140 / 535
第3幕 ——天孫降臨の地——
5、息が合う?
しおりを挟む
その日の放課後、珠生は生徒会室を覗きに行った。
3-Eの教室を見に行っても、彰の姿がなかったからだ。珠生が来たことで、女子生徒たちがしばらくはしゃいでなかなか離してもらえなかったが、それを振りきって珠生は西校舎四階へとやって来た。
電気はついている。珠生はノックして、がちゃりと扉を開けた。
「……珠生。どうしたの?」
窓際の机で何やら書類のようなものを開き、俯いていた彰が顔を上げた。珠生はドアを閉めて、彰の方へと歩み寄る。
「これは?」
彰の見ている書類を覗きこむと、そこには今年度の行事予定表が置いてあった。
「一応確認をね。珍しいじゃないか、用もなくここへ来るなんて」
「教室にいなかったから、ここかなって」
「わざわざ探しに来てくれたのかい?」
彰はにっこりと笑った。珠生は彰の前に座って、微笑んだ。
「先輩、最近ほんとに元気ないよ。ちょっと気になっちゃってさ」
「え、そうかな」
「順位だって……」
「あぁ、成績かぁ。そうだね、五位というのにはびっくりした。みんなに聞かれたよ、何かあったのかって。担任には面談をされそうになったから逃げてきた」
彰は肩をすくめてそう言った。
「今までぶっちぎりでしたもんね」
「まぁね。僕をよく思っていないクラスメイトには、このまま落ちればいいのにと言われもしたよ。……まぁ、今回は仕方がないな」
「やっぱり何かあったんだね」
「無いとは言えないけど……正直、僕にもよく分からないんだ」
彰はすっきりしない返事をした。珠生は、以前の自分を見ているような気分になり、ただ彰の端正な横顔を見ていた。
「なんか……寂しそう」
「え?」
「別に何があったかは言わなくてもいいけど……気持ちだけでも、話してみたら楽になるかもよ」
「……優しいな、珠生は」
彰は書類を重ねてファイルに仕舞うと、窓の外を見た。グラウンドでは、部活動に励む生徒たちが元気に動きまわっている。
「そうだね、寂しいんだと思う。寂しいという気持ちが、こんなに生活に響くとは思わなかったよ」
「……よく分かります。俺もさんざん先輩に叱咤激励してもらったし……」
「あはは」
彰は苦笑した。
「今なら君の気持ちが少しわかるかな」
「そっかぁ……どうすればいいんだろ……」
「はは。珠生は気にしなくても大丈夫だよ。たぶん、徐々に慣れていけると思うんだ。夏にはまた大仕事があるしね」
「そうだね……」
「天道さんはどう? まだ彼女のことが怖い?」
「こ、怖くないし! でも、話してると腹がたってしょうがないんです」
「ほう。珍しいな、珠生がそんなこと言うなんて」
彰はニヤニヤし始める。少し元気が出てきたような顔だ。
「仲良くしてもらわないと困るなぁ。僕が命じたらそうする?」
「お断りします」
「はははっ、相当だね。大丈夫? 九州は一緒に行くんだよ。まるまる一週間くらい一緒に過ごすんだけど」
「……それは、我慢する」
「そっかぁ、なるほどな。天道亜樹か、おもしろい」
長い指で顎を撫でながら、彰はにまにま笑っている。なにか企んでいるような顔にも見えて、珠生は少しげんなりする。
「ちょっと元気が出てきたよ」
「それならいいけど……」
本当にどことなく顔色も良くなってきた彰を見て、珠生は少しほっとした。彰は荷物を片付け始める。
「僕はもう帰ろうかな。珠生は部活へ?」
「はい。ちょっとだけ描いていこうかな。……そういえば、先輩は部活入ってないんですか?」
「ううん。入っていたよ」
「へぇ、何部? やっぱり茶道部とか?」
「いいや、僕はこれでもバスケ部さ」
「ええええ!? そうなんですか!」
「うん、中学からね。高二で生徒会に入ってからは、あまり行っていないけど。球技大会は必ずバスケに出るよ」
「先輩って……モテるでしょ?」
書類を棚に片付けている彰のすらりとした背中を見ながら、珠生はそう言った。
「まぁね。前世よりもモテるかな」
「なんで彼女を作らないんですか?」
「……簡単さ。僕が好む女性がいないだけ」
今までは、そうだった。
珠生に背を向けて片づけをしながら、彰は葉山の顔を思い浮かべていた。
会いたい。
素直にそう言えたら、この正体のない不安定な気持ちは消えるんだろうか。
——なんで言えないんだろう。以前の自分なら、考えるよりも前に口からさらりと出ていただろうに。
「バスケかぁ、かっこいいなぁ、先輩」
にこにこしながらそんなことを言ってくれる珠生に、彰は自然と笑みを返した。
「そうかい? 君ほどじゃないよ」
「え?いやいや、俺は……別にそんな」
「そうかな? でも僕は、君のことが好きだよ」
「……あ、ありがとうございます」
「なに? 照れてんの? 珠生は可愛いな、やっぱり」
少し頬を赤くしている珠生を見て、彰は薄笑いを浮かべて近づいてくる。珠生は思わず後ずさった。
「照れてないよ。急にそんなこと言うから、びっくりしただけ」
「そう? なんならキスでもする?」
「しません。なんでそうなるんですか」
「なるほど、君をからかうのは結構楽しいな」
新たな目標を見つけたように瞳を輝かす彰を見て、珠生は苦笑した。
まぁそれでも、自分たちのリーダーである彰が元気なのに越したことはない。
二人は連れ立って、生徒会室を出た。
+ +
夏休みも目前となった七月下旬。
中間試験から立て続けに行われる期末試験も終了し、学校では結果発表までつかの間の弛緩した時間が流れていた。
湊は亜樹に負けたくないためか、いつになく熱心に勉強していた。試験が終わり、その疲れが出てしまったせいか、湊はいつになく元気がなかった。
昼休み、二人は生徒会室で彰に命じられ、書類を整理していた。
だらだらと作業している湊を見て、珠生は苦笑した。
「珍しいね、湊がそんなになっちゃうなんて」
「ちょっと勉強しすぎたかな。ほんま、忌々しい女や」
「ふたりとも元気だなぁ」
珠生がクリアファイルに書類を挟み込んでいると、ノックと同時にドアが開き、当の亜樹が入ってきた。
二人は仰天して、同時に亜樹を見た。
「お邪魔しまーす」
「邪魔や。帰れ」
と、湊が即座にそう言った。亜樹は怒るでもなくにやりと笑った。
「用事があって来ただけやん」
「用事? 生徒会に?」
と、珠生。亜樹は呆れたような顔で首を振り、ポケットから携帯電話を取り出した。
「そんなわけないやろ。うちはお役所仕事は関係ないねん。葉山さんから連絡あってさ」
「なんで天道さんとこに行くんだよ」
「柚子さんちにおるからやろ?」
「メールでも良かったんちゃうんか」
と、憮然として湊がそう言う。
「だってうち、あんたらの携帯なんか知らんもん。アド交換する?」
「誰がするか」
と、湊は相当いらいらしている様子である。珠生はまた苦笑した。
「何かあったらいけないし、聞いとこうか」
珠生がポケットから携帯電話を出すと、亜樹はじろりと珠生を睨んだ。
「聞いとこうか、とは何やねん。教えてください、やろ」
珠生のこめかみに、ぶち、と青筋が浮かぶ。
「じゃあいい」
「うちもいらんわ」
「じゃあ最初から言うなよ」
「社交辞令や社交辞令! そんなことも分からへんから、沖野は彼女できひんねん」
「……ぐっ」
「お前もや柏木」
「やかましい」
男二人が黙りこむのを見て、亜樹は満足気に笑うと、メール画面を開いて二人の前に置いた。
渋々二人が覗きこむと、葉山からの事務的な内容のメールが表示されている。
そろそろ霧島での計画についての話し合いがしたいので、今週末に宮尾柚子宅に集合するべしとのことであった。
「あ、そっか……もう一ヶ月前だもんね」
「週末にまでお前と会わなあかんのか」
と、湊はため息をつきながら眼鏡を上げる。
「そういうこと。斎木先輩にも言っといてな」
「先輩には直接連絡行ってんじゃないの?」
「さぁ? とりあえず、うちからは伝えたからな。ところで、もう昼休み終わるで」
「あ、本当だ」
珠生と湊は、急いで書類を片付けて立ち上がった。何となく二人を待っている様子の亜樹を見て、珠生は言った。
「俺といるの見られるの、嫌なんじゃなかったっけ?」
「別に。もういいねん。クラス変わってから、誰もうちに絡んでこーへんし」
「ふーん」
と、珠生と湊は気のない返事をした。
三人で生徒会室から出て、教室へと向かう。
すれ違いざまに、一年生の女子生徒がちらちらと珠生を見ては、ひそひそと何かを囁き合っている様子を見て、亜樹は珠生の横顔を見た。
殆ど同じ背の二人だ、珠生の端正な横顔がすぐそばにある。
亜樹はじろじろと珠生を観察しながら歩いていた。
「何見てんだよ」
「何も知らん一年生がキャッキャいうてはるわ。まぁ確かに……あんた顔はきれいやな。それは認める」
「だから顔は、って言い方やめてくれる? 性格めっちゃくちゃ悪いみたいじゃん」
「大していい性格でもないと思うけど?」
「はぁ? 天道さんに言われたくないんですけど」
珠生が横目でそんなことを言い返すと、亜樹は楽しげに笑った。教室棟の東校舎に来ると、亜樹は先に立って走りだした。
「ほな、先輩によろしく」
と言い残し、亜樹はさっさと一人で階段を登っていった。短いスカートが翻り、細い足が見えた。
珠生はため息をついた。
「九州かぁ、気が重いなぁ」
「俺も。でも珠生、あいつと結構息合うてるやん」
湊の発言に、珠生はぎょっとしてその横顔を見あげた。
「えっ、ちょっとやめてよ。何だよそれ」
「ああすまんすまん。俺はいつでも珠生の味方やで」
「勘弁してよ、ほんと」
ガラリと教室のドアを開けると、誰もいない。はっとして時間割を見ると、次は体育だった。
二人は大急ぎで着替えを始めた。
3-Eの教室を見に行っても、彰の姿がなかったからだ。珠生が来たことで、女子生徒たちがしばらくはしゃいでなかなか離してもらえなかったが、それを振りきって珠生は西校舎四階へとやって来た。
電気はついている。珠生はノックして、がちゃりと扉を開けた。
「……珠生。どうしたの?」
窓際の机で何やら書類のようなものを開き、俯いていた彰が顔を上げた。珠生はドアを閉めて、彰の方へと歩み寄る。
「これは?」
彰の見ている書類を覗きこむと、そこには今年度の行事予定表が置いてあった。
「一応確認をね。珍しいじゃないか、用もなくここへ来るなんて」
「教室にいなかったから、ここかなって」
「わざわざ探しに来てくれたのかい?」
彰はにっこりと笑った。珠生は彰の前に座って、微笑んだ。
「先輩、最近ほんとに元気ないよ。ちょっと気になっちゃってさ」
「え、そうかな」
「順位だって……」
「あぁ、成績かぁ。そうだね、五位というのにはびっくりした。みんなに聞かれたよ、何かあったのかって。担任には面談をされそうになったから逃げてきた」
彰は肩をすくめてそう言った。
「今までぶっちぎりでしたもんね」
「まぁね。僕をよく思っていないクラスメイトには、このまま落ちればいいのにと言われもしたよ。……まぁ、今回は仕方がないな」
「やっぱり何かあったんだね」
「無いとは言えないけど……正直、僕にもよく分からないんだ」
彰はすっきりしない返事をした。珠生は、以前の自分を見ているような気分になり、ただ彰の端正な横顔を見ていた。
「なんか……寂しそう」
「え?」
「別に何があったかは言わなくてもいいけど……気持ちだけでも、話してみたら楽になるかもよ」
「……優しいな、珠生は」
彰は書類を重ねてファイルに仕舞うと、窓の外を見た。グラウンドでは、部活動に励む生徒たちが元気に動きまわっている。
「そうだね、寂しいんだと思う。寂しいという気持ちが、こんなに生活に響くとは思わなかったよ」
「……よく分かります。俺もさんざん先輩に叱咤激励してもらったし……」
「あはは」
彰は苦笑した。
「今なら君の気持ちが少しわかるかな」
「そっかぁ……どうすればいいんだろ……」
「はは。珠生は気にしなくても大丈夫だよ。たぶん、徐々に慣れていけると思うんだ。夏にはまた大仕事があるしね」
「そうだね……」
「天道さんはどう? まだ彼女のことが怖い?」
「こ、怖くないし! でも、話してると腹がたってしょうがないんです」
「ほう。珍しいな、珠生がそんなこと言うなんて」
彰はニヤニヤし始める。少し元気が出てきたような顔だ。
「仲良くしてもらわないと困るなぁ。僕が命じたらそうする?」
「お断りします」
「はははっ、相当だね。大丈夫? 九州は一緒に行くんだよ。まるまる一週間くらい一緒に過ごすんだけど」
「……それは、我慢する」
「そっかぁ、なるほどな。天道亜樹か、おもしろい」
長い指で顎を撫でながら、彰はにまにま笑っている。なにか企んでいるような顔にも見えて、珠生は少しげんなりする。
「ちょっと元気が出てきたよ」
「それならいいけど……」
本当にどことなく顔色も良くなってきた彰を見て、珠生は少しほっとした。彰は荷物を片付け始める。
「僕はもう帰ろうかな。珠生は部活へ?」
「はい。ちょっとだけ描いていこうかな。……そういえば、先輩は部活入ってないんですか?」
「ううん。入っていたよ」
「へぇ、何部? やっぱり茶道部とか?」
「いいや、僕はこれでもバスケ部さ」
「ええええ!? そうなんですか!」
「うん、中学からね。高二で生徒会に入ってからは、あまり行っていないけど。球技大会は必ずバスケに出るよ」
「先輩って……モテるでしょ?」
書類を棚に片付けている彰のすらりとした背中を見ながら、珠生はそう言った。
「まぁね。前世よりもモテるかな」
「なんで彼女を作らないんですか?」
「……簡単さ。僕が好む女性がいないだけ」
今までは、そうだった。
珠生に背を向けて片づけをしながら、彰は葉山の顔を思い浮かべていた。
会いたい。
素直にそう言えたら、この正体のない不安定な気持ちは消えるんだろうか。
——なんで言えないんだろう。以前の自分なら、考えるよりも前に口からさらりと出ていただろうに。
「バスケかぁ、かっこいいなぁ、先輩」
にこにこしながらそんなことを言ってくれる珠生に、彰は自然と笑みを返した。
「そうかい? 君ほどじゃないよ」
「え?いやいや、俺は……別にそんな」
「そうかな? でも僕は、君のことが好きだよ」
「……あ、ありがとうございます」
「なに? 照れてんの? 珠生は可愛いな、やっぱり」
少し頬を赤くしている珠生を見て、彰は薄笑いを浮かべて近づいてくる。珠生は思わず後ずさった。
「照れてないよ。急にそんなこと言うから、びっくりしただけ」
「そう? なんならキスでもする?」
「しません。なんでそうなるんですか」
「なるほど、君をからかうのは結構楽しいな」
新たな目標を見つけたように瞳を輝かす彰を見て、珠生は苦笑した。
まぁそれでも、自分たちのリーダーである彰が元気なのに越したことはない。
二人は連れ立って、生徒会室を出た。
+ +
夏休みも目前となった七月下旬。
中間試験から立て続けに行われる期末試験も終了し、学校では結果発表までつかの間の弛緩した時間が流れていた。
湊は亜樹に負けたくないためか、いつになく熱心に勉強していた。試験が終わり、その疲れが出てしまったせいか、湊はいつになく元気がなかった。
昼休み、二人は生徒会室で彰に命じられ、書類を整理していた。
だらだらと作業している湊を見て、珠生は苦笑した。
「珍しいね、湊がそんなになっちゃうなんて」
「ちょっと勉強しすぎたかな。ほんま、忌々しい女や」
「ふたりとも元気だなぁ」
珠生がクリアファイルに書類を挟み込んでいると、ノックと同時にドアが開き、当の亜樹が入ってきた。
二人は仰天して、同時に亜樹を見た。
「お邪魔しまーす」
「邪魔や。帰れ」
と、湊が即座にそう言った。亜樹は怒るでもなくにやりと笑った。
「用事があって来ただけやん」
「用事? 生徒会に?」
と、珠生。亜樹は呆れたような顔で首を振り、ポケットから携帯電話を取り出した。
「そんなわけないやろ。うちはお役所仕事は関係ないねん。葉山さんから連絡あってさ」
「なんで天道さんとこに行くんだよ」
「柚子さんちにおるからやろ?」
「メールでも良かったんちゃうんか」
と、憮然として湊がそう言う。
「だってうち、あんたらの携帯なんか知らんもん。アド交換する?」
「誰がするか」
と、湊は相当いらいらしている様子である。珠生はまた苦笑した。
「何かあったらいけないし、聞いとこうか」
珠生がポケットから携帯電話を出すと、亜樹はじろりと珠生を睨んだ。
「聞いとこうか、とは何やねん。教えてください、やろ」
珠生のこめかみに、ぶち、と青筋が浮かぶ。
「じゃあいい」
「うちもいらんわ」
「じゃあ最初から言うなよ」
「社交辞令や社交辞令! そんなことも分からへんから、沖野は彼女できひんねん」
「……ぐっ」
「お前もや柏木」
「やかましい」
男二人が黙りこむのを見て、亜樹は満足気に笑うと、メール画面を開いて二人の前に置いた。
渋々二人が覗きこむと、葉山からの事務的な内容のメールが表示されている。
そろそろ霧島での計画についての話し合いがしたいので、今週末に宮尾柚子宅に集合するべしとのことであった。
「あ、そっか……もう一ヶ月前だもんね」
「週末にまでお前と会わなあかんのか」
と、湊はため息をつきながら眼鏡を上げる。
「そういうこと。斎木先輩にも言っといてな」
「先輩には直接連絡行ってんじゃないの?」
「さぁ? とりあえず、うちからは伝えたからな。ところで、もう昼休み終わるで」
「あ、本当だ」
珠生と湊は、急いで書類を片付けて立ち上がった。何となく二人を待っている様子の亜樹を見て、珠生は言った。
「俺といるの見られるの、嫌なんじゃなかったっけ?」
「別に。もういいねん。クラス変わってから、誰もうちに絡んでこーへんし」
「ふーん」
と、珠生と湊は気のない返事をした。
三人で生徒会室から出て、教室へと向かう。
すれ違いざまに、一年生の女子生徒がちらちらと珠生を見ては、ひそひそと何かを囁き合っている様子を見て、亜樹は珠生の横顔を見た。
殆ど同じ背の二人だ、珠生の端正な横顔がすぐそばにある。
亜樹はじろじろと珠生を観察しながら歩いていた。
「何見てんだよ」
「何も知らん一年生がキャッキャいうてはるわ。まぁ確かに……あんた顔はきれいやな。それは認める」
「だから顔は、って言い方やめてくれる? 性格めっちゃくちゃ悪いみたいじゃん」
「大していい性格でもないと思うけど?」
「はぁ? 天道さんに言われたくないんですけど」
珠生が横目でそんなことを言い返すと、亜樹は楽しげに笑った。教室棟の東校舎に来ると、亜樹は先に立って走りだした。
「ほな、先輩によろしく」
と言い残し、亜樹はさっさと一人で階段を登っていった。短いスカートが翻り、細い足が見えた。
珠生はため息をついた。
「九州かぁ、気が重いなぁ」
「俺も。でも珠生、あいつと結構息合うてるやん」
湊の発言に、珠生はぎょっとしてその横顔を見あげた。
「えっ、ちょっとやめてよ。何だよそれ」
「ああすまんすまん。俺はいつでも珠生の味方やで」
「勘弁してよ、ほんと」
ガラリと教室のドアを開けると、誰もいない。はっとして時間割を見ると、次は体育だった。
二人は大急ぎで着替えを始めた。
37
お気に入りに追加
535
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる