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十四、所有
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日が昇る頃に藍間屋へと戻ってきた清之介は、宗次郎と井戸端で出くわした。
表の戸がまだ開いていない時間であったため、裏の勝手口から戻ってきた所に、仕入先から戻った宗次郎と鉢合わせしたのである。
「……おかえり」
「……」
清之介は何も言わず、ぼんやりしたままちらりと宗次郎を見て、愛想なく中に入っていってしまった。そのつれない態度に、宗次郎はぼりぼりと頭をかく。
「まぁ、酷いことも言ったしなぁ」
そう独りごちて、懐から煙管を取り出して咥えたところに、見張り番の翁が戻ってくる。
まるで黒子のような質素な衣に身を包んだ翁は、くたびれたように息をついて、桶の上に腰掛けた。
「どうだった、あいつ」
「どうもこうも、あんなに悦んでる清之介を、俺は今まで一回も見たことがありやせんよ」
「……ふうん、じゃあ、なるようになったってことか」
「あの旦那、見た目によらずかなりの遣り手だね。純粋そうな顔して、花巻の姐さん落としたのも計算のうちだったのかもな」
「そんなにか」
「最初は清之介のいいようにされてたけど、ご丁寧にあの子を風呂入れてやって、戻ってもう一度そうなった時は、完全に旦那があの子を喘がせてたね。泣いて悦ぶくらいにな」
「……ふうん」
宗次郎は火の点いていない煙管を咥えたまま懐手をして、清之介の消えていった戸のあたりを眺めていた。
「まぁ、それならおっかさんも文句ねぇだろうさ。本気の本気で、身も心も旦那のもんになっちまったってことだ。ここじゃやっていけねぇよ」
「そら、そうだな」
「あとは金の交渉だけか。まぁ、可愛い弟の新たな一歩だ、俺も協力してやらにゃいかんだろ」
「宗次郎さんも人がいい」
「当たり前だろ」
宗次郎は笑って、空を見遣る。うっすらと曇った空は、まだ少し群青色を残している。そろそろ秋の匂いがしてきた朝の冷えた空気が、なんとなく宗次郎をしんみりとさせた。
+
清之介は奥座敷に一人になると、身にまとっていた重たい着物を解いて浴衣に着替えた。ついさっきまで自分を抱きしめていた暖かい腕のことを思い出し、ふと動きを止める。
あの後もう一度、貴雪に抱かれた。
風呂に入れてもらったあと、貴雪の自室で濡れた髪のまま座り込んで呆けていると、同じく湯を浴びて戻った貴雪がくすりと笑った。
「風邪をひくよ」
そう言って、彼は清之介の髪を手ぬぐいで拭きながら、借り物の浴衣が大きすぎることにまた少し笑う。
貴雪の優しい笑顔や、本当にここで暮らすことができるのだという実感に安堵し、清之介はまたはらはらと涙を流した。こんなも自分を慈しんでくれる大きな存在に、包まれるような安堵感に、ずっと重苦しくのしかかってきていた不安が、少しずつ軽くなっていくような心地がした。
目から流れ落ちる涙を、貴雪は親指で拭いながら、ただずっと微笑んでいた。
そっと重ねられた唇、大きめの浴衣を肩から滑らせて肌を撫でる暖かく大きな手。
布団に寝かされ、上から見下ろす貴雪の真剣な目つき、その全てが言いようのないほどに心地がよく、少し触れられただけで清之介は声を上げていた。
「そんなに、気持ちがいいかい」
脚を割られ、太腿を撫でられる。深い深い口づけをされながら、全身を淡く撫でる繊細な手つき。それらの全てに清之介の身体は敏感に反応し、その度貴雪は薄く笑って清之介の肌に痕を残した。
「もうこんなになって……苦しいだろう」
清之介の根を掌で包み込むようにして扱いていた貴雪が、低い声で耳元で囁く。びくんと震える身体を愛おしげに愛撫しながら、貴雪は囁いた。
「指を挿れてもいいかい」
「うんっ……うん……っ」
「あぁ……まだ柔らかいままだ。さっきしたところだものな」
「だん……なっ……おれ……」
「そうだな、さっきは出さなかったからね。……でも」
片足を担がれ、脚を大きく開かされた格好でよがり悶える清之介を見下ろして、貴雪もうっすらと高揚した表情でこう言った。
「私のもので、いくところが見たいな」
「あんっ……! あぁ……は、んっ……」
「かわいい声だ、清之介」
ゆっくり出し入れをしていた指を抜き、貴雪は清之介にのしかかる。再び舌を深く差し込まれ、清之介は無我夢中でそれをしゃぶった。濡れた音を響かせて絡み合う舌の感覚が、より一層清之介の身体を熱くする。
貴雪のものが、身体に入ってくるのが分かる。どこまでも丁寧に清之介の身体を扱う緩やかな動きが、一層快楽を刺激する。
「あぁっ! うっ……んんっ……! 旦那……ぁ」
「……はっ……、すごいな。熱い……」
たまらず貴雪の首にしがみつき、清之介は声を殺す。荒くなる互いの呼吸と、心臓の音が伝わり合う。
「……動いていいかい」
「うんっ……いい……もっと……奥まで……!」
「清之介……」
徐々に慣れて滑りの良くなる清之介の身体の、奥の奥まで入ってくる。
激しくなる動きに、清之介はたまらず声を上げた。こんなにも交わりを気持ちがいいと思ったのは生まれて初めてで、清之介は気が狂ったように貴雪を求めていた。
「だんなっ……ぁ……! おれ……いっちまう……よっ!」
「うん……いいよ、そのまま、好きなだけ……」
「はぁっ……! はぁっ……! あぁ……っ!」
肌のぶつかる音が響く。最奥を突かれながら、同時に根を扱かれて、清之介は涙を流しながら貴雪を見上げた。
脱ぎ捨てられた浴衣を掴んだ清之介の手は、白くなるほどに握りしめられ震えている。
貴雪は清之介に身を寄せて顔を近づけると、ぽろぽろと泣きながら喘いでいる清之介に囁いた。
「泣くほど……いいのか」
「はぁっ……んっ……! んっ……や……っ!」
「すごく……いやらしい顔をしているよ」
「あうっ……だんな……っ……! すげぇ……っ……!」
「貴雪でいい。今は旦那なんて呼ぶな」
「はぁ……っ! たか、ゆき……?」
「そう、それでいいよ……」
「たかゆき……っ……! あぁ……も……っ! いくっ……っ!」
脳髄まで痺れるような激しい快感に目が眩み、自分の腹の上に、熱い体液が迸るのを感じた。しかし休むまもなく、貴雪の動きは更に激しさを増してゆく。
清之介は尚も涙を流しながら、陶然とした目つきをした貴雪を見上げた。
「可愛いな、お前は」
「あんっ……、あっ……! おれ……気が……狂いそうだ……っ」
「私もだよ、清之介……」
「うそ……つけっ……!」
「本当だ。お前の身体……すごく、いいから」
「うあっ……はぁっ……! あんっ……んんっ……や……」
体位を変えて後ろから突き上げてくる貴雪の動きに、清之介はまた大きく悶えた。
力が入らなくて手をついていられず、腰だけを高く上げるような格好になりながらも、どうしようもない快感を貪るように腰が勝手に動く。
「あぁ……いい……すごくいい……」
「うっ……ううんっ……! たかゆき……っ、おれ……また……」
「いいよ、何回でも」
「俺ばっか……なん、で……っ! あっ……はぁっ……!」
「私ももう……そろそろ限界だ」
速度を増し、さらに肉と肉がぶつかる音が高く響く。自分でも分からぬうちに射精していた清之介が、半ば泣き声に近い悲鳴を上げる。
「やぁっ……! はぁっ……! んっ……ああっ……!」
「清之介……っ……うっ……」
ぐったりと倒れこむ清之介の体内の奥に注ぎこむように、貴雪の熱いものが流れこんでくる。それを感じながら、清之介は涙と汗と唾液でぐしゃぐしゃになった顔を浴衣に押し付けた。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……っ」
「清之介……」
「ん……」
貴雪の身体が離れると、清之介はぐったりとその場に倒れ込んだ。その上に四つ這いになっている格好の貴雪の荒い呼吸を首筋に感じながら、清之介は目を閉じた。
「……また、汗をかいてしまったね……」
「ん……うん」
つう、と背中を指でなぞるくすぐったい感覚に、清之介は思わずびくりと身体を起こした。振り返って貴雪を見上げると、微笑んでいる穏やかな顔が見えてはっとする。
「……身体を拭いてやるよ」
「……ん」
布団の上に広がっていた浴衣を手繰り寄せ、貴雪は丁寧に清之介の身体を拭った。それさえも感じてしまうほどに過敏になった清之介は、思わず息を漏らして顔を赤くした。
「新しいのを出すから」
「……うん。旦那も……汗だくじゃねぇか」
「はは、そうだね」
さらりと乾いた浴衣を被せられて、清之介はひんやりとした麻の感触を心地よく感じた。
小さな子供にするように服を着せ、乱れて重くなった髪を梳いてくれる貴雪を見上げる。
「……本当に、男としたことねぇのかよ」
「ないよ。さっきのが初めてだ」
と言って、貴雪は少し困ったように笑うと、親指でぐいと清之介の目元を拭った。
「痛くなかったかい」
「うん……」
泣くほどの快感は初めてだと言いかけて、やめた。恥ずかしかったからだ。ちょっと俯いた清之介を、貴雪はそっと抱き寄せる。
「……これで俺は、全部旦那のもんだ。これからは、俺に何したっていいんだ」
「そう、か。……うん、そうなんだろうね」
「でも、もうしないのかい? こんなことは」
「……そう思ってたけど。正直、ちょっと分からない。お前の今までの客達と同じように、私は……お前の身体に酔ってしまった」
「良かったか? 俺」
「あぁ、すごく。なんだろうな、今までに感じたことがない気持になった」
「気持?」
「お前は、すごく可愛い」
「……よせよ。気持わりぃな」
「そうだね……お前の色香に負けた。そして、お前を私だけのものにしたいと思った。そういうことさ」
「そっか……。したくなったら、いつでも言ってよ。俺、旦那とするのはすごく好きだよ」
「……うん。ありがとう」
「礼なんかいいのに。おかしな人だ」
そう言って、また清之介は笑った。背中に回る清之介の腕と、浴衣を握り締める手の動きに、貴雪も微笑んで更に強く抱きしめる。
清之介はまた少し、人知れず涙を流した。
本当の幸せがどういうものか、まだよく分からない。だが今は、たしかに幸せだと感じているから。
表の戸がまだ開いていない時間であったため、裏の勝手口から戻ってきた所に、仕入先から戻った宗次郎と鉢合わせしたのである。
「……おかえり」
「……」
清之介は何も言わず、ぼんやりしたままちらりと宗次郎を見て、愛想なく中に入っていってしまった。そのつれない態度に、宗次郎はぼりぼりと頭をかく。
「まぁ、酷いことも言ったしなぁ」
そう独りごちて、懐から煙管を取り出して咥えたところに、見張り番の翁が戻ってくる。
まるで黒子のような質素な衣に身を包んだ翁は、くたびれたように息をついて、桶の上に腰掛けた。
「どうだった、あいつ」
「どうもこうも、あんなに悦んでる清之介を、俺は今まで一回も見たことがありやせんよ」
「……ふうん、じゃあ、なるようになったってことか」
「あの旦那、見た目によらずかなりの遣り手だね。純粋そうな顔して、花巻の姐さん落としたのも計算のうちだったのかもな」
「そんなにか」
「最初は清之介のいいようにされてたけど、ご丁寧にあの子を風呂入れてやって、戻ってもう一度そうなった時は、完全に旦那があの子を喘がせてたね。泣いて悦ぶくらいにな」
「……ふうん」
宗次郎は火の点いていない煙管を咥えたまま懐手をして、清之介の消えていった戸のあたりを眺めていた。
「まぁ、それならおっかさんも文句ねぇだろうさ。本気の本気で、身も心も旦那のもんになっちまったってことだ。ここじゃやっていけねぇよ」
「そら、そうだな」
「あとは金の交渉だけか。まぁ、可愛い弟の新たな一歩だ、俺も協力してやらにゃいかんだろ」
「宗次郎さんも人がいい」
「当たり前だろ」
宗次郎は笑って、空を見遣る。うっすらと曇った空は、まだ少し群青色を残している。そろそろ秋の匂いがしてきた朝の冷えた空気が、なんとなく宗次郎をしんみりとさせた。
+
清之介は奥座敷に一人になると、身にまとっていた重たい着物を解いて浴衣に着替えた。ついさっきまで自分を抱きしめていた暖かい腕のことを思い出し、ふと動きを止める。
あの後もう一度、貴雪に抱かれた。
風呂に入れてもらったあと、貴雪の自室で濡れた髪のまま座り込んで呆けていると、同じく湯を浴びて戻った貴雪がくすりと笑った。
「風邪をひくよ」
そう言って、彼は清之介の髪を手ぬぐいで拭きながら、借り物の浴衣が大きすぎることにまた少し笑う。
貴雪の優しい笑顔や、本当にここで暮らすことができるのだという実感に安堵し、清之介はまたはらはらと涙を流した。こんなも自分を慈しんでくれる大きな存在に、包まれるような安堵感に、ずっと重苦しくのしかかってきていた不安が、少しずつ軽くなっていくような心地がした。
目から流れ落ちる涙を、貴雪は親指で拭いながら、ただずっと微笑んでいた。
そっと重ねられた唇、大きめの浴衣を肩から滑らせて肌を撫でる暖かく大きな手。
布団に寝かされ、上から見下ろす貴雪の真剣な目つき、その全てが言いようのないほどに心地がよく、少し触れられただけで清之介は声を上げていた。
「そんなに、気持ちがいいかい」
脚を割られ、太腿を撫でられる。深い深い口づけをされながら、全身を淡く撫でる繊細な手つき。それらの全てに清之介の身体は敏感に反応し、その度貴雪は薄く笑って清之介の肌に痕を残した。
「もうこんなになって……苦しいだろう」
清之介の根を掌で包み込むようにして扱いていた貴雪が、低い声で耳元で囁く。びくんと震える身体を愛おしげに愛撫しながら、貴雪は囁いた。
「指を挿れてもいいかい」
「うんっ……うん……っ」
「あぁ……まだ柔らかいままだ。さっきしたところだものな」
「だん……なっ……おれ……」
「そうだな、さっきは出さなかったからね。……でも」
片足を担がれ、脚を大きく開かされた格好でよがり悶える清之介を見下ろして、貴雪もうっすらと高揚した表情でこう言った。
「私のもので、いくところが見たいな」
「あんっ……! あぁ……は、んっ……」
「かわいい声だ、清之介」
ゆっくり出し入れをしていた指を抜き、貴雪は清之介にのしかかる。再び舌を深く差し込まれ、清之介は無我夢中でそれをしゃぶった。濡れた音を響かせて絡み合う舌の感覚が、より一層清之介の身体を熱くする。
貴雪のものが、身体に入ってくるのが分かる。どこまでも丁寧に清之介の身体を扱う緩やかな動きが、一層快楽を刺激する。
「あぁっ! うっ……んんっ……! 旦那……ぁ」
「……はっ……、すごいな。熱い……」
たまらず貴雪の首にしがみつき、清之介は声を殺す。荒くなる互いの呼吸と、心臓の音が伝わり合う。
「……動いていいかい」
「うんっ……いい……もっと……奥まで……!」
「清之介……」
徐々に慣れて滑りの良くなる清之介の身体の、奥の奥まで入ってくる。
激しくなる動きに、清之介はたまらず声を上げた。こんなにも交わりを気持ちがいいと思ったのは生まれて初めてで、清之介は気が狂ったように貴雪を求めていた。
「だんなっ……ぁ……! おれ……いっちまう……よっ!」
「うん……いいよ、そのまま、好きなだけ……」
「はぁっ……! はぁっ……! あぁ……っ!」
肌のぶつかる音が響く。最奥を突かれながら、同時に根を扱かれて、清之介は涙を流しながら貴雪を見上げた。
脱ぎ捨てられた浴衣を掴んだ清之介の手は、白くなるほどに握りしめられ震えている。
貴雪は清之介に身を寄せて顔を近づけると、ぽろぽろと泣きながら喘いでいる清之介に囁いた。
「泣くほど……いいのか」
「はぁっ……んっ……! んっ……や……っ!」
「すごく……いやらしい顔をしているよ」
「あうっ……だんな……っ……! すげぇ……っ……!」
「貴雪でいい。今は旦那なんて呼ぶな」
「はぁ……っ! たか、ゆき……?」
「そう、それでいいよ……」
「たかゆき……っ……! あぁ……も……っ! いくっ……っ!」
脳髄まで痺れるような激しい快感に目が眩み、自分の腹の上に、熱い体液が迸るのを感じた。しかし休むまもなく、貴雪の動きは更に激しさを増してゆく。
清之介は尚も涙を流しながら、陶然とした目つきをした貴雪を見上げた。
「可愛いな、お前は」
「あんっ……、あっ……! おれ……気が……狂いそうだ……っ」
「私もだよ、清之介……」
「うそ……つけっ……!」
「本当だ。お前の身体……すごく、いいから」
「うあっ……はぁっ……! あんっ……んんっ……や……」
体位を変えて後ろから突き上げてくる貴雪の動きに、清之介はまた大きく悶えた。
力が入らなくて手をついていられず、腰だけを高く上げるような格好になりながらも、どうしようもない快感を貪るように腰が勝手に動く。
「あぁ……いい……すごくいい……」
「うっ……ううんっ……! たかゆき……っ、おれ……また……」
「いいよ、何回でも」
「俺ばっか……なん、で……っ! あっ……はぁっ……!」
「私ももう……そろそろ限界だ」
速度を増し、さらに肉と肉がぶつかる音が高く響く。自分でも分からぬうちに射精していた清之介が、半ば泣き声に近い悲鳴を上げる。
「やぁっ……! はぁっ……! んっ……ああっ……!」
「清之介……っ……うっ……」
ぐったりと倒れこむ清之介の体内の奥に注ぎこむように、貴雪の熱いものが流れこんでくる。それを感じながら、清之介は涙と汗と唾液でぐしゃぐしゃになった顔を浴衣に押し付けた。
「はぁ……。はぁ……。はぁ……っ」
「清之介……」
「ん……」
貴雪の身体が離れると、清之介はぐったりとその場に倒れ込んだ。その上に四つ這いになっている格好の貴雪の荒い呼吸を首筋に感じながら、清之介は目を閉じた。
「……また、汗をかいてしまったね……」
「ん……うん」
つう、と背中を指でなぞるくすぐったい感覚に、清之介は思わずびくりと身体を起こした。振り返って貴雪を見上げると、微笑んでいる穏やかな顔が見えてはっとする。
「……身体を拭いてやるよ」
「……ん」
布団の上に広がっていた浴衣を手繰り寄せ、貴雪は丁寧に清之介の身体を拭った。それさえも感じてしまうほどに過敏になった清之介は、思わず息を漏らして顔を赤くした。
「新しいのを出すから」
「……うん。旦那も……汗だくじゃねぇか」
「はは、そうだね」
さらりと乾いた浴衣を被せられて、清之介はひんやりとした麻の感触を心地よく感じた。
小さな子供にするように服を着せ、乱れて重くなった髪を梳いてくれる貴雪を見上げる。
「……本当に、男としたことねぇのかよ」
「ないよ。さっきのが初めてだ」
と言って、貴雪は少し困ったように笑うと、親指でぐいと清之介の目元を拭った。
「痛くなかったかい」
「うん……」
泣くほどの快感は初めてだと言いかけて、やめた。恥ずかしかったからだ。ちょっと俯いた清之介を、貴雪はそっと抱き寄せる。
「……これで俺は、全部旦那のもんだ。これからは、俺に何したっていいんだ」
「そう、か。……うん、そうなんだろうね」
「でも、もうしないのかい? こんなことは」
「……そう思ってたけど。正直、ちょっと分からない。お前の今までの客達と同じように、私は……お前の身体に酔ってしまった」
「良かったか? 俺」
「あぁ、すごく。なんだろうな、今までに感じたことがない気持になった」
「気持?」
「お前は、すごく可愛い」
「……よせよ。気持わりぃな」
「そうだね……お前の色香に負けた。そして、お前を私だけのものにしたいと思った。そういうことさ」
「そっか……。したくなったら、いつでも言ってよ。俺、旦那とするのはすごく好きだよ」
「……うん。ありがとう」
「礼なんかいいのに。おかしな人だ」
そう言って、また清之介は笑った。背中に回る清之介の腕と、浴衣を握り締める手の動きに、貴雪も微笑んで更に強く抱きしめる。
清之介はまた少し、人知れず涙を流した。
本当の幸せがどういうものか、まだよく分からない。だが今は、たしかに幸せだと感じているから。
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