吉原の日陰

餡玉

文字の大きさ
上 下
18 / 21

十七、新たな暮らし

しおりを挟む


 次の日、清之介は改めて紋吉とお土岐、そしてその一人娘であるお圭の前で礼儀正しく指を揃え、挨拶をした。

 想像していたより清之介の見目が麗しかったせいか、それともずっと礼儀作法がなっていたせいか、ついこの間まで不安げな表情を浮かべていたお土岐の顔から曇りが晴れて、いつもの彼女らしい張り切りを見せ始めた。

 まずは一週間、この店の勉強をしながら家事一般を全てこなせるようになるべし、というお土岐の決定に、清之介は笑顔で頷いた。

「そうこうしてる間に、少しは町人の子らしくなってくるでしょうよ」とのことだった。やはり誰が見ても、清之介のまとう雰囲気はどこか俗世を離れていて目立つのだなぁ、と私は傍らで頷きながらそう思った。

 お圭はまだ齢四つ。しげしげと清之介を見上げては、まだまだ警戒を解こうとはしない。「この子の子守もしてもらう」とお土岐に言い渡され、清之介は珍しく苦笑していた。

 お土岐に清之介を任せ、私は紋吉と共に店に出た。紋吉はにこにこしながら、私の肩を叩く。

「良かったな、お土岐に気に入られて」
「あぁ、本当に。お土岐さんに任せて置けるなら安心だよ。一つ肩の荷が下りた気分だ」
「ははっ、せいぜい鍛えてもらうこったな。暮れまでには、店にも出てもらいてぇもんだな」
「そうだなぁ。もう師走か」



 あっという間に時間が流れていくことに、はっとする。


 特に今年は夏の終わりに清之介と出会ってから、私自身も慣れないことをたくさんした。その分、いつも以上に時間の流れを早く感じた。


 この一週間は、店の空いた時間に、私は母屋の方へ回ってお土岐と清之介の様子を見に戻った。
 清之介は洗濯、簡単な食事の支度、掃除などについては藍間屋で働いている時からこなしていたらしく、お土岐は大助かりだと言っていた。特にこの井戸水が冷たい時期だからこそ、率先して水仕事をやってくれることを喜んでいる様子だった。

 私が一人の時は週に一回ほどだった紋吉一家との食事であったが、清之介がやって来てからは毎日のように皆で食事を取った。痩せすぎな清之介の身体を心配して、お土岐は毎日きちんとした食事を取らせるようにしていたのである。

 藍間屋は食事処であったが、主に酒を飲ませるところだったから、一汁一菜といった形式の食事は珍しい様子で、清之介は喜んで箸をつけていた。

 食べ盛りの子どもが増えたことで、生活に張りが出たのか、紋吉がからかうほどにお土岐は楽しげであった。もともと豪気なところのある女だから、男の子が本当は欲しかったのかもしれない。しかし私はどちらかというと気性も食欲も大人しいほうで、張り合いがないとよく言われたものだったから余計に楽しいのだろう。

 私は徐々にここに馴染んでいく様子を見せる清之介を嬉しく思い、彼を受けれてくれるこの家族を頼もしく思った。

 

 そしてさらに半月ほどして、私は店の奉公人たちに清之介を紹介した。


 紋吉との話し合い通り、吉原で丁稚をしていたところを貰い受けてきたのだと話し、一つよろしく頼むと皆に告げた。
 総勢でも五人しかいない奉公人たちは、そこに現れた色の白い美少年に目を丸くしていたものだが、清之介が笑顔でぺこりと頭を下げ挨拶をすると、皆顔を見合わせて清之介を歓迎した。
 紅一点の奉公人、嫁入り前の二十歳前の娘は、清之介を見た途端頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。

 一番年の近い平三に、まずはついてまわって仕事を覚えるようにと命じると、清之介は年下の彼にも丁寧に頭を下げて「よろしくお願い致します」と言った。
 そんな扱いに慣れていない平三も、真っ赤になって「はい、よろしくお願いします」と生真面目にお辞儀を返しているのを見て、大人たちは皆笑った。


 徐々に徐々に、清之介がこの店にいる雰囲気がこなれてきた頃に、事件は起こった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その、梔子の匂ひは

花町 シュガー
BL
『貴方だけを、好いております。』 一途 × 一途健気 〈和孝 × 伊都(梔子)〉 幼き日の約束をずっと憶えている者同士の話。 梔子の花言葉=喜びを運ぶ・とても幸せです --------------------------------------------- ※「それは、キラキラ光る宝箱」とは? 花町が書いた短編をまとめるハッシュタグです。 お手すきの際に覗いていただけますと幸いです。

同一攻主によるR18短編集

BL
同一攻め主人公(♂)によるR18短編集。 エロばっかりの切り取りです。ヤリチンなのでとっかえひっかえ。 モラル無しですのでご注意下さい。 不定期更新です。

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

【完結】闇オークションの女神の白く甘い蜜に群がる男達と女神が一途に愛した男

葉月
BL
闇のオークションの女神の話。 嶺塚《みねづか》雅成、21歳。 彼は闇のオークション『mysterious goddess 』(神秘の女神)での特殊な力を持った女神。 美貌や妖艶さだけでも人を虜にするのに、能力に関わった者は雅成の信者となり、最終的には僕《しもべ》となっていった。 その能力は雅成の蜜にある。 射精した時、真珠のように輝き、蜜は桜のはちみつでできたような濃厚な甘さと、嚥下した時、体の隅々まで力をみなぎらせる。  精というより、女神の蜜。 雅成の蜜に群がる男達の欲望と、雅成が一途に愛した男、拓海との純愛。 雅成が要求されるプレイとは? 二人は様々な試練を乗り越えられるのか? 拘束、複数攻め、尿道プラグ、媚薬……こんなにアブノーマルエロいのに、純愛です。 私の性癖、全てぶち込みました! よろしくお願いします

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

しとねのうた

冬香
BL
「この身体は、呪われている…」  馴染みになった客が、次々と不慮の死を遂げてしまい、それを気に病んだ陰間・時羽。  武家の次男として何不自由なく育ったが、女に欲情出来ず、陰間を買った武士・雪安。  大店の跡継ぎとして生まれたが、商売に興味がなく、廓遊びに興じる商人・宗一。  天下泰平の江戸の片隅で、一人の陰間と、二人の男の間で垣間見た、四季を巡るうつつの夢。

【R18】俺とましろの調教性活。

しゅ
BL
作者の趣味しか詰まってない。エロしかない。合法ショタっていいよね。 現実での合言葉は『YES!ショタ!ノータッチ!』 この話の舞台は日本に似てますが、日本じゃないです。異世界です。そうじゃなきゃ色々人権問題やらなにやらかにやら......。 ファンタジーって素晴らしいよね!! 作者と同じ性癖の方、是非お楽しみくださいませ。 それでは、どうぞよしなに。

色地獄 〜会津藩士の美少年が男娼に身を落として〜 18禁 BL時代小説【完結】

丸井マロ
BL
十四歳の仙千代は、会津藩の大目付の次男で、衆道(男色)の契りを結んだ恋人がいた。 父は派閥争いに巻き込まれて切腹、家は没落し、貧しい暮らしの中で母は病死。 遺児となった仙千代は、江戸芳町の陰間茶屋『川上屋』に売られてしまう。 そこは、美形の少年たちが痛みに耐えながら体を売り、逃げれば凄惨な折檻が待ち受ける苦界だった──。 快楽責め、乳首責め、吊るし、山芋責め、水責めなど、ハードな虐待やSMまがいの痛い描写あり。 失禁、尿舐めの描写はありますが、大スカはありません。 江戸時代の男娼版遊郭を舞台にした、成人向けBL時代小説、約10万字の長編です。 上級武士の子として生まれ育った受けが転落、性奴隷に落ちぶれる話ですが、ざまぁ要素ありのハッピーエンドです。 某所で掲載していたものを、加筆修正した改訂版です。 感想など反応をいただけると励みになり、モチベ維持になります。 よろしくお願いします。 完結しました。

処理中です...