琥珀に眠る記憶—番外編集—

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たとえばこんな、穏やかな日

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「……もう……いい加減にしてよ、のぼせちゃうよ……」
「んー……もうちょい」

 帰宅してすぐ、いつかのように玄関先で求めてくる舜平をなんとか押し留め、珠生はシャワーを浴びたいと訴えた。すると舜平は珠生を抱えあげてバスルームへ行き、珠生の服を一枚一枚脱がせ、身体の隅々まできれいに洗ってくれたのだが……。

 洗われるだけで済むはずがない。バスタブに座らされた珠生は、舜平に足を舐められ、ふくらはぎから内腿にまでいやらしいキスをたっぷりと浴び、そして果てるまで口淫をされた。ねっとりとした濃厚なフェラチオで攻め立てられ、さんざん啼かされてしまった。

 絶頂後の余韻に浸る間もなく、珠生は舜平に抱きかかえられ、ぬるめの湯が張られた浴槽の中へ。背後から舜平に包み込まれながら、両方の乳首をくにくにと柔らかく擦られ、耳元でかわいいかわいいと褒めそやされた。尻の下で完全勃起状態になっている舜平のそれが気になってしょうがなかったが、舜平は自分のことなどお構いなしで、ひたすらに珠生をトロトロに蕩けさせるのだった。


 そんな興奮状態で、長湯などできるはずもない。もともとのぼせやすい珠生は、舜平の甘い攻めから逃げるようにバスルームを出た。

 脱衣所に出ても、身体の熱は冷めることがない。脱衣所と廊下をつなぐドアを開け放ったままだったため、涼しい空気がほんのりと肌を冷やしてはくれるものの、内部でくすぶる性的な熱は、どうにもこうにも引く気配が見られなかった。

 身体を拭こうとタオルに手を伸ばしかけた珠生の腕を、風呂場から出てきた舜平が掴んだ。間近に迫ってくる舜平に抱きすくめられていると、健康的な肌に光る水滴や、少し上気した逞しい肉体が、途方もなく魅力的なものに見えてドキドキした。

 濡れた身体のまま、顎を掬われキスをする。
 思わずふらつき、背後にある洗面台に腰をぶつけそうになったけれど、舜平の力強い腕が珠生の身体を抱きとめる。

 湯に濡れて、火照った身体が密着すると、いつも以上に舜平の肉体を生々しく感じ、珠生の身体の高ぶりも最高潮だ。早く、早く、もっと激しい刺激を与えて欲しい。舜平の全てを感じたいと、珠生は自ら腕を伸ばして舜平の首にしがみついた。

「んぁ……ふ、ン……」
「見て……鏡。お前の裸が映ってる」
「ん……?」

 少し首をひねって後ろを見ると、舜平の腕に抱かれる白い背中が見えた。逞しい舜平の身体と比較してみても、自分はなんと華奢で頼りないことだろうと、珠生はすぐに目を背けたくなった。しかし舜平は珠生の身体をくるりと反転させて鏡の方を向かせると、洗面台に手をつかせて耳元で囁く。

「……なんで目、逸らすん?こんなにきれいな肌やのに」
「……だ、だって……」
「見てみ、さっきいじられまくってたここ。赤くなって、尖ってる……エロいやろ?」
「ンっ……!」

 耳を舐められながら、赤く熟れた乳首を摘ままれて、珠生はたまらず唇を噛んだ。快楽に悶える自分の姿など見たいはずがない。珠生は目を伏せて首を振り、「こんなの、やだよ……!」と舜平に訴えた。

「なんで?お前はな、もっと自分の魅力の危うさに気づいたほうがええ。だから、ちゃんと見ろ。自分がどんな顔して、男に抱かれてんのかってこと」
「や、やだっ……!!」
「欲しいんやろ?もう限界やんな」
「ああっ……」

 つぷ、と舜平の中指が後孔に入ってくる。洗い場や風呂の中でかき乱され、既に準備の整ったそこを、舜平は指の腹で、何度も何度も、刺激してくるのだ。

「ぁ、あ……ん」
「見ろ。エロい顔やろ……こんな顔、他の誰にも見せたらあかんで」
「……や……み、見ない……っ!!」
「見るんや」

 ぐい、と顎を掴まれて前を向かされる。すると、見慣れた自宅の鏡の中に、見慣れない自分の姿を見つけてしまう。
 白い肌は薄桃色に火照り、湯に濡れたままの肌はひどく艶っぽく、淫靡だ。薄く開かれた唇は紅色に染まり、そこからはぁはぁと浅い呼吸を漏らしつつ、潤みきった瞳で己を見つめる自分の姿。自分でも呆れるくらい、快楽に溺れた官能的な表情だ。見ていて気持ちのいいものではなかったが、舜平に行動を強制されることにこそ、珠生は激しい快感を感じてしまうらしい。珠生のペニスはさっきよりもずっと硬く嵩を増し、とろとろと透明な涎を垂らし始めていた。

「ひぅっ……」

 尻の谷間に流れていくのは、とろみのある冷たい液体だ。舜平は鏡の中の珠生と目を合わせつつ、唇を引き上げて色っぽく笑った。そして、ゆっくりと、舜平の切っ先が珠生のなかに埋め込まれていく。

「ん……ぁ……ぁん……ふぁ……」
「……はぁ……すごいな。めっちゃくちゃ、気持ちええ」
「舜……ぺいさ……ぁ、あ……ッ」
「もっと、腰、突き出して。……そう、上手やで」
「ん、ぁ、ああっ……あん、」
「すんなり入るようになったな。……ほら、分かるやろ。根元まで、うまそうにしゃぶってる」
「……ん、んんっ……んぁ、あ」

 ゆっくり、ゆっくりと中を侵されるこの感覚が、たまらない。舜平の肉の感触をダイレクトに感じ、カリ首でいいところをなぞられて、珠生は背中をしならせて身悶えた。あえてのようにゆっくり、ゆっくりと抽送を繰り返す舜平の腰の動きがもどかしく、珠生は自分からも腰を振って舜平を求めた。

 ふと鏡を見てみると、浅ましく動く自分の細い腰が、否応なく目に入ってくる。同時に、ぷくりと透明な水滴を滴らせる性器にも、目を奪われる。舜平に突き上げられることでこんなにも熱く、硬く、興奮してしまう自分の身体を、珠生は心底いやらしいと感じた。

「あ、あ……舜平、さん……っ、もっと、もっとぉ……っ」
「もっと、何?」
「いっぱい、突いてよ……っ……奥まで、激しいの……」
「欲張りやな、お前は。俺はこれでも、十分気持ちいいねんけど?」
「ぁ、ああっ……ん、う……っ」

 ゆっくりしたピストンをされながら、ペニスを扱かれる激しい快感。同時に舜平は珠生の首筋に歯を立てて、甘く甘く、珠生の白い首筋に噛みついてきた。かと思ったら、ねっとりとした熱い舌で肌を舐められ、きつく吸われて痕をつけられ……。

 緩やかなリズムで扱かれるペニス、中に感じる圧倒的な肉の質感……珠生は洗面台に手をついて尻を突き出し、狂ったように甘い悲鳴をあげていた。

「あぁ、あっ、ぁ……しゅんぺいさん……っ、んっ」
「っ……締まる……。珠生……めっちゃ、イイ……」
「あん、ん、ぁ……っ、イくっ、イっちゃうよぉ……っ!!」
「イってみ。……ほら、自分のイキ顔、よう見てみろ」
「や、やだ、あぁ、あ、ああ、っ……ァっ」

 ほとばしる白濁が、生生しく目に映る。震える珠生の腰をしっかりと抱き支える舜平と、鏡越しに目があった。

 その瞬間は硬く目をつむっていたから自分のイキ顔を見る羽目に陥ることはなかったが、その余韻に揺蕩う自分の表情は、信じ難く淫らで、まるで自分ではないもののように見えた。

 鏡の中の自分にぼんやりと目を奪われていると、舜平が容赦なく抽送を再開し始めた。さっきよりもずっと速い動きで、珠生の内壁を刺激してくる。

「舜平、さ……っ、やだ、きゅうにそんなっ……」
「まだ、もの足りひんやろ。ほら……めっちゃすごい、締め付け……っ」
「ぁ、あん、や、むり、むりだよ……っ」
「うそつけ。……すごいで。うねって、絡みついて……はぁっ……ッ……」

 半ば洗面台に倒れ伏すような格好で腰をぶつけられながら、珠生はふと目線をあげ、舜平の表情を見つめた。

 眉根を寄せ、喘ぎを堪える舜平の表情が、はっきりと見て取れる。唇を噛んで声を殺すが、時折堪え切れぬかのように漏れる、色香溢れる吐息。その表情を見ているだけで、珠生はまた絶頂しそうなほどに興奮してしまうのだ。

「……ぁっ、あ! ん……!舜 平……さ……ぁっ」
「珠生……気持ちええか……?」
「イイっ……イイよぉ……っ、あ、また、いっちゃう……いっちゃう……っ!」
「イけよ、何回でも、イったらええ」
「あ、ああっ……やだ、ああ、っ……!!」

 大きく腰を引いては激しく打ち付けてくる舜平の腰の動きは、止まらない。濡れた肌がぶつかる音、結合部から漏れる粘着質な水音が、珠生の耳をも犯してくる。
 中でイカされる絶頂感は快楽の波が鎮まることがなく、珠生はただただ舜平にされるがままになりながら、口からこぼれる善がり声と喘ぎに身を委ねていた。

「……っ……イキそ……珠生……中に、出すで」
「だして、ぇ、……あぁ、あ、また、きちゃう……きちゃう……っ……!!」
「っ…………ン、んっ……」

 背後から強く抱きしめられながら、舜平の迸るものを体内で感じる幸福感。奥の奥まで嵌められた状態で、どくどくと注がれる舜平の体液を、珠生はいくらでも飲み干していたいと思った。

 薄く目を開いて鏡の中を見てみると、珠生を抱きしめている舜平の表情が見える。きつく目を閉じ、切なげな表情で珠生を抱きしめる舜平の表情は、いつ見てもたまらなくセクシーだ。

「舜平さん……」
「ん……?」
「ちょっと……休みたい……。倒れそう」
「えっ、だ、大丈夫か!?」
「ンっ……」

 ず……っと抜き去られる舜平のペニス。不意に楔を失った珠生は、そのばにへなへなと座り込んでしまった。咄嗟に舜平に支えられるが、のぼせた身体に激しいセックスはさすがに無理があったのか、珠生はぼうっとしたまま裸の舜平にもたれ掛かって、静かに呼吸を整えた。

 内腿を伝う体液の感触に、またぞくりと快感を感じる。そっと肩にかけられるタオルのやわらかな感触と相まって、珠生はぶるりと身体を震わせた。
 舜平はそんな珠生をぎゅっと抱きしめ、優しく背中を撫でた。そして、ついさっきまでの威勢はどこへやらといったような、照れくさそうな顔をしている。

「ごめん、やりすぎ……やんな」
「そうだよ、やりすぎだよ! ……はぁ、ふらふらする」
「マジでごめんな。はぁ……俺、暴走する癖直したいわ。まだまだ修行が足りひん」
「暴走?」
「ぶっちゃけ俺、外でお前見てるとムラムラすんねん。そんで、我慢しながらここ帰ってくるやん? そしたらさ、二人きりになった途端スイッチ入ってまうっていうか……」
「……む、むらむらって。え……何言ってんですか……?」

 珠生が途端に生ぬるい目つきになるのを見て、舜平が途端に慌て始めた。たらたらと変な汗をかいている。

「え、いやいや!! 変な意味ちゃうで!! いや、変な意味しかないかもしれへんけど、お前が可愛いからどうしようもなく!!」
「……」
「だ、だってしゃーないやん! お前は自覚ないかもしれへんけど、最近のお前……何しとってもエロく見えるっていうか……ええと」
「……」
「せ、せやしな!! 学校でも気ぃ抜いてたらあかんで!! 保健室で無防備に寝るとか絶対あかんで!! 誰に襲われるか分かれへんねんからな!! な!? 分かったか!?」
「……ふふっ」

 堪え切れず珠生が吹き出すと、舜平は拍子抜けしたような顔をした。その表情を見て、珠生はまた、明るい笑い声をたてるのであった。

「……分かるよ。正直俺も、外で舜平さんのこと見てると、なんか変な気分になる時あるし」
「……え、ほんま?」
「うん……ちょっとおかしいのかなって思ってたけど。……まぁ、いいか」
「なんや……そうなんや。気ぃ合うやん」
「ふふ」

 珠生が笑って舜平に擦り寄ると、舜平はひょいと珠生を横抱きにして立ち上がった。そして、もう一度バスルームのドアを開ける。

「まずはシャワーやな」
「え、休憩は!?」
「大丈夫、洗うだけ。今夜は……セックスは、ちょっと我慢する。それより、お前ともっと喋りたい」
「喋る……って」
「もっと、珠生が何考えてんのか知りたいねん。お前が好きやから、もっと色んなことが知りたいんや」
「……へ」

 爽やかに笑いながらそんなことを言われてしまうと弱い。珠生は、舜平のこういう笑顔が何よりも好きだからだ。
 珠生は照れ笑いを浮かべつつ、舜平を見上げてこくりと頷いた。


 ーーいつか、この特別な一日が日常になる時が、来るのかなぁ……。


 珠生はバスタブの湯に浸かり、舜平の身体にもたれかかりながら、心地よさそうに目を閉じた。


 二人で過ごす、穏やかな夜である。





『たとえばこんな、穏やかな日』 おわり
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