避けることだけ考えるんだ。それを身に付けられる様にするのが今回の特訓だろ?」
「まぁそうだけど……」
「じゃあ早速始めるぞ」

 そうして俺とケティは互いに木刀を構え――

「はぁぁぁぁっ!!」

 まずは俺から、力強く地面を踏み込むとケティを捉えられる距離まで近付き、早速右横から斬撃を放った。

「くっ……!?」

 だが、これだけ動きが大きいのだ、さすがにケティもなんとか木刀でそれを防いだ。
 ――けどなぁ……!!

「甘いぞっ!!」

 そこで俺は直ぐに受け止められた衝撃を利用して踵を返し、身体をグルリと右に一周させ、今度は左側から斬撃を放つ。

「うぅ、っ!?」

 当然まともに冒険者同士で戦った事も無く、剣術を習っていた訳でも無いケティはそれに対応する事は出来ず後ろに仰け反る体制になる。
 だから俺は、木刀がケティの身体に当たる寸前で止めると、

「俺の勝利だ。やっぱりまだまだだな、ケティ」

 そのまま後ろに倒れ、尻もちをついていたケティに手を伸ばしながらそう言った。

 ふぅ……小さい頃から父の練習相手として時々今みたいに戦っていたが、それが今役立つとはな。
 ――それにしても、やっぱりまだケティの回避能力は低い。
 こりゃ俺も頑張らねぇとな。


「――よし、じゃあ次はセリエラだ!!」

 続いて俺は少し離れてもらっていたセリエラを呼び出す。
 正直、何度も言うがこれは2日後にケティがワーウルフから攻撃を当てられない様にする為の特訓だ。
 だから無理にセリエラとこれをする必要も無いのだが――

 それでも防御能力は絶対今後必要になってくるだろうし、一度セリエラがどのくらいやれるのかもリーダーとして見ておきたいからな。
 まぁ、運動能力が人間よりも高いエルフだからと言っても剣術に関してはさすがに俺が上だと思うが。

「はい、分かりました。」

 そうして、セリエラは俺に近づくと木刀構える。

「セリエラちゃん!!頑張れ~!」
「ふっ、まぁ軽くしてやるよ。」

 それに合わせる様に俺も構えると、先程のケティの時と同じ様にまた力強く踏み込み、
 
「――はぁぁぁぁ!!!」

 セリエラとの距離を一気に詰めると、木刀を振り上げ、射程圏内に入ったところで振り下ろした。

 (これはもらった……ッ!!)
 心の中でニヤリと笑う俺、セリエラのやつめ、俺のスピードについて来れずに動く事も出来ないか……!!!

 ――しかし、なんと次の瞬間、

「って、っっ!?!?」

 セリエラが俺の視界から
 当然、そのまま誰に当たるという訳でもなく空気を切る俺の放った斬撃。
 ど、どこへ行ったんだ……!?
 
「ハヤトさん、上ですよ」

 そこで突然、そうセリエラの声が聞こえる。
 上、だと……?いやでもここは空き地、上には何も無いはずだ……ッ!!
 頭の中を混乱させながらすぐに上を向く俺。
 ありえない、上に居るなんて――

「なっ!?」

 だが、そこにセリエラは居た。
 なんと俺の頭上から3メートル程の位置に飛び上がっていたセリエラが木刀を振り上げていたのだ。

 そして、重力に身を委ねるまま俺の上に落ちてくると共に木刀も振り下ろしていく。
 って、それ絶対寸止めとかする気無いだろ……!?
 やばい、絶対当たったらやばい……っ!?

 俺はなんとかすぐに木刀で頭をガードする。――と、その瞬間、それを受け止めた木刀を通って身体全体に雷の様な衝撃が走り――

「ぐっっ!?!?」

 俺は後ろへ吹き飛ばされた。

「はぁはぁ……今、何をしたんだよ……」
「何って、ハヤトさんが正面から攻撃を仕掛けてきたので上に飛んでそこから攻撃をしただけですが。」

 俺は地面に座り肩で息をしながらセリエラに尋ねるが、帰ってきたのはいつも通りな口調のそんなセリフだった。
 いや、当たり前みたいにそう言うがな……
 (その後話を聞くと、エルフは小さな頃から狩りを覚える為に弓だけでなく剣術、初歩的な魔術も多少習うのだとか)

 まぁでも分かった。とりあえず今日セリエラには自主練をしてもらおう。俺が教えられる事は無さそうだ。(逆に俺が教えてもらいたい)

「……よし、じゃあケティ。まずは基本の攻撃の受け方、避け方を教えるぞ。これは杖でも使えるからな――――」

 そうしてその日は数時間ケティにみっちり特訓をし、最後の方では最初からは見違える程防御や回避が上手くなったのであった。
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