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第二章[グーネウム帝国編]

願望

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「お、来たか。」
 俺とセリヤが冒険者ギルドの扉を開け、中に入ると、真ん中に位置している円形のクエストボードの前で冒険者たちが集まっており、その中の一人であるラークがそう言った。
「おう、またせたな。」
 対して俺は、まるで遅れて登場してきたピ○コロのように声を低くしてそう言うと、ラークたちの方へ近づいて行く。

 一応、なんでラークや他の冒険者が俺とセリヤを待っているのかを忘れたやつの為に軽く説明すると、今日はこいつらに俺とセリヤの願望を一つ聞いてもらう日なんだ。
 最初は俺たちも遠慮していたんだが――こいつらがどうしてもって言うからな、それに、丁度切り出したい話もあったからこの機会を利用しようと思ったって訳だ。

「じゃあ、早速俺たちにして欲しいことを言ってくれ。」
 ラークは、俺とセリヤが近くに来たのを確認すると、そう本題を切り出してくる。
 まぁ、ここで長話をしてもなんだしな……じゃあ早速言わせてもらうとするか。
「あぁ、それはだな――」
 俺はそう早速コイツらにして欲しいこと、というよりは協力して欲しいことを切り出そうとした――その時……!

「それは、テツヤをみんなでボコボコにする事よ!!」
 セリヤが意地悪っぽい笑みを浮かべながらそう叫んだ。――って!?何言ってんだよコイツ!?
「お、お前!何口走ってんだよ!?遂に完全にイカれちまったのか!?」
 元々イカれている部分もあったが……まさか完全に壊れてしまうとは……!
「ち、違うぜ!?こんなしょうもねぇ事が俺の願いな訳無いだろ!?」
 俺は冒険者たちの方を向くと、必死にそう言う。

 しかし、残念ながら今のセリヤのセリフが衝撃的過ぎたらしく、
「テツヤ、お前そういう趣味持ってたのか……」
 ラークが俺の事を残念な目で見つめていた。――って!?何今のセリヤのセリフを真に受けてるんだよコイツ!?
「ちげぇぇぇ!?!?」
 俺は冒険者ギルドに入って早々、そう叫ぶのだった。


「はぁ……たく、冗談だとしてもやめろよな?」
 あの後、必死で冒険者たちにそんな趣味は持っていないと言い聞かし、何とか誤解が解けたところで俺がセリヤにそう言う。するとそれに対してセリヤは、
「ごめんごめん、でも最近ネタシーンが無かったじゃない?だからそろそろ入れておかないとこの作品が真面目なバトル物みたいになっちゃうじゃないかって思ったのよ。」
 笑いながらごめんごめんと両手を合わせて謝り、そう言った。

「なるほど――って!」
 危うく見逃しかけたけどめちゃくちゃなメタ発言すんじゃねぇ!?それにここまで読んでたらこの作品が真面目なバトル物なんて誰も思わねぇよ!?
「そんな心配必要ねぇから、もう今みたいな事はしないでくれ……」
 俺はツッコミ疲れてぐったりとしながらセリヤにそう言う。
 するとセリヤは、
「はいはい。」
 とりあえずは納得してくれた様だった。

 するとそこで、
「で?結局なんなんだ?お前らの願望は。」
 完全に今の会話から除外されていたラークがそう聞いてきた。
 そうだそうだ。たく……変な会話のし過ぎで忘れる所だったぜ。
「あぁ、それはな――」
「みんなで一緒に力を合わせてこの国、グーネウム帝国を変えたいんだ。」
 俺はみんなの顔を見ながらそう言った。

 そう、それこそが、みんなに協力して欲しい願望だったのだ。俺たちはこの街に来てから、理不尽にも程がある様な扱いを受けているメアリー一家や、漆黒龍ブラックドラゴンが現れたというにも関わらず、全く手を差し伸べようとしなかった幻影の騎士団ファントムナイトをこの目で見てきた。
 だから、そんな現状をずっと変えたいと思っていたんだ。
 でも、いくらなんでも俺とセリヤ二人だけじゃ変えることは出来ない。
 だから、この機会にみんなにもそれを協力して貰おうって訳だ。

 すると、俺のセリフを聞いた冒険者たちは、
「……」
 険しい顔をして、何かを考え出した。そして、
「実は俺たちも、お前らが来る前に一度そうしようとしていたんだ。」
 その中の一人である、ラークが腕を組みながらそう言った。
 ん?しようとしていた?なんで過去形なんだ?
「しようとしていたって事は――結局しなかったって事だよな?」
「あぁ、そうだ。」
「なんでしなかったんだ?」
「……怖かったんだよ、みんな。」
「……ッ!」

 改めて考えてみると当たり前の事だった。
 そりゃみんな、こんな腐った現状、絶対にダメだって思っているはず、だけど幻影の騎士団ファントムナイトという圧倒的な相手に立ち向かう事が怖くて、行動出来なかった。
 それは悪い事じゃないのに、俺はまるで「なんであんな奴らにビビってんだよ」という様な聞き方をしてしまった。

「そうだよな……みんな本当にすまない。今のは別に無理やりって訳では――」
 俺はすぐに頭を下げると、協力してくれるかどうかは個人の自由だという事を説明しようとする。
 無理に協力してもらったとしても、そんな状態じゃ連携なんて取れないだろうからな。

 しかし、そんな俺のセリフにラークが口を挟むようにしてこう言った。
「いや、俺たちに協力させてくれ。」
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