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第五幕 ー荒ぶる海神ー
五、現状
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さて、山吹たちが情報を持ち帰ってきた。
ひとつ。
海に現れる龍の物怪は、海賊ばかりを襲うわけではなく、商船なども襲うこともあるらしい。
瀬戸内は、輸送力の高い海路の大動脈である。国内において、太宰府や畿内への主要な航路があり、更に大陸文化流入の際にも利用される、外交的にも重要な交通路だ。
瀬戸内の流れを支配する者は、物流と人流を支配することになる。もしそれを目的にする者が、何らかの形で龍の物怪を操っているとしたら、それはこの国にとって甚大な影響をもたらすことは間違いない。
ふたつ。
漁師たちが聞いたという太鼓と笛の音が、安芸国・厳島神社の神事で奉納される神楽の音色によく似ていること。即ち、厳島にて何者かが物の怪を操っている可能性があるのではないかという噂が、まことしやかに囁かれているらしい。
柊は腕を組み、目を閉じてそれを聞いていた。
「厳島、か」
「厳島神社は、海神をお祭りする場所でござんすな。何も関係がないとは言い難いでござんすね」
と、忍寮へ呼ばれてやって来ていた宇月がそう言った。
千珠、竜胆、山吹、朝飛、鷹見はそれを聞きながら地図を眺める。
安芸国・厳島神社から怪物が現れたという場所は、かなりの距離があった。それに、間には小さな島々もあり、見通せるはずはない。
そしてそれだけの距離があるのに、神楽の音色が聞こえるはずもない。益々怪異だ。
「やっぱり、行って見なあかんな」
柊は呟くと、硯と紙に向かい、さらさらと何かを書きつけた。そして庭へ出ると、ひゅうと一声、口笛を吹いた。すると天高くから鷹がひらりと舞い降りて、高く掲げた柊の腕に間違いなく止まる。
鷹の足に文を巻きつけ、空へと放つ。
「千珠さまと竜胆は俺と出る。安芸へ行くで。宇月は山吹と、俺達を追って来い」
「おう」
千珠と竜胆は応じた。宇月も頷く。
「朝飛は、他の忍たちにこの話を伝えて、三人ずつ周防、備後、備前の沿岸警備軍に合流や。連絡を怠るな、なんかあったらすぐに足の速い鷹を飛ばせ」
「はい」
と、山吹と朝飛。
「鷹見はここで待機。残った忍衆を必要に応じて動かしてくれ、頼んだで」
「はいよ」
鷹見は手を上げて応えた。
「周防には留衣殿もおるからな、しっかり援護していくぞ」
柊は皆の顔を見渡しながらそう言った。皆、しっかりと頷く。
太陽は西に少しずつ傾き始めていた。冬の昼は短い。
今夜もどこかで、物の怪は現れるのだろうか……千珠は地図をじっと見つめながら、紙の上の色のない海に思いを馳せる。
今回は誰と戦うことになるのだろう、千珠はふと、陀羅尼のことを思い出す。
そして、自分の手を離さなかった、舜海のことを。
ひとつ。
海に現れる龍の物怪は、海賊ばかりを襲うわけではなく、商船なども襲うこともあるらしい。
瀬戸内は、輸送力の高い海路の大動脈である。国内において、太宰府や畿内への主要な航路があり、更に大陸文化流入の際にも利用される、外交的にも重要な交通路だ。
瀬戸内の流れを支配する者は、物流と人流を支配することになる。もしそれを目的にする者が、何らかの形で龍の物怪を操っているとしたら、それはこの国にとって甚大な影響をもたらすことは間違いない。
ふたつ。
漁師たちが聞いたという太鼓と笛の音が、安芸国・厳島神社の神事で奉納される神楽の音色によく似ていること。即ち、厳島にて何者かが物の怪を操っている可能性があるのではないかという噂が、まことしやかに囁かれているらしい。
柊は腕を組み、目を閉じてそれを聞いていた。
「厳島、か」
「厳島神社は、海神をお祭りする場所でござんすな。何も関係がないとは言い難いでござんすね」
と、忍寮へ呼ばれてやって来ていた宇月がそう言った。
千珠、竜胆、山吹、朝飛、鷹見はそれを聞きながら地図を眺める。
安芸国・厳島神社から怪物が現れたという場所は、かなりの距離があった。それに、間には小さな島々もあり、見通せるはずはない。
そしてそれだけの距離があるのに、神楽の音色が聞こえるはずもない。益々怪異だ。
「やっぱり、行って見なあかんな」
柊は呟くと、硯と紙に向かい、さらさらと何かを書きつけた。そして庭へ出ると、ひゅうと一声、口笛を吹いた。すると天高くから鷹がひらりと舞い降りて、高く掲げた柊の腕に間違いなく止まる。
鷹の足に文を巻きつけ、空へと放つ。
「千珠さまと竜胆は俺と出る。安芸へ行くで。宇月は山吹と、俺達を追って来い」
「おう」
千珠と竜胆は応じた。宇月も頷く。
「朝飛は、他の忍たちにこの話を伝えて、三人ずつ周防、備後、備前の沿岸警備軍に合流や。連絡を怠るな、なんかあったらすぐに足の速い鷹を飛ばせ」
「はい」
と、山吹と朝飛。
「鷹見はここで待機。残った忍衆を必要に応じて動かしてくれ、頼んだで」
「はいよ」
鷹見は手を上げて応えた。
「周防には留衣殿もおるからな、しっかり援護していくぞ」
柊は皆の顔を見渡しながらそう言った。皆、しっかりと頷く。
太陽は西に少しずつ傾き始めていた。冬の昼は短い。
今夜もどこかで、物の怪は現れるのだろうか……千珠は地図をじっと見つめながら、紙の上の色のない海に思いを馳せる。
今回は誰と戦うことになるのだろう、千珠はふと、陀羅尼のことを思い出す。
そして、自分の手を離さなかった、舜海のことを。
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