55 / 61
王女と公爵令嬢とエルフからの救援要請
お話し
しおりを挟む王城にて国王と話を済ませた後、俺達は寄り道せずにホテルへと戻った。理由は簡単、早くサーシャとミーシャを休ませたかったからだ。
「ふぅ……」
とりあえず部屋に入ってベッドに腰掛け一息つく。
この部屋にはソファーもあるが柔らかさという点ではベッドに劣る。だから俺はベッドに座る方が好きだ。
「海斗、こっちはいつでも話せるわよ」
「了解した」
さて、気を引き締めるか。今からやることはサーシャとミーシャのトラウマを刺激することになる。慎重にいかないと取り返しの付かないことになるかもしれない。そんなことにはしたくないのでゆっくりと丁寧に進めよう。
「サーシャ、ミーシャ。今日会った貴族について何か知ってる?」
ここで少しでも怯えたら今はまだ聞けない。
ちょっと慎重すぎると思うかもしれないが、それだけ人の心というのは繊細に出来ている。それに加えて二人はまだ年齢的に幼い。サーシャはギリギリ中学生くらいの年齢だしミーシャに至っては小学生レベルだ。
ほら?こういうと凄い幼く聞こえるだろ?
もう察しているだろうけどそんな年齢の子供の心というのは簡単に傷つく。傷ついて、壊れる。
だから無理には聞けないってことだ。
「……はい」
「……うん」
サーシャは俯きながら、ミーシャは手を握りしめて、それぞれ答えてくれた。
……怯えてるって感じじゃ無さそうだな。どっちかっていうと鬱屈……かな?
これならもう少し聞いても平気そうだ。
「どんなことを知ってる?住んでいる場所とか分かる?」
これが分かればあの貴族に会わないで済む。近付かなければいいだけだ。
最も、王都にいるとかだったら意味ないけどな。
「確か、シューバの街のさらに西、だったはずです。その街の名前までは……覚えてないです」
シューバの西……俺達がこの世界に来た時の森があるけど、そのさらに西ということか。
名前はまあ、調べればいいだろう。
となると後は何をされたか、だ。
他の情報は正直どうでもいい。人柄とかは何をされたか聞けば分かることだし、家の細かい情報はアレックスに聞けばいいだろう。
「そうか。…………次からは無理して答えなくていいからな?」
「……はい」
「……うん」
二人も何を聞かれるか分かってそうだな。
……俺も覚悟を決めるか。踏み込むことを恐れていては何も始まらない。
「あいつに、何をされた?」
「「………………」」
……やっぱり、話せないか……。
「今は、キツいか?」
「……いえ、その……」
うーん?話せないって訳じゃないのか?
でも実際話してくれないしなぁ……。
愛花にどうすればいいかと視線を向ける。
と、そこで違和感。
ーーあれ?あいつ何かに気付いてる?
助けを求めようと愛花に視線を向けてみれば、その愛花は俺が分かっていない何かに気付いている様子。
ここは愛花に任せてみるか。俺じゃあこれ以上どうしようもないしな。
ーーチラッ
ーーコク
幼馴染みだからできる目線の合図で話の主導権を譲る。
ここからは俺は傍観だ。
「ねぇ、話してくれないのってもしかして、捨てられることが怖いから?」
「!!…………はい。怖いです……」
「どうして怖いの?誰も自分を助けてくれなくなるから?」
「いえ、その、そういうことではなくて……」
「じゃあ、どういうこと?」
「あ……えっと……」
愛花の矢継ぎ早の話にサーシャもたじたじだ。
こうなった愛花は強い。それが全員にとっていい方向に行くかはともかくとして必ず最後には何かしらの結果を出してくる。
今回だってほらーー
「私達に話した結果捨てられて、誰からも存在を認知してもらえなくなるから?」
「…………ぁ……」
「そしてミーシャちゃんのことを守れなくなるから?」
「………………」
どうやら図星らしい。
やっぱり、こういう時の愛花は強いな。
にしても、そこまで捨てられるのが怖いのか……。
いやそりゃあ誰でも捨てられたりしたら怖いだろうけど、サーシャ達はそれが顕著だな……。
さて、ここから愛花はどう対応するんだか。
頼むから二人を救ってくれよーー。
「はあぁぁ~。呆れた」
「!!!!」
「ッ!ーー」
初っぱなから、思わず声が出そうになった。が、ここで口を挟んでもいいことが起きない気がするのでなんとか抑える。
「あのね、仮に私達が二人を捨てたとしても見てくれる人はいっぱいいるし助けてくれる人だって大勢いるわよ。ギルドの職員もそうだし、宿の人だってそう。なんなら国王様やアリスちゃんとかルーシャちゃんも手を貸してくれるわ。そもそも捨てたりなんて絶対にしないけどね」
「でっ、でも!ギルドの人達はそうでも、王様達が助けてくれるはずない!」
まあ、普通はそう思うよな。ただの奴隷のために国のトップクラスが動くわけないと。
でも、今回は訳が違う。
「なんでそう思うのかしら?あなた達もメダルを貰ったでしょう?あれがある限り少なくともアリスちゃんとルーシャちゃんの二人は助けてくれるわよ。それだけの重みをあのメダルは持ってるわ」
そう。このメダルの存在だ。これは王家と公爵家が認めている証。そんな重要なものを持った人を放置しておくはずがない。
でも、幼い二人にその話はまだ理解出来ていなくて、
「そ、そんなの、ただのメダルでしょう?ただのメダルに価値があるなんて、普通は分かるわけないじゃない!」
「分かるわよ。少なくとも皆あなた達よりは理解しているわ」
「何を根拠にーー」
こういう言い争いになってしまう。
「……んて………う…ない」
ん?今の声はミーシャか?
「貴族……んて……よう……ない」
「ミーシャちゃん?」
「貴族なんて!信用できない!!」
「ちょっと、ミーシャちゃん!?」
「おいミーシャ!!どうした!!」
ちょっ!?襲ってくるんですけどぉぉ!!??
どうにか抑えないと……!幸い武器は使ってこないが、それでも爪で十分攻撃されてしまう。流石にここで流血沙汰は避けたい!
ふと、脳裏にあることを思い出す。
良心が痛むが、これなら抑えられる。
「ミーシャ!命令だ、その場で止まれ!!」
「あぐっ!?」
ガクンと音が聞こえそうな感じに体が揺れ、ミーシャの攻撃が止み、そのまま静止した。
ーー上手くいったか。
「愛花」
「ええ…………ねぇミーシャちゃん。私はあなたが何をされたか知らない。だから好き勝手なことが言える。それであなたの気分を害したのなら謝るわ、ごめんなさい」
「ち、ちがっ、気分を害されたとかじゃ……!」
俺の命令はあくまで止まれなので、喋ることはできる。
「でもあなたは見るからに乱心していたわ。それは嫌な気分になったからじゃないの?」
「それは…………」
「まあ、この質問には答えなくてもいいわ。でもね?あなた達の過去を知らないとまた私達はあなた達を嫌な気分にさせてしまう。それは嫌なの。だから……」
そこまで話して、愛花はサーシャとミーシャに近づき両手で二人を抱き締める。
「あなた達のこと、もっと教えて?」
0
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる