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十七、新たな暮らし
しおりを挟む次の日、清之介は改めて紋吉とお土岐、そしてその一人娘であるお圭の前で礼儀正しく指を揃え、挨拶をした。
想像していたより清之介の見目が麗しかったせいか、それともずっと礼儀作法がなっていたせいか、ついこの間まで不安げな表情を浮かべていたお土岐の顔から曇りが晴れて、いつもの彼女らしい張り切りを見せ始めた。
まずは一週間、この店の勉強をしながら家事一般を全てこなせるようになるべし、というお土岐の決定に、清之介は笑顔で頷いた。
「そうこうしてる間に、少しは町人の子らしくなってくるでしょうよ」とのことだった。やはり誰が見ても、清之介のまとう雰囲気はどこか俗世を離れていて目立つのだなぁ、と私は傍らで頷きながらそう思った。
お圭はまだ齢四つ。しげしげと清之介を見上げては、まだまだ警戒を解こうとはしない。「この子の子守もしてもらう」とお土岐に言い渡され、清之介は珍しく苦笑していた。
お土岐に清之介を任せ、私は紋吉と共に店に出た。紋吉はにこにこしながら、私の肩を叩く。
「良かったな、お土岐に気に入られて」
「あぁ、本当に。お土岐さんに任せて置けるなら安心だよ。一つ肩の荷が下りた気分だ」
「ははっ、せいぜい鍛えてもらうこったな。暮れまでには、店にも出てもらいてぇもんだな」
「そうだなぁ。もう師走か」
あっという間に時間が流れていくことに、はっとする。
特に今年は夏の終わりに清之介と出会ってから、私自身も慣れないことをたくさんした。その分、いつも以上に時間の流れを早く感じた。
この一週間は、店の空いた時間に、私は母屋の方へ回ってお土岐と清之介の様子を見に戻った。
清之介は洗濯、簡単な食事の支度、掃除などについては藍間屋で働いている時からこなしていたらしく、お土岐は大助かりだと言っていた。特にこの井戸水が冷たい時期だからこそ、率先して水仕事をやってくれることを喜んでいる様子だった。
私が一人の時は週に一回ほどだった紋吉一家との食事であったが、清之介がやって来てからは毎日のように皆で食事を取った。痩せすぎな清之介の身体を心配して、お土岐は毎日きちんとした食事を取らせるようにしていたのである。
藍間屋は食事処であったが、主に酒を飲ませるところだったから、一汁一菜といった形式の食事は珍しい様子で、清之介は喜んで箸をつけていた。
食べ盛りの子どもが増えたことで、生活に張りが出たのか、紋吉がからかうほどにお土岐は楽しげであった。もともと豪気なところのある女だから、男の子が本当は欲しかったのかもしれない。しかし私はどちらかというと気性も食欲も大人しいほうで、張り合いがないとよく言われたものだったから余計に楽しいのだろう。
私は徐々にここに馴染んでいく様子を見せる清之介を嬉しく思い、彼を受けれてくれるこの家族を頼もしく思った。
そしてさらに半月ほどして、私は店の奉公人たちに清之介を紹介した。
紋吉との話し合い通り、吉原で丁稚をしていたところを貰い受けてきたのだと話し、一つよろしく頼むと皆に告げた。
総勢でも五人しかいない奉公人たちは、そこに現れた色の白い美少年に目を丸くしていたものだが、清之介が笑顔でぺこりと頭を下げ挨拶をすると、皆顔を見合わせて清之介を歓迎した。
紅一点の奉公人、嫁入り前の二十歳前の娘は、清之介を見た途端頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。
一番年の近い平三に、まずはついてまわって仕事を覚えるようにと命じると、清之介は年下の彼にも丁寧に頭を下げて「よろしくお願い致します」と言った。
そんな扱いに慣れていない平三も、真っ赤になって「はい、よろしくお願いします」と生真面目にお辞儀を返しているのを見て、大人たちは皆笑った。
徐々に徐々に、清之介がこの店にいる雰囲気がこなれてきた頃に、事件は起こった。
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