異聞白鬼譚

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第七幕 ー燕と夜顔ー

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 夢を見た。


 目に映るのは、吹き上げる血飛沫と、肉の裂け目の赤い色。
 まるで、腐り落ちる寸前の柘榴のような、淫靡な色。甘く芳醇な香りを匂い立たせながら、ぼたぼたと崩れ落ちてゆくどす黒い赤。

 かの戦で、俺の手によって奪われた数多の命。

 怨みがましい目線。
 恐怖に見開かれた虚ろな目の中にある、果てのない闇。
 俺を奈落へと誘うような、深い、闇い、闇。


 しかし俺は、自らの創り上げた地獄の中で、笑っている。勝ち誇ったように、死体の山を睥睨しながら。


 儚いものだ。
 この鉤爪のひと振りで、消えてゆく脆弱な命。
 力無きものは、力持つものに喰われゆくのがこの世の理。
 
 そのような目で俺を見上げたところで、何になる。
 お前たちはここで朽ちてゆくだけの、くだらない肉塊に過ぎないのだ。


 怨め、恐怖しろ、泣き叫べ……!!


 俺は嗤う。心から、愉しげに。


 もっと、血を浴びたい。もっと、肉を喰らいたい……!!


 俺は吼える。
 衝動と本能に身を委ね、自らを鼓舞するように。



 殺す、殺す、殺す……!!

 
 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!



 ✿ 


「く、ぁっ……!! はぁっ……! はぁっ……」


 荒い呼吸と共に目を開くと、そこには見慣れた天井があった。
 がばりと起き上がり辺りを見回すと、そこは自分の部屋だった。

 ぐっしょりと汗に濡れた衣は重く、心臓はばくばくと暴れ回っている。胸を押さえ、千珠は大きくため息をついた。


 ――もう何度目だ。こんな夢を見るのは。


 夜顔の憎しみに満ちた妖気を引き受けてからというもの、記憶の中に眠る戦の記憶に脅かされ、感じたこともないほどの凶暴な気持ちに身体中が支配される。

 夜顔の妖気は一ノ瀬佐為によって封じられているのにも拘らず、夜顔の抱えていた心の闇は、千珠の心をじわじわと蝕んでいるのだ。

 千珠はもう一つため息をついて、両手で目を覆った。

 視界を遮った所で、見えなくなるものなど一つもない事を知りながら。
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