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秋の番外編
ホストのプライドポッキーゲーム〈忍目線〉
しおりを挟むこんばんは、餡玉です。
前回のポッキーの日SSから早一年……あっという間すぎてびっくりします。
短いですが、今年はホストクラブでのポッキーゲームを忍目線で書いてみました。
楽しんでいただけますと嬉しいです♡
˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚
11月11日はポッキーの日だと、久世忍は最近知った。
開店前のミーティング中、よく磨かれたテーブルの上に無造作に並んだおやつの中にポッキーの箱を見つけた忍は、先月の売り上げ報告をしている彩人の声を片耳でしっかりと聞きながら、ひょいとその箱を手に取った。
「というわけで、先月の売り上げナンバー1も相変わらず忍さんで……って、な、なんですか」
開封したポッキーの箱を、隣に座る彩人にポンと渡す。彩人は面食らった顔をしつつそれを受け取り、困惑気味にポッキーと忍を見比べた。
「なるほどね、先月の二位は葛木さんで、彩人とマッサは同率三位だったと」
「ええ、そうなんすよ」
「うーん、となると、どっちをナンバー3にするのか決めかねるなぁ」
「はぁ」
わざとらしく悩んで見せる忍を前に、彩人は何やら嫌な予感を感じ取ったかのような顔をしている。それは彩人の隣に座るマッサも同じであるらしく、ふたり揃って仏頂面だ。
それを見て忍はニンマリ笑うと、手にしていたポッキーを一本口に咥えた。そして、先端をサクっと齧る。
「こんなのはどう? ポッキーゲームで勝ったほうが、今月のナンバー3だ」
「えっ……そ、そんなんで決めんの?」
マッサが渋い顔をして、軽くこちらを睨んでくる。そして彩人もまた微妙な表情でマッサと忍を見比べ、「俺もイヤっすよ。マッサとチューしちゃったらどうするんですか」と引き攣った笑みを浮かべた。
彩人は二人が交際していることを知っているため、気を遣っているのだろう。
後輩二人が素直にイヤそうな顔をしているのが可愛いやらいじらしいやらで、楽しいがすぎる。忍はニッコリと軽やかな笑顔でこう言った。
「ふふっ、まぁいいじゃないか。寸止めすればいいんだし」
「寸止めって……マッサにゃ無理っしょ。こいつずーーーーっとナンバー3の座狙ってんすから、俺にベロチューしてでも勝とうとしますよ」
「ベロチュ……って気色悪いこと言うなやボケェ!! なんで俺がお前とベロチューせなあかんねん!! ありえへんやろ!!」
「はぁ? 冗談に決まってんだろ! つかそんな気持ち悪がらなくてもよくね!? 傷つくんですけど!!」
「彩人がきっしょい冗談言うからやろ!! ああ~~さぶっ、さぶいぼたつわ~~」
「ひどくね!?」
イケメン高級ホストに育ち上がった後輩たちが、ギャーギャー言い争いをしている姿もまた可愛らしいものだ。忍の笑顔はさらにきらめく。
「まあまあ、いいじゃないちょっとくらい。……それとも、僕か葛木さんと勝負して勝ったほうがナンバー3、ってことにしたほうがいい?」
「「う」」
突然巻き込まれた葛木だが、まるで動じる様子はない。イケオジフェイスに甘渋い笑みを浮かべて、葛木はポッキーを一本口に咥えた。そして脚を組んで両腕を広げ、「僕はいいよ……♡ ふたりまとめて攻めておいで♡」と包容力を見せつけるが……。
「……分かりましたよ、やりゃいいんでしょやりゃあ。こんなん楽勝やで」
と、マッサが勢いよくポッキーを掴む。すると彩人もざっと前髪をかき上げながらマッサに向き直った。
「はっ、こっちこそ負ける気しねーし。どっからでもかかってこいよ」
「ほー……余裕やん」
麗しいほどの攻め顔で、ちょいちょい、と人差し指で煽りを入れる彩人を相手に、マッサが凄みのある笑みを浮かべた。
ふたりがやる気を見せたことで、「マジっすか絵面ヤベー!!」「ふたりともガンバって!!」「エロ展開あるかも!?」「動画撮っていいっすか!?」と、若いホストたちが俄然色めき始めた。……いじられることもなくスルーされた葛木が涙ぐんでいる。
ぱく、と先陣切ってポッキーを咥えたマッサに対面した彩人が、勝ち気な表情のままもう片方の端を口に咥える。
すると、最近ナンバー5に昇格したばかりの如月レイヤが二人の真横に立ち、「見合って見合って……そんじゃいきますよォ~~!! ファイッ!!」と気合の入った合図を送った。
『sanctuary』には不似合いに雄々しい声援がわーわー響き渡る中、彩人とマッサがポッキーをサクサクとかじってゆく。若干マッサのほうが身を乗り出して攻めの姿勢だが、彩人も負けてはいない。二人は間近でバチバチと視線を交わし合いながらポッキーを食べ進めていく。
その距離が5センチ、4センチ……と縮んでゆくさまを微笑ましく見つめていた忍だが、お互い全く引こうとしない。そして、もうあと数センチで唇が触れ合ってしまいそうな距離でピタリと止まり、膠着状態のまま睨み合う格好になってしまい——彩人とマッサのキスシーンを思い浮かべざるを得ない状況を前にして、忍は、急にざわりと胸がざらつくのを感じた。
——こんなになってもお互い引かないなんて……。遊び半分で妙な提案するもんじゃないなぁ……。
忍はため息混じりに立ち上がり、ポッキーを咥え合っている二人の横に立つと、人差し指と中指でハサミを作った。そして、ふたりを繋ぐポッキーを切る仕草をする。
「はい、そこまでー!」
すると、先に唇を離したのはマッサだった。彩人がサクサクとポッキーを平らげてしまうのを見届けているあいだも、横顔にぴりりと痛い視線を感じる。
ちら、とマッサのほうへ目をやると……案の定だ。ちょっと怒ったような顔でこちらを見上げている。見たことのないマッサの表情をひそやかに目の当たりにして、じんと忍の身体は熱くなった。
「……はい、えーと。決着がつかなかったし、指名数の多かった彩人が今月のナンバー3ね」
「よっしゃー!!」
「くっそぉ……!」
若ホストたちの歓声とともに、彩人はバッとばんざいしつつ立ち上がった。……彩人の行動が、なんだか最近空じみてきたような気がして微笑ましい。
意気揚々と開店準備に向かう彩人の背を見送りながら、忍はマッサの隣に腰を下ろした。
「……そんな怒った顔しないでよ。まさかあんなガチの勝負になると思わなくてさ」
「だって、彩人に負けんの悔しいやん」
子どもっぽい発言をしつつ、ぶっすーとした顔で椅子にふんぞり返るマッサもまた、可愛らしくてたまらない。撫で回したい気持ちをぐっとこらえつつ、テーブルの上の帳簿を片付けていると、マッサが手伝いに入ってきた。
「てか、妙な勝負ふっかけんといてくださいよ。忍さんの目の前で彩人とキスとか、イヤやで俺」
「ははっ……そうだね。まぁ、ちょっと見てみたい気は否めないけど……途中で止まってくれて良かったよ」
「……ったく」
苦笑する忍を見つめるマッサの瞳に、やや熱がこもる。マッサは軽く咳払いをすると、立ち上がりざま忍の耳元で「ま、この話の続きはまた家で」と囁いた。そしてそのまま、スタスタとバックヤードのほうへと姿を消してゆく。
フロアに残された忍は軽く耳に触れながら、小さく微笑んだ。
「……続きはまた家で、か。ふふ……なんだろう、お仕置きでもされちゃうのかな」
そろそろホストの顔にならねばならないのに、ついつい表情筋が甘く蕩けてしまいそうになる。
忍は自分に気合いを入れるべく、びしっとジャケットの襟を正した。
ポッキーの日SS『ホストのプライドポッキーゲーム』 おしまい♡
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