225 / 339
第三章 能登にて
一、能登検分
しおりを挟む
一方、能登の国。
佐為と風春は、業平に要請した応援を待っていた。
海岸線一帯の瘴気は濃く、只人が近寄ればすぐに意識を失ってしまうほどの毒だ。
しかし、雷燕の姿はどこにも見えず、気配も感じることができない。そのため、佐為はかなり苛立っている様子だ。感知能力に長けた佐為であるが、ここではどういうわけかそれが全く働かないのである。
風春は焦る佐為を、根気強く宥め続けている。
「落ち着けよ、佐為。瘴気が濃すぎるんだ。明日の朝は、もう少し離れて検分しよう」
「はい……。でも、これじゃあ応援を寄越してもらっても、うまく働くかどうか……」
「大丈夫、まだ皆が来るまでには日もかかる。私達でやれることはやっておこう。とりあえず、落ち着くんだ」
「はい……」
佐為と風春は、海岸線を見渡せる高台に立っていた。佐為は編笠を外すと、強い潮風に短い髪をばさばさとなびかせた。
紙のように白い肌は、曇天の下ではさらに白く青く見える。やや吊り上がった目に、いつになく不安げな色があるのを見つけた風春は、穏やかな口調で言う。
「佐為、今日は屯所に戻ろう。お前、ここのところ具合が良くなさそうだ」
「……そんなことはないですよ」
「いいから。私も、何だか疲れたよ」
「……分かりました」
佐為はくるりと踵を返し、先に立って歩き出した。足早に進んでいく佐為の後ろ姿を見ながら、風春は湿った風に顔をしかめる。
この土地柄のせいなのか、ここのとこずっと曇っている天気のせいなのか。
佐為が苛立つのも分かる。ここではどうも、うまく感覚が働かない。いつも感じの鋭い佐為だけに、それが余計に歯がゆいのだろう。
二人が連れ立って帰路についていると、ふと、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
佐為たちがねぐらにしているのは、人里から少し離れた場所にある古い屋敷である。人が住まなくなったところを陰陽師衆の屯所として借り受けているのだ。
そんな場所に、誰が。
二人は顔を見合わせて、警戒しながら屋敷の方へと進んだ。
――明らかな妖の匂いが二つ。
風春は懐から呪符を取り出して手に構えると、そっと裏手に広がる森のほうを窺った。
「……おや?」
懐かしい気配。これは……。
佐為と風春は、業平に要請した応援を待っていた。
海岸線一帯の瘴気は濃く、只人が近寄ればすぐに意識を失ってしまうほどの毒だ。
しかし、雷燕の姿はどこにも見えず、気配も感じることができない。そのため、佐為はかなり苛立っている様子だ。感知能力に長けた佐為であるが、ここではどういうわけかそれが全く働かないのである。
風春は焦る佐為を、根気強く宥め続けている。
「落ち着けよ、佐為。瘴気が濃すぎるんだ。明日の朝は、もう少し離れて検分しよう」
「はい……。でも、これじゃあ応援を寄越してもらっても、うまく働くかどうか……」
「大丈夫、まだ皆が来るまでには日もかかる。私達でやれることはやっておこう。とりあえず、落ち着くんだ」
「はい……」
佐為と風春は、海岸線を見渡せる高台に立っていた。佐為は編笠を外すと、強い潮風に短い髪をばさばさとなびかせた。
紙のように白い肌は、曇天の下ではさらに白く青く見える。やや吊り上がった目に、いつになく不安げな色があるのを見つけた風春は、穏やかな口調で言う。
「佐為、今日は屯所に戻ろう。お前、ここのところ具合が良くなさそうだ」
「……そんなことはないですよ」
「いいから。私も、何だか疲れたよ」
「……分かりました」
佐為はくるりと踵を返し、先に立って歩き出した。足早に進んでいく佐為の後ろ姿を見ながら、風春は湿った風に顔をしかめる。
この土地柄のせいなのか、ここのとこずっと曇っている天気のせいなのか。
佐為が苛立つのも分かる。ここではどうも、うまく感覚が働かない。いつも感じの鋭い佐為だけに、それが余計に歯がゆいのだろう。
二人が連れ立って帰路についていると、ふと、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
佐為たちがねぐらにしているのは、人里から少し離れた場所にある古い屋敷である。人が住まなくなったところを陰陽師衆の屯所として借り受けているのだ。
そんな場所に、誰が。
二人は顔を見合わせて、警戒しながら屋敷の方へと進んだ。
――明らかな妖の匂いが二つ。
風春は懐から呪符を取り出して手に構えると、そっと裏手に広がる森のほうを窺った。
「……おや?」
懐かしい気配。これは……。
12
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説


琥珀に眠る記憶
餡玉
BL
父親のいる京都で新たな生活を始めることになった、引っ込み思案で大人しい男子高校生・沖野珠生。しかしその学園生活は、決して穏やかなものではなかった。前世の記憶を思い出すよう迫る胡散臭い生徒会長、黒いスーツに身を包んだ日本政府の男たち。そして、胸騒ぐある男との再会……。不可思議な人物が次々と現れる中、珠生はついに、前世の夢を見始める。こんなの、信じられない。前世の自分が、人間ではなく鬼だったなんてこと……。
*拙作『異聞白鬼譚』(ただ今こちらに転載中です)の登場人物たちが、現代に転生するお話です。引くぐらい長いのでご注意ください。
第1幕『ー十六夜の邂逅ー』全108部。
第2幕『Don't leave me alone』全24部。
第3幕『ー天孫降臨の地ー』全44部。
第4幕『恋煩いと、清く正しい高校生活』全29部。
番外編『たとえばこんな、穏やかな日』全5部。
第5幕『ー夜顔の記憶、祓い人の足跡ー』全87部。
第6幕『スキルアップと親睦を深めるための研修旅行』全37部。
第7幕『ー断つべきもの、守るべきものー』全47部。
◇ムーンライトノベルズから転載中です。fujossyにも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる