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7-サリーヌの懸念(サリーヌ視点)

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 数ヶ月ぶりにシャルに会った。
 彼女が黒竜の呪いを受けたと聞いてからは、初めての事だった。
 以前会った時よりも、肌は青白く、肌には骨が浮いているように見えた。
 呪いの噂を聞いてから、私は立ち入りが許可されているあらゆる図書館に片っ端から通いつめ、それについての文献を探していた。
 けれど、どの書物にも、書いてあるのは当たり障りのないことばかり。それを見ては落胆し、また探しを繰り返していた私に、1人の老婆が声をかけてきた。
 この図書館にいるということはそれなりに地位のある人物のはずだが、見覚えはなかった。

「お嬢さん、黒竜の呪いについて調べているのかい」

「そうです。私の友人が、呪いをかけられてしまったようで」

「それはそれは……残念だが、ここにある書物はどれも役に立たないよ」

「そう、なのですね……」

「竜についての文献なら、この国より隣国バルクスの方が多いさ。それに、黒竜の呪いの解呪に成功した者もいたと聞く」

「!」

 隣国バルクス。閉鎖的で他国からの侵入を好ましく思っていない国家だ。
 ドラヴィス公爵夫人がバルクス出身だったことから公爵子息が現地に留学していることは知っているが、それ以外の話はほとんど聞いたことがない。

「何故バルクスなのですか?」

「……あそこは、竜の国だからさ。あの国は高い塀の向こうに、竜を飼っている」

「竜はもう何百年も前に絶滅したのでは」

「あの国以外では、と言うべきだろうね」

「……で、あるならば、もしかして黒竜の呪いは、バルクスに関係しているのですか?」

「……アタシから話せるのはここまでさ。お嬢さんの友人に、竜の慈悲があらんことを」

 そう言い残し、老婆は図書館を後にする。
 残された私は、積み上げられた書物をひとまず片付けることにする。ここまで探してもダメなんだ、別のアプローチを考えないと。
 そう思い、バルクスについて記載がある本を探すことにした。しかしやはり閉鎖国家ということもあり、竜に負けず劣らず参考になる文献は中々出てこない。

「……となると、気は進まないけど……」

 唯一バルクスとの交流がある人物。
 リアム・ドラヴィス。
 彼は今、バルクスに留学しており、この国にいない。
 彼ならば何か知っているだろうか?
 
「……アネッサ、便箋を持ってきてちょうだい」

 そうして私は筆をとる。
 いち貴族令嬢である私に出来ることは、この位しかないのだ。
 
 拝啓 この国で最も竜に近い貴方様

 どうか私の友人を、救ってはいただけませんでしょうか。

 その手紙に返事はなかった。
 そしてつい先日、彼女が嬉しそうに私に婚約の話をしてきた。そのお相手こそが、私が手紙を出した相手__リアム・ドラヴィス公爵子息だ。
 まさか私の手紙がきっかけで?

「……サラ。サラ?聞いてるか?」

「…………あ…………ルカ、ごめんなさい。何の話だったかしら」

 そうだ、今は婚約者であるルーカスとお茶をしているところだった。
 彼はティーカップを片手に、眉を寄せながら私を見つめていた。

「最近、ずっとうわの空じゃないか?なにか悩みがあるなら__」

「シャルの事がちょっと心配なだけ。大丈夫よ」

「あぁ……ランドルフ侯爵家の」

 彼女に会った日から、何故か少しだけ、嫌な予感がするのだ。
 あの人が本当に、シャルを助けたいと思ってくれていればいいのだけれど__ほんの少し、胸がザワつく。

「ねぇ、シャルの呪い、きっと解けるわよね」

 私の呟きに、ルーカスの返事はなかった。
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