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完結章ーChildren’s storyー 〈悠葉視点〉
〈18〉
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「へぇ、香純がそんなことを?」
「そうやねん。父さんもさぁ、娘にええ顔ばっかせんと俺にも話してくれたら良かったのにと思わへん?」
勢田の運転する黒塗りのリムジンの後部座席で、悠葉は紫苑にそう捲し立てていた。
いつになく早口になってしまうのは、照れていることを知られたくないからだ。
数日離れていただけなのに、今、目の前に紫苑がいるという現実があまりにも夢のように感じられて、さっきから顔が熱い。
すると紫苑はおっとりとと微笑んで、シートの上で悠葉の手をそっと握った。驚いて肩を揺らすも、悠葉の手を包み込む大きな手のぬくもりが心地よく、悠葉はいよいよ照れてしまう。
ぷい、と窓の外に目をやった悠葉の手を、紫苑は少し強く握りしめてきた。
「父さんも菊乃にはベタ甘だもん。娘はやっぱ可愛いんじゃない?」
「葵さまが菊乃に……? うそお」
「ほんとほんと。ちっちゃい頃なんか、もーすごかったよ。んで、俺は拗ねてた」
「紫苑が拗ねる?」
「そりゃそうだよ。ごめんごめって謝ってくるんだけど、こっちも意地になっちゃってさ、素直になれなかったりするんだよね」
そう言いつつも、紫苑の口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。
奥手で控えめだった紫苑だが、今は全身にどっしりとした余裕が漂っていた。
その変貌っぷりに悠葉がやや驚いているあいだも、紫苑はさらにこう話す。
「まぁ俺長男だから、ちゃんと立派な後継ぎに育てなきゃって思いがあったんだろうけどね。なんとなく、今ならわかるよ」
「へ、へぇ……」
「最近は父さんと仕事の話もできるようになってきて、昔よりも仲良くなれてて……ん? 悠葉、どうしたの?」
「えっ?」
車窓を眺めながら穏やかに語る紫苑の横顔に、いつしか見惚れていたらしい。悠葉はハッとして、「別に」と言った。
そのとき、運転席の方からずずっ……と鼻をすする音が聞こえてくる。どういうわけか、勢田が涙ぐんでいるのだ。ふたりは顔を見合わせ、運転席のほうへ身を乗り出した。
「どうしたの、勢田さん」
「いえね。昔、葵さまと結糸さまを、このようにお屋敷へお連れしたことがありまして。なんだか、急に懐かしくなってしまって」
「父さんと母さんを?」
「葵さまが視覚再生手術を終えて、初めてお屋敷に戻るときのことですから、もうずいぶん前のことになります。……そして今は、番になられた紫苑さまと悠葉さまを乗せている。感慨深いなぁと思いましてね」
勢田はそう言ってルームミラーごしに紫苑と悠葉を見つめ、微笑んだ。
「おめでとうございます、おふたりとも」
「……うん、ありがとう」
小さい頃から、勢田にはよく遊んでもらった。幼い頃からふたりを知る勢田からの、あたたかい祝福の言葉だった。
胸が熱く、いっぱいになる。紫苑もまた、同じ気持ちでいるのだろう。空色の瞳が微かに潤み、きらめいている。
悠葉は紫苑の手を握り返して、勢田に向かって笑顔を返した。
「そうやねん。父さんもさぁ、娘にええ顔ばっかせんと俺にも話してくれたら良かったのにと思わへん?」
勢田の運転する黒塗りのリムジンの後部座席で、悠葉は紫苑にそう捲し立てていた。
いつになく早口になってしまうのは、照れていることを知られたくないからだ。
数日離れていただけなのに、今、目の前に紫苑がいるという現実があまりにも夢のように感じられて、さっきから顔が熱い。
すると紫苑はおっとりとと微笑んで、シートの上で悠葉の手をそっと握った。驚いて肩を揺らすも、悠葉の手を包み込む大きな手のぬくもりが心地よく、悠葉はいよいよ照れてしまう。
ぷい、と窓の外に目をやった悠葉の手を、紫苑は少し強く握りしめてきた。
「父さんも菊乃にはベタ甘だもん。娘はやっぱ可愛いんじゃない?」
「葵さまが菊乃に……? うそお」
「ほんとほんと。ちっちゃい頃なんか、もーすごかったよ。んで、俺は拗ねてた」
「紫苑が拗ねる?」
「そりゃそうだよ。ごめんごめって謝ってくるんだけど、こっちも意地になっちゃってさ、素直になれなかったりするんだよね」
そう言いつつも、紫苑の口元には幸せそうな笑みが浮かんでいる。
奥手で控えめだった紫苑だが、今は全身にどっしりとした余裕が漂っていた。
その変貌っぷりに悠葉がやや驚いているあいだも、紫苑はさらにこう話す。
「まぁ俺長男だから、ちゃんと立派な後継ぎに育てなきゃって思いがあったんだろうけどね。なんとなく、今ならわかるよ」
「へ、へぇ……」
「最近は父さんと仕事の話もできるようになってきて、昔よりも仲良くなれてて……ん? 悠葉、どうしたの?」
「えっ?」
車窓を眺めながら穏やかに語る紫苑の横顔に、いつしか見惚れていたらしい。悠葉はハッとして、「別に」と言った。
そのとき、運転席の方からずずっ……と鼻をすする音が聞こえてくる。どういうわけか、勢田が涙ぐんでいるのだ。ふたりは顔を見合わせ、運転席のほうへ身を乗り出した。
「どうしたの、勢田さん」
「いえね。昔、葵さまと結糸さまを、このようにお屋敷へお連れしたことがありまして。なんだか、急に懐かしくなってしまって」
「父さんと母さんを?」
「葵さまが視覚再生手術を終えて、初めてお屋敷に戻るときのことですから、もうずいぶん前のことになります。……そして今は、番になられた紫苑さまと悠葉さまを乗せている。感慨深いなぁと思いましてね」
勢田はそう言ってルームミラーごしに紫苑と悠葉を見つめ、微笑んだ。
「おめでとうございます、おふたりとも」
「……うん、ありがとう」
小さい頃から、勢田にはよく遊んでもらった。幼い頃からふたりを知る勢田からの、あたたかい祝福の言葉だった。
胸が熱く、いっぱいになる。紫苑もまた、同じ気持ちでいるのだろう。空色の瞳が微かに潤み、きらめいている。
悠葉は紫苑の手を握り返して、勢田に向かって笑顔を返した。
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