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第四章 苦悶、そして復讐
二、叫び
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千珠は土砂降りの中、立ちすくんでいた。
五人の強力な霊力を持つ僧兵に前を固められ、その周囲を二、三十人の僧兵たちに取り囲まれ、動くに動けぬ状態になっている。
ついに千珠の眼前に現れた僧兵達は、皆無表情に千珠を見据えていた。
そこには、僧兵個人の感情など一切なく、ただ千珠のことは抹消する対象物としか思っていないような、冷徹な瞳が居並んでいる。
千珠の指と鉤爪は切り裂いた人間の血に塗れ、雨に流されたその血がぼたぼたと雫を作り、地面を赤く染めてゆく。
狩衣は破れ、返り血と泥でぼろぼろだ。
蒼白な顔色は更に蒼く、銀髪から雨を滴らせ、真っ赤に染まった衣を身にまとった千珠は、琥珀色の目に憎しみを込めて、居並ぶ僧兵を睨みつけている。
——……この霊気の匂い……里を滅ぼした者だ。間違いない! こいつらが俺の仲間たちを滅ぼしたのだ。
物を見るような目をして、俺の仲間を皆殺しにしたのか。私怨もなく、ただただ金のために……!!
千珠は左手首にはめていた珊瑚の数珠を引きちぎる。
そして、いつか舜海に見せた宝刀を、自らの体内から抜いた。
禍々しい妖気を纏わせた、美しい宝刀が姿を現す。千珠の妖力を増幅させる役目を持つその刃によって、あたりの空気が一瞬歪む。
「おのれ……!」
千珠が剣を構えると、僧たちもさっと数珠を手に持った。そして、呪詛の詠唱を始める。
頭の芯に直接響いてくるような呪いの声。
意識を幾度も奪われそうになりながら、殺意でそれを食い止めて、千珠はゆらりと宝刀を青眼に構えた。
千珠の目がぎらりと光り、縦に長い瞳孔が鋭くなる。
僧兵の呪詛を振り切って、憎き敵に向かい身を踊らせ、宝刀を唸らせた。
一閃、頭目らしき僧兵の首が胴から離れ、雨に混じって、真っ赤な血飛沫があたりを赤く染め上げた。
ゆっくり、ゆっくりと、胴体が泥濘んだ地面に倒れ伏す。
僧兵の読経が一瞬やむ。
千珠はその隙を見逃さなかった。
一気に間合いを詰め、次々と僧兵の首を宝刀で飛ばした。それらの身体が鮮血に塗れてその場に崩れ、真っ赤な大河が地面を洗う。
憎しみのあまり爆発的に妖力を増す千珠の姿に恐れを抱き、逃げ出しかけた僧兵に向かう千珠の目は、もはや明るい琥珀色ではなく、血のような真紅をしていた。
「おおおおおお!!」
咆哮を上げながら刃を、鉤爪を振るい、千珠は容赦なく残りの人間たちを全て、切り裂いた。
「はぁっ! はっ! はぁっ……!」
激しい雨が、足下に溜まった鮮血を跳ね上げる中、肩で荒い息をする。
血が沸き立つように、身体が熱くて仕方がない。
抑えられない。
千珠は膝をついた。頭が割れるように痛んで、両手で頭を掴む。
ねっとりとした、血の感覚。
両手を見下ろすと、その手は真っ赤だ。
拭っても拭っても、その赤は取れなかった。
「う……あ……。うわあああああ!!!」
千珠は恐怖に駆られ、叫んだ。
死体に囲まれ、滝のように降る雨に打たれながら、千珠は這い上がってくる恐怖に悶えた。
そこへ数人の手勢を連れ、舜海が馬を駆って現れる。
「千珠!!」
舜海は馬から飛び降りると、千珠の肩を掴んで揺さぶった。
「しっかりせぇ!」
「あああああ!!」
千珠の強大な妖力が一気に放たれて、舜海の身体が弾き飛ばされた。
尻餅をついた格好で険しい表情を浮かべつつ半身を起こすと、苦しげに頭を抱えて悶え苦しんでいる千珠の姿が、けぶる雨の向こうに見えた。
「俺は鬼だ!! 最も気高い白珞族だ! 何故……こんな……こんな奴らに……! くそ……くそおっ……!!」
千珠の目は紅く染まり、瞳孔は獣のように縦に細く裂けて、ぎらぎらと憎しみの色で濁りきっている。
舜海は兵に支えられて何とか立ち上がると、ごくりと唾を飲み込む。
「……お前たちは下がっとけ。今の千珠の妖気を浴びてもうたら、危険や」
「光政殿に知らせまするか?」
「いや……俺が責任もって連れ帰る。ここらの兵は死に絶えて、僧兵も全員殺られとる。そのことだけ、殿に知らせてくれ」
舜海は錫杖をついて一人で立つ。千珠は頭を抱えて蹲り、小さくなって震えている。
舜海は、慎重な足取りで千珠に歩み寄った。
「千珠」
千珠が、ゆるゆると顔を起こす。
苦痛に歯を食いしばって泣いている。涙と血が合流し、まるで血の涙を流しているかのようだった。
舜海はこれまで、人がこんなにも悲痛な表情をするところを、見たことなどなかった。
「舜……海……」
「千珠……」
「俺は、何を憎めばいいんだ……? 仲間を滅ぼしたのは、人間だ。しかし俺の父は……母が愛したのも人間だ。その人間を、俺はこの手で一体どれだけ切り裂いた?」
「千珠、憎しみに呑まれるな! お前の復讐は済んだんや。心を鎮めろ、千珠」
そう言いながら、舜海は千珠を力強く抱きしめた。湿った衣越しに伝わる千珠の強張った熱い身体を、宥めるように撫でてやる。
「もう誰も憎む必要なんかないんや。今は何も考えるな」
強張っていた千珠の身体から、徐々に力が抜けていく。
「ここの戦は……?」
「我らの勝利や。お前のおかげやで」
「殿は無事か?」
「ああ。河上で待ってるで」
「そう、か……」
千珠は微笑み、舜海の腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。
五人の強力な霊力を持つ僧兵に前を固められ、その周囲を二、三十人の僧兵たちに取り囲まれ、動くに動けぬ状態になっている。
ついに千珠の眼前に現れた僧兵達は、皆無表情に千珠を見据えていた。
そこには、僧兵個人の感情など一切なく、ただ千珠のことは抹消する対象物としか思っていないような、冷徹な瞳が居並んでいる。
千珠の指と鉤爪は切り裂いた人間の血に塗れ、雨に流されたその血がぼたぼたと雫を作り、地面を赤く染めてゆく。
狩衣は破れ、返り血と泥でぼろぼろだ。
蒼白な顔色は更に蒼く、銀髪から雨を滴らせ、真っ赤に染まった衣を身にまとった千珠は、琥珀色の目に憎しみを込めて、居並ぶ僧兵を睨みつけている。
——……この霊気の匂い……里を滅ぼした者だ。間違いない! こいつらが俺の仲間たちを滅ぼしたのだ。
物を見るような目をして、俺の仲間を皆殺しにしたのか。私怨もなく、ただただ金のために……!!
千珠は左手首にはめていた珊瑚の数珠を引きちぎる。
そして、いつか舜海に見せた宝刀を、自らの体内から抜いた。
禍々しい妖気を纏わせた、美しい宝刀が姿を現す。千珠の妖力を増幅させる役目を持つその刃によって、あたりの空気が一瞬歪む。
「おのれ……!」
千珠が剣を構えると、僧たちもさっと数珠を手に持った。そして、呪詛の詠唱を始める。
頭の芯に直接響いてくるような呪いの声。
意識を幾度も奪われそうになりながら、殺意でそれを食い止めて、千珠はゆらりと宝刀を青眼に構えた。
千珠の目がぎらりと光り、縦に長い瞳孔が鋭くなる。
僧兵の呪詛を振り切って、憎き敵に向かい身を踊らせ、宝刀を唸らせた。
一閃、頭目らしき僧兵の首が胴から離れ、雨に混じって、真っ赤な血飛沫があたりを赤く染め上げた。
ゆっくり、ゆっくりと、胴体が泥濘んだ地面に倒れ伏す。
僧兵の読経が一瞬やむ。
千珠はその隙を見逃さなかった。
一気に間合いを詰め、次々と僧兵の首を宝刀で飛ばした。それらの身体が鮮血に塗れてその場に崩れ、真っ赤な大河が地面を洗う。
憎しみのあまり爆発的に妖力を増す千珠の姿に恐れを抱き、逃げ出しかけた僧兵に向かう千珠の目は、もはや明るい琥珀色ではなく、血のような真紅をしていた。
「おおおおおお!!」
咆哮を上げながら刃を、鉤爪を振るい、千珠は容赦なく残りの人間たちを全て、切り裂いた。
「はぁっ! はっ! はぁっ……!」
激しい雨が、足下に溜まった鮮血を跳ね上げる中、肩で荒い息をする。
血が沸き立つように、身体が熱くて仕方がない。
抑えられない。
千珠は膝をついた。頭が割れるように痛んで、両手で頭を掴む。
ねっとりとした、血の感覚。
両手を見下ろすと、その手は真っ赤だ。
拭っても拭っても、その赤は取れなかった。
「う……あ……。うわあああああ!!!」
千珠は恐怖に駆られ、叫んだ。
死体に囲まれ、滝のように降る雨に打たれながら、千珠は這い上がってくる恐怖に悶えた。
そこへ数人の手勢を連れ、舜海が馬を駆って現れる。
「千珠!!」
舜海は馬から飛び降りると、千珠の肩を掴んで揺さぶった。
「しっかりせぇ!」
「あああああ!!」
千珠の強大な妖力が一気に放たれて、舜海の身体が弾き飛ばされた。
尻餅をついた格好で険しい表情を浮かべつつ半身を起こすと、苦しげに頭を抱えて悶え苦しんでいる千珠の姿が、けぶる雨の向こうに見えた。
「俺は鬼だ!! 最も気高い白珞族だ! 何故……こんな……こんな奴らに……! くそ……くそおっ……!!」
千珠の目は紅く染まり、瞳孔は獣のように縦に細く裂けて、ぎらぎらと憎しみの色で濁りきっている。
舜海は兵に支えられて何とか立ち上がると、ごくりと唾を飲み込む。
「……お前たちは下がっとけ。今の千珠の妖気を浴びてもうたら、危険や」
「光政殿に知らせまするか?」
「いや……俺が責任もって連れ帰る。ここらの兵は死に絶えて、僧兵も全員殺られとる。そのことだけ、殿に知らせてくれ」
舜海は錫杖をついて一人で立つ。千珠は頭を抱えて蹲り、小さくなって震えている。
舜海は、慎重な足取りで千珠に歩み寄った。
「千珠」
千珠が、ゆるゆると顔を起こす。
苦痛に歯を食いしばって泣いている。涙と血が合流し、まるで血の涙を流しているかのようだった。
舜海はこれまで、人がこんなにも悲痛な表情をするところを、見たことなどなかった。
「舜……海……」
「千珠……」
「俺は、何を憎めばいいんだ……? 仲間を滅ぼしたのは、人間だ。しかし俺の父は……母が愛したのも人間だ。その人間を、俺はこの手で一体どれだけ切り裂いた?」
「千珠、憎しみに呑まれるな! お前の復讐は済んだんや。心を鎮めろ、千珠」
そう言いながら、舜海は千珠を力強く抱きしめた。湿った衣越しに伝わる千珠の強張った熱い身体を、宥めるように撫でてやる。
「もう誰も憎む必要なんかないんや。今は何も考えるな」
強張っていた千珠の身体から、徐々に力が抜けていく。
「ここの戦は……?」
「我らの勝利や。お前のおかげやで」
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千珠は微笑み、舜海の腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。
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