黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん

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10.望まぬ行為

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 アンジェリアの体は石になったように動かず、エジリオの手を振り払うこともできない。
 服に手をかけられ、ようやく呪縛が緩んだように、びくりと身を震わせる。

「や……やめ……お、おやめください……」

 うまく言葉を紡ぐことができず、どうにかそれだけをアンジェリアは口にした。

「大丈夫、なるべく痛くないようにするから」

 しかしエジリオは見当違いの答えを返すだけで、手を止めようとはしない。
 アンジェリアの服がはだけられ、白い胸が露わになる。

「あっ……!」

 胸にエジリオの手が触れ、アンジェリアの体に衝撃が走る。
 ただ包み込むように触れられただけなのに、そこから熱が生じて、燃え上がるようだった。
 アンジェリアは己の体に何が起こったのかわからず、戸惑う。

「きいてきたかな。さっきの香は、こういうとき用のでね。快楽を受け入れやすくしてくれるんだ。だから、あまり痛みを感じなくてすむと思うよ」
「あぁっ……!」

 証明するように、エジリオがアンジェリアの乳首を指で弾いた。
 甘い痺れが弾け、アンジェリアは喉をのけぞらせる。
 強めの刺激だったが、痛みはなかった。じんじんと痺れるような、甘い感覚があるだけだ。

「ほら、気持ちいいでしょう?」
「やぁ……っ! やめ、やめて……やめてください……あぁん……っ」

 乳首をつまんできゅっと捻られ、アンジェリアは甘い悲鳴をあげる。
 心には嫌悪感しかないのに、体は熱を帯びて快楽を受け入れてしまっている。
 望まぬ行為を今すぐやめさせたいのに、さらなる快楽を欲しがって体が疼く。心と体の乖離が苛立たしくて、アンジェリアは涙を流した。

「きみだって、こうして欲しかったんだろう? こんな人気のないところで二人きりになるなんて、誘っているよね」
「そ……そんな……私、そんなつもりじゃ……」

 男女の機微など知らないアンジェリアは、愕然とする。
 男性と二人きりになるのがよろしくないという意識くらいはあったが、エジリオは次期領主として話を聞いてくれると言っていたのだ。それが、まさかこのようなことになるとは、思いもしなかった。

「何も知らないきみに、教えてあげようとしているんだよ。今のままだと、きみの大切な『旦那様』を悦ばせることなんて、無理なんじゃないかな?」

 痛いところを突かれ、アンジェリアは何も言えなくなってしまう。
 そもそも、アンジェリアが最初にお役目を果たすことができていれば、今の事態はありえなかったのだ。
 しかも、勇気を出してベルナルドに願い出たとは言っても、結局は相手任せだ。自分から何をすればよいのか知っていれば、ベルナルドも拒絶しなかったのかもしれない。

 だが、そうとはわかっていても、このままエジリオを受け入れたくはなかった。
 何がどう嫌なのかは、わからない。ただ、心が拒絶しているのだ。
 アンジェリアはぎゅっと唇を引き結ぶ。

「……どうして、彼に操を立てようとするんだい? ほんの数日前に会ったばかりじゃないか」

 まだアンジェリア自身、答えの出ていない問いを投げかけられる。
 お役目だから、というだけではない何かがあるのは自覚しているが、それの正体はわからない。

「だいたい、彼はいずれこの地を去って、帰ってしまうんだよ。僕だったら、その後だって悪いようにはしない。後のことを考えたら、僕と仲良くしておいたほうがいいんじゃないかな?」
「ひっ……!」

 エジリオは脅迫じみた言葉を口にしながら、アンジェリアの乳首を押し潰すように摘んで、引っ張る。
 一瞬、ちりっとした痛みが走ったが、すぐにそれも甘い痺れに変わっていった。アンジェリアは己の意思とは逆の反応をする体が、恨めしくてたまらない。

 快楽に痺れつつある頭で考えるが、エジリオの言っていることは、そのとおりといえる。
 カプリスにも言われたが、ベルナルドはいずれ王都に帰ってしまうのだ。
 そうなれば、アンジェリアは打ち捨てられるだけとなる。
 エジリオはこの地の領主の息子であり、次期領主だ。彼の庇護下にあったほうが、アンジェリアにとってはよいことなのだろう。

 しかし、そうは思いながらも、やはり心はそれを受け入れようとはしなかった。
 今も、心が思い描くのは、触れるこの手がベルナルドの手だったらよかったのに、というものだ。
 もしそうだったら、とろけるような悦びに満たされたことだろう。

「なかなか強情だね」

 ところが、聞こえてくる声は、望んだ相手のものではない。まるで獲物をいたぶるような、残酷な愉悦のにじむ顔も、違う。
 アンジェリアが触れられたいのは、エジリオではないのだ。
 たとえ側にいられるのはいっときだけだったとしても、それでも構わない。今は先のことなど、考えられなかった。

「やっ……おやめください!」

 エジリオの手が下に降りてこようとしたところで、アンジェリアはその手を払いのけた。
 必死に情欲を抑えて、エジリオから身を離し、はだけた胸を隠す。

「わ……私は、旦那様以外の方に触れられたくありません。どうか、もうおやめください」
「今さらそんなこと言われてもねえ。いいかげん、観念しなよ」

 拒絶するアンジェリアだが、エジリオは取り合おうとはしない。
 意地悪げな笑みを浮かべて、アンジェリアを見下ろしてくる。

「……無理強いなさるなんて、よろしくありませんわ。あ……あなたの、不名誉にだってなるのではありませんか……?」
「へえ、僕を脅迫するの? そんなの、きみが黙っていればわからないことさ」

 どうにか説得しようとするアンジェリアの言葉も、エジリオは鼻で笑うだけだ。

「おっと、誰かに訴えようとしても無駄だよ。次期領主である僕と、身寄りも無い平民のきみ、どっちの話を信じると思う? そんなことをしたって、むしろきみの名誉が傷つくだけだよ」
「そんな……」

 愕然として、アンジェリアは俯く。
 エジリオの言うとおりだった。
 カプリスならばアンジェリアを信じてくれるだろうが、だからといってどうなるわけでもない。状況が変わることはなく、むしろカプリスを心配させてしまうだけだ。
 未だに体の奥でくすぶり続ける情欲の炎もアンジェリアを苛み、何もかもがままならない。

「それとも、きみの『旦那様』にでも訴えてみる? たかが世話役の娘の言うことと、次期領主の言うこと、どっちを信じるかなんてわかりきっているけれどね」

 傲慢な笑みを浮かべるエジリオ。
 何も言い返すことができず、アンジェリアは唇を噛み締めながら、涙をこぼす。
 ベルナルドに信じてもらえないと考えただけで、悲しみがこみあげてくる。
 だが、先ほどエジリオにも言われたとおり、ベルナルドとは数日前に初めて会ったばかりなのだ。アンジェリアが一方的に慕っているだけで、互いの信頼関係が築けているわけではない。

 いっときは意志の力で抑えつけていた体の熱が、徐々に燃え上がってくる。
 消沈したアンジェリアの心では、抗えなくなってきたのだ。

「そうだな。俺はおまえなんかより、アンジェリアのほうを信じるな」

 そこに求めている相手の声が聞こえてきて、とうとう幻聴まで聞こえるようになってしまったと、アンジェリアは霞む頭でぼんやり考えていた。
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