57 / 58
コミックス発売記念SS
『あいこ先生の奮闘』
しおりを挟む
「さぁ、今日はおとうさんや、いつもお世話になっているひとに、ありがとうを伝える絵を描くよ~!」
父の日が近い。
愛子の受け持つ四歳児クラスでも、今日は父の日にプレゼントする絵を描く時間を設けている。以前は父親を園に招いて小さなイベントを行なっていたが、今は絵を描いてプレゼントするかたちになった。
二十四時間保育を行なっている『ほしぞら保育園』に限らず、片親であったり、複雑な事情を抱えた家庭は多い。『母の日』や『父の日』をどう扱うかについては、園内でもさまざまな議論が行われ、保護者の意見も取り入れつつ今の形となったのだ。
コの字型に並べた小さな机で、思い思いに絵を描く園児たちに声をかけつつ見回っているとき、愛子はふと耳にしてしまった。
空が累にこっそりと「だれをかけばいいのかなぁ……」と問いかけている。
あらかじめ『誰を描いてもいいからね』と伝えてあり、空もそれを理解している様子だったのだが、やはり何か思うところがあるのだろうか——……
「どうしたの、空くん?」
「そらのうち、にぃちゃんといっせー、ふたりいるでしょ? どっちがおとうさんなのかなぁ」
「ど、どっちが、お父さん?」
「うん。ははのひは、あいこせんせいのえをかいたけど、ちちのひはどっちをかいたらいいのかなぁって」
「ああ……」
そう、空は『母の日』とき、愛子の絵を描いたのだ。
今回と同様、『いつもお世話になっている人』というお題を提示したところ、迷うことなく愛子の顔をクレヨンで描いてくれた。
あまりの愛おしさと尊さに、空をぎゅうぎゅう抱きしめて頬をすりすりしながら咽び泣きたくなったけれど、愛子はプロの保育士だ。いくら嬉しいことがあったとしても、園児が怯えるような取り乱し方はしないのである。
「あああああ~~~~!! 空くんありがとう~~!! 可愛い!! ほんと可愛い!! 先生世界で一番幸せ者だよぉ~~~~!!」と、内心では大騒ぎをしつつも、保育士然とした優しい笑顔とともに空の頭を撫で、「ありがとう、空くん。先生すっごく嬉しい。大切にするね!」と絵を抱きしめたのだった。
「そっか、それでちょっと迷っちゃってるんだね」
「うん、どっちがおとうさんぽいのかなぁっておもったの」
「なるほどね。どっちがお父さんぽいか、か……」
愛子は腕組みをして目を閉じ、シンプルに彩人と壱成のどちらが”お父さん”ぽいのか考えた。
——わたしとしては、どちらかというと霜山さんのほうが母性に溢れているように感じるけど……。だって霜山さん、空くんを迎えにくる時の笑顔がまるで聖母だもの。後光とあたたかい光が溢れているもの。つまり、どちらかというと霜山さんが”お母さん”かな。つまり、霜山さんが受……
降って湧いてきたピンク色の妄想に、愛子はくわっと目を見開いた。
いけないいけないと自分を戒め、想像することを堅く禁じてきたとある妄想が、頭の中でブワッと花開いてしまったのだ。
——だっ……ダメよ愛子!! ダメダメダメダメ!! 早瀬さんと霜山さんでそんな妄想をするなんて言語道断不埒千万!! 失礼だしありえないでしょ!! けしからんわ人間として終わってるわ……ッッ!!
愛子は内心、自らの髪を掻き回し、頬を思い切り引っ叩いた。
彩人が壱成を麗しく抱きしめ、あたかもキスを迫っているかのような姿を想像しかけている自分を、全力で戒めねばならない。保護者をそんな目で見るなんて、あってはならないことだ。なぜなら愛子はプロなのだから。
激情を抑えるべく、片手で額を押さえて「すーーーーーはーーーーー!!」と激しく深呼吸していると……累と空が、怯えたような目で愛子を見上げていた。
愛子は瞬時にくるっと笑顔になり、「ごめんごめん、くしゃみ出そうになっちゃった」とごまかした。
すると累が透き通るような青い瞳で「あいこせんせい、かぜですか?」と心配そうに気遣ってくれるのだ。
いたたまれなすぎて、愛子は園庭の砂場に埋もれたくなった。
「え、ええとね! どっちがどっちでも……じゃなくて、お兄さんたちふたりを描いたらどうかな!?」
「ふたりとも?」
「そう。どちらかひとりなんて決められないよね! どちらのお兄様も、空くんのことが大好きで、空くんを大切にしていて、すっごく優しいご家族だものね」
愛子がにっこり微笑むと、空はぱぁっと明るい笑顔になった。
「うん、じゃあにぃちゃんといっせー、どっちもかくねぇ」
「うんうん、それがいいと思うなッ! お兄さんたち、絶対すっごく喜ぶよ~!」
空は大きく頷いて、真っ白な画用紙に迷うことなく雪だるまのような人物画を描きはじめた。
やがてそこには栗色の髪の毛が生まれ、ぱちっとした大きな目がぐりぐりとクレヨンで描き入れられてゆく。鋭角な襟元はスーツだろうか。腕には時計らしき丸いものをつけたりと、なかなかに描写が細かい。
「これはねぇ、にぃちゃん。つぎはいっせー」
「うんうん!」
空は彩人の隣に、少し小ぶりな雪だるまをひとつ描き、黒髪とスーツを迷いのない筆致で描いてゆく。ぷっくりとした小さな手にクレヨンをしっかりと握りしめ、口元に楽しそうな笑みを浮かべながら。
壱成の顔をニコちゃんマークのような笑顔で仕上げ、空は満足げに額の汗を拭った。その拍子にまっしろなおでこに、壱成のスーツを塗った青いクレヨンがついてしまった。
「そらくん、クレヨンついてるよ。ふいてあげるね」
すかさず、累が手近にあったウェットティッシュを素早く手に取り、空の世話を焼こうとしている。プロの保育士であるわたしをも凌駕する素晴らしい反応だわ……と、愛子は心底感心してしまった。
「こっちをむいて、ぼくをみて? ちょっとこするから、いたかったらいうんだよ?」
「うん」
小さな手を空のほっぺたにそっ……と添え、累は空の額を優しく拭いはじめた。
空はやや顎を上げて目を閉じ、累のされるがままになっている。
——あああ……天使の戯れ……
「はい! きれいになったよ!」
「わぁ、ありがとう、るい!」
にこにこと微笑みあっているちびっ子たちの姿はあまりにも可愛らしく、愛子は両手を合わせて拝みそうになった。愛らしいふたりの優しいやり取りに、日々の激務による疲労がきれいさっぱり洗い流されてゆく。
「? あいこせんせい、どうしたの? なんでおててをあわせてるの?」
天から降り注ぐ柔らかな光を振り仰いでいた愛子を見て、累が不思議そうに首を傾げている。……いけない、本当に合掌していたらしい。
「ううん! なんでもないよッ!! さ、累くんは誰の絵を描いたのかな!?」
パッと気を取り直して累の画用紙を見てみると……累の父親らしい男性が、コロンとした三頭身で描かれていた。とてもいい笑顔だが、九割が肌色で、黒いパンツがかろうじて穿かされているような状態だ。
「これ、パパ。おさけのむとわらいがとまらなくなって、ふくをぬいじゃうの」
「あ、へえ~そうなんだ……」
累の父親は官僚だ。いつも折り目正しく保育士に接しているパリッとした累の父親が、家ではパンツ一枚で酔いどれているという事実を知り……愛子は心の目を閉じ、何も聞かなかったことにしてにっこり笑った。
そう、子どもはとても素直なのだ。
「でーきた! みてー! あいこせんせい!」
そのとき、空が満足げな声を上げた。
画用紙の中で、彩人と壱成がしっかりと手を繋いでいる。
背景には、色とりどりに咲き乱れるたくさんの花。青空にはさんさんと明るい太陽が輝いている。
スーツ姿のふたりは、こちらまで微笑んでしまいたくなるような明るい笑顔だ。幸せオーラが溢れ出す一枚を前にして、愛子は思わず両手で口元を覆った。
「わぁ……! すっごく素敵だね! ああ……なにかしらこの多幸感……いつまでも拝んでいられる……」
「え? なんて?」
「んっ!? いやいやなんでもないよっ! お兄さんたち、きっとすごく喜ぶね!」
「うん!」
この絵を受け取った壱成と彩人がどのような反応を見せるのだろう。きっと、ものすごく喜んで、すぐに壁に貼ったりするのだろう。
そして空が寝静まったあと。
きっとふたりは肩を寄せ合い、その絵を幸せそうに眺めながら——……
——ああああ~~~~~!! ダメよ!! ダメダメダメダメ!! ダメっていってんのになんて妄想してるのよわたしのバカッ!! ほんっとどうかしてるわ人間としてどうかしてる!! 恥を知りなさいわたしッ……!!
そのとき、外遊びの時間を告げる軽やかなメロディが保育室の中に響き渡った。
ハッとした愛子は超速で保育士の顔に戻ったつもりだが、コの字型に並んだ机の中心で百面相を繰り広げていた愛子に注がれる園児たちの視線は、明らかに訝しげで……。
「はいっ! みんなとっても素敵な絵が描けたね! お迎えの時に渡せるように、あとでリボンをかけようね!」
裏返った声で元気いっぱいそう言うと、園児たちは揃って「はーい!」と手を上げてくれた。ぱたぱたと子どもたちが外へ遊びにいく後ろ姿を見送りながら、愛子はため息をついた。
「仕事中にあんな妄想……だめだわ、わたしはまだまだ修行が足りない」
愛子はそう独りごちて、園庭でころころと走り回っているちびっ子たちを見守った。
空と累は、今日は鬼ごっこに参加しているようだ。活発に走り回る空に引っ張られて、累も珍しくはしゃいだ笑顔を見せている。
——そうよ、萌え転がっている場合じゃない。わたしの使命は、子どもたちの笑顔を守ること……!
ぐっと拳を握り締め、決意を新たにする愛子である。
だが、ふとした拍子に目に入った空の絵を前にして……愛子はまた、人知れず合掌するのだった。
おしまい♡
父の日が近い。
愛子の受け持つ四歳児クラスでも、今日は父の日にプレゼントする絵を描く時間を設けている。以前は父親を園に招いて小さなイベントを行なっていたが、今は絵を描いてプレゼントするかたちになった。
二十四時間保育を行なっている『ほしぞら保育園』に限らず、片親であったり、複雑な事情を抱えた家庭は多い。『母の日』や『父の日』をどう扱うかについては、園内でもさまざまな議論が行われ、保護者の意見も取り入れつつ今の形となったのだ。
コの字型に並べた小さな机で、思い思いに絵を描く園児たちに声をかけつつ見回っているとき、愛子はふと耳にしてしまった。
空が累にこっそりと「だれをかけばいいのかなぁ……」と問いかけている。
あらかじめ『誰を描いてもいいからね』と伝えてあり、空もそれを理解している様子だったのだが、やはり何か思うところがあるのだろうか——……
「どうしたの、空くん?」
「そらのうち、にぃちゃんといっせー、ふたりいるでしょ? どっちがおとうさんなのかなぁ」
「ど、どっちが、お父さん?」
「うん。ははのひは、あいこせんせいのえをかいたけど、ちちのひはどっちをかいたらいいのかなぁって」
「ああ……」
そう、空は『母の日』とき、愛子の絵を描いたのだ。
今回と同様、『いつもお世話になっている人』というお題を提示したところ、迷うことなく愛子の顔をクレヨンで描いてくれた。
あまりの愛おしさと尊さに、空をぎゅうぎゅう抱きしめて頬をすりすりしながら咽び泣きたくなったけれど、愛子はプロの保育士だ。いくら嬉しいことがあったとしても、園児が怯えるような取り乱し方はしないのである。
「あああああ~~~~!! 空くんありがとう~~!! 可愛い!! ほんと可愛い!! 先生世界で一番幸せ者だよぉ~~~~!!」と、内心では大騒ぎをしつつも、保育士然とした優しい笑顔とともに空の頭を撫で、「ありがとう、空くん。先生すっごく嬉しい。大切にするね!」と絵を抱きしめたのだった。
「そっか、それでちょっと迷っちゃってるんだね」
「うん、どっちがおとうさんぽいのかなぁっておもったの」
「なるほどね。どっちがお父さんぽいか、か……」
愛子は腕組みをして目を閉じ、シンプルに彩人と壱成のどちらが”お父さん”ぽいのか考えた。
——わたしとしては、どちらかというと霜山さんのほうが母性に溢れているように感じるけど……。だって霜山さん、空くんを迎えにくる時の笑顔がまるで聖母だもの。後光とあたたかい光が溢れているもの。つまり、どちらかというと霜山さんが”お母さん”かな。つまり、霜山さんが受……
降って湧いてきたピンク色の妄想に、愛子はくわっと目を見開いた。
いけないいけないと自分を戒め、想像することを堅く禁じてきたとある妄想が、頭の中でブワッと花開いてしまったのだ。
——だっ……ダメよ愛子!! ダメダメダメダメ!! 早瀬さんと霜山さんでそんな妄想をするなんて言語道断不埒千万!! 失礼だしありえないでしょ!! けしからんわ人間として終わってるわ……ッッ!!
愛子は内心、自らの髪を掻き回し、頬を思い切り引っ叩いた。
彩人が壱成を麗しく抱きしめ、あたかもキスを迫っているかのような姿を想像しかけている自分を、全力で戒めねばならない。保護者をそんな目で見るなんて、あってはならないことだ。なぜなら愛子はプロなのだから。
激情を抑えるべく、片手で額を押さえて「すーーーーーはーーーーー!!」と激しく深呼吸していると……累と空が、怯えたような目で愛子を見上げていた。
愛子は瞬時にくるっと笑顔になり、「ごめんごめん、くしゃみ出そうになっちゃった」とごまかした。
すると累が透き通るような青い瞳で「あいこせんせい、かぜですか?」と心配そうに気遣ってくれるのだ。
いたたまれなすぎて、愛子は園庭の砂場に埋もれたくなった。
「え、ええとね! どっちがどっちでも……じゃなくて、お兄さんたちふたりを描いたらどうかな!?」
「ふたりとも?」
「そう。どちらかひとりなんて決められないよね! どちらのお兄様も、空くんのことが大好きで、空くんを大切にしていて、すっごく優しいご家族だものね」
愛子がにっこり微笑むと、空はぱぁっと明るい笑顔になった。
「うん、じゃあにぃちゃんといっせー、どっちもかくねぇ」
「うんうん、それがいいと思うなッ! お兄さんたち、絶対すっごく喜ぶよ~!」
空は大きく頷いて、真っ白な画用紙に迷うことなく雪だるまのような人物画を描きはじめた。
やがてそこには栗色の髪の毛が生まれ、ぱちっとした大きな目がぐりぐりとクレヨンで描き入れられてゆく。鋭角な襟元はスーツだろうか。腕には時計らしき丸いものをつけたりと、なかなかに描写が細かい。
「これはねぇ、にぃちゃん。つぎはいっせー」
「うんうん!」
空は彩人の隣に、少し小ぶりな雪だるまをひとつ描き、黒髪とスーツを迷いのない筆致で描いてゆく。ぷっくりとした小さな手にクレヨンをしっかりと握りしめ、口元に楽しそうな笑みを浮かべながら。
壱成の顔をニコちゃんマークのような笑顔で仕上げ、空は満足げに額の汗を拭った。その拍子にまっしろなおでこに、壱成のスーツを塗った青いクレヨンがついてしまった。
「そらくん、クレヨンついてるよ。ふいてあげるね」
すかさず、累が手近にあったウェットティッシュを素早く手に取り、空の世話を焼こうとしている。プロの保育士であるわたしをも凌駕する素晴らしい反応だわ……と、愛子は心底感心してしまった。
「こっちをむいて、ぼくをみて? ちょっとこするから、いたかったらいうんだよ?」
「うん」
小さな手を空のほっぺたにそっ……と添え、累は空の額を優しく拭いはじめた。
空はやや顎を上げて目を閉じ、累のされるがままになっている。
——あああ……天使の戯れ……
「はい! きれいになったよ!」
「わぁ、ありがとう、るい!」
にこにこと微笑みあっているちびっ子たちの姿はあまりにも可愛らしく、愛子は両手を合わせて拝みそうになった。愛らしいふたりの優しいやり取りに、日々の激務による疲労がきれいさっぱり洗い流されてゆく。
「? あいこせんせい、どうしたの? なんでおててをあわせてるの?」
天から降り注ぐ柔らかな光を振り仰いでいた愛子を見て、累が不思議そうに首を傾げている。……いけない、本当に合掌していたらしい。
「ううん! なんでもないよッ!! さ、累くんは誰の絵を描いたのかな!?」
パッと気を取り直して累の画用紙を見てみると……累の父親らしい男性が、コロンとした三頭身で描かれていた。とてもいい笑顔だが、九割が肌色で、黒いパンツがかろうじて穿かされているような状態だ。
「これ、パパ。おさけのむとわらいがとまらなくなって、ふくをぬいじゃうの」
「あ、へえ~そうなんだ……」
累の父親は官僚だ。いつも折り目正しく保育士に接しているパリッとした累の父親が、家ではパンツ一枚で酔いどれているという事実を知り……愛子は心の目を閉じ、何も聞かなかったことにしてにっこり笑った。
そう、子どもはとても素直なのだ。
「でーきた! みてー! あいこせんせい!」
そのとき、空が満足げな声を上げた。
画用紙の中で、彩人と壱成がしっかりと手を繋いでいる。
背景には、色とりどりに咲き乱れるたくさんの花。青空にはさんさんと明るい太陽が輝いている。
スーツ姿のふたりは、こちらまで微笑んでしまいたくなるような明るい笑顔だ。幸せオーラが溢れ出す一枚を前にして、愛子は思わず両手で口元を覆った。
「わぁ……! すっごく素敵だね! ああ……なにかしらこの多幸感……いつまでも拝んでいられる……」
「え? なんて?」
「んっ!? いやいやなんでもないよっ! お兄さんたち、きっとすごく喜ぶね!」
「うん!」
この絵を受け取った壱成と彩人がどのような反応を見せるのだろう。きっと、ものすごく喜んで、すぐに壁に貼ったりするのだろう。
そして空が寝静まったあと。
きっとふたりは肩を寄せ合い、その絵を幸せそうに眺めながら——……
——ああああ~~~~~!! ダメよ!! ダメダメダメダメ!! ダメっていってんのになんて妄想してるのよわたしのバカッ!! ほんっとどうかしてるわ人間としてどうかしてる!! 恥を知りなさいわたしッ……!!
そのとき、外遊びの時間を告げる軽やかなメロディが保育室の中に響き渡った。
ハッとした愛子は超速で保育士の顔に戻ったつもりだが、コの字型に並んだ机の中心で百面相を繰り広げていた愛子に注がれる園児たちの視線は、明らかに訝しげで……。
「はいっ! みんなとっても素敵な絵が描けたね! お迎えの時に渡せるように、あとでリボンをかけようね!」
裏返った声で元気いっぱいそう言うと、園児たちは揃って「はーい!」と手を上げてくれた。ぱたぱたと子どもたちが外へ遊びにいく後ろ姿を見送りながら、愛子はため息をついた。
「仕事中にあんな妄想……だめだわ、わたしはまだまだ修行が足りない」
愛子はそう独りごちて、園庭でころころと走り回っているちびっ子たちを見守った。
空と累は、今日は鬼ごっこに参加しているようだ。活発に走り回る空に引っ張られて、累も珍しくはしゃいだ笑顔を見せている。
——そうよ、萌え転がっている場合じゃない。わたしの使命は、子どもたちの笑顔を守ること……!
ぐっと拳を握り締め、決意を新たにする愛子である。
だが、ふとした拍子に目に入った空の絵を前にして……愛子はまた、人知れず合掌するのだった。
おしまい♡
19
お気に入りに追加
2,189
あなたにおすすめの小説
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で2/20頃非公開予定ですが読んでくださる方が増えましたので先延ばしになるかもしれませんが宜しくお願い致します。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。