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第6話【幼なじみ】
しおりを挟む初めての依頼、スライム討伐を見事やり遂げた後(まぁ俺は一体も倒せていないが)俺たちは依頼内容分のスライムのコア(スライムを倒すと中から出てくる黄色の石の様なもの)を回収し、冒険者ギルドまで帰還した。
「――では、スライムのコアを3つ渡して下さい。」
「……これで良いか?」
俺は腰のポケットに入れていた3匹分のスライムのコアを取り出すと、言われた通りにそれを受け付けのお姉さんに渡す。討伐系の依頼は、実際にしたかの確認はこの様にそのモンスターの1部を提出するという形が多いらしい。
「はい、確認致しました。では、報酬の銅貨を皆さんに3枚ずつ、お渡し致しますね。」
確認を終えたお姉さんはそのまま俺の手に銅貨を9枚手渡しすると「ちゃんと分けてくださいね」一応確認、と言った風にそう耳打ちしてくる。って、俺が報酬を独り占めする様な冒険者に見えるのかよ……
「分かってるよ、ちゃんと分けるから」
「ん?ハヤト?今なんて言ったのー?」
「あぁ、なんでもないよ。――それよりもほら、後ろに他の人たちも並んでるし俺たちは帰るぞ」
俺は後ろを見ながらケティにそう言う。
どうやら他の冒険者たちは今くらいの時間から依頼を開始する場合が多いらしく、ギルド内も段々と色々な冒険者たちで賑わい始めていた。
「はーいっ!」「そうですね、一度ここを出ましょう」
そうして俺たちは冒険者ギルドから出た。
そして、ギルドから出ると俺たちはすぐ前にあるベンチに行き、そして2人に先程まとめて渡された銅貨を分けた。
「はい、ケティ。これはセリエラの分だ。」
「ありがとうっ!」「ありがとうございます――って、」
すると、それを見たセリエラはすぐに俺にこう言って来た。
「これ、4枚ですよ。数え間違えてませんか?」
「あ!ほんとだ!私も4枚もらってる!!」
「ん?あぁ、わざとだよ。俺は1枚で大丈夫だ。」
「え?ハヤト要らないの?」
「いや、要らないとかじゃねーが、」
むしろ今住んでる家を買ってくれた母に返したいから出来るだけ多く欲しいが、それでも――
「今日スライムを倒したのはケティとセリエラで、俺は特に何もしてない。だから同じ額は貰いたくないんだ。」
「いやいや、そんなの――」
「良いから良いから!!少し多く貰えてラッキーくらいに思っておいてくれ!!じゃあな!」
このままだと絶対に返される。そう思った俺はそのまま2人から逃げる様に別れの挨拶をすると、その場を離れた。
♦♦♦♦♦
それから、俺はそのまま家には帰らず実家のすぐ近くにある空き地に向かった。
そこは10メートル×10メートル程の正方形で、周りは古い木の柵で囲まれており、中は雑草が生い茂っている。
「……今日もやるか」
そこで俺は「ふぅ」っと軽く息を吐くと、背中から剣を抜き、素振りを始めた。
「おぉっ、やっぱり鉄の剣は木と違って重いな」
ここは昔から父が鍛錬に使っていた場所で、俺も小さな頃からその風景をずっと見てきた。
そして、父が亡くなった今もこうして代わりに俺が使っているのだ。
(今日は初めからスライムを討伐出来ると分かっていたから軽い気持ちで行った。が、何も活躍出来なかった。やっぱり俺はまだまだだな。)
ブン、ブン。振るう剣が空気を切り裂く。
(デスティニーレコードにどう書いているかなんて関係無い。いつでも全力で行かないとな。その為にもまずは今よりもっと力を付けるぞ……っ!!)
「あ、やっぱりここに居た~」
「って、!?――な、なんだケティか。びっくりしたぞ。」
するとそこで後ろから俺に声がかかる。
すぐにそちらを見るとそこにはブロンズヘアを風にたなびかせる美少女(俺の感想)ケティが立っていた。
「……なんでこの場所が分かったんだ?」
「そんなの分かるよ~私とハヤト。何年一緒に居ると思ってるの?」
「まぁ、それもそうか。」
「昔から自分に納得しなかった時はずっとここで素振り、してたもんね。」
「あぁ、ケティはいつもそれを見守っていてくれたよな。」
懐かしい記憶だ。思えばケティはいつもそばに居てくれた。父が死んだと知り、俺が塞ぎ込んでしまっていた時も。
本当にケティには感謝しか無いな。
しかし、対してケティは、
「私で良ければいつまでも見守るよ?」
いつも通りの優しい笑顔で、しかし少し頬を赤らめながらそう言う。
って、ん?い、今のはどっちの意味だ……!?幼なじみとして?それとも――
「っっっ!?!?」
な、何を考えているんだ俺はッ!?あ、相手は幼なじみだぞ……っ!?
すると、そんな俺の反応を見たケティもそこで慌てて訂正をしだす。
「あ、あれだからね!?幼なじみとしてっていう事だからね!?」
「だ、だよなっ!?」
「うんうんっ!!」
はぁ……本当にビビったぜ。
あれ……?でも今、なんで俺はこんなにもドキドキしたんだ……?
ま、まぁ良いか。とにかく、俺の幼なじみはこんなだが、とても優しくて守ってやりたくなる女の子なのだ。
――でも、今日は逆に守られてしまった。
余計に、もっともっと力を付けないとな。
「とにかく、俺はもっと強くならないといけない。そして、お前やセリエラを引っ張って行けるリーダーになるんだ。だからこうして――」
ブンっ!!俺は再び剣を構えると目の前の空気を切る。
「剣を振るう……っ!!」
「へぇ~、それは頼もしいねっ!!」
「ふっ、まだまだ。もっと頼もしくなってみせるさ。」
「――でもさ、」
「ん?なんだ?」
「ハヤトってリーダーだったの?」
「えっ!?違うのか!?」
俺たちの冒険はまだまだ始まったばかりである。
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