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30 突然の来訪①〈side大城〉

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 翌日、篠崎は欠勤した。
 昨日発熱して早退した上、部長からも休みを取るよう勧められていたこともあるし、それ自体は別に不自然なことでもなんでもない。

 ……だけど、その欠勤理由は紛れもなく俺のせい。
 盛り上がってタガが外れて、明け方近くまで篠崎を抱き続けてしまったせいだ。

 ——バカすぎるだろ俺……盛りのついたサルじゃあるまいし、あんなになるまで篠崎を抱き潰すなんて……。

 空が白み始めた頃、篠崎は意識がなかった。
 人形のように俺に揺さぶられながら、いつしか寝落ちてしまったらしい。

 慌てて篠崎を介抱し、シーツなどを洗濯したり換気したりしているうちにすっかり夜が明けていた。そのため、俺は徹夜だ。だが、眠気や疲れなどは一切なく、俺はいつにも増して元気だった。

 ——……可愛かったな、篠崎。どうしよ俺、これからあいつと顔合わせるたびに盛ってたんじゃ仕事にならないぞ……。

 昨日のあれこれを思い出すだけで、すでにドキドキしはじめているという有様だ。こんな状態でオフィスに本物の篠崎がいたら、俺の股間と情緒はえらいことになる。

 ——はぁ~~~もう、馬鹿か俺! いい加減にしろ、もういい歳こいた社会人だろ! 公私混同するべからず、深呼吸して仕事に集中しろ!

 ひそかに己に喝を入れていると、ポンと誰かに肩を叩かれ、俺は仰天して飛び上がりそうになった。
 やや涙目で振り返ると、酒井が胡散臭そうな顔で俺を見下ろしている。

「な、なんだ酒井か……どした?」
「大城さん、受付にお客様が来られているそうですけど」
「え、誰? そんなアポなかったと思うけど……」
「『こうのや』の営業の方だそうですけど、コラボの件でなにかあったんですか?」
「は!?」

 その名を聞くやいなや、俺は大急ぎで受付へと駆けつけた。

 すると、受付嬢たちに甘い笑顔を振りまきながら楽しげにおしゃべりをしている高野由一郎がそこにいて、思わず背筋がまっすぐに伸びる。

 高野は俺に気づくと、いかにも裏のありそうな笑顔でひらっと手を振る。そして、スマートに歩み寄ってきた。

「もう来てくれはったん? ごめんなぁ、お忙しいとこ」
「い、いや……たまたま手が空いてたからいいですけど。どうしたんですか」
「そろそろお昼やし、一緒にランチでもどうかなぁと思ってね」
「は、はぁ……」

 別に昼食を取ることはは構わないのだが、一体何の用があってここにきたのかと訝しんでいると、軽く首を傾げてにこにこしていた高野の顔から、突如表情が消えた。

 そして、じ……と物言いたげな顔で俺を見つめつつ「行くやろ?」と、低い声で圧をかけてくる。

 ——あ……こりゃ篠崎のことで何か言われるな。

 一瞬でそれを察した俺は、羽織っていたジャケットのボタンを留めてネクタイを締め直し、重々しく「……わかりました」と応じた。



 
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