余命2ヶ月の侯爵令嬢は初恋の竜魔導師に溺愛される

みあはら

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 ドラヴィス家からの返事を待つ間、私は自分の体のある変化に気付いた。喉が焼けるような痛み。それは、黒竜の呪いの初期症状によく似ていた。
 やはりおかしい。今までの人生では、こんなに早く症状が現れたことは無かった。

(これは……まだ誰にも言わない方が良さそうね)

 うっかりお父様にでも知られてしまえば、留学の話も取りやめられ、すべて聞く耳を持ってくれなくなるに違いない。

 本来であれば、私に呪いの症状が現れるまで、もっと時間があったはずだ。呪いをかけられた時期が変わったのか、それとも、呪いの進行速度が変わったのか。
 幸い、他に症状はなく、突然血を吐くようなことも当分無さそうだ。前回も血を吐くまでただの体調不良だと思って特に気にも止めていなかったから、結果として突然の余命宣告となった。

 考えをめぐらせていると、部屋のドアが叩かれる。

「シャル、私だ」

「お父様!どうぞお入りください」

 部屋に入ってきた父の表情は暗かった。

「……バルクスから、留学の帯同の許可が下りた」

「本当ですか!?」

 これで1歩前進と言ったところか。
 言い表しきれない興奮が、私の語気を強める。

「だが、これまた、……ややこしいことになったぞ」

 どうやら、お父様を悩ませているのは私の留学だけでは無いらしい。キョトンと首を傾げると、深く息を吐いた。

「サリーヌ・ウィンフィールド公爵令嬢だ」

 サラがどうかしたのかしら?

「お前の帯同に帯同するなどと、言い出したそうなんだ」

 ……



「ほんっとーーーーーにごめんなさい!」

 会うなりサラは、そう手を合わせて頭を下げてきた。
 父から話を聞いた私は、急遽サリーヌを呼んで話を聞くことにしたのだ。もちろん、困惑していた父も同意してくれた。

「サラ、どうしてあなたまで?」

「実は、のっぴきならない事情があるのよ……お願い、私を信じて、一緒に行かせて欲しいの」

 そう真剣な眼差しで彼女は言い切る。
 サリーヌがバルクスに行く理由なんて、何かあっただろうか。

「でも、バルクスは外部の人間に対して厳しいと聞いたことがあるわ。私はリアム様に帯同させていただくけど、サラの留学を受け入れてもらえるか……」

「ふふ、そこは心配しないで。とっておきの方法を知ってるから」

 なんだか嫌な予感がしないでもないが、そこまで言うのならそうなのだろう。深追いはしないことにした。

「……皇太子殿下はどうするの?」

 2人は既に婚約者候補として顔を合わせているはずだ。ウィンフィールド公爵家が、皇太子妃候補の地位を投げ出して隣国に行くことを良しとするとは思えなかった。

「そこも心配しないで。とっておきの方法があるから」

 ……いよいよサリーヌの笑顔が怖くなってきた。
 それでも、知らない土地に行くのに、親しい友人がついてきてくれると言うのは心強い。

「……わかったわ。ありがとう、サラ」

 サラの気持ちを受け入れ、2人で父に話をした。お父様は、「ウィンフィールド公爵家と皇室が認めているならば、こちらから言えることは無い。気をつけて行ってくるように」と、渋々のようにも見えたが送り出そうとしてくれた。
 リアム様は公爵夫人のご親族の家にお世話になっているようだが、事情があって私を受け入れることが出来ないと父に新しく連絡があったらしい。
 それを聞いたサラが、「であれば、こちらで面倒を見ます」などと言い出す。頼るアテでもあるのだろうか。
 
「すまないね、君には娘が世話になりすぎてしまっているのではないか」

「構いません。シャーロットは___私のたった1人の親友ですから」

 たった1人の親友。私にとってもそうだ。
 いつだって彼女は、自分の事のように私を思ってくれていた。

(……リアム様のことはもういいわ。呪いを解く方法がわかったら、家族とサラと幸せに生きていけばいいんだもの)

 たとえ今私を想ってくれていたとしても、リアム様は最後はきっと「あの人」を選ぶ。それを知っているから。





 ……



 侯爵と親友に別れの挨拶をし、迎えの馬車に乗る。
 馬車はウィンフィールド家の紋章ではなく、この国で最も高貴な獅子の紋章を纏っていた。

「……生きてた、シャルが、生きてたのよ……」

 そう口にすると共に、涙がこぼれた。
 震える肩を、よく知る腕がそっと抱き寄せる。
 今日会うまで、サリーヌが最期に見た親友は、冷えきって、呼びかけてもぴくりともしない姿だった。あの日のことは、一生忘れない。
 あんな思いをするくらいなら、あの男に手紙なんて出すんじゃなかった。そう強く後悔した。
 ……けれどこれは、女神様がくださったチャンスに違いない。

「……ごめんなさい、私のわがままに付き合わせてしまって」

 隣にいた人は、優しく微笑む。
 まさか自分も行くなんて言うとは思わなかったけど、好都合だった。おかげで苦労せずに手続きが出来そうだ。
 今度こそ、あの子の笑顔を奪わせないために。
 そのためなら、異国なんて少しも怖くなかった。
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