夢だった跡地

阿波角郁甫

文字の大きさ
上 下
1 / 1

夢だった跡地

しおりを挟む
「ねぇねぇ、廃墟探索しない?!」
 普段は真面目な彼女が興奮気味にやってきた、どうやら何か見つけて来たようだ。
「いきなりどうした?」
「私の知り合いから有力な情報をゲットしたのよ」
「どうせSNSのタイムラインに流れてきた情報だろ?」
 ちなみに以前に「とある情報筋から得た情報なんだけど……」といって情報元は雑誌か何かだったので正直大した情報は期待していない。
「よく分かったじゃない、何と今回の廃墟は遊園地、名前はドリームランドって言うの!」
「なんか随分古い名前だな」
「なんでも東京のアレより古い遊園地なんだって」
「へぇ」
「時代が進むごとに娯楽が多様化していって、年々客足が遠のいていたけど、大阪にできたアレでお客さんが一気に減って15年くらい前に閉園したんだって」
「なんかまた一つ頭が良くなったわ」
「どういたしまして」
 彼女はいろんな趣味を持っており広く浅い色々な知識を持っている、今は廃墟探索にハマっている、しかし心霊系は苦手で廃校や廃病院は怖いとの事で実際に行く気はないようで、動画サイトで見る程度で満足していたようだが、どうやら今回はそうもいかないようだ。
「ちなみに場所はどの辺?」
「隣の県の中心からすこし離れた所にあって、ここからならかなり近い方そんなにかからないしで行ってみようよ」
「てかそこって心霊スポットとかになってないの?」
「調べた限りだとなってるっぽいけど目撃例とか近くに怪しいものは無いかな、とりあえず廃墟だから心霊スポットになってる感じだね、オカルト的な物を強いて言うなら世界遺産のお寺とかがあるくらいかな?」
「ならいい、のか……、じゃあ今度の休みに行くかぁ」
「やったぁ!、絶対だからね、絶対に予定空けておいてね!」
「はいはい」
 
後日、休みを合わせて件の廃墟に向かう事になった、行き方は単純で地元の最寄り駅から隣の県の主要駅に向かうだけだ。
「……本当にあるのか?」
県の主要駅なので駅の外は都会で見渡しても様々なビルが乱立しており、とても廃墟の遊園地があるとは思えない。
「これがあるんだなぁ、とりあえずここからバスが出てるからそれに乗って目的地に向かいましょう」
「ちょっとまって」
「何?」
「いやこんな真昼間に行ったら警備とかにつかまったりしないか?」
「大丈夫なんじゃない、というかバスの時間とかそっちは大丈夫かな」
 バスの時間を確認してみると1時間に2本ありかなり遅くまで運行しているようで駅の近くで遊んでいても問題はなさそうだった。

「案外早くついたな」
「そうね……」
 バスに乗り込んでから直ぐに都会の喧騒がなくなり3分ほどで自然が多く見え始め、おおよそ10分程で目的の近くのバス停に到着した。
「とりあえずあそこで時間潰そうよ」
「まぁそうだな」
 彼女が近くのファミレスを指定する、夕飯にはまだまだ早いが時間をつぶせそうな所はそこしかないようだ。

「そろそろいけるんじゃない?」
「いくかぁ」
 時刻は夕方になった、さすがにもう警備などはいないだろう。
 長居したせいで高くついた料金を精算してファミレスを出る、外にはさきほど利用したバス停とコンビニと閉鎖されたドリームランドの入り口がある、後は自然が広がっておりどこか寂しさを感じる。
「さぁ、いくわよぉ!」
 そんな雰囲気とは正反対に彼女のテンションは高い、ついでに自分も少し上がってきた。

 中への侵入は横道から簡単に入ることができた、一応立ち入り禁止なので厳重にしてあると思っていたがそうでもなかった。
 至る所から雑草が生えたアスファルトの道を進んでいく、かなり放置されているようでひび割れが多く躓いてしまいそうになる。
 すこし歩けば瓦礫の山になっている入場ゲートを通り抜けるとドリームランドの内部入れたようだ。
「おぉすごい」
 初めて廃墟に侵入した事がうれしいのか大きな声が出てしまったようで慌てて口元を抑える。
「確かにすごいな……」
 自分も廃墟探索は初めてなので気持ちは分からなくもない。
「じゃあ順番に回っていくわよぉ」
 入場ゲートだけでも見れる所はいくつもあるが崩れている所が多く進めない所が多い、従業員用の通路なども通れるのでまるでゲームのダンジョンを探索しているみたいだ。

「何かお宝とか無いかなぁ……」
「うーん時間も経ってるし無いかなぁ」
 瓦礫から何か見つけようとしているが目ぼしい物は見つからない、機械類も破壊されており安易に触ってしまえばケガしてしまいそうになる。
「あんまりないから次行こう!」
 彼女が飽きてきたようで次を目指す。

 次はアーケード街跡地だ、この辺の建物はスプレーによる落書きが多く見られ、かなり痛々しいものになっている。
「廃墟はいいけどこういのは嫌だね、こっち行こう」
 彼女も落書きに関しては嫌悪感があるようで落書きが少ない建物へ侵入していく、中はもともとお土産屋さんだったようで木でできた棚が散乱している。
「ココも何もなし、何にもないね」
「だねぇ、先駆者が粗方持って行ったんだろうな」
 棚には何もなく、またバックヤードに侵入しても何もなかった。
「何にも無いのならアトラクションの方に行こう!」
「そうだな」
 アーケード街で沈みかけた気持ちを切り替えて本命の所に向かう。

アーケード街を抜けて中央にある噴水跡に到着した。
「いいじゃん、すげぇじゃん」
「ほえー」
 錆び付いたアトラクションは満月の光が当たって神秘的な様相を呈しており、廃墟の良さが分からなかった自分でさえコレは良いものだと思えるようだ。
「どうよ、すごいでしょ」
「さすがにこの光景を見たらもう否定はできないな」
「でしょー」
 満足そうに彼女が笑う、周りが廃墟でなければ良いのにとか思ってしまった。

 しかしそれからは地獄だった、朽ちて崩れそうな足場や悪臭の立ち込める部屋、触ったら今にも全部壊れそうな物が多くて迂闊に動けなかった、彼女は興奮して分からなかったのか小走りになりながらじっくりと見て回っている、そうやって無邪気に走り回っていると危なっかしくてしょうがない。
「おいおい大丈夫か?!」
「大丈夫大丈夫私軽いから」
 そういって軽快にジェットコースターのレールに降りた、普通なら危険で立ち入る事ができない所に足を踏み入れる、もっともこの廃遊園地自体が立ち入り禁止だが……。
「本当に大丈夫、か?」
「大丈夫だって、こっち来なよ」
「お、おう」
 恐る恐る自分もレールに乗ってみる。
「……何かいいな」
「でしょー」
 レールに立ってみると背徳的というか何と言うか不思議な気分になった。
「行ける所まで行ってみようよ」
「いやさすがに危ないって……」
「行けるっしょ」
 テンションが上がった状態なのでこうなってしまえばもう彼女を止められない。
 彼女が進みだすと大きな音と共にレールから落下した。
「ちょっ、おい大丈夫!?」
 気を付けつつ慌てて彼女が落ちた所まで向かう。
「ヘーキヘーキ、下が柔らかくて助かったわ」
 レールがスタートしたばかりの所だったおかげでそこまで高くもなく、地面も柔らかかったおかげでケガが無かったようだ。
「こっちおいでよ、こっからならすぐに出られるよ」
「そうだな」
 暗くて地面が見えないが彼女もいることだし勇気を出して飛び込む、確かに地面が柔らかい土のようで楽に着地ができた、確かにすぐに出られそうだ。
「流石に帰るか」
「……そうだね」
 コースから落下すると上がっていたテンションが下がり冷静になり帰る雰囲気になった。

 崩れた入場ゲートを通りドリームランドを出る、後は少し進んで立ち入り禁止の看板をよけて出るだけだ。
「……おかしくない」
「……だな」
 もう5分は歩いたハズだが一向に出口である立ち入り禁止が表示してある看板が見えてこない。
「一旦引き返すか?」
「そうだね、高い所から見れば分かるかも」
 そうして一度引き返す事になり後ろを振り向くとすぐ崩れた入場ゲートが見えた。
「もしかしてココに閉じ込められた?」
「っぽいね」
「いや、試しに走ってみて」
「おう」
 試しに出口に向かって全力で走ってみるが一向に景色が変わる様子はない、試しに振り向いてみると彼女が腕を組んで立っていた。
「アレ?」
「完全に閉じ込められたね」
「動いてた?」
「私の目には止まっているように見えたけど振り向いた途端に息切れしていたから多分走ってたんじゃない」
「つまり閉じ込められたと」
「それで確定ね、さてどうやって脱出するか……」
「だなぁ……」
 怪奇現象に遭遇し、落ち込んでいる自分に対して彼女の方はどう攻略してやろうかとテンションが上がっているようだ。

「どうやって出るんだろ……」
「何か分かるの?」
「何にも分からない、こんな体験は初めてだし、そういったゲームは実況プレイとかでしか見たことないし……、とにかくしらみつぶしに探索するしかないかな」
「マジかぁ……」
 再び入場ゲートに侵入して何か手がかりがないか探索を始める。
「……同じか」
 改めて探索したが、手がかりになりそうな物は見つからない、特に注意して見ていたわけでは無いのだが先ほどとの違いは無いように思える。
「次行きましょう」
 次はアーケード街に行ってみたがこちらも特に目ぼしい物は見つからなかった、前回行かなかった落書きが多くある建物にも行ってみたが残骸と呼べるような物しかなかった。
「せめてマップかパンフレットとかあれば……」
「昔の遊園地だけどホームページとか残ってないかなぁ」
「確か残ってたような、スマホは使えるのね」
「使える方がいいんじゃね?」
「こういうのって大体使えないものなんだけど、でも使えた所で助けを呼んだ所で信じてくれるかどうかだし、それに調べ物ができるのなら便利なもんよ、謎解きってリアル知識を要求してくるのよ、北欧神話とか仏教とか星座とかね」
 スマホが使える事でやる気が回復したのか饒舌になった、自分はまだテンションが上がっていないので「お、おう」としか答えられなかった。

 再び噴水跡まで戻ってきた。
「喉乾いてきた」
「だな」
 時刻は既に日付を越えておりかなりの時間が経過している、今いる所には廃墟なので当然食料などを手に入れる事はできない、ドリームランドの外にはコンビニがあったが出られないので意味はない。
「お腹も空いてきたし早く出よう」
「そうだな……」
 早く出ていこうとやる気を出すと遠くからこちらに歩いてくる足音が聞こえてきた。
「……?!」
 ファミレスを出てから人と会っていないのでおそらく自分たちと同じで閉じ込められた人がテンションが上がった彼女の声に釣られて来てしまったのだろうか、それとも別の何かだろうか。
「あなた達も迷子なんですか?」
 彼女が臆することなく向かってきた人に対して話しかける。
「私達は迷ってはないですよ」
 向かってきたのは男女の2人組で装飾品が多かったであろうボロボロの服を身に着けている、しかし髪の毛や肌には汚れはなく綺麗で普通の服装をすれば映えるであろう美形をしている。
「ココから出られる方法って知っていますか?」
「閉園ならまだ時間がありますよ」
「……閉園過ぎて残っていたらどうなるの?」
「みんな楽しんでいますよ」
「……あなた達の服は随分ボロボロね」
「もうずっと新しい物が来ないんです」
 どうも会話が出来ていない様子で彼女が少しイライラしているようだ。
「私達にはどうしてほしい?」
「でしたらアトラクションを回ってはいかがでしょうか?」
「……これは全部クリアすれば脱出できるかもしれない、アトラクションは全部でいくつあるの?」
「アトラクションはたくさんあって僕たちも把握しきれていないんだ、でも見たら解説できると思うよ」
「本当について行くのか?」
「こういうのはやった方が良いの、マンチプレイなんかしたら即ゲームオーバーなんて事もあるんだから」
「そうなのか?」
「そうなの!」
「お。おう」
「それじゃあ行くわよ、一番近いアトラクションは何?」
「ココから一番近いアトラクションはムーンビーストゴーカートだよ」
「ムーンビースト、ドリームランド……」
 その名前を聞いた瞬間に彼女が顔から余裕や楽しむといった感情が消えていく。
「何か知っているのか?」
「詳しく話したら余計な事になるから終わったら話すね、とにかく今は目の前のアトラクションをクリアする事に集中した方がいいわ」
「うっす」

 2人組の案内で近くのアトラクションに案内された、廃墟探索の時には無かったハズだがいつの間にか大きなサーキットとも思えるような場所に到着した。
「ここがムーンビーストゴーカートだよ、ルールは簡単、ムーンビーストの攻撃を回避してゴールするだけ、大丈夫ダメージはカートが肩代わりしてくれるから」
 コースの方を見てみると見たこと無いような生き物が走っているカートに向かって槍を射出していた。
「アレやるの?」
「やるしかないでしょ……」
 まるでテストを受けているような彼女の表情に生半可な気持ちではダメだと切り替える。

 受付に向かうと既に用意が出来ているようですぐに搭乗させられた、車の運転はレースゲームを少ししかやった事がないので操作性がいまいち分からず不安定な走行になってしまった、しかしそのおかげで槍は全部回避できたようで何とかゴールまで到達した。
「案外楽しかったかも」
 最初こそ苦戦していたが徐々に操作になれてスピードも出せるようになったので段々と楽しくなっていった、そう思った瞬間にゴールだったので少し惜しい気持ちもある。
「私は散々なんだけど……」
 彼女の方を見ると彼女自体は無事だがカートがボロボロになっておりもはや走行も不可能ではないかと思えるほどだ。
「少し休んでから次行きましょう、出来れば自分で歩ける所が良いわ」
「でしたらお化け屋敷なんてどうでしょう?」
「え、そこは……」
「いいじゃんお化け屋敷といえば定番だし」
 そういえばお化け屋敷は行った事がないし、今のココから出られないという怪奇現象と比べればどうという事は無いだろう、どうせ作り物だろうし。

 彼女と少しばかり休憩した後に2人組の案内でお化け屋敷に向かう、中は迷路になっており、出てくる物も怖いというよりも気持ち悪いと言った方が正しい見た目をしていた、脅かすだけで襲ってこないので安心して見られるハズだが彼女が全力で走ってしまうのでかなり早く終わってしまった。
「大丈夫か?」
「無理かも……」
 ホラー系は元々苦手だと知っていたが逃げ出して肩で息をするほど疲弊するほどだっただろうか。
「休める所ってある、出来ればじっくりと座れる所がいい」
「じっくり座れる所……、ジェットコースターですね!」
「そうだよ、遊園地といえばジェットコースターだ、今回のは壊れたりしないよね?」
「もちろん、安心安全設計で目的地まで運びますとも」
 彼女の足取りが重いので到着まで時間がかかってしまった。

「さっきから見えていたアレに乗るんじゃないの?」
「アレはこの前使えなくなったから別のヤツなんだ、コレはこのドリームランドの中を一周するからかなり長い物になっているだ」
「それは凄い!」
 ドリームランドの外周を見回して見ると暗くて見えづらいが確かに起伏が激しいレールが見える、これなら昼間なら遠くまで見渡せそうだ。
「できれば乗らずにこのまま椅子に座っていたいのだけど……」
「大丈夫、ドリームランドを一周するのに時間がかかるからココに戻ってくるまで少し時間があるからそれまでゆっくり休めますよ」
「……そう」
 いつになく彼女のテンションが低い、ゴーカートでの失敗やお化け屋敷での全力疾走で疲れてしまっているだろうか。

「乗るしかないのよね……」
しばらく休んでいるとジェットコースターがやってきた、かなり頑丈そうな作りをしており、これなら大きく高低差で振り回されてもしっかりと固定されるだろう。
さっそく最前列に乗り込みしっかりと固定する、自分たち以外にも誰かいるように複数人がジェットコースターに乗り込む気配がした。
「それでは出発進行!」
 大音量でベルが鳴り響きジェットコースターがゆっくりと動き出した、最初はやはり高い所に移動するためにほぼ垂直に上がっていく、角度のせいでどこまでが頂上なのか判断できない、今か今かとワクワクしながら落下までを待つ、そして……。

「楽しかった!」
 人生で初めてジェットコースターに乗り込んだが、こんなに楽しい物とは思わなかった。
「私はもう、無理……」
 彼女の方は苦手だったようで完全にダウンしていた、しかしジェットコースターで上がってしまったテンションのままに次のアトラクションに行きたくてしょうがない。
「ここから一番近いアトラクションは何があるかな」
 興奮のあまり無警戒のまま二人組に食い入るように聞く、向こうは少し考えてから近くにある建物を指さす。
「アレは?」
「アレは……、確か以前にとあるヒーロー番組とコラボした時のアトラクションだったと思うんですけど、いまいち思い出せなくて……」
「おぉ、コラボいいじゃん行こう!」
 何とコラボしているか分からないが遊園地とコラボするのでおおよそ知っている物だろう、この上がったテンションならば全力で楽しめる気がする。
「やるぞー」
「おー…」
 自分が1人で行こうとすると彼女が置いて行かれるのが嫌だったのか少し慌てた様子で着いてきた。

「というかコレは何のアトラクションなんだ?」
「それが僕達には……」
「完全初見か、やってやろうじゃないか」
 ワクワクしながら挑む、中はどうやらヒーローと一緒に敵を倒す感じでゲームをプレイする感覚で遊べるようだ、さっきまでのアトラクションはどちらかというと道が決まっているが今回はどうなるか分からないので更にワクワクする。
「この勝負に負ければキサマ達は人形になって永遠にココに閉じ込められる事になるのだぁ、つまり二度と帰る事は許されない……フハハハハハ」
 悪役のワザとらしい演技が開始と共に響き渡る。
「やってやろうじゃないか!」
「いいねぇやってやろうぜ!」
 彼女はいきなり復活した、それに答えるように自分も吠える、2人で協力してステージを進めていく、なかなか難しく確実に子供はクリアできないであろう難易度だ。
「これで最後だ」
ついに最後のステージに到着した、最後はヒーローと一緒に巨大な敵を倒すイベント戦みたいな物だ、敵を追い詰めてとどめの必殺技を一緒にポーズを決めて叫ぶ、すると画面から目が開けられないほどの光が辺りを照らした。
「うわっ」
 思わず手で視界を塞ぐ。


「……終わった?」
 恐る恐る手を放して様子をうかがう、既に光は無くなっておりついでに遊んでいたハズのアトラクションは建物ごとなくなっていた。
「何だったんだ……」
「だから早く出ていこうよ」
 彼女が自分の手を取り必死になっている。
「ここから出るにはどうしたら良いの?」
「わかりました、こちらです」
「アレ」
 さっきまで話が通じない雰囲気だったのが一変して真剣な表情になり出口を教えてくれる。

 2人組の案内される方向は正面の入場ゲートから若干ずれた方向を目指しており、おそらく昔は従業員用の出入口か何かだろうか。
「いきなりなんで」
「先ほどの光で私達は気が付きました、自分たちが何者なのか そしてドリームランドがもう無い事を……」
「なんでいきなり」
「なんでかはわかりませんが先ほどの光で私達は目が覚めたと言いますか、とにかく出口まで案内します」
「お願いします」
 2人組に案内されて出口に向かう、先ほどまで気がつかなかったがお化け屋敷で見たような化け物がこちら向かってきている。
「ねぇ武道の心得ってある?」
「あるわけない」
 いきなり彼女から戦えるか聞かれた、そんな生き方はしていないのでアレと戦えるかと言われたら当然無理と言うしかない。
「私も武器とかないからどうしょうもない」
「アレって襲ってくるのか?」
「知らないわよ」
 言い合いをしていると4人の前にスーツを着た特徴のない男が現れた。
「お前たちの役目は楽しませる事でココから出す事ではない」
 スーツの男はゴミを見るような視線でこちらを見ている。
「何が楽しませるだ、私達はずっとお客様を笑顔にして楽しませる事を願っていた、そしていろんな楽しい顔を知っている、覚えている、少なくてもここにいる人達はそんな顔も声もしない、ここは私達の知っている夢の国ドリームランドではない!」
 今まで営業スマイルだったのが一気に感情を爆発させる。
「そうだよ君たちの知っている所ではないさ、でもドリームランドには変わりないけどね」
「ならば私達はこの人達と共にココを出ていく」
「別にいいよ、やる気のないヤツはいらないからね、でもココをでたら君たちは存在できないよ、もうココの住人なんだから」
 残酷な笑みを浮かべて2人組を見る。
「それでも構わない、本当の、心からの笑顔の無いこの世界にいる気はない」
「あっそ」
 そう言ってスーツを着た男は興味を失ったのかその場で消えてしまった。

「早くこんな所を出ましょう」
「でもそんな事をしたらあなた達……」
「いいのです、私達はココの住人かもしれませんが、こんな所にいる気はありません、それよりもあなた達をこんな所から脱出する事が先決です、念のためコレを持っていてください」
「これは……」
「これはドリームランドのパンフレットです、出口はココですのでお間違えのないように」
 パンフレットのマップにある入場ゲートの左側の何もない所を指さす」
「ココは?」
「従業員用の出入口です、本来なら立ち入り禁止なんですが、ココでは違いますからね」
「わかりました」
 4人で走りながら入場ゲートを目指す、途中で彼女が売店の所で歩きだす。
「どうしたの?」
「いやぁ、武器とか無いかなって……」
「そんな物無いでしょ」
「あったわ」
「あるんだ」
 彼女が残骸から取り出したのは鉄パイプだ、確かにこれなら誰にも拾われずにずっとあったのだろう。
「でもなんで今更」
「こういうのは持っておいて損はないの、得もないかもだけど」
「お、おう」
 彼女の用事も済んだので再び走り出す。

「ほら、やっぱり得じゃん」
「いやぁ、うん」
 入場ゲートを目前にしてお化け屋敷にいた化け物が大量にいた。
「私達で道を作りましょう、あなた達はその隙に脱出をお願いします」
 いつの間にか彼女の持っていた鉄パイプを奪っており、化け物に向かって走りだした。

 2人の連携で何とか通り抜けられそうな道ができたので全力で走り抜ける。
「到着しました、あなた達も!」
「出すわけないじゃん」
 出口に近づいた途端に上から黒い塊が降ってきて化け物と戦っていた2人に襲撃してきた。
「私達に構わずもう行って下さい!」
「くっ……」
 こんな時に役に立てないのが悔しい、しかしじっとしていても邪魔になるので急いで出口を目指す。
 周囲の物をお構いなしに破壊しながたこちらに向かってくる音がする、振り向いてはいけないような気がしたので全力で建物の中を走り抜ける。
「あと、少し……」
「させないよ」
「こちらのセリフだ」
「え」
 振り返ろうとした時に背中を押されて外に出る。

「お客様、お客様」
「……あれ?」
 気が付くとファミレスで目が覚めた。
「もう閉店の時間になります」
「あ、すいません」
 彼女を起こして会計を済ませてから再び出る。
「……夢?」
「まぁドリームランドだし」
「やっぱ行ってたか」
 財布をポケットに入れようとすると中に何か入っていた、何だろうと思い取り出すとさきほどもらったドリームランドのパンフレットが入っていた。
「マジかよ」
 パンフレットをよく見てみるとついさっき脱出を手伝ってくれた2人組にそっくりなマスコットキャラクターが描かれていた。
 ファミレスが閉店する時間にバスが走っている訳もなく、30分ほど歩いて駅まで向かうものの当然終電も終わっており、近くのカラオケで一晩すごす事になった。

「そういえばこの前のアレとかって何で知ってたの?」
「アレはクトゥルフ神話よ」
「ナニソレ?」
「クトゥルフ神話って言うのはね……」
 それから彼女による解説が延々と続いた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...