余命2ヶ月の侯爵令嬢は初恋の竜魔導師に溺愛される

みあはら

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12- 3度目の正直

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 目が覚めるとそこは、見慣れた場所だった。

 私はドラヴィスにいたはずなのに、ここはランドルフの___私の自室なのだ。
 何があったの?そういえば、リアム様と話したあとの記憶がない。まさか、私はあそこで死んだのだろうか。

(でも、なんだろう……見慣れてるのに、何か違うような……)

「お嬢様、おはようございます」

 エリズの声だ。でも、何故だろう?少し違うような……。違和を感じ、声のした方に顔をやると、そこにはエリズによく似た少女の姿があった。

「!?」

 いや、よく似た少女では無い。彼女はエリズ本人だ。
 まさか……

「エリズ、あなた今何歳かしら!」

「どうされたんですか?先日お祝いしてくださったじゃないですか。14になりましたよ」

 エリズは私の1歳下。つまり、私は今15歳ということになる。
 ……3年前!?
 前回、私が目を覚ました時よりも随分と前だ。
 でも、ということは……もしかしてまだ、呪いをかけられる前とか?
 残された時間が長い分、今度の人生では色々考えることが出来そうだ。
 そして今回は___たとえ黒龍の呪いにかかったとしても、リアム様にはお手紙を出さない。3回目の人生は、もう彼に関わらないで幸せに生きろという、神からのプレゼントなんだわ。うん、きっとそう。
 ……そう、なのよね。
 少し寂しいけど、彼の幸せを考えれば、それが一番なのだ。

(でも……そうね、私が15の年で、エリズの誕生日がもう過ぎたということは、そろそろリアム様がバルクスに留学される頃だわ)

「ドラヴィス公爵家のリアム様は、もうすぐ出立かしら」

 私がそう言うと、エリズはきょとんと首を傾げる。

「お嬢様、何を言ってらっしゃるんですか?」

 エリズが私に聞かせたのは、とんでもない話だった。
 私は慌てて部屋を飛び出し、父の執務室へと向かう。
 どういうことなの!?私とリアム様が___婚約ですって!?

「お父様!」

 勢いよく扉を開けると、その剣幕に驚いたのか、万年筆を手から落とす父の姿があった。

「今すぐに、リアム様との婚約を破棄してください!」
 
「ど、どうしてだ!?昨日まではあんなに喜んでたじゃないか!それに今回の件は公爵家からの申し入れで……」

 ドラヴィスからの申し入れ!?
 一体どういうことなのか、私が2回経験した人生とは、全く流れが変わってきている。前回は、私が行動を変えたから変わったのだとしたら、今回は私は関与していないはずだ。一体何が起きてるの?
 エリズの話しては、リアム様は既に留学に行っていて、3年以内に帰国し、私と結婚をする予定らしい。3年って、前回リアム様が帰ってきた時期くらいだ。
 あまりの情報の多さに、脳が悲鳴をあげている。

「ど、どうしてこんなことに……」

 頭を抑えながらよろりとよろめくと、父が「そんなに嫌なのか!?」と駆け寄ってくる。その父の声は切実だった。普段は穏やかで温厚な父が、これほどまでに動揺しているのを見たのは初めてだ。
 けれども、私にはどうしても理解できなかった。どうして突然、私とリアム様が婚約することになっているのか。

 「お父様、私は......」

 言葉が詰まる。彼が望んでくれることは嬉しいはずなのに、今の私は戸惑いと恐れでいっぱいだった。

「リアム様との婚約が、何か間違っているように思えてならないのです。どうしてこんなに急に......」

 私にはどうしても信じられなかった。頭の中はハテナでいっぱいで、何もかも受け入れるのに時間がかかる。

「それに、リアム様は留学に行かれたばかりなのですよね?」

 私は問いかけた。もし彼が本当に3年後に私と結婚する意思があるとして、なぜ帰国前に行動を起こさなければならなかったのか、それが引っかかっていた。

「そうだ、彼はバルクスに留学した。お前ももう結婚を考え始める年だし、を1人にするのが心配で先に婚約でもと考えてもおかしくはないだろう」

 私の知っているリアム様ではない。彼はそんなに私に強い感情を持ってなかったはずだ。実際に、他に大切な人がいるとも言っていた。もしも、この婚約が彼の意志ではなく、彼に何かしらの圧力がかけられた結果ならば、また、彼を苦しめてしまうことになる。

「お父様、私はリアム様の意志を確かめる必要があります。彼が私と本当に結婚を望んでいるのか確かめるまで、婚約を進めないでいただけませんか?」

 父はしばしの間、私をじっと見つめた。やがて深いため息をつき、頷いた。

「分かった。だが、リアム殿の留学は長い。すぐに結論を出す必要はないが、お前自身がこの婚約についてどう感じるかを考えておくんだ。」

 父のこの言葉を最後に、私は自室に戻り一人で考え込む。
 今回の人生は、何かが前回とは大きく異なっている。リアム様との婚約がその象徴だ。しかし、この変化が良い方向に進んでいるのか、それとも私が何か見逃しているのかは分からない。
 前回、彼に手紙を出さなければよかったと後悔していることは確かだ。もしあの時、彼に重荷を負わせてしまったのだとしたら、今回の婚約も同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。


「リアム様、私はどうすれば……」

 その呟きに、返事などあるはずもなく。
 ……必ず彼の真意を確かめよう。たとえどんな結果になろうとも、この3度目の人生で、私は後悔しない選択をしたいから。
 
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