1 / 1
クズな婚約者に婚約破棄され事実無根の噂を流された私ですが、大貴族の公爵様だけは私を信じてくれました
しおりを挟む
「オリアナ。お前との婚約を破棄させてもらう」
「えっ?」
唐突に告げられたそれに、私は動揺を隠すことができず口に出してしまった。
嘘であってほしい、そう願ったが、彼――フィンの表情は真剣そのものだった。
「俺はお前の妹と再び婚約を結びたいのだ」
「どう、して……」
開いた口が広がらない。確かに妹のアリスは私よりも可愛らしくいい子だ。
でも、あの優しいアリスが姉である私の婚約者と婚約を結ぶとは到底思えない。
もし、仮にアリスがフィンと婚約するのだとしたら、フィンが何かやったに違いないだろう。
「どうしてって、わかるだろう? お前と違い、アリスは扱いやすい。人を疑うことを知らないからな」
「……フィン! あなた、まさかっ!」
「なんだ? 俺はそんな怖い顔をされる謂れはないぞ。騙されるやつが悪いのだ」
「最低っ!」
「罵りたいなら罵ればいいさ。リディア王国にもはやお前の居場所はない」
……フィンは本気だ。さっきの言葉は、脅しでもなんでもない。
本当に、この国に居場所はないのだろう。そうなるようにフィンが何かしたのだ。
きっと、アリスと婚約するのはそのついでか何かに違いない。
……何にせよ、早急にこの屋敷から――いいえ、この国から出て行かなければ。
「じゃあな、オリアナ。もうお前と会うことはない」
「……こっちのセリフよ」
こうして、私は最悪の形で婚約を破棄された。
数時間後。私は荷物をまとめるため、実家を訪ねていた。が、私の荷物はすでに処分されていた。
どうやら、両親は私がいた痕跡を消そうと躍起になっているらしい。
屋敷の使用人たちは私の姿を見つけても、近づいては来なかった。
しかし、
「最低です。私はあなたみたいなどうしようもないクズを姉と慕っていたなんて……。あなたの顔なんて、二度と見たくなかった。早く、この家から出て行って」
と、アリスだけは面と向かって毒を吐いてきた。
はは……、こうも嫌われているとは。本当、アリスは人を疑うことを知らない箱入り娘だ。
私、何も悪いことしてないのになぁ。
でも、国民が私に向ける視線はすべて負のもの。
ここに来るまでに、心ない言葉を何度言われたことか。とてもじゃないけど、耐えられない。
まだ手を出してこないだけマシかもしれないけど……。
……行こう。長居は無用だ。早くこの国から出て行きたい。出て行かなければ……。
そう思いながら、王都の門前までやってきた。
そこには、何やら馬車が止まっていた。商人が使うようなものではない。貴族のものだ。
きっと、私目当てに違いない。遠回りになるけど、別の門から外に出よう。
そう思ったのだが……。
「オリアナ! 僕だ、エリオットだ!」
「エリオット、様……?」
私を見つけたのか、彼は私の元へと駆けてくる。が、私は駆け足で逃げた。
合わせる顔がないのだ。私は彼の求婚を断って、フィンと婚約した。
だから、こんなところ……。
「待ってくれ! 僕は君の味方だ! 前に言ったじゃないか! 何があっても、君を守ると」
それは、ただのプロポーズだ。彼の求婚を断った私には適応されるわけがない。
「僕は君が好きだ! 今でも! 君の悪い噂は、僕が嘘だと公言する。だから、逃げないでくれ!」
「…………」
「大丈夫。僕は、あいつみたいに君を裏切る真似は絶対しないから!」
――それからは、何とか逃げようとする私と必死に止めようとするエリオットによる茶番だった。
先に根負けしたのは私。逃げたらバチが当たりそうなぐらい好意を向けられたのだ。
そのあとは彼の屋敷に連れて行かれて、しばらくの間、お世話になることになった。
彼の両親は私のことを歓迎してくれて、やっぱりエリオット様の両親だな、と思った。
もちろん、それだけじゃない。私の噂を払拭するためにエリオット様は尽力してくれた。
そのおかげで、思ったよりも早く収束して――次はフィンが悪者扱いされるようになった。
それからしばらくして、フィンがエリオット様の屋敷を訪ねてきたのだが……。
「帰ってくれ。オリアナは僕のものだ」
と、いとも簡単に追い返してしまった。
それはとても嬉しいことだけど、また違う意味で私は頭を悩ませることになるのだった。
「私、しばらくは結婚とかしたくなかったんだけどなぁ」
【終わり】
「えっ?」
唐突に告げられたそれに、私は動揺を隠すことができず口に出してしまった。
嘘であってほしい、そう願ったが、彼――フィンの表情は真剣そのものだった。
「俺はお前の妹と再び婚約を結びたいのだ」
「どう、して……」
開いた口が広がらない。確かに妹のアリスは私よりも可愛らしくいい子だ。
でも、あの優しいアリスが姉である私の婚約者と婚約を結ぶとは到底思えない。
もし、仮にアリスがフィンと婚約するのだとしたら、フィンが何かやったに違いないだろう。
「どうしてって、わかるだろう? お前と違い、アリスは扱いやすい。人を疑うことを知らないからな」
「……フィン! あなた、まさかっ!」
「なんだ? 俺はそんな怖い顔をされる謂れはないぞ。騙されるやつが悪いのだ」
「最低っ!」
「罵りたいなら罵ればいいさ。リディア王国にもはやお前の居場所はない」
……フィンは本気だ。さっきの言葉は、脅しでもなんでもない。
本当に、この国に居場所はないのだろう。そうなるようにフィンが何かしたのだ。
きっと、アリスと婚約するのはそのついでか何かに違いない。
……何にせよ、早急にこの屋敷から――いいえ、この国から出て行かなければ。
「じゃあな、オリアナ。もうお前と会うことはない」
「……こっちのセリフよ」
こうして、私は最悪の形で婚約を破棄された。
数時間後。私は荷物をまとめるため、実家を訪ねていた。が、私の荷物はすでに処分されていた。
どうやら、両親は私がいた痕跡を消そうと躍起になっているらしい。
屋敷の使用人たちは私の姿を見つけても、近づいては来なかった。
しかし、
「最低です。私はあなたみたいなどうしようもないクズを姉と慕っていたなんて……。あなたの顔なんて、二度と見たくなかった。早く、この家から出て行って」
と、アリスだけは面と向かって毒を吐いてきた。
はは……、こうも嫌われているとは。本当、アリスは人を疑うことを知らない箱入り娘だ。
私、何も悪いことしてないのになぁ。
でも、国民が私に向ける視線はすべて負のもの。
ここに来るまでに、心ない言葉を何度言われたことか。とてもじゃないけど、耐えられない。
まだ手を出してこないだけマシかもしれないけど……。
……行こう。長居は無用だ。早くこの国から出て行きたい。出て行かなければ……。
そう思いながら、王都の門前までやってきた。
そこには、何やら馬車が止まっていた。商人が使うようなものではない。貴族のものだ。
きっと、私目当てに違いない。遠回りになるけど、別の門から外に出よう。
そう思ったのだが……。
「オリアナ! 僕だ、エリオットだ!」
「エリオット、様……?」
私を見つけたのか、彼は私の元へと駆けてくる。が、私は駆け足で逃げた。
合わせる顔がないのだ。私は彼の求婚を断って、フィンと婚約した。
だから、こんなところ……。
「待ってくれ! 僕は君の味方だ! 前に言ったじゃないか! 何があっても、君を守ると」
それは、ただのプロポーズだ。彼の求婚を断った私には適応されるわけがない。
「僕は君が好きだ! 今でも! 君の悪い噂は、僕が嘘だと公言する。だから、逃げないでくれ!」
「…………」
「大丈夫。僕は、あいつみたいに君を裏切る真似は絶対しないから!」
――それからは、何とか逃げようとする私と必死に止めようとするエリオットによる茶番だった。
先に根負けしたのは私。逃げたらバチが当たりそうなぐらい好意を向けられたのだ。
そのあとは彼の屋敷に連れて行かれて、しばらくの間、お世話になることになった。
彼の両親は私のことを歓迎してくれて、やっぱりエリオット様の両親だな、と思った。
もちろん、それだけじゃない。私の噂を払拭するためにエリオット様は尽力してくれた。
そのおかげで、思ったよりも早く収束して――次はフィンが悪者扱いされるようになった。
それからしばらくして、フィンがエリオット様の屋敷を訪ねてきたのだが……。
「帰ってくれ。オリアナは僕のものだ」
と、いとも簡単に追い返してしまった。
それはとても嬉しいことだけど、また違う意味で私は頭を悩ませることになるのだった。
「私、しばらくは結婚とかしたくなかったんだけどなぁ」
【終わり】
0
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
まほりろ
恋愛
【完結】
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。
婚約者に初恋の従姉妹といつも比べられて来ましたが、そんなに彼女が良いならどうぞ彼女とお幸せに。
天歌
恋愛
「シャティならもっと気の利いたことを言ったのに」
「お前といると本当に退屈だ。シャティといればいつでも心躍るのに」
「シャティの髪は綺麗な金色で花も霞んでしまう程なのに、お前の髪は本当に地味だな」
「シャティは本当に優しくて美しいんだ。それに比べてお前は氷のように冷たいな!」
私の婚約者であるエルカルト・ルーツベットは、毎度毎度顔を合わせる度に私をこのように彼の初恋の相手である彼の従姉妹のシャティ様と比べては私を卑下するような事ばかり言う。
家の為の結婚とは言え、毎度このように言われては我慢の限界を迎えつつあったある日。
「あーあ。私は本当はシャティと結婚したかったのに!お前のせいで思い合う二人が引き裂かれた!!悪魔のようなやつめ!!」
そこまで言うならばお好きにどうぞ?
ただし…どうなっても知りませんよ…?
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった
七瀬ゆゆ
恋愛
王宮で開催されている今宵の夜会は、この国の王太子であるアンデルセン・ヘリカルムと公爵令嬢であるシュワリナ・ルーデンベルグの結婚式の日取りが発表されるはずだった。
「シュワリナ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」
「ごきげんよう、アンデルセン様。挨拶もなく、急に何のお話でしょう?」
「言葉通りの意味だ。常に傲慢な態度な貴様にはわからぬか?」
どうやら、挨拶もせずに不躾で教養がなってないようですわね。という嫌味は伝わらなかったようだ。傲慢な態度と婚約破棄の意味を理解できないことに、なんの繋がりがあるのかもわからない。
---
シュワリナが王太子に婚約破棄をされ、王様と結婚することになるまでのおはなし。
小説家になろうにも投稿しています。
悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活
束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。
初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。
ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。
それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
今さら跡継ぎと持ち上げたって遅いです。完全に心を閉ざします
匿名希望ショタ
恋愛
血筋&魔法至上主義の公爵家に生まれた魔法を使えない女の子は落ちこぼれとして小さい窓しかない薄暗く汚い地下室に閉じ込められていた。当然ネズミも出て食事でさえ最低限の量を一日一食しか貰えない。そして兄弟達や使用人達が私をストレスのはけ口にしにやってくる。
その環境で女の子の心は崩壊していた。心を完全に閉ざし無表情で短い返事だけするただの人形に成り果ててしまったのだった。
そんな時兄弟達や両親が立て続けに流行病で亡くなり跡継ぎとなった。その瞬間周りの態度が180度変わったのだ。
でも私は完全に心を閉ざします
【短編】可愛い妹の子が欲しいと婚約破棄されました。失敗品の私はどうなっても構わないのですか?
五月ふう
恋愛
「お姉様。やっぱりシトラ様は、お姉様ではなく私の子供が産みたいって!」
エレリアの5歳下の妹ビアナ・シューベルはエレリアの婚約者であるシトラ・ガイゼルの腕を組んでそう言った。
父親にとって失敗作の娘であるエレリアと、宝物であるビアナ。妹はいつもエレリアから大切なものを奪うのだ。
ねぇ、そんなの許せないよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる