8 / 80
第8話【特訓】
しおりを挟む俺だけが読む事の出来る未来が記された本、デスティニーレコードに書かれた2日後に起こる未来「4月5日:ワーウルフ討伐にてケティが右足を負傷。」を回避する為、俺たちは依頼では無く急遽特訓を開始する事にした。
「――で、ここでなんの特訓をするの?」
いつも俺が1人で素振りなどをする時に使用している縦横10メートル程の空き地に来ると、ケティが早速俺にそう聞いてくる。
確かに、「特訓」とは言ったが何をするのかはまだ言っていなかったな。
だが大丈夫、もう決めている。
だから俺は空き地を囲うボロボロの柵の根元に置かれた木刀を三本取ると、それをケティとセリエラに渡し、
「今日、俺たちは対人戦をする!!」
そう言った。
「対人戦?それってこの木刀で?」
「あぁ、もちろん、当たると危ないから当たりそうになったら寸止めでな。」
「でもハヤトさん、私たちは人間では無く、モンスターと戦うんですよ?」
うむ、絶対に言われると思ってた。
確かに、俺たちが戦うのは人では無くモンスターだ。
だが――
「人間の攻撃を避けられないならモンスターの攻撃も避けられないだろ?それに、だからってモンスターで練習するのはリスクが大きいからな。」
「なるほどね~、でもハヤト?てっきり今日は攻撃の練習をするのかと思ってたけど、防御の方なんだね?」
「ま、まぁ?防御は最大の攻撃って言うしな!」
(実際はケティが2日後怪我をしない為の特訓だからだが……)
「よし!!時間は有限だ!!早速始めるぞ!!」
「う、うん!」「分かりました」
そうして俺たちのワーウルフ討伐に向けた特訓が始まった。
♦♦♦♦♦
「――よし、じゃあまずは俺とケティでしよう。セリエラは少し離れたところで見ていてくれ」
「分かりました」
「って、いきなり私ハヤトとやるの!?そんなの絶対負けちゃうじゃん!!」
頬を赤く膨らませて拗ねた様に言うケティ。
「別に本番でもなんでもないんだから良いじゃねぇか。それに、とりあえず最初は俺の攻撃を避けることだけ考えるんだ。それを身に付けられる様にするのが今回の特訓だろ?」
「まぁそうだけど……」
「じゃあ早速始めるぞ」
そうして俺とケティは互いに木刀を構え――
「はぁぁぁぁっ!!」
まずは俺から、力強く地面を踏み込むとケティを捉えられる距離まで近付き、早速右横から斬撃を放った。
「くっ……!?」
だが、これだけ動きが大きいのだ、さすがにケティもなんとか木刀でそれを防いだ。
――けどなぁ……!!
「甘いぞっ!!」
そこで俺は直ぐに受け止められた衝撃を利用して踵を返し、身体をグルリと右に一周させ、今度は左側から斬撃を放つ。
「うぅ、っ!?」
当然まともに冒険者同士で戦った事も無く、剣術を習っていた訳でも無いケティはそれに対応する事は出来ず後ろに仰け反る体制になる。
だから俺は、木刀がケティの身体に当たる寸前で止めると、
「俺の勝利だ。やっぱりまだまだだな、ケティ」
そのまま後ろに倒れ、尻もちをついていたケティに手を伸ばしながらそう言った。
ふぅ……小さい頃から父の練習相手として時々今みたいに戦っていたが、それが今役立つとはな。
――それにしても、やっぱりまだケティの回避能力は低い。
こりゃ俺も頑張らねぇとな。
「――よし、じゃあ次はセリエラだ!!」
続いて俺は少し離れてもらっていたセリエラを呼び出す。
正直、何度も言うがこれは2日後にケティがワーウルフから攻撃を当てられない様にする為の特訓だ。
だから無理にセリエラとこれをする必要も無いのだが――
それでも防御能力は絶対今後必要になってくるだろうし、一度セリエラがどのくらいやれるのかもリーダーとして見ておきたいからな。
まぁ、運動能力が人間よりも高いエルフだからと言っても剣術に関してはさすがに俺が上だと思うが。
「はい、分かりました。」
そうして、セリエラは俺に近づくと木刀構える。
「セリエラちゃん!!頑張れ~!」
「ふっ、まぁ軽くしてやるよ。」
それに合わせる様に俺も構えると、先程のケティの時と同じ様にまた力強く踏み込み、
「――はぁぁぁぁ!!!」
セリエラとの距離を一気に詰めると、木刀を振り上げ、射程圏内に入ったところで振り下ろした。
(これはもらった……ッ!!)
心の中でニヤリと笑う俺、セリエラのやつめ、俺のスピードについて来れずに動く事も出来ないか……!!!
――しかし、なんと次の瞬間、
「って、っっ!?!?」
セリエラが俺の視界から消えた。
当然、そのまま誰に当たるという訳でもなく空気を切る俺の放った斬撃。
ど、どこへ行ったんだ……!?
「ハヤトさん、上ですよ」
そこで突然、そうセリエラの声が聞こえる。
上、だと……?いやでもここは空き地、上には何も無いはずだ……ッ!!
頭の中を混乱させながらすぐに上を向く俺。
ありえない、上に居るなんて――
「なっ!?」
だが、そこにセリエラは居た。
なんと俺の頭上から3メートル程の位置に飛び上がっていたセリエラが木刀を振り上げていたのだ。
そして、重力に身を委ねるまま俺の上に落ちてくると共に木刀も振り下ろしていく。
って、それ絶対寸止めとかする気無いだろ……!?
やばい、絶対当たったらやばい……っ!?
俺はなんとかすぐに木刀で頭をガードする。――と、その瞬間、それを受け止めた木刀を通って身体全体に雷の様な衝撃が走り――
「ぐっっ!?!?」
俺は後ろへ吹き飛ばされた。
「はぁはぁ……今、何をしたんだよ……」
「何って、ハヤトさんが正面から攻撃を仕掛けてきたので上に飛んでそこから攻撃をしただけですが。」
俺は地面に座り肩で息をしながらセリエラに尋ねるが、帰ってきたのはいつも通りな口調のそんなセリフだった。
いや、当たり前みたいにそう言うがな……
(その後話を聞くと、エルフは小さな頃から狩りを覚える為に弓だけでなく剣術、初歩的な魔術も多少習うのだとか)
まぁでも分かった。とりあえず今日セリエラには自主練をしてもらおう。俺が教えられる事は無さそうだ。(逆に俺が教えてもらいたい)
「……よし、じゃあケティ。まずは基本の攻撃の受け方、避け方を教えるぞ。これは杖でも使えるからな――――」
そうしてその日は数時間ケティにみっちり特訓をし、最後の方では最初からは見違える程防御や回避が上手くなったのであった。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる