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第三幕 ー厄なる訪問者ー
一、千珠の暮らし
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「よし、今日はここまで!」
「ありがとうございました!」
道場に凛とした声が響き、木刀を振って打ち合いをしていた若い男達の緊張感が一気に解けた。皆手ぬぐいで汗を拭きながら談笑を始める。
「今日は一段としごかれたなぁ」
「まぁ先月、紗代様があんなことになったばかりだものな。締めて掛かられるのも仕方なかろう」
皆ががやがやと道場を出ていきながらそんな話をしている。
「千珠さま、お疲れさまでございます」
「おぅ」
千珠は長い銀髪を一つに結い、白い着物に黒い袴の道着姿である。門弟たちに挨拶を返しながら汗を拭ってるその姿を、若者たちはちらちらと横目で伺いながら道場を出て行く。
千珠は城の道場で、千珠は白珞族に伝わる剣術を若い衆に伝える役割を得ている。戦の終焉から一年と少し経った今でも、戦乱の世が一体どういうものかということを肌で感じていた若者たちは、皆強さを求めて道場に剣術を学びに来るのである。
今は泰平と呼べる時代となったかもしれないが、皆心のどこかで、戦はいつかまた起こるのではないかと恐れる気持ちが残っているのだ。だからこそ、次は自分たちがこの国を守らねばならぬという決意を持った若い男達は、鍛錬を怠らないのであった。
しかもつい二月前には、青葉の棟梁・光政の正妻の紗代が怨霊に取り憑かれるという事件も起きた。諸手を上げて平和を喜ぶにはまだ早いのかもしれないと皆が感じさせられる、そんな事件であった。
その時に呪いの傷を負った舜海はまだ体調が本調子に戻っていないため、ここふた月は千珠一人で稽古を付けているのである。
❀
若者たちは井戸端で水を浴びながら、がやがやと賑やかにこんなことを喋り合う。
「千珠さまは今日もお美しかったな」
「ああ、見ているだけなら女と打ち合っているようで気持ちも上がるが、実際あの方の剣の重いことよ」
「そりゃあ、先の戦で軍神と崇められた方だ。その方が気軽に稽古をつけてくれるというだけですごいことだぞ」
「それにしても……綺麗だよなぁ」
千珠は今年で齢十五になる。剣を学びに来ている男達は千珠と同じ年の頃の者や年下の者が多いが、中には今まで剣術とは縁のなかったようなずっと年上の男もいる。
また、千珠会いたさに稽古にやって来る若者もあり、図らずとも青葉の武力向上に貢献することになっていたりもするわけだ。
初めは遠巻きに千珠を恐れながら見ていた男達だったが、舜海の橋渡しもあり、徐々に国の若者の中に馴染み始めている今日此の頃であった。
「ありがとうございました!」
道場に凛とした声が響き、木刀を振って打ち合いをしていた若い男達の緊張感が一気に解けた。皆手ぬぐいで汗を拭きながら談笑を始める。
「今日は一段としごかれたなぁ」
「まぁ先月、紗代様があんなことになったばかりだものな。締めて掛かられるのも仕方なかろう」
皆ががやがやと道場を出ていきながらそんな話をしている。
「千珠さま、お疲れさまでございます」
「おぅ」
千珠は長い銀髪を一つに結い、白い着物に黒い袴の道着姿である。門弟たちに挨拶を返しながら汗を拭ってるその姿を、若者たちはちらちらと横目で伺いながら道場を出て行く。
千珠は城の道場で、千珠は白珞族に伝わる剣術を若い衆に伝える役割を得ている。戦の終焉から一年と少し経った今でも、戦乱の世が一体どういうものかということを肌で感じていた若者たちは、皆強さを求めて道場に剣術を学びに来るのである。
今は泰平と呼べる時代となったかもしれないが、皆心のどこかで、戦はいつかまた起こるのではないかと恐れる気持ちが残っているのだ。だからこそ、次は自分たちがこの国を守らねばならぬという決意を持った若い男達は、鍛錬を怠らないのであった。
しかもつい二月前には、青葉の棟梁・光政の正妻の紗代が怨霊に取り憑かれるという事件も起きた。諸手を上げて平和を喜ぶにはまだ早いのかもしれないと皆が感じさせられる、そんな事件であった。
その時に呪いの傷を負った舜海はまだ体調が本調子に戻っていないため、ここふた月は千珠一人で稽古を付けているのである。
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若者たちは井戸端で水を浴びながら、がやがやと賑やかにこんなことを喋り合う。
「千珠さまは今日もお美しかったな」
「ああ、見ているだけなら女と打ち合っているようで気持ちも上がるが、実際あの方の剣の重いことよ」
「そりゃあ、先の戦で軍神と崇められた方だ。その方が気軽に稽古をつけてくれるというだけですごいことだぞ」
「それにしても……綺麗だよなぁ」
千珠は今年で齢十五になる。剣を学びに来ている男達は千珠と同じ年の頃の者や年下の者が多いが、中には今まで剣術とは縁のなかったようなずっと年上の男もいる。
また、千珠会いたさに稽古にやって来る若者もあり、図らずとも青葉の武力向上に貢献することになっていたりもするわけだ。
初めは遠巻きに千珠を恐れながら見ていた男達だったが、舜海の橋渡しもあり、徐々に国の若者の中に馴染み始めている今日此の頃であった。
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