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二、陰の少年
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帰り道、あまりに口数少ない私に気を使ったのか、紋吉は店を閉めると早々に向かいの住まいへと引き返していった。
店舗の裏手にある母屋へと戻った私は、一人きりになり、ようやくため息をつくことができた。
簡単な夕餉を済ませ、湯に浸かりながら、ぼんやりと花巻とのひと昔前のことを思い出す。
私をもてなす席に、彼女は必ず同席していた。まだ拙い指で三味線を弾いたり、私に酒を注いでくれる、おぼこさの残る可愛らしい少女であった。
遊女としての最初の客は、自然と私が引き受けることになった。私とて不慣れな身であったため、恐る恐る彼女に触れた。それを優しさと捉えたのか、花巻は私に特別な情を抱くようになっていった。
まだ私も齢二十を超えたばかり、目の前に可愛い女がいれば心も騒ぐ。しかし、数度身を重ねてみたが、情事のあとは決まって虚しい気持ちになった。彼女の気持ちと私の気持ちには、大きな隔たりが埋まることなく存在し続けていたからだ。申し訳ないと思った。
その頃から、私は夜のもてなしを断るようになった。もっと絵の勉強をせねばならぬからといって。
女の厚い情が、恐ろしくなったから、逃げた。
卑怯なことをしたのだろうか、私は。
「……」
考えても意味が無い。私はそう判断して、ざばりと湯から上がった。
真夏であるゆえ、湯男を使わずに自分で煮炊きをしているため、徐々に湯がぬるくなってきた。それくらいやりますのにと言ってくれる下男を笑顔で帰らせる私は、彼らから見ればやさしい主人であるようだ。
でも私はただ、一人になりたいのだ。人と関わることを、年々疎ましく感じてしまう瞬間が増えた。
こんな体では嫁などもらえぬな、と自嘲気味に腹の中で笑うと、私はくすぶっていた竈の火を消して母屋へ戻る。
再び文机に向かって絵筆を走らせていると、何やら母屋の玄関先に人の気配がした。
とんとん、とんとん、と閉めた雨戸を叩く音に顔を上げる。
紋吉かなと思い、私はすぐに立って戸を開けてやった。暗がりの中、誰かが深々と頭を垂れているのが見えた。そして、見覚えのある群青色の星空のような衣も。
私は驚くというよりもむしろ恐怖を感じて、思わず一歩後ずさる。花巻が私を追ってここまで来たのかと思ったからだ。しかし、それは違った。訪問者の背後に佇む瘦せぎすの翁が掲げた提灯の明かりで、それが花巻ではないということが分かったのだ。私はただ呆然として、二人をゆっくりと見比べる。
「……あの、どちら様で」
「胡屋の若旦那とお見受けいたします。わたくしは、玉屋の花巻太夫からのお達しでやって参りました」
「え?」
女の声ではない。かといって、野太い男の声でもない。お辞儀をしていた花巻の衣を纏った御仁は、ゆっくりと頭を上げた。
「……え?」
大きな目だった。
提灯の明かりを受けて揺らめく潤んだ瞳と、私の思惑通りにきらきらと輝く衣。その群青色に映える白い肌。高く結い上げた長い髪を垂らし、長い前髪を斜めに流して両片耳に引っ掛けている。そして、その耳の上には艶やかな白い花を挿す。
——この子は……少年? 男ではないか。何故、花巻がそのようなことを……。
尚も呆然としている私に、少年は笑みを向けた。
「事情がまだ飲み込めないご様子。とりあえず、中に入れてもらえませぬか」
「……あ、ああ」
「この男も、いいですか。ここでおとなしくしていますんで」
「え? か、構わんが……」
「ありがとうございます」
と、下男は深々と頭を下げて提灯を消し、いそいそと家の中に入って戸を閉めた。
狐につままれたような気分で、私はその少年を客間に通した。手持ち無沙汰であったため、とりあえず茶を淹れて客間に戻ると、少年は微笑んで礼を言う。
「……御噂通り、お人好しでいらっしゃる」
少年はそう言って、茶を一口啜った。私はしげしげとその少年を観察しながら、花巻とはいったいどういう関係なのかということを考えていた。
歌舞伎者……? 女形でもしているのなら、この容姿は分からなくもない。それに、この只者ではない空気も、説明がつく。何となく気圧されてしまうのは、何故だろうか。
「花巻とは……?」
「姉様には、三味線の稽古をつけていただいております。あと他に、手習いを少々。頭の良い方なので」
「……ほう。それで……」
「私は、玉屋の斜向かいの藍間屋にて、陰間をしております。名を清之助と申します」
「え。えっ?」
「姉さまより、貴方はきっと女ではなく男のほうが良いのであろうというお心遣いにより、このたび私をここへ参らせた次第にございます」
「い、いや! ちょっと、ちょっと待ってくれ!」
——な、何を言っているんだ。それに、私が男色家だと? 花巻は、私に対するあてつけのつもりでこんなことをしているのか?
そりゃあ、昼間はちょっと冷たすぎたかもしれない。でも、あれ以上どうしていいか分からなかったのだ。
せっかく彼女のために誂えた品を、こうしてこの少年が身に着けているということも、理解に苦しむ。そんなに私は嫌われたのか。
「……ええと、清之介どの」
「呼び捨てで結構ですよ、旦那」
「いやあの、私はそういう趣味はないのだが」
「はぁ」
「それに、君……いくつだ」
「十五、にございます」
「まだ子どもじゃないか……陰間なんて……」
「何をおっしゃる。私は二年ほど前から客を取るようになりまして、二十までは男相手に春を売るのが生業です」
「あ、そうなのか……? いやいや、そういう話じゃなくて」
「あれ、旦那はそういう好みで、世話になってる問屋さんだから、目一杯気持よくして差し上げるようにと言われているのですが……」
「いやいやいや! 私は、そういう道に触れたことすらないよ!」
「じゃあ何故、吉原での接待を断るので?」
「それは……これといって理由はないが……」
「おかしな人だなぁ。姉さまは大大名ですら、もはや相手にできないお方なのに」
「それは……昔なじみなのだ、色々あるんだよ。事情ってもんが」
「ふうん……」
清之介は小首を傾げ、珍しいものを見るように私を眺め回す。男にしては長い睫毛が、白い頬に影を落としている。
「でも、もうお金はもらってるんです」
「それは私には関係ないところで発生した金子だろう。好きにしなさい」
「下男もいるんです。ただで帰るわけには行きませんよ」
「ああ、あの男……」
「彼は二階番のようなものです。何か揉め事が起こったのために、聞き耳を立ててますよ」
「……そうかい。でもな」
私が言葉を言い終わるより前に、清之介は立ち上がってするりと花巻の着物を肩から滑らせて脱いだ。その下は白い単姿で、足袋も履いていない。行灯の火に揺れるまだ年若い少年の身体は、女のものに比べれば骨っぽいものであったが、それでも工芸品のような整った美しさがある。
「……少しだけ、させてください」
「な、何を」
「貴方の損になることは一つもありませんから」
「え? ……いや、ちょっと待ちなさい!!」
清之介は私に近づいて跪くと、じっと私の目を見つめてまた微笑んだ。近づいてみると、十五にしては小柄で痩せている。
「まぁまぁ、いいじゃありませんか。これも人生経験ですよ」
「何を……」
「ね、そう警戒しないでくださいな」
じりじりと追い詰められ、私は土壁に背をぶつけてはっとする。何で私が襲われている格好になっているのだ、と大混乱する頭を何とか落ち着けようとしたが、虚しい努力だった。私は、これからもっと奇っ怪な光景を目の当たりにするのだから。
清之介はやおら私の着物の裾をまくると、下履きの上から慣れた手つきで私の股間を撫で始めた。私は理解が及ばず、ぽかんとしたまま清之介の顔を見ていた。
「……立派なのがついているじゃないですか。もったいないなぁ」
「き……君は何をしているんだ」
「男の快楽のつぼは、男にしか分からぬものです」
「え……お、おい!」
慣れた手つきで下履きをずらし、清之介は私のものを咥えた。私は仰天して、その身体を押し返そうとしたが、それは彼の目によって制止されてしまう。
大きな目で私を見上げながら、彼は濡れた音を立ててそれをしゃぶる。その動きがあまりに巧みで、その光景があまりに倒錯的で、私は抵抗する意志を失っていた。
「う……あ……っ」
男にしか分からぬものですという言葉通り、清之介の舌と唇は、私の快楽をことごとく刺激する。思わず漏らした嘆息に、清之介は少し笑ったように見えた。
徐々に固く大きくなるものをしゃぶりながら、彼の白い手は私の袋をも丁寧に愛撫した。彼の長い前髪が、ぱらりと耳から流れ落ちる。つややかな、黒い髪が。
「んっ……んうっ……」
声を立てまいと歯を食いしばりながら、私は無意識に彼の前髪を指で耳に引っ掛けてやった。私を貪る清之介の顔を見たいと思ったのか、単にくすぐったかったのかは分からない。
「あっ……ちょっと、もう……やめなさい」
私は今にも絶頂に達しそうだった。こんな子どもに、しかも男にこんなことをされて興奮している自分が、酷く恥ずかしいものに思えてくるが、抗いがたいその快感には、どうしても逆らえない。
でも、こんな子どもの口の中に体液を出すことは憚られた。悪いことだと思った。しかし、清之介は私のそんな言葉を受けて、さらに動きを激しくする。口をすぼめ、舌を絡ませ、私をことごとく責め立てるのだ。
「あっ……! おい……もうっ……!」
我慢ができず、私は彼の口の中に射精した。ここ数ヶ月、自分でもそういうことをしていなかったためか、私の身体はなかなか収まることを知らず、どくどくと大量のものを彼の口の中に放出し続けてしまった。
しかし清之介は、信じられないことにそれを全て飲み切ると、ようやく顔を上げた。
途方も無い罪悪感と、信じられない思いで、私は肩で息をしながら呆然と彼を見つめる。片袖がずれて華奢な肩をのぞかせ、口元を指先で拭う仕草は、驚くほどに妖艶だった。
清之介は結っていた髪を解き、うるさげに前髪を掻き上げて、私をじっと見つめた。
「……いかがでしたか」
「……君は、いつも男相手にこんなことをしているのか」
「ええ、それが仕事ですから」
「気持ち……悪くないのか」
「そういう感覚は、とうに忘れてしまいました」
「……すまない」
私が思わず謝罪すると、清之介はきょとんとして私を見返す。そして、首を傾げた。
「何がですか?」
「君の口に……出してしまったから」
「え? ……あは……あっはははは」
清之介は私の膝の間に座り込んだまま大笑いを始め、ばしばしと私の膝頭を叩いた。何がそんなに可笑しいのかわからないが、しばらく彼は笑い転げていた。
店舗の裏手にある母屋へと戻った私は、一人きりになり、ようやくため息をつくことができた。
簡単な夕餉を済ませ、湯に浸かりながら、ぼんやりと花巻とのひと昔前のことを思い出す。
私をもてなす席に、彼女は必ず同席していた。まだ拙い指で三味線を弾いたり、私に酒を注いでくれる、おぼこさの残る可愛らしい少女であった。
遊女としての最初の客は、自然と私が引き受けることになった。私とて不慣れな身であったため、恐る恐る彼女に触れた。それを優しさと捉えたのか、花巻は私に特別な情を抱くようになっていった。
まだ私も齢二十を超えたばかり、目の前に可愛い女がいれば心も騒ぐ。しかし、数度身を重ねてみたが、情事のあとは決まって虚しい気持ちになった。彼女の気持ちと私の気持ちには、大きな隔たりが埋まることなく存在し続けていたからだ。申し訳ないと思った。
その頃から、私は夜のもてなしを断るようになった。もっと絵の勉強をせねばならぬからといって。
女の厚い情が、恐ろしくなったから、逃げた。
卑怯なことをしたのだろうか、私は。
「……」
考えても意味が無い。私はそう判断して、ざばりと湯から上がった。
真夏であるゆえ、湯男を使わずに自分で煮炊きをしているため、徐々に湯がぬるくなってきた。それくらいやりますのにと言ってくれる下男を笑顔で帰らせる私は、彼らから見ればやさしい主人であるようだ。
でも私はただ、一人になりたいのだ。人と関わることを、年々疎ましく感じてしまう瞬間が増えた。
こんな体では嫁などもらえぬな、と自嘲気味に腹の中で笑うと、私はくすぶっていた竈の火を消して母屋へ戻る。
再び文机に向かって絵筆を走らせていると、何やら母屋の玄関先に人の気配がした。
とんとん、とんとん、と閉めた雨戸を叩く音に顔を上げる。
紋吉かなと思い、私はすぐに立って戸を開けてやった。暗がりの中、誰かが深々と頭を垂れているのが見えた。そして、見覚えのある群青色の星空のような衣も。
私は驚くというよりもむしろ恐怖を感じて、思わず一歩後ずさる。花巻が私を追ってここまで来たのかと思ったからだ。しかし、それは違った。訪問者の背後に佇む瘦せぎすの翁が掲げた提灯の明かりで、それが花巻ではないということが分かったのだ。私はただ呆然として、二人をゆっくりと見比べる。
「……あの、どちら様で」
「胡屋の若旦那とお見受けいたします。わたくしは、玉屋の花巻太夫からのお達しでやって参りました」
「え?」
女の声ではない。かといって、野太い男の声でもない。お辞儀をしていた花巻の衣を纏った御仁は、ゆっくりと頭を上げた。
「……え?」
大きな目だった。
提灯の明かりを受けて揺らめく潤んだ瞳と、私の思惑通りにきらきらと輝く衣。その群青色に映える白い肌。高く結い上げた長い髪を垂らし、長い前髪を斜めに流して両片耳に引っ掛けている。そして、その耳の上には艶やかな白い花を挿す。
——この子は……少年? 男ではないか。何故、花巻がそのようなことを……。
尚も呆然としている私に、少年は笑みを向けた。
「事情がまだ飲み込めないご様子。とりあえず、中に入れてもらえませぬか」
「……あ、ああ」
「この男も、いいですか。ここでおとなしくしていますんで」
「え? か、構わんが……」
「ありがとうございます」
と、下男は深々と頭を下げて提灯を消し、いそいそと家の中に入って戸を閉めた。
狐につままれたような気分で、私はその少年を客間に通した。手持ち無沙汰であったため、とりあえず茶を淹れて客間に戻ると、少年は微笑んで礼を言う。
「……御噂通り、お人好しでいらっしゃる」
少年はそう言って、茶を一口啜った。私はしげしげとその少年を観察しながら、花巻とはいったいどういう関係なのかということを考えていた。
歌舞伎者……? 女形でもしているのなら、この容姿は分からなくもない。それに、この只者ではない空気も、説明がつく。何となく気圧されてしまうのは、何故だろうか。
「花巻とは……?」
「姉様には、三味線の稽古をつけていただいております。あと他に、手習いを少々。頭の良い方なので」
「……ほう。それで……」
「私は、玉屋の斜向かいの藍間屋にて、陰間をしております。名を清之助と申します」
「え。えっ?」
「姉さまより、貴方はきっと女ではなく男のほうが良いのであろうというお心遣いにより、このたび私をここへ参らせた次第にございます」
「い、いや! ちょっと、ちょっと待ってくれ!」
——な、何を言っているんだ。それに、私が男色家だと? 花巻は、私に対するあてつけのつもりでこんなことをしているのか?
そりゃあ、昼間はちょっと冷たすぎたかもしれない。でも、あれ以上どうしていいか分からなかったのだ。
せっかく彼女のために誂えた品を、こうしてこの少年が身に着けているということも、理解に苦しむ。そんなに私は嫌われたのか。
「……ええと、清之介どの」
「呼び捨てで結構ですよ、旦那」
「いやあの、私はそういう趣味はないのだが」
「はぁ」
「それに、君……いくつだ」
「十五、にございます」
「まだ子どもじゃないか……陰間なんて……」
「何をおっしゃる。私は二年ほど前から客を取るようになりまして、二十までは男相手に春を売るのが生業です」
「あ、そうなのか……? いやいや、そういう話じゃなくて」
「あれ、旦那はそういう好みで、世話になってる問屋さんだから、目一杯気持よくして差し上げるようにと言われているのですが……」
「いやいやいや! 私は、そういう道に触れたことすらないよ!」
「じゃあ何故、吉原での接待を断るので?」
「それは……これといって理由はないが……」
「おかしな人だなぁ。姉さまは大大名ですら、もはや相手にできないお方なのに」
「それは……昔なじみなのだ、色々あるんだよ。事情ってもんが」
「ふうん……」
清之介は小首を傾げ、珍しいものを見るように私を眺め回す。男にしては長い睫毛が、白い頬に影を落としている。
「でも、もうお金はもらってるんです」
「それは私には関係ないところで発生した金子だろう。好きにしなさい」
「下男もいるんです。ただで帰るわけには行きませんよ」
「ああ、あの男……」
「彼は二階番のようなものです。何か揉め事が起こったのために、聞き耳を立ててますよ」
「……そうかい。でもな」
私が言葉を言い終わるより前に、清之介は立ち上がってするりと花巻の着物を肩から滑らせて脱いだ。その下は白い単姿で、足袋も履いていない。行灯の火に揺れるまだ年若い少年の身体は、女のものに比べれば骨っぽいものであったが、それでも工芸品のような整った美しさがある。
「……少しだけ、させてください」
「な、何を」
「貴方の損になることは一つもありませんから」
「え? ……いや、ちょっと待ちなさい!!」
清之介は私に近づいて跪くと、じっと私の目を見つめてまた微笑んだ。近づいてみると、十五にしては小柄で痩せている。
「まぁまぁ、いいじゃありませんか。これも人生経験ですよ」
「何を……」
「ね、そう警戒しないでくださいな」
じりじりと追い詰められ、私は土壁に背をぶつけてはっとする。何で私が襲われている格好になっているのだ、と大混乱する頭を何とか落ち着けようとしたが、虚しい努力だった。私は、これからもっと奇っ怪な光景を目の当たりにするのだから。
清之介はやおら私の着物の裾をまくると、下履きの上から慣れた手つきで私の股間を撫で始めた。私は理解が及ばず、ぽかんとしたまま清之介の顔を見ていた。
「……立派なのがついているじゃないですか。もったいないなぁ」
「き……君は何をしているんだ」
「男の快楽のつぼは、男にしか分からぬものです」
「え……お、おい!」
慣れた手つきで下履きをずらし、清之介は私のものを咥えた。私は仰天して、その身体を押し返そうとしたが、それは彼の目によって制止されてしまう。
大きな目で私を見上げながら、彼は濡れた音を立ててそれをしゃぶる。その動きがあまりに巧みで、その光景があまりに倒錯的で、私は抵抗する意志を失っていた。
「う……あ……っ」
男にしか分からぬものですという言葉通り、清之介の舌と唇は、私の快楽をことごとく刺激する。思わず漏らした嘆息に、清之介は少し笑ったように見えた。
徐々に固く大きくなるものをしゃぶりながら、彼の白い手は私の袋をも丁寧に愛撫した。彼の長い前髪が、ぱらりと耳から流れ落ちる。つややかな、黒い髪が。
「んっ……んうっ……」
声を立てまいと歯を食いしばりながら、私は無意識に彼の前髪を指で耳に引っ掛けてやった。私を貪る清之介の顔を見たいと思ったのか、単にくすぐったかったのかは分からない。
「あっ……ちょっと、もう……やめなさい」
私は今にも絶頂に達しそうだった。こんな子どもに、しかも男にこんなことをされて興奮している自分が、酷く恥ずかしいものに思えてくるが、抗いがたいその快感には、どうしても逆らえない。
でも、こんな子どもの口の中に体液を出すことは憚られた。悪いことだと思った。しかし、清之介は私のそんな言葉を受けて、さらに動きを激しくする。口をすぼめ、舌を絡ませ、私をことごとく責め立てるのだ。
「あっ……! おい……もうっ……!」
我慢ができず、私は彼の口の中に射精した。ここ数ヶ月、自分でもそういうことをしていなかったためか、私の身体はなかなか収まることを知らず、どくどくと大量のものを彼の口の中に放出し続けてしまった。
しかし清之介は、信じられないことにそれを全て飲み切ると、ようやく顔を上げた。
途方も無い罪悪感と、信じられない思いで、私は肩で息をしながら呆然と彼を見つめる。片袖がずれて華奢な肩をのぞかせ、口元を指先で拭う仕草は、驚くほどに妖艶だった。
清之介は結っていた髪を解き、うるさげに前髪を掻き上げて、私をじっと見つめた。
「……いかがでしたか」
「……君は、いつも男相手にこんなことをしているのか」
「ええ、それが仕事ですから」
「気持ち……悪くないのか」
「そういう感覚は、とうに忘れてしまいました」
「……すまない」
私が思わず謝罪すると、清之介はきょとんとして私を見返す。そして、首を傾げた。
「何がですか?」
「君の口に……出してしまったから」
「え? ……あは……あっはははは」
清之介は私の膝の間に座り込んだまま大笑いを始め、ばしばしと私の膝頭を叩いた。何がそんなに可笑しいのかわからないが、しばらく彼は笑い転げていた。
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