8 / 98
第一章[ミリゴ編]
再開
しおりを挟む少年Bは、おれが大蛇に襲われた時と同じ様に、神々しい景色に見とれていた。
やっと見つけたぜ。
俺は先程からずっと走りっぱなしだった足を止める、同時に口から安堵の息が漏れた。
セリヤはというと少年Bの姿を見るやいなや更にスピードを上げ、その勢いのまま後ろから抱きつき、
「君!大丈夫!?」
そう叫んでいた。
はぁ、お前が大丈夫かよ。
こんな事前にも言った気がするぜ。ほら、少年Bがさっきからお前の無い胸の中で暴れてるじゃねぇか、羨ましい野郎だな。
俺は頭の中でそう呟いた。
「とりあえずこれで一件落着だな。」
本当に無事で良かった、今日何故か森にスライムがいなかったのも、きっと神様が俺達を助けてくれたんだろう。
俺はセリヤと少年Bの元へ歩いていった。
こんな所にずっと居るのも嫌だしな、何より早く少年に無事だった事を報告したかった。
しかし、やはり人生というのはそう思い通りに行かないものだ。
俺はこの時忘れてしまっていた。ヤツの存在を。
異変に気付いたのは二人に声を掛けようとした寸前だった。
急に周りの茂みから視線を感じ出したのだ。
俺は直ぐにその事をセリヤに言おうとした。
しかし、背中に深い切り傷を負ったヤツは俺がセリヤに言う前に、茂みから飛び出してきた。
「……ッ!」
セリヤは大蛇を見るやいなや、
「君は後ろに下がってて!」
少年Bを庇うように立ち、背中にさしてあった剣を抜いた。
俺も直ぐにそのセリヤと同じ様に立ち、手に持っていた杖を大蛇の方に向けた。
「テツヤ、私がアイツと近距離でやり合うから、合図した時に、魔法を放って!」
セリヤは俺にそう言い残すと、返事も聞かずに今にも飛びかかって来そうな大蛇に向かって剣を構え、
「はぁぁ!」
自分に気合いを入れる様にそう叫ぶと、大蛇に向かって走って行った。
おいおいちょっと待ってくれよ!
こっちはただでさえ目の前の相手にトラウマ抱えてるって言うのに!
「はぁ……」
俺は額から流れて来る汗を拭いながらそう呟く。
仕方ない、今は緊急事態だしな。
今回は、セリヤの作戦に乗ってやる事にした。
少年Bを守らなくちゃだしな。
俺は少年Bを守りながら、セリヤの指示を待つ事にした。
大蛇に向かって行ったセリヤはというと、さっきからずっと防戦一方だった。
相手からの攻撃は全て避けたり防いだりはしているが、これを長く続けるには相当な体力が必要になる。
その体力を恐らくセリヤは持っていない。
クソったれ……!俺は杖を構えて魔法を打とうとする。
このままだとセリヤが危ないと思った。
しかし、呪文を唱えようとした時、セリヤは汗だらけの顔をこっちに向け、「絶対繋ぐから!」そう言った。
俺はセリヤのこのセリフで、不意にアイツが冒険者になった理由を思い出した。
「ったくよ……」
コイツと会ってまだ日が浅いが、お前は大した奴だよ。
そうだよな、こんな所で負けてるようじゃ、ゴブリンキングには勝てないよな。
「俺はお前を信じるぞ」
俺は未だに防戦一方なセリヤを見ながらそう言い、杖を下ろした。
多分俺はさっきまでセリヤの事を信じ切れていなかったんだろう。
でも、さっきのセリフを聞いて俺はアイツを信じる事が出来た。セリヤなら絶対繋いでくれるってな。
そしてセリヤも俺の想いに応えるように、大蛇の大振りな攻撃を避けると、この瞬間を待っていたかのように不敵に笑い、
「はぁぁぁ!」
大振りな攻撃を空振り、前につんのめる大蛇の腹に、渾身の一撃を叩き込んだ。
「しゃぁぁ!?」
その攻撃を受けた大蛇は身体から鮮血を吹かせ、悲鳴を上げた。
そしてその瞬間、セリヤは俺にこう叫んだ。
「今よテツヤ!」
やっとかよ……!
俺は杖を大蛇の方に向け、手に力を集中させる。
「草木を燃やせ――」
そして、手に集まった全ての力を杖に送り、こう叫んだ。
「ファイアボールッッッ!!!!」
その瞬間、杖の中に溜まりに溜まったエネルギーが火の玉に変わり、勢い良く大蛇の方に飛んでいく。
そしてその火の玉は見事に大蛇に命中し、
「しゃァァァァァァ!?」
技名からは想像もつかない様な爆発を起こした。
やったか……?
俺は爆発の煙で立ち込めた正面を息を呑みながら凝視する。
やがて煙が風によって流され、視界が晴れた。
大蛇の姿は無くなっていた。俺はあの大蛇を一撃で吹き飛ばしたのだ!
よっしゃ!見たかセリヤ!
俺は大蛇を倒した事を確認すると、セリヤに向かって渾身のドヤ顔をした。
そんな、超絶かっこいい絶対的主人公の俺に対してセリヤは、
「完璧だったわテツヤ!」
背中に剣を納めると、両手を広げて俺の方に走って来た。
お?なんだなんだハグか?しっかたないなぁ!俺も杖を持っていない方の手を(仕方なぁ~く)広げてやった。
しかし、セリヤは片手を広げた俺を通り過ぎ、俺の後ろで隠れていた少年Bを抱きしめ、
「大丈夫だった?怪我は無い?」
笑顔でそう言った、目尻に涙を浮かべてだ。
コイツは少年Bの保護者かよ。はぁ……ハグ、期待したのに。
俺は抱き締められている少年Bに羨ましい視線を送っていた。すると――
[レベルアップ!貴方はレベル8になりました。]
目の前にレベルアップを知らせる文章が表示された。
お、レベルが上がった。
とりあえずこれで本当に一件落着ってこった。
空に浮かんでいる太陽は、俺たちの勝利を祝福する様に、燦々と光を放っていた。
2
お気に入りに追加
243
あなたにおすすめの小説
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜
平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。
都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。
ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。
さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。
こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる