セックスなしでもいいですか?

餡玉

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番外編『これがリア充クリスマス』

〈前〉

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こんばんは、餡玉です。
今日から24日まで、クリスマス番外編をアップしたいと思います٩(ˊᗜˋ*)و
よろしければ、冬のお供にしていただけますと嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします!




˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚




 
 十二月も中旬を迎え、一季は年度末の書類仕事に追われていた。
 昨日が四年生たちの卒業論文、および大学院生たちの修士論文の締め切りであったため、提出先である教務課のカウンターは大いにごった返していたのである。

 提出期日は昨日の午後五時。泣きながら締め切りの延長を嘆願する学生もいたし(教務課に言われても困るのだが)、目の下にくまを作った学生、げっそりやつれてしまった学生、一週間は風呂に入っていないのではないかと疑わしき学生、明らかにひどい風邪を引いているであろうマスク姿の学生が友人に付き添われ、フラフラになりながら提出する(必ず本人が提出しなければならないため)……などなど、普段はキラキラと楽しげに学生生活を謳歌している彼らも、その日ばかりは、死闘を終えたばかりのボクサーよろしく、ボロボロの状態で教務課に訪れていたものである。

 背部が布張りになった綴込み表紙でまとめられた論文の山は、学生らの血と涙と執念の結晶である。一冊一冊、規定通りに論文が作成されているかどうかをチェックしながら、一季は感嘆のため息をついた。論文としての形式を満たしているかチェックした上で担当教官に渡すまでが、教務課職員の仕事なのだ。

「嶋崎さーん、なんか表紙から誤字ってる子がいて~、電話してんすけど全然出ねぇっつーか」
「どれ? ああ……昨日ギリギリで滑り込んだ子だね。きっと下宿で寝てんだよ」
「どーします?」
「夕方もう一回連絡して。留守電あったらメッセージ入れといてね」
「はいっす」

 あらかじめ提出されていた論文タイトル一覧と、提出された論文を見比べながら、田部がもう一度受話器を持ち上げた。意外にも丁寧な口調で留守電を吹き込んでいる田部の声を聞きながら、一季は改めてデスクトップに向き直った。

「ところでぇ、クリスマスまであと三日じゃないっすかー。嶋崎さんと塔真先生も、やっぱラブラブクリスマスデートするんすか?」

 すると、電話を切った田部がいきなりそんなセリフを口にする。一季は椅子から飛び上がるほどに仰天してしまった。

「……ちょっ……!!?? 職場でいきなり何言って……!!!」
「へ? もうみんな昼行ってて部屋空っぽっすけど」
「あっ……ああ、ほんとだ……」

 単調な作業に集中しているうち、時刻はいつしか正午を回っていた。一季はほっと胸を撫で下ろしつつ、じろりと田部を睨みつける。

「でも、こんなとこでそんな話題やめてくれよ。誰が聞いてるか分からないんだからさ」
「あ、そっすね。すんません」
「軽いなぁもう……」
「俺、こないだの合コンで知り合った子とクリスマスデートの約束してるんすよ! もう、マジで可愛い子で!! この子こそ運命の相手じゃね? マジな恋の予感じゃね!? って感じでぇ!!」
「ふぅん……」

 質問してきた割に突如としてマシンガントークを始めた田部の声を片耳で聞きながら、一季はふと泉水のことを思った。


 ——クリスマスかぁ。まだ何も決めてないけど、二人でのんびり過ごせたらいいなぁ……。外で食事もいいけど、やっぱり家でまったり過ごすのがいいかな。ちょっといいご飯食べて、ワイン開けて、そのあとは…………。


 ツリーのきらめくムーディな部屋で泉水に迫られるイメージが一季の脳内にぽわんと浮かび、一瞬にして頬がかぁぁぁと熱くなる。一季は軽く首を振り、昂りそうになる肉体を戒めるように頬を叩いた。



 +


「クリスマス……!?」

 その日の晩、なんとなく泉水にクリスマスイブの予定を尋ねてみた。すると、泉水はハッとした後、愕然としたような表情になり、まるで信じられないものを見るような目で一季を見つめている。

「ど、どうかしました……?」
「い、いや……クリスマスってリア充のためのイベントって感じやないですか。この二十八年間ずっと、根っからクリスマスイベントとは縁のない生活をしとったもんで、危うくその存在さえ忘れかけてたっていうか……」

 泉水はそう言って、食器洗いを終えたばかりの手をタオルで拭った。今日は泉水の部屋で夕飯を共にしたのである。食器洗いをする泉水の隣で、一季はコーヒーを淹れているところだ。

 ワンルームのキッチンは手狭であるがゆえに、否応なしに二人の距離が近くなる。交際が始まって数ヶ月が経過していると言うのに、腕まくりをした泉水の男らしい腕がすぐそばで用事をこなしているだけで、一季の胸はどきどき賑やかにときめいてしまう。

「いやぁ、かく言う僕も、甘いクリスマスを過ごしたことは一度もないので、いまいち何をしたらいいのか分からないんですけど……」
「恋人たちのクリスマスいうたら、アレですよね。高級ホテルとかでディナーしてそのままお泊まりコースとかが普通なんですよね……? あ、ああかん、そんなんまるで準備してへんかったわ……」

 そう言って、泉水があせあせと冷や汗をかきかき焦り始めている。泉水の中に染み付いた古典的なリア充イメージに苦笑しつつ、一季は宥めるようにこう言った。

「いやいや、そんな悲嘆に暮れないでください。僕は賑やかな街へ出るより引きこもっていたいタイプなので、そんなことしなくていいですよ。高級ホテルなんて疲れるだけですから」
「えっ……ほ、ほんまですか?」
「はい。なので、うちでゆっくり……」
「あっ……ていうか、二十四日は……」

 泉水はふと、冷蔵庫に貼り付けられたカレンダーに目をやった。二十四日のコマには赤字で『坪田ゼミ打ち上げ』と書かれている。

「あ……打ち上げがあるんですね……」

 大人気なく、しょげた声が出てしまった。すると泉水はガッと一季の肩を掴んでくわっと目を見開き、両肩を掴んで真正面から向き直る。

「ご、ごめん、ごめんな……!! キャンセルするわ!! 坪田ゼミの院生らの論文指導しとったから打ち上げ呼ばれてんけど、飲み会なんていつでもできるし!!」
「い、いえいえ! 行ってあげてください! みなさん、泉水さんと飲むの楽しみにしてるでしょうし……!!」
「ああああ……なんて迂闊なんや俺は……ッ……!! 初めてのッ……一季くんとの、初めてのクリスマスやのに……!!」
「ふ、ふふっ……」

 顔面蒼白になり、一季以上に悲壮な顔をして嘆いている泉水を見ていると、ついつい笑えてきてしまった。一季はそっと泉水の手首に触れ、微笑みながらこう言った。

「打ち上げ、行ってきてください。そのあと、ゆっくり二人で飲み直しましょう」
「えっ……でも」
「ヨレヨレになって論文を提出しにきた学生さんたちをたくさん見てますから。彼らの頑張り、しっかり労ってきてあげてください」
「一季くん……!! どんだけ天使やねんめっちゃ優しいやん…………!!」
「わっ」

 ぎゅ、と唐突に泉水の腕に閉じ込められる。あたたかく頼もしい腕の中に包み込まれる幸せに、一季の唇には笑みが浮かんだ。そっと泉水の背中を抱きしめ返す。

「ありがとう、でも、すぐ帰ってくるし! 二次会とか全部断ってすぐ帰ってくるから、待っててな……!!」
「そんなに慌てなくていいですよ。それにこれからは、毎年一緒に過ごせるんですし……」
「…………毎年…………」

 一季の言葉に、泉水がガバリと顔を上げた。そして、大真面目な表情でまじまじと顔を覗き込まれる。
 しばしきょとんとしていた一季だが、ようやく自分の言った台詞の意味に気がついた。照れ臭くなって、ボボッと頬が熱くなる。

「あ、あの……毎年っていうのは……あはは、まぁ、その、泉水さんさえ良ければっていうことで……」
「………………好き」
「え?」
「好きです。めっちゃ好き」
「えっ?」

 突然の愛の言葉に目を丸くしていると、ふわりと唇が重なった。初めての頃が嘘のように、優しく自然なキス。互いの弾力を確かめ合い、ぬくもりを分け合うようなあたたかい口付けに、一季の身体にも火が灯る。

 唾液を帯びた泉水の舌がとろりと唇に触れ、誘われるように一季も唇を開く。濡れた唇同士が触れ合う淫靡な感触に、一季は思わず「んぁ……」と甘い嘆息を漏らした。

 交際が始まって数ヶ月、こうして泉水からキスをしてくれることはまだまだかなり珍しいことだ。不意打ちの泉水の色香は、いつも以上に一季の性感を激しく揺さぶってくる。すぐに離れていこうとする泉水のパーカーを咄嗟に掴み、欲を張って続きを求めた。

「ん……いつきくん……ハァ……ッ♡」

 泉水のパーカーの中に手を差し込むと、びくん! と筋肉質な肉体が甘く震える。初々しい反応が可愛くてたまらず、身を乗り出して距離を縮め、さらに深く舌を絡め合った。すると、下腹のあたりで存在感を増す屹立の存在に、むらむらと欲望が高まっていく。

「いずみさん、どこで、こんなスマートなキス覚えてきたんですか……? すごくえっちです……」
「えっ、えっ……えっち(震える小声)でしたか……?」
「ハァ……もう我慢できないです。……ここで、しませんか?」
「えええっ!? ここって、キッチン!? そ、そんな、そんな、こんなとこでそんなんしていいんですか……ッ!!??」
「はい……だめ?」
「……………………だめじゃないですめっちゃしたいです」

 許可が降りるやいなや、一季はうっとりと微笑みながら、泉水の前に跪く。
 そして手始めに、数分のキスですっかり張り詰めてしまった泉水の剛直を、美味しく舐めしゃぶったのであった。
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