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朝の魔女
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いつもの日常
何一つとして変わらない日々
普通を描いたような生活
これでよかった
私はこれが好きだった
「やっほ~」
いつものように友達に挨拶をする
そしたら挨拶が返ってくる
その後、会話が続く
入学してからクラスにも馴染めて、
楽しい学校生活を送っている
私はこんな毎日を望んでいた
友達がいて、話をして、たくさん笑って
好きな子ができて、ドキドキして
それで、
「マア?聞いてる~?」
友達のフウカの声に現実が戻ってくる
「うん、聞いてないかも」
とりあえず、事実を伝える
「そこは、うんじゃないでしょ」
事実をしっかり言ったはずなのに怒られる
まったく意味のわからないやつだ
「何の話だったの?」
わからないので聞くことにした
やっぱり聞くのは1番だ
フウカは溜息を一回つくと
「仕方ない」といった顔で笑った
「マアの好きな人の話」
「へ?」
言葉が飲み込めず間抜けな声が出た
こいつは突拍子もないことを
少しずつ顔が熱を帯び、鼓動が走り出す
「顔が真っ赤ですぞ?」
にやにやの笑みが面白がっていると物語る
「うるさい」
とりあえず、必死に言葉を紡ぐ
この話を逸らそうと口を開きかけたとき
それを塞がれた
「いいこと聞いちゃったんだよね~」
目が見開かれている感覚がする
うるさいとか言ってごめんなさい
「え、どういうこと?」
思わず聞き返してしまったのも許してほしい
「言うと思った、今週の夏祭りに行くんだって」
主語を言わないのは私への配慮だと思う
「そうなの?」
信じきれず、聞き返す
なぜ情報を持っているのか疑問が膨らむ
だが、そんなのどうでもよかった
「そうなんだよね~だから言ってきなよ」
フウカのにやにや笑みが
面白さから嬉しさに姿を変えたのがわかった
「考えとくね」
溢すように小さく呟いた
明るい空気に溶けるように
「変なの」
フウカは首を傾げて言う
疑問を浮かべるがそれを口には出さなかった
私が好きなカイヤくんは、
隣のクラスで弓道部
誰にでも優しくて、勉強も運動もできる
笑顔が爽やかで透き通っているのが特徴だ
かっこいくてイケメンなところは
女子はもちろん、男子からの人気もある
そんな彼が私は好きだ
夏祭りに行くなら私も行きたい
浴衣が拝めるだけで幸せだ
ついでに鎖骨が見えていたらいうことないです
私はもう死ねますよ
でも、
「朝日さん」
「はい」
集まる視線に返事が自然と出る
先生の感情のない声に妄想から覚めた
しばらく痛い沈黙が場を支配する
何をしていいかわからず頭が焦りで満員だ
先生は呆れを吐いた後、口を開いた
「八行目を読んでください。
次はしっかり聞いてくださいね。」
大人しく返事をした後読み始めた
どうしよう、夏祭り
考えは、注意された後も終わらなかった
思考は続く
夕日が校舎に映える放課後
私は帰宅部なので一人で帰る
フウカは剣道部で今頃頑張っていることだろう
それから夏祭りのことを考え続け、足を動かす
誰もいない靴箱には
校庭から聞こえる部活の声が光を灯す
カイヤくんは弓道部だから、校庭にはいない
靴を手に取ったときだった
「すいません、朝日さんですか?」
思考は停止した
包み込むような優しい声に脳が役目を忘れる
ゆっくりと振り向く
爽やかな笑顔が眩しい
そして顔がかっこよすぎる
やっと脳が役目を思い出すと
顔に熱を伝え、赤に染めた
「このレポート提出って朝日さんにでしたよね?」
そういえば、体育のレポートが今日中に私に提出だったっけ?
「はい、私ですよ」
必死に笑顔を作って、言う
無理が見えているが気にしない
「まだ、大丈夫ですか?」
眩しい笑顔が不安を顔に表す
脳がシャットダウンしかけたがが必死に止める
レポート、提出しちゃったな
「すいません、レポートもう提出しちゃいました
けど、私持っていきます」
真っ赤であろう顔でとびっきりの笑顔を作る
カイヤくんは不安そうな顔を浮かべた
私、得意の元気な笑みで押し切ろうとする
「えっと、一緒に行きます」
はい、来ましたよ、神
え?いいのか、これ
脳は情報過多でパンクを起こしかけるが
それでも熱だけは顔に伝わるのが、恥ずかしくて
顔の赤がブーストをかける
「そ、そうしましょう、そうしてくれると助かります」
言葉が詰まって重なる
通常運転ができない
「じゃあ行きましょう」
カイヤくんが歩き出すのに続く
必死に話題を探る
脳が今までで1番のスピードで回転する
だが、まともに働くはずがない
今この状況を処理するのでいっぱいなのだ
「名前、なんて言うんですか?」
はっ!私としたことが
私たち実は初対面なんですよね~
私が名前を知っているだけに誤算だった
やっぱり上手く頭が回らない
「朝日 マアです。あなたの名前は?」
できる限り笑顔を作って、いつも通りを装う
「天光 カイヤです」
こんなにも嬉しいだなんて
言葉を交わせるだけで
私の言葉に反応をもらえるだけで
心を貫く笑顔が自分にだけ向けられた
それだけで
頭はこの嬉しさをもう一度得たいと言葉を探す
頭がぐるぐる目まぐるしく回る
記憶を遡る
『今週の夏祭りに行くんだって』
夏祭りの話をしよう
脳が声を発そうとした
それを喉が止めた
言えない
怖い、緊張が言葉を押し込める
もし、もし、もし
私は行けないかもしれないんだ
それと、
少し言うだけなのに、私は、私は
いや、違う、違う
しょうがないんだ
「朝日さん、職員室ですよ?」
その声に過去から覚める
気づいたら職員室が見えていた
といってもまだ直線の長い廊下があるのだが
脳が機能を取り戻す
笑顔を作ったら言葉が案外すっと出た
「あ、マアでいいですよ
呼び捨てとか、タメとかで
だって同級生ですよね?」
すごい頑張ったんじゃなかろうか
ネクタイの色から学年はわかる
知ってる情報なのだが
「なら、マアでいい?
僕のこともカイヤでいいし、タメでいいよ」
マアって、え?
夢だよ、本当に呼んでくれるとは
今日死ぬかもしれない、いや、もう死ぬわ
「じゃあ、カイヤくんでいい?」
私は首を傾げて言う
さすがに呼び捨ては気が引ける
「いいよ、マアは何組なの?」
カイヤくんは爽やかな笑顔で笑っている
それが心から笑っているように見えた
「2組だよ、カイヤくんは?」
話題を広げるのは忘れず答える
「僕は5組、遠いね」
もちろん知っているが知らない設定なのでしっかり聞く
「だね、なかなか会わないかもね」
話題を広げられるなら、広げなければ
少しだけでも長く話をしていたい
その努力は虚しく、職員室へと着く
「レポートもらうね」
そう言って手渡しでカイヤくんのレポートを貰う
出さずに私が貰おうかな
私が家宝にしようと思ったが
カイヤくんが隣にいるのでやめておく
出し終えた後も、靴箱まで話をして、
家も割と近いらしく、一緒に帰った
弓道部は火曜日が休みらしく、
友達は部活なので1人で帰っているらしい
だから、来週も一緒に帰る約束をした
来週、楽しみだな
結局夏祭りの話はしなかった
時間は流れ、夏祭り当日の日曜日
私は1人で行くことを決意する
屋台がきらきらと輝き
賑やかな声が飛び交う
行き交う人々は皆、笑顔が溢れている
りんごあめ、かき氷、焼きそば、イカ焼き、たこ焼き
わたあめ、チョコバナナ、クレープ、ベビーカステラ
ポテト、焼きとうもろこし、からあげ、フランクフルト
金魚すくい、射的、ヨーヨー釣り、輪投げ、スーパーボールすくい
個性的な文字で、カラフルな屋台が並ぶ
「すごいな」
思わず感嘆の声が溢れるが、
飛び交う声に消えてしまった
夕日がこの場を包んでいる
日が沈む
もう、覚悟は決めた
私は朝の魔女。
昔、夏祭りに誘われたことがあった
それが嬉しくて断りたくなくて夏祭りに行った
1時間くらいして、もうすぐ花火が上がるときだった
違和感を感じて逃げ込むようにトイレに行った
鏡を見ると右目が灰色に変わっている
瞬きを全くしない目に見つめられる
私は何だ
まるで機械みたいだ
何で私は魔女なの
体が崩れていくような、壊れていくような感覚になる
残る気力で友達に電話して帰った
どうやって帰ったか覚えていない
次の日、私は決意をした
言わなきゃいけないと,魔女であることを受け止めようと
そんな決意も虚しく、誰も信じてくれるはずもなかった
友達に裏切られ、それから変な奴だといじめられた
それから怖くなった、思っていることを言うことが
裏切られると思うと何も言えなくなっていった
なぜ、私に不幸の魔法がかかっているのか
少しずつ向き合っていけるようにはなった
それでもずっと想い続けている
魔女じゃなければ
普通に生きれたら
だから普通に生きようとがんばった
本当だったら、カイヤくんを誘いたかった
断られてもそれでいい
もし、魔女じゃなければ
違う、もう後ろは振り返らない
私は魔女であると決めた
朝の魔女が月を見るためには
魔法を使うしかない
魔女であることを認めないといけない
もう、認めようと決意した
私は朝の魔女
それは曲がらない事実
魔法を使うには、条件を踏む必要がある
それが魔法を躊躇わせる要因となる
まず、薬を飲む
月の光を長時間浴びれるようにするには
薬を飲まないとなのだ
薬を飲んだら夜の間は外にいないといけない
そして、その薬には副作用がある
副作用は記憶の喪失、体の老化
それを治すのが、朝日
魔法の発動条件は朝日
つまり、魔法を使わないといけないのだ
魔法には対価が存在する
魔法を使わないと対価はわからないランダムなのだが、
魔法の大きさで対価の大きさが変わることはわかっている
魔法を使うには覚悟が必要なのだ
私がなぜ、カイヤくんとの恋に魔法を使わないかわかっただろう
魔法を使ったとしても記憶を消される可能性があるからだ
絶賛、魔法を何に使おうか考えている
もうすっかり夜の闇が馴染む
屋台の物も買い、すっかり夏祭りを満喫している
「悪くないかも」
両手いっぱいに抱えられた物が
美味しい匂いを漂わせる
花火を見るために人のいないところに行こうとしたときだった
目に映る光景に思い直した
ああ、夏祭りも夜も、全て最悪だ
私は不幸の魔女だ
最初から1人で行こうと思ったわけじゃない
最後の夏祭り、最後の日かもしれないんだ
どうせならフウカと行きたかった
でも、断られたなら仕方ないじゃない
理由は聞きたくなかった
怖かった
言うのが、裏切られるから
言うのが怖かった?
頭の中で描いた最悪の予想が
当たってほしくなかった
薄々わかっていたんだ
花火を背にして走る
逃げる、逃げる
夜の闇に映える明るい屋台を抜け、
賑やかな声を切り裂くように走って、
たくさんの人を突き飛ばす
頭の中は絶望で染まっていた
スマホの通知も無視して走る
離れるために、走る
全てから逃げたいから走る
あーあ、また裏切られる
カイヤくんとフウカが一緒にいた
楽しそうに笑ってた
ある日の放課後
好きな人がいると伝えたとき
「カイヤが好きなの!?」
驚いた大きな声が教室に響く
本当に驚きが顔に満ちていた
「静かにしてよ!、もお」
声があまりに大きいので注意をする
「ごめんね~、私!応援するよ!なんでも言ってね」
私の手を握って、力強く言った
まるで自分のことのように見える
「あ、小学校が一緒だったからお姉さんに会った事があるんだよね~
あまり覚えてないけどお姉さんとすごい仲がよかったことはすごい覚えてる
他にも情報持ってると思う!頼りにしてね」
笑っていた、希望に満ちていた
私はそれに心が軽くなった
ここなら裏切られないんじゃないかと思った
「もちろん!頼りにしてる」
フウカが憎い
カイヤくんに好かれるフウカが
普通に生きられるフウカが
誰にでも好かれて、
誰にでも優しくて笑顔で
憎い、憎い、憎い
どうして私は好かれないの?
魔女だから?普通じゃないから?
どうして、違うだけなのに
少し違うだけなのに
おかしい、おかしい
私はなぜ救われないの
フウカを魔法で殺そうか
憎いから
悔しいから
ムカつくから
邪魔だから
いらないから
そうすれば、振り向いてくれるだろうか
なんで、こうじゃない
違う、友達を殺すのは正しくない
殺せるわけない
解決方法はもっとある
もっといい方法がある
私はそれを知っている
「連絡、したのか?」
少年は少女に聞いた
浴衣を2人とも着ているが夏祭りとは少し離れている場所にいる
時間にして歩いて5分程度だ
空では火の花が光り輝いている
その光でやっと顔が見えた
「したんだけど既読がつかなくて」
少女はスマホを見ながら、不安を溢している
「計画失敗かよ」
少年は闇の中にぽつりと呟いた
手は拳を握って、顔が下を向いている
「結局、どう言う計画だったの?詳しく聞いてないんだけど」
少女は言葉を拾い、それに繋げた
「フウカが連絡して、マアがここに来て花火の中告白するって言う計画」
少年は少し縮こまり、顔を赤くする
少女は呆れたように言う
「カイヤってモテるくせに恋には疎いよねー、だから彼女できないんだ
自分で誘うっていう選択肢はないわけ?人を頼るな」
散々毒を刺された少年は居心地が悪そうにしている
言い返すことが多すぎて、少年は言い返すこともせず黙った
その沈黙も長くは続かず、電話の着信が響く
少年はスマホを耳にあて、電話に出た
花火の音がかき消す前に少年の驚きに満ちた声が沈黙に落ちた
少年は目を見開き、驚きがひしひしと伝わる
少女はそれを不思議に見つめた
少年の顔が決意的な物に変わるのとともに電話は切れた
「母さんからだった。ごめん、行かなきゃいけない」
少女の返事も聞かず少年は走り出した
朝日が昇る
ここはどこかの屋上
朝日を浴びるには何もない場所がぴったりだ
きっと私を誰かが見てる
私の記憶も感情も偽物だ
魔女だなんて想像の話でしかない
だから私も作り物
きっと、きっと、そうだ
人間への憧れも偽物でしかないんだ
所詮、作り物
こんなに人間らしい感情があるのに
人間じゃないだなんて、1番苦しいじゃないか
本物を見せられ、自分が本物じゃないと突きつけられる
なんていじわるだ
感情があるせいでこんな悩んでいるんだ
妬ましくて、憎らしくて、堪らなくなるんだ
でも、そのおかげで自由に選択ができるよ
魔法を使う
お前の思い通りには使わない
対価なんて受けてやらない
私は、感情で選んだ方法で解決する
この感情がある限り、濁った感情がある限り
私は人間であれる
もっと人間に近づくためには死が必要だ
きっとこんな不幸な私には死がお似合いだろう
手を組んで目を瞑る
朝日に願った
私を、殺して
朝日は昇る
それは1日の始まりを告げる
誰かにとってそれは終わりを告げる
何一つとして変わらない日々
普通を描いたような生活
これでよかった
私はこれが好きだった
「やっほ~」
いつものように友達に挨拶をする
そしたら挨拶が返ってくる
その後、会話が続く
入学してからクラスにも馴染めて、
楽しい学校生活を送っている
私はこんな毎日を望んでいた
友達がいて、話をして、たくさん笑って
好きな子ができて、ドキドキして
それで、
「マア?聞いてる~?」
友達のフウカの声に現実が戻ってくる
「うん、聞いてないかも」
とりあえず、事実を伝える
「そこは、うんじゃないでしょ」
事実をしっかり言ったはずなのに怒られる
まったく意味のわからないやつだ
「何の話だったの?」
わからないので聞くことにした
やっぱり聞くのは1番だ
フウカは溜息を一回つくと
「仕方ない」といった顔で笑った
「マアの好きな人の話」
「へ?」
言葉が飲み込めず間抜けな声が出た
こいつは突拍子もないことを
少しずつ顔が熱を帯び、鼓動が走り出す
「顔が真っ赤ですぞ?」
にやにやの笑みが面白がっていると物語る
「うるさい」
とりあえず、必死に言葉を紡ぐ
この話を逸らそうと口を開きかけたとき
それを塞がれた
「いいこと聞いちゃったんだよね~」
目が見開かれている感覚がする
うるさいとか言ってごめんなさい
「え、どういうこと?」
思わず聞き返してしまったのも許してほしい
「言うと思った、今週の夏祭りに行くんだって」
主語を言わないのは私への配慮だと思う
「そうなの?」
信じきれず、聞き返す
なぜ情報を持っているのか疑問が膨らむ
だが、そんなのどうでもよかった
「そうなんだよね~だから言ってきなよ」
フウカのにやにや笑みが
面白さから嬉しさに姿を変えたのがわかった
「考えとくね」
溢すように小さく呟いた
明るい空気に溶けるように
「変なの」
フウカは首を傾げて言う
疑問を浮かべるがそれを口には出さなかった
私が好きなカイヤくんは、
隣のクラスで弓道部
誰にでも優しくて、勉強も運動もできる
笑顔が爽やかで透き通っているのが特徴だ
かっこいくてイケメンなところは
女子はもちろん、男子からの人気もある
そんな彼が私は好きだ
夏祭りに行くなら私も行きたい
浴衣が拝めるだけで幸せだ
ついでに鎖骨が見えていたらいうことないです
私はもう死ねますよ
でも、
「朝日さん」
「はい」
集まる視線に返事が自然と出る
先生の感情のない声に妄想から覚めた
しばらく痛い沈黙が場を支配する
何をしていいかわからず頭が焦りで満員だ
先生は呆れを吐いた後、口を開いた
「八行目を読んでください。
次はしっかり聞いてくださいね。」
大人しく返事をした後読み始めた
どうしよう、夏祭り
考えは、注意された後も終わらなかった
思考は続く
夕日が校舎に映える放課後
私は帰宅部なので一人で帰る
フウカは剣道部で今頃頑張っていることだろう
それから夏祭りのことを考え続け、足を動かす
誰もいない靴箱には
校庭から聞こえる部活の声が光を灯す
カイヤくんは弓道部だから、校庭にはいない
靴を手に取ったときだった
「すいません、朝日さんですか?」
思考は停止した
包み込むような優しい声に脳が役目を忘れる
ゆっくりと振り向く
爽やかな笑顔が眩しい
そして顔がかっこよすぎる
やっと脳が役目を思い出すと
顔に熱を伝え、赤に染めた
「このレポート提出って朝日さんにでしたよね?」
そういえば、体育のレポートが今日中に私に提出だったっけ?
「はい、私ですよ」
必死に笑顔を作って、言う
無理が見えているが気にしない
「まだ、大丈夫ですか?」
眩しい笑顔が不安を顔に表す
脳がシャットダウンしかけたがが必死に止める
レポート、提出しちゃったな
「すいません、レポートもう提出しちゃいました
けど、私持っていきます」
真っ赤であろう顔でとびっきりの笑顔を作る
カイヤくんは不安そうな顔を浮かべた
私、得意の元気な笑みで押し切ろうとする
「えっと、一緒に行きます」
はい、来ましたよ、神
え?いいのか、これ
脳は情報過多でパンクを起こしかけるが
それでも熱だけは顔に伝わるのが、恥ずかしくて
顔の赤がブーストをかける
「そ、そうしましょう、そうしてくれると助かります」
言葉が詰まって重なる
通常運転ができない
「じゃあ行きましょう」
カイヤくんが歩き出すのに続く
必死に話題を探る
脳が今までで1番のスピードで回転する
だが、まともに働くはずがない
今この状況を処理するのでいっぱいなのだ
「名前、なんて言うんですか?」
はっ!私としたことが
私たち実は初対面なんですよね~
私が名前を知っているだけに誤算だった
やっぱり上手く頭が回らない
「朝日 マアです。あなたの名前は?」
できる限り笑顔を作って、いつも通りを装う
「天光 カイヤです」
こんなにも嬉しいだなんて
言葉を交わせるだけで
私の言葉に反応をもらえるだけで
心を貫く笑顔が自分にだけ向けられた
それだけで
頭はこの嬉しさをもう一度得たいと言葉を探す
頭がぐるぐる目まぐるしく回る
記憶を遡る
『今週の夏祭りに行くんだって』
夏祭りの話をしよう
脳が声を発そうとした
それを喉が止めた
言えない
怖い、緊張が言葉を押し込める
もし、もし、もし
私は行けないかもしれないんだ
それと、
少し言うだけなのに、私は、私は
いや、違う、違う
しょうがないんだ
「朝日さん、職員室ですよ?」
その声に過去から覚める
気づいたら職員室が見えていた
といってもまだ直線の長い廊下があるのだが
脳が機能を取り戻す
笑顔を作ったら言葉が案外すっと出た
「あ、マアでいいですよ
呼び捨てとか、タメとかで
だって同級生ですよね?」
すごい頑張ったんじゃなかろうか
ネクタイの色から学年はわかる
知ってる情報なのだが
「なら、マアでいい?
僕のこともカイヤでいいし、タメでいいよ」
マアって、え?
夢だよ、本当に呼んでくれるとは
今日死ぬかもしれない、いや、もう死ぬわ
「じゃあ、カイヤくんでいい?」
私は首を傾げて言う
さすがに呼び捨ては気が引ける
「いいよ、マアは何組なの?」
カイヤくんは爽やかな笑顔で笑っている
それが心から笑っているように見えた
「2組だよ、カイヤくんは?」
話題を広げるのは忘れず答える
「僕は5組、遠いね」
もちろん知っているが知らない設定なのでしっかり聞く
「だね、なかなか会わないかもね」
話題を広げられるなら、広げなければ
少しだけでも長く話をしていたい
その努力は虚しく、職員室へと着く
「レポートもらうね」
そう言って手渡しでカイヤくんのレポートを貰う
出さずに私が貰おうかな
私が家宝にしようと思ったが
カイヤくんが隣にいるのでやめておく
出し終えた後も、靴箱まで話をして、
家も割と近いらしく、一緒に帰った
弓道部は火曜日が休みらしく、
友達は部活なので1人で帰っているらしい
だから、来週も一緒に帰る約束をした
来週、楽しみだな
結局夏祭りの話はしなかった
時間は流れ、夏祭り当日の日曜日
私は1人で行くことを決意する
屋台がきらきらと輝き
賑やかな声が飛び交う
行き交う人々は皆、笑顔が溢れている
りんごあめ、かき氷、焼きそば、イカ焼き、たこ焼き
わたあめ、チョコバナナ、クレープ、ベビーカステラ
ポテト、焼きとうもろこし、からあげ、フランクフルト
金魚すくい、射的、ヨーヨー釣り、輪投げ、スーパーボールすくい
個性的な文字で、カラフルな屋台が並ぶ
「すごいな」
思わず感嘆の声が溢れるが、
飛び交う声に消えてしまった
夕日がこの場を包んでいる
日が沈む
もう、覚悟は決めた
私は朝の魔女。
昔、夏祭りに誘われたことがあった
それが嬉しくて断りたくなくて夏祭りに行った
1時間くらいして、もうすぐ花火が上がるときだった
違和感を感じて逃げ込むようにトイレに行った
鏡を見ると右目が灰色に変わっている
瞬きを全くしない目に見つめられる
私は何だ
まるで機械みたいだ
何で私は魔女なの
体が崩れていくような、壊れていくような感覚になる
残る気力で友達に電話して帰った
どうやって帰ったか覚えていない
次の日、私は決意をした
言わなきゃいけないと,魔女であることを受け止めようと
そんな決意も虚しく、誰も信じてくれるはずもなかった
友達に裏切られ、それから変な奴だといじめられた
それから怖くなった、思っていることを言うことが
裏切られると思うと何も言えなくなっていった
なぜ、私に不幸の魔法がかかっているのか
少しずつ向き合っていけるようにはなった
それでもずっと想い続けている
魔女じゃなければ
普通に生きれたら
だから普通に生きようとがんばった
本当だったら、カイヤくんを誘いたかった
断られてもそれでいい
もし、魔女じゃなければ
違う、もう後ろは振り返らない
私は魔女であると決めた
朝の魔女が月を見るためには
魔法を使うしかない
魔女であることを認めないといけない
もう、認めようと決意した
私は朝の魔女
それは曲がらない事実
魔法を使うには、条件を踏む必要がある
それが魔法を躊躇わせる要因となる
まず、薬を飲む
月の光を長時間浴びれるようにするには
薬を飲まないとなのだ
薬を飲んだら夜の間は外にいないといけない
そして、その薬には副作用がある
副作用は記憶の喪失、体の老化
それを治すのが、朝日
魔法の発動条件は朝日
つまり、魔法を使わないといけないのだ
魔法には対価が存在する
魔法を使わないと対価はわからないランダムなのだが、
魔法の大きさで対価の大きさが変わることはわかっている
魔法を使うには覚悟が必要なのだ
私がなぜ、カイヤくんとの恋に魔法を使わないかわかっただろう
魔法を使ったとしても記憶を消される可能性があるからだ
絶賛、魔法を何に使おうか考えている
もうすっかり夜の闇が馴染む
屋台の物も買い、すっかり夏祭りを満喫している
「悪くないかも」
両手いっぱいに抱えられた物が
美味しい匂いを漂わせる
花火を見るために人のいないところに行こうとしたときだった
目に映る光景に思い直した
ああ、夏祭りも夜も、全て最悪だ
私は不幸の魔女だ
最初から1人で行こうと思ったわけじゃない
最後の夏祭り、最後の日かもしれないんだ
どうせならフウカと行きたかった
でも、断られたなら仕方ないじゃない
理由は聞きたくなかった
怖かった
言うのが、裏切られるから
言うのが怖かった?
頭の中で描いた最悪の予想が
当たってほしくなかった
薄々わかっていたんだ
花火を背にして走る
逃げる、逃げる
夜の闇に映える明るい屋台を抜け、
賑やかな声を切り裂くように走って、
たくさんの人を突き飛ばす
頭の中は絶望で染まっていた
スマホの通知も無視して走る
離れるために、走る
全てから逃げたいから走る
あーあ、また裏切られる
カイヤくんとフウカが一緒にいた
楽しそうに笑ってた
ある日の放課後
好きな人がいると伝えたとき
「カイヤが好きなの!?」
驚いた大きな声が教室に響く
本当に驚きが顔に満ちていた
「静かにしてよ!、もお」
声があまりに大きいので注意をする
「ごめんね~、私!応援するよ!なんでも言ってね」
私の手を握って、力強く言った
まるで自分のことのように見える
「あ、小学校が一緒だったからお姉さんに会った事があるんだよね~
あまり覚えてないけどお姉さんとすごい仲がよかったことはすごい覚えてる
他にも情報持ってると思う!頼りにしてね」
笑っていた、希望に満ちていた
私はそれに心が軽くなった
ここなら裏切られないんじゃないかと思った
「もちろん!頼りにしてる」
フウカが憎い
カイヤくんに好かれるフウカが
普通に生きられるフウカが
誰にでも好かれて、
誰にでも優しくて笑顔で
憎い、憎い、憎い
どうして私は好かれないの?
魔女だから?普通じゃないから?
どうして、違うだけなのに
少し違うだけなのに
おかしい、おかしい
私はなぜ救われないの
フウカを魔法で殺そうか
憎いから
悔しいから
ムカつくから
邪魔だから
いらないから
そうすれば、振り向いてくれるだろうか
なんで、こうじゃない
違う、友達を殺すのは正しくない
殺せるわけない
解決方法はもっとある
もっといい方法がある
私はそれを知っている
「連絡、したのか?」
少年は少女に聞いた
浴衣を2人とも着ているが夏祭りとは少し離れている場所にいる
時間にして歩いて5分程度だ
空では火の花が光り輝いている
その光でやっと顔が見えた
「したんだけど既読がつかなくて」
少女はスマホを見ながら、不安を溢している
「計画失敗かよ」
少年は闇の中にぽつりと呟いた
手は拳を握って、顔が下を向いている
「結局、どう言う計画だったの?詳しく聞いてないんだけど」
少女は言葉を拾い、それに繋げた
「フウカが連絡して、マアがここに来て花火の中告白するって言う計画」
少年は少し縮こまり、顔を赤くする
少女は呆れたように言う
「カイヤってモテるくせに恋には疎いよねー、だから彼女できないんだ
自分で誘うっていう選択肢はないわけ?人を頼るな」
散々毒を刺された少年は居心地が悪そうにしている
言い返すことが多すぎて、少年は言い返すこともせず黙った
その沈黙も長くは続かず、電話の着信が響く
少年はスマホを耳にあて、電話に出た
花火の音がかき消す前に少年の驚きに満ちた声が沈黙に落ちた
少年は目を見開き、驚きがひしひしと伝わる
少女はそれを不思議に見つめた
少年の顔が決意的な物に変わるのとともに電話は切れた
「母さんからだった。ごめん、行かなきゃいけない」
少女の返事も聞かず少年は走り出した
朝日が昇る
ここはどこかの屋上
朝日を浴びるには何もない場所がぴったりだ
きっと私を誰かが見てる
私の記憶も感情も偽物だ
魔女だなんて想像の話でしかない
だから私も作り物
きっと、きっと、そうだ
人間への憧れも偽物でしかないんだ
所詮、作り物
こんなに人間らしい感情があるのに
人間じゃないだなんて、1番苦しいじゃないか
本物を見せられ、自分が本物じゃないと突きつけられる
なんていじわるだ
感情があるせいでこんな悩んでいるんだ
妬ましくて、憎らしくて、堪らなくなるんだ
でも、そのおかげで自由に選択ができるよ
魔法を使う
お前の思い通りには使わない
対価なんて受けてやらない
私は、感情で選んだ方法で解決する
この感情がある限り、濁った感情がある限り
私は人間であれる
もっと人間に近づくためには死が必要だ
きっとこんな不幸な私には死がお似合いだろう
手を組んで目を瞑る
朝日に願った
私を、殺して
朝日は昇る
それは1日の始まりを告げる
誰かにとってそれは終わりを告げる
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