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夏の終わりの番外編

『冷え込む朝と、レッスンの申し出と』〈サーシャ目線〉

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こんばんは、餡玉です。
ぐっと冷え込んできましたね……風邪をひかないように気をつけないといけませんね。

さて、そろそろお布団から出にくくなってきたので(?)、番外編を書きました。今回はサーシャ目線となっております。
楽しんでいただけると嬉しいです♡

兄世代、累空ともども、こちらのふたりの動向も見守ってただき、いつもありがとうございます。賢二郎たちの初体験を交えたお話も年内には書きたいな~と思っておりますので、書き上がった際は読んでやってくださいませ~!






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 寝起きの賢二郎は可愛い。

 普段とても理性がちな賢二郎の、無防備で素直な一面があらわになる。朝の一コマは、サーシャにとってとても貴重なひとときだ。

「賢二郎、朝だよ。起きる?」
「……ん……」

 いっときは泊まりにくることさえ避けられていたけれど、賢二郎はここのところはしばしばサーシャの部屋で夜を過ごしている。それが嬉しくてたまらない。

 昨晩は教授陣との付き合いで飲みに出ていたため帰宅が遅くなってしまったが、賢二郎が眠るベッドのあたたかさはまさに至福。恋人が自分の部屋にいて、リラックスして過ごしているということが、こんなにも幸せとは思わなかった。

 そういう高揚感もあって、今朝はずいぶん早く目が覚めてしまった。

 眠りの深い賢二郎を起こさないようにそっとベッドを出て、軽く朝食を準備する。そしてもう一度寝顔を堪能しに戻ってきた。


 ——ああ……本当に綺麗だ。それに、可愛い。


 賢二郎がウィーンに来てすぐのこと。
 同じ寮で暮らしていた遊び好きの音楽仲間たちは、さっそく賢二郎に目をつけていた。

 寮のルールは比較的ゆるい。そのため、音楽に対する姿勢は真面目でも、厳しい親元を離れて自由を謳歌しすぎるあまり、羽目を外してしまう学生はちらほらいた。

 ウィーンでの生活にまだ不慣れな他国からの留学生に、彼らは興味津々だ。親睦を深めてみたいと望む気持ちはわからなくはないが、時折親睦を深めすぎてトラブルを引き起こす学生が毎年一定数存在する。そのため、院生のサーシャはそれとなく寮内の治安にも目を光らせていた。

 西洋人に比べて、日本人は小柄で痩身だ。例に漏れず、賢二郎もほっそりとした体躯をしている。黒髪に白い肌、澄まし顔も端整な東洋的美形とあって、刺激を求める学生たちは賢二郎に興味を持っている様子だった。

 サーシャがリアルな賢二郎を目にする前から、彼らが口々に「今年の日本人留学生は男だけど、すごく可愛い」「セクシーだ」「飲みに誘うか」と騒いでいるのを耳にしていたため、なんとなく気をつけておかねばと思っていた。

 そういう状況の中、はじめて賢二郎の姿を目にしたとき——……サーシャはその姿に見惚れていた。

 顔立ちや体型がドンピシャに好みだったという意味もある。だがそれ以上に、一見冷ややかそうにも見える黒い瞳がとても神秘的で、特に印象的だった。

 その冴えた黒い瞳の奥に、ただならぬほどの熱意を隠し持っているように感じて、さらに賢二郎のことが気になった。そして気づけば、サーシャは賢二郎を目で追うようになっていた。

 あまり笑顔を見せないクールな態度に、遊び好きの学生たちは怯んでいるようで、懸念していたようなトラブルは起きなかった。ウィーンへ来てすぐの賢二郎は、そういう手合いの学生が気安く声をかけられるような空気を醸し出してはいなかったのだ。……後から聞いたところによると、ただ緊張していただけだったようだが。

 だが逆に心配になった。ただただストイックに、のめり込むように練習に打ち込む姿は、危うさを秘めているようでもあった。冬が差し掛かる頃には、ナンパの心配よりも、賢二郎自身の精神状態が気にかかるようになり——……。


 ——『こんなところで、そんな格好でいたら風邪ひくよ』


 累への未消化な感情、そして孤独なスランプに疲れ果て、生気を失った賢二郎の黒い瞳が、はじめてサーシャを捉えた瞬間だった。


   +


「んん……いまなんじ……」
「八時。今日はオフだよね? もうちょっと寝る?」
「ん……ねる。……さむい……」

 ベッドサイドに座るサーシャの腰に、賢二郎の腕がからみつく。暖を求める賢二郎に引っ張られるまま、もう一度ベッドの中に滑り込んだ。

 すると賢二郎がするりと身を寄せて、横たわったサーシャにぴったりとくっついて脚を絡めてきた。冬でもハーフパンツとTシャツで眠る賢二郎の素肌が、首筋や脚に触れてドキドキする。恋人らしいスキンシップが増えてきて幸せだ。

 セックスを拒むことに賢二郎が罪悪感を抱いていることはわかっていたし、焦らせるつもりもなかった。だが、来日してすぐは賢二郎からの警戒をびりびりと肌で感じて、とても寂しかった。

 しかも、日本にはあの高比良累がいる。賢二郎がサーシャを避ける理由が、恋人としての二人の関係に由来するものなのか、それとも、累のそばに戻ってきて彼への恋心が再燃し、サーシャと別れたがっているからなのか……はっきりとした理由がわからなくて、多少苛ついてしまったこともある。

 だけど今は、賢二郎からの愛情も、歩み寄ろうとしてくれる気持ちも感じている。それで十分幸せだ。賢二郎のそばで音楽に携わることができている——こんなにも、贅沢なことはない。

「うう……足つめた……」
「布団から脚を出すからだよ」
「……ん……ぬくい……」
「……はぁ」

 賢二郎は布団から飛び出していた冷たい足先を、サーシャの脚にすりよせて温もっている。無防備に抱きついてくるしなやかな肉体は色っぽく、ゆめうつつを揺蕩う賢二郎はすこぶる可愛い。

 普段、目つきや言動が尖り気味なことが多いので、余計に可愛い。むくむくと邪な気持ちが湧いてきて、サーシャはひそかにため息をついた。

「……まったく」

 あたたかな背中を抱き寄せて、額に唇を押し当てる。少し乱れた黒髪に指を通してさらりとした感触を楽しみながら額や眉、まぶたへとキスを降らせていると、賢二郎が重たげに目を開いた。

 何か言われるかと思いきや、賢二郎は再び目を閉じ、むしろサーシャにすり寄ってくる。甘えるような仕草に色っぽいものを感じ取ったサーシャは、今度は賢二郎の頬へキスをして……そのまま、流れるように唇を覆った。

「ん、ん……」

 微かなリップ音をたてながら唇をついばみ、逃れる隙を与えながら、何度もキスを繰り返す。いつもなら、そろそろ「朝っぱらから何してくれてんねん」などと文句を言い出しそうなものなのだが、賢二郎はうっとりと目を閉じたままサーシャに身を委ねている。


 ——嫌がらないな、賢二郎。……もっと、してもいいのかな。


 重なり合った唇がしっとりと湿り気を帯びてきて、唇が触れ合うたびに水音が響きだす。薄く開かれた賢二郎の唇の隙間へそっと舌を忍び込ませ、柔らかな口内を探る。

「ん……ふ……」

 首に回っていた賢二郎の腕がぴくりと震え、吐息に熱がこもりはじめる。そうなってしまうと、サーシャのほうも遠慮する余裕がなくなって、賢二郎の腰を抱く手に力がこもった。

 柔らかく素直な舌がサーシャのそれに絡まり、擦れ合う感覚はあまりにも淫らだ。清々しく朝日が差し込むベッドの中で、サーシャは賢二郎の上に覆いかぶさった。

「賢二郎、起きないの?」
「……ん、っ……、っん……」
「……まだ寒い? あっためようか?」
「あっ……」

 キスをしながら、シャツの中に指を滑り込ませる。触れた肌はしっとりと濡れたようになめらかで、寒さなど感じているはずもないほどに熱かった。

 目当ての小さな尖りに指を這わせると、賢二郎の腰がびくんと揺れる。ゆっくりと舌を絡ませたあと、賢二郎の下唇を軽く吸いながら、サーシャはそっと唇を離した。ただ、胸元を愛撫する指の動きはそのままだ。

「おはよう、賢二郎。よく寝てたね」
「んっ……こら、サーシャ……、ぁっ……」

 賢二郎はすっかり覚醒しているようだが、その表情は陶然ととろけている。白い肌や唇が紅潮し、潤んだ瞳があまりに愛おしくも淫らで、サーシャの口元には自然と笑みが浮かんだ。

「今朝は冷えるよ。もっともっと、あっためてあげないとね」

 首筋をきつく吸いながらシャツをたくしあげ、賢二郎の肌を露わにする。白い肌に紅を落としたかのような桃色のそれに、サーシャは濡れた唇を押しつけた。

「んっ……ンっ、ぁ……!」

 ぷっくりと形を成すそれは、サーシャが愛撫するごとに敏感になり、賢二郎の肉体を昂らせるようになった。力なく抵抗しようとする賢二郎の手首をベッドに縫い付けながら、サーシャはあえて音をたててそこをしゃぶり、舌を上下させて賢二郎を煽る。

「も……っ……あかんて、っ……んっ……」

 喘ぎながらサーシャを押しとどめようとはするものの、賢二郎の腰はゆるゆると上下に揺れ始めている。ハーフパンツの股座はすでに隠しようがないほどに膨れ上がっていて、愛撫を欲して涎を垂らしている様がやすやすと想像できた。

「……下、脱がせるね」
「んっ……ん、いやや、もう……」
「いや? 本当に?」
「っ……ぁ!」

 ゆるめのハーフパンツを中途半端に脱がせた状態のまま、屹立した賢二郎のそれを軽く握る。賢二郎は咄嗟に顔を俯けようとするが、サーシャはすぐに掬い上げるようにキスをして、賢二郎の顎を仰のかせた。

「……だめだよ。隠さないで、俺を見て」
「けど、……っ」
「こんなに硬くなって、腰も動いてるよ? はやくイキたいよね?」

 額をくっつけ囁きながら、しっとりと汗で濡れ始めた賢二郎の肌を見下ろす。

 朝日に透けるように白く、ほっそりとしたしなやかな肉体だ。控えめな下生えから勃ち上がっているそれは、サーシャの手のひらの中に包み込まれ、先端からとろりと露を滴らせている。

 ヴァイオリンを弾いている賢二郎の姿からは想像もつかない、淫美な身体だ。昂った身体を制御するように、サーシャは小さく喉を鳴らした。

 だが、賢二郎の色香に触れ続けているせいか、頭の芯まで昂ってしまっている。もっと丁寧に、もっと優しくと思っているのに、手つきが荒くなってしまう。

 キスと愛撫で吐息を乱し、腰をくねらせる賢二郎に煽られるまま、絶頂へと賢二郎を追い詰めた。

「ぁ、ん、んっ……ァっ……ぅっ……!」

 濃密に舌を絡め合わせながら、トロトロに濡れた賢二郎の屹立をくちくちと扱く。キスで声を殺され、びく、びくっと全身を震わせながら吐精する賢二郎を抱きしめながら、徐々に擦り切れてゆく理性を押しとどめようと奥歯を噛んだ。

「……はぁっ……は……はぁ……」

 くったりと脱力している賢二郎に腕枕をしながら隣に横たわり、サーシャは苦しげに息を吐いた。すると、のろのろとおもたげに身を起こした賢二郎が、絶頂の余韻を匂わせる色っぽい表情でこちらを見つめた。

「……なぁ……いっつも、僕ばっかりで……」
「そんなことないよ。このあいだは口でしてくれたじゃないか、バスルームで」

 欲を押し殺しながら微笑んでそう言うと、申し訳なさそうにハの字になっていた賢二郎の眉がピクッと揺れ……かぁぁと顔が真っ赤に染まった。

 日本で暮らすようになってからすっかり入浴にハマっているサーシャだ。時折、賢二郎もバスタイムをともにするのだが、裸でくっつきあっていたら、当然そういう空気にもなるもので……。

 小さな口で、一生懸命サーシャに奉仕する賢二郎の姿はあまりにもいやらしく、たまらないものがあった。エロいし嬉しいし気持ちがいいしで、あっけなく果ててしまったのは恥ずかしい思い出だが、賢二郎はどことなく満足げだった。

 ついでにいうと「この気持ちいい口の中で出してしまいたいけれど、いきなりそんなことをさせたくはない……!」と葛藤したもののどうするか決めきれずにいた結果、賢二郎の顔に精液をぶちまけてしまった。……それも申し訳ない思い出だが、怒ったような、困ったような顔で白濁に汚されている賢二郎があまりにもいやらしく、しばらく煩悩に苦しんだサーシャである。

 ひょっとして、今朝もまた期待してもいいのだろうか……? ちょっとドキドキしながら賢二郎を見つめてみる。

「それはそれ、これはこれや。……そうじゃなくて、その……」
「ん?」
「……ちゃんと練習したいねん」
「? なにを? フェラはすごく上手でびっくり……」
「だぁーーーーちゃうって! だ……だからっ……!! そっちちゃうくて……!!!」

 賢二郎は真っ赤な顔のままサーシャの股ぐらの上に馬乗りになり、ぎゅっとシャツを握りしめた。いったいどうしたのかと怪訝に思い、サーシャは肘で上半身を起こした。

 すると賢二郎はぎゅっと唇を噛み締めたあと、絞り出すような口調でこう言った。

「……なっ……な、ナカで……や、や、やれるようになりたいねん……」
「…………えっ。……え、ナカって……」
「だっ……だ、だからや!! ちゃんと、サーシャの挿れてもええように、なりたい……から」
「へっ……」

 賢二郎の言わんとしていることがはっきりとわかった瞬間、心臓がさらなる早鐘を打ち始めた。
 なんといういじらしい申し出だろう。いっときは指の挿入でさえ、真っ青な顔で「っ、苦しい……む、むりや……!!」と拒んでいたというのに……。

「賢二郎……どうしたんだ、急に」
「いや……サーシャが丁寧に色々教えてくれるから……僕も、なんやこう……イチャつくことに前ほど抵抗感じひんくなってきたし……」
「ほ、ほんとに!?」
「……サーシャに触られんのは、気持ちええし。……その……一緒に気持ち良くなれんねやったら、そっちのほうが絶対ええよな……て……ぅう」
「……ワーオ」

 どんどん声が小さくなってゆき、とうとう賢二郎は真っ赤になった顔を片手で覆ってしまった。

 理性の塊のようだった賢二郎がそんなことを考えてくれるようになっただなんて感動だ。サーシャは起き上がり、賢二郎の身体をぎゅっと抱きしめた。

「あぁ、賢二郎……嬉しい、嬉しすぎる……! わかったよ、ナカでイケるようになるまで、じっくり俺が教えるから!」
「そっ、そういうことはっきり言わんといてくれへんかな!! ……あぁもう何言うてもうてんねやろ僕……はっず……恥ずかしすぎて死にそうや」
「全然恥ずかしくないよ。嬉しい、すごく嬉しい」
「……いや、まだ何にもできてへんし……」
「きみがそう思ってくれるようになったってことが嬉しいんだよ。……ありがとう賢二郎。愛してるよ」
「うう」

 ぎゅうぎゅう抱きしめ、ちゅっちゅっとキスの雨を降らせるサーシャに、賢二郎はようやく照れくさそうな笑みを見せてくれた。

 レアな照れ笑いがむずがゆいほどに可愛らしく、ぎゅーんと心臓を鷲掴みにされてしまう。

 ——うあああ……愛おしい、愛おしすぎる。愛している以上の言葉が日本語で見つからない……どう表現したらいいんだこの気持ちを……!

 しばらく胸を押さえて呻いているサーシャを、賢二郎が「ど、どないしたん? 大丈夫か?」と気遣ってくれた。

 恋人になってからもどことなく片想いが続いているような寂しさを感じていたけれど、今はこんなにも、賢二郎からの愛情をはっきりと感じることができる。

 サーシャはやわらかく微笑んで、賢二郎の頬を手のひらで優しく撫でた。

「……俺は本当に幸せ者だ。こうして今も、きみのそばにいられるなんて」
「おっ……おおげさやって」
「大袈裟なもんか。きみが好きだ。愛してる」
「も……わかったって。そんなキラキラした目ぇで見つめんといてや」

 愛を告げれば告げるほど、賢二郎の頬は赤くなり、視線はあさっての方を向いてしまう。だが、お返しの言葉がなくとも、その表情を見ていればわかる。賢二郎がサーシャの愛を受け入れて、なおかつ喜んでくれているということが。

 恋人のいじらしさに胸をときめかせるサーシャの上にいた賢二郎が、するすると脚のほうへと降りてゆく。
 この甘い時間もおしまいかと思っていると……賢二郎が、サーシャの脚の間に座り込み、火照った頬と潤んだ瞳でこちらを見上げた。

「……せやし、今日はまだこっちで我慢してな」
「えっ、まさか、してくれるの? 口で?」
「だ、だってこんなやし。ほっとかれへんやん……」

 ぐい、となかなかの力強さでズボンを下ろされた。そして、センターパートにしている少し長めの前髪を男らしくかき上げたあと、賢二郎は赤い唇を大きく開いて、サーシャのそれを唇の中へ——……


 日本でスタートしたサーシャの新生活は、日に日に潤いを増してゆくのだった。




『冷え込む朝と、レッスンの申し出と』  おしまい♡
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