余命2ヶ月の侯爵令嬢は初恋の竜魔導師に溺愛される

みあはら

文字の大きさ
上 下
10 / 14

10- 夢は終わる

しおりを挟む

 なんとか無事に結婚式を終え、私は重たい鎧を脱ぐ。
 いくら楽なドレスにしてくれたとはいえ、相当重かったわ……!!
 込み上げていた気持ち悪さも喉元を過ぎ去って、今はそれなりに落ち着いていた。
 両親とペルシカは、次の日も用事があるようで、泊まらずに帰って行った。

「シャーロットさん、お疲れ様ね」

 夫人がそう声をかけてくれた。
 着替えもあるから、リアム様と公爵はおらず、2人きりである。

「ありがとうございます、準備から何から、おまかせしてしまって、申し訳なかったです」

「あら、いいのよ。次の式に向けた、予行だと思ってやっただけだもの」

 微笑んだままさらりとそう言うので、最初はうまく言葉の意味を受け取れなかった。5秒ほど考えて、納得した。

「もちろん、私が死んだら、リアム様は次の奥様を迎えていただきたいです」

「ええ、そうね。そうよね。でも勘違いしないでね、私、シャーロットさんのこと嫌いじゃないの」

「夫人がすごく良くしてくださってるのはちゃんと伝わっておりますので、ご安心ください」

 そうだ。私が死んだら、リアム様はきっと次の伴侶を探すのだ。
 ……これは、私のわがままからはじまったものだから。
 幸せになって欲しいと、手放しで思えない自分が、浅ましくていやになる。
 どんどんと欲が深くなっていくのがわかる。死ぬまでの2ヶ月を全力で楽しもうと思っていたけど、なんで……

(どうして私はあと1ヶ月もしないで、死んでしまうの……)

「……夫人も連日の準備等でお疲れでしょうし、ゆっくりお休み下さい!私も少し休みます」

「そうね、あなたの体調が心配だし、このあたりで失礼するわ」

 夫人が出ていき、パタリと扉がしまって、部屋には私とエリズだけになる。

「お嬢様……」

 彼女は小さく私を呼んだ。
 その声音で、彼女の心の内がわかるような気がした。
 優しい子なのよね。

「大丈夫よ。それより、少し疲れたの。横になるわ」

「……はい、何かありましたらお申し付けください」

 とさりとソファに崩れるように座り込む。目を閉じると、当たり前だけれど視界は真っ暗になる。
 今回も、誰が私に呪いをかけたのかはきっとわからない。
 そして間もなく、私の命は尽きる。
 誰よりも、私が知っている。それは、変えられないことであると。

「……シャーロット」

 扉の向こうから、ノックの音と私を呼ぶ声がした。

「疲れてるところごめん、今、大丈夫かな?」

「……はい、大丈夫です」

 私の返事と同時に、扉が開く。私の愛しい旦那様は、心配そうにこちらに向かってきた。

「体調は?」

「今は落ち着いてます」

「そう」

 彼はほっとしたように呟くと、初めの頃は向かい合うのですら緊張していたけれど、私の隣にそっと腰掛ける。すっかりとこの距離にも慣れてしまったものだ。

「……君に、話さないといけないことがある」

 それはいつもよりもゆっくりと、低い声で。慣れない態度に、胸がざわつくのを感じた。

「な、んでしょうか…」

 か細くそう返すと、彼はしばらくの間沈黙を続け、いよいよ口を開いた。

「僕には、君よりも優先しないといけない人がいる。もしかしたら、君を悲しませることもあるかもしれない」

 なんだ、そんなこと。
 わざわざ言ってくれなくたっていいのに。この人も義母も、どうせあと少しの命なら、少しでも夢を見させ続けてくれたらいいのに。
 自分がどんな表情をしているのか、知りたくもなかった。
 けれど真っ直ぐ私を見つめるリアム様の瞳の中には、表情を失った私の姿が映っていた。

「……だが、君が不自由なく過ごせるよう、最善を尽くす。何かあれば、すぐに言ってくれ。力になるから」

「ありがとうございます」

 知らない間に、どんどん欲張りになっていた自分に嫌気がさす。
 最初は、思いを伝えられたらそれでよかったはずなのに。彼の心まで欲しかったなんて、どこまで強欲なのだろう。
 彼の想い人は、どんな女性なのだろうか。
 きっと、素敵な女性に違いない。
 2人のためにも、早く死んであげた方が____。

(____嫌だ、私、今何を……)

 これ以上、この空間にいてはいけない。
 さもなければ、もっと良くないことを考えてしまうような気すらする。
 顔の血の気がさっと引いていったのに彼も気がついたのか、何度も私の名前を呼んでいるようだ。どこか他人事のように、意識の遠くでその声を聞いていた。

「……ごめんなさい、リアム様」

 気づけば、頬は濡れていた。

「私と、離婚してください」

 私のわがままは、最後まで私のわがままであるべきなのだ。
 同情で彼と愛する人を引き離してしまった。それを知ってもなお、死ぬまで彼を独占したいだなんて、とてもじゃないけど思えなかった。

「……シャーロット?どうしてそんなこと……もしかして、違うんだ、シャル、聞いてくれ」

 いつもなら聞き心地のよかった彼の声も、どこかノイズ混じりの雑音のように聞こえる。

「ごめんなさい、今日式を挙げたばかりなのに。でも、もう、十分幸せな気持ちになりました」

「シャル、話を___」

「人生で1番、幸せにしていただきました、だから___」

 リアム様のことを、困らせたりしたくない。
 きっとこれが、私に出来るすべてなのだ。


「シャル!」

「旦那様、どうされ_____お、奥様!?」

 




____お前は、死を受け入れるのか?



 ええ、もう思い残すことは無いもの



____仕方あるまい、哀れなお前達に、もう一度だけチャンスをやろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

婚約解消をしたら、隣国で素敵な出会いがありました。

しあ
恋愛
「私との婚約を解消して欲しい」 婚約者のエーリッヒ様からそう言われたので、あっさり承諾をした。 あまりにもあっさり承諾したので、困惑するエーリッヒ様を置いて、私は家族と隣国へ旅行へ出かけた。 幼い頃から第1王子の婚約者という事で暇なく過ごしていたので、家族旅行なんて楽しみだ。 それに、いった旅行先で以前会った男性とも再会できた。 その方が観光案内をして下さると言うので、お願いしようと思います。

処理中です...