異聞白鬼譚

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第四幕 ー魔境へのいざないー

終 旅立ち

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 見送りには行かないと言っていた千珠は、宣言通り、現れなかった。

 光政と宇月、忍衆に見送られ、舜海は城門に一人立つ。

「ほんなら、いってきますわ」

 舜海の明るい笑顔に、皆笑顔を見せて応じた。

「さぼるなよ、お前は昔から目離すとすぐに気を抜くからな」
と、光政。
「そんなことしませんて。それがきの頃の話やろ」
「二年か。幼い頃からずっと、お前は俺のすぐそばにいたことを思うと、ちょっと寂しい気もするな」
「殿、ご冗談を。ほんまはせいせいしてるんやろ」
「その通りだ」

 光政と舜海のやり取りに、回りから笑いが起こる。二人は主従であると同時に、幼馴染でもあるのだ。

「お身体に気をつけてくださいませ、舜海さま」
と、宇月。舜海は頷くと、宇月と柊を見やる。

「千珠のこと、頼んだで」

 二人は目を見合わせて、頷いた。

「千珠さまはどこに?」

 柊の部下である竜胆りんどうが、あちこちを見回している。そういえば……と周りの忍達もあたりを見回し始めた。

「ええねん、あいつは。集団行動できひんやつやねんから」
「まぁ、確かに……」

 竜胆は納得した様子である。
 舜海は、皆に笑顔を見せると、ひらりと馬に跨がった。

「ほな、行ってくるわ」

 手を上げ、くるりと馬の向きを変えて、舜海は城門を出てゆく。

「いってらっしゃいませ!」
「お気をつけて!」

 遠くなる、聞き慣れた仲間たちの声を聞きながら、舜海は晴れ渡った空を仰ぎ、馬を駆った。

 ここをこんな風に一人で後にすることなど、初めてのことだ。だが心許なくはない。自分はこれから、強くなるために、青葉の確固たる守りとなる為に、都へゆくのだから。

 そう、そしてかけがえのない存在である、千珠のために。

 城下町を過ぎた辺りで、ふと、舜海は後ろを振り返った。
 青空にくっきりと浮かび上がり、そびえ立つ三津國城。その天守閣の上に、誰かが立っている。
 既にその姿は小さく、影のようにしか見えなかった。しかし、舜海にはそれが誰なのか分かっていた。

 きら、きらと風にたなびく長い銀髪と、赤い耳飾りが、太陽に反射して煌めいている。
 千珠が天守閣の真上に立ち、舜海を見下ろしている。

「あいつ、あんなとこで……」

 それに気づいた舜海は、唇に笑みを浮かべながら高く手を挙げた。
 そしてそのまま馬を駆り、走り去ってゆく。


 どんどん小さくなっていく舜海の背中。風に靡いて顔にかかる髪を、千珠はそっと手で押さえた。


 舜海の声と笑顔を想いながら。
 いつまでも、いつまでも、見送っていた。

 








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